プッツンガール #6
「俺なら一呼吸でまずコイツをやって、二呼吸目にはそこのボク、さらにお嬢様をやれる。それでもお前は来れるか!?」
明らかに詩織に対しての牽制だった。
ピタリと動きを止める彼女を見て、金髪は笑った。そして猿渡さんのガムテープを外し、
「言ってやる事あるだろ?」
ガムテープが外れた場所には青タンと血が滲んでいた。
「お嬢様、ダメです!! こいつに絶対言ってはいけません」
「違うだろーが!!」
拳銃の持ち手で頭を殴った。猿渡さんはふらふらと2、3歩下がって冷蔵庫にぶつかった。
「さぁお嬢様、どうする? 余計な事言ったら目の前のボクが死んじゃうよ? ほら、大好きなお父様から出張前にもらった情報データがあるだろうが」
横で震えている委員長のガムテープを勢い良く剥がすと、僕の頭に銃を突きつけながら「おら」と凄んだ。
「本当に、本当に何も知らないんですぅ。父からも何も聞かされていませんし、出張前に貰った物と言えばこのネックレスぐらいなんですぅ」
「ああ? ようやく喋ったと思ったら、ネックレスだと!?」
余った手で委員長の前髪を掴んで上を向かせ、首に顔を近づけた。まじまじとネックレスを見た後、それを一気に引っ張った。チェーンが彼女の首に赤い痕を付けた。
「痛っ」
「……。ディスクじゃなくて、こんな所に隠してあったとはな。バーコードみたいなのが見えやがる」
電気を付けてネックレスの先の石を光にかざし、背を向けた。
僕は体で隠れた後ろの棚をゆっくりと開け、手探りでアレを探した。
「ようやく手に入れたぜ?」
彼がそういうと、さっきまでピクリとも動かなかった猿渡さんがゆっくりと立ち上がった。その手に手錠はなく、ニヤリと笑って「よくやってくれた」と、ほざいた。金髪は銃とネックレスを手渡そうと彼に近づいた。
金髪と猿渡が重なる。
今だ!!
僕は掴んであった袋を手に取り、一気にぶちまけた。
白い粉が舞い、狭い部屋を白く変える。
「お前、何しやがった!?」
猿渡が僕に銃口を向けて喚いた。
「やめろ!!」
止めたのは金髪の男だった。驚いた様子で猿渡が男を見る。
「…命拾いしたね、今銃を撃ってたら間違いなく大爆発だったよ」
「何!?」
「粉塵爆発か…」
「そう、昔の炭坑での主な爆発原因がこれと同じ仕組みだよ。空気にある一定以上の粉塵があった場合、ちょっとした火花で燃焼を始めると次々に粉塵が連鎖的にして燃焼し、大爆発を起こす。小麦粉でも同じ効果が得られるんだよ」
「くっ、共倒れしようってのか!?」
猿渡が吠えた。
口の端を上げ、せせら笑ってやった。ライターをポケットから出し、親指を立てた。
「止めろ、止めるんだ! そ、そうだ、金が入ったらお前達にも分け前くれてやるから、な、なっ?」
銃をゆっくり床に置き、敵意がないことを示し始めた。
ふーっと前に降り積もる小麦粉を吹いた。
「猿渡さんが、彼女を止められればね」
ガラスのはじけるような音がして、詩織が直接飛び込んできた。彼女の出現を予想だにしていなかった猿渡は銃を拾う間もなく、警棒の餌食となってこと切れた。
白い粉塵が詩織のあけた穴に吸い込まれ、新鮮な空気で溢れた。
「委員長!!」
駆け寄って、縄を解いている。「よかった」と抱き合う2人を見つめながら、つい顔の筋肉が緩んでしまうのを感じた。
「くくく。まぁ失敗だから残りの金はまけといてやる」
-----しまった、金髪の…!!
前を見やると既に金髪の男は5階にある唯一の窓に両足を乗せ、窓枠を両手で掴んでいた。
「お嬢さんやるね、うちに欲しいくらいだ。あとソコのボクも」
「待て!!」
詩織が捕まえようと手を出したが、その手は空を切り、男は窓枠から手足を離した。
そこから僕は見えなかったが、男は地面に叩き付けられる事なく、何かワイヤーのような物を引っかけて降りて行ったそうだ。
え、なんで最後まで見なかったかって? 僕は…
「うぅ、皆さんに申し訳ないですぅ。なんてお礼を言っていいかぁ」
「いいのよ、私たち友達でしょ?」
ふふ、と笑い詩織は彼女に手を差し伸べた。
委員長を引っぱって起こすと、彼女は冷蔵庫の近くに落ちていたガムテームを拾い、猿渡をグルグル巻きにした。もちろん、ネックレスは奪い返して手も脚も。
「行こう。あの2人を起こしてやらないとね」
隠しドアを開けた。
「ユーヤも、早く!」
「いや、僕は…」
「ユーヤ?」
「実は…、腰が抜けて立てないんだ」
「ぷっ、あははは。ウソー!? あれだけ凄んでおいて、それはないわ!!」
そんなに笑わなくたって、銃を突きつけられてたんだぞ!?
腹を抱えながら手を貸してくれた。
僕らは隠し部屋を出て、階段の入口ら辺で転がっている2人を起こしてやった。
「う、うわっ」
「来るなー!!!」
寝ぼけたように末長と五十嵐番長は起き上がる。
でも目の前が僕たちだと気づいて、恥ずかしそうに顔を見合わせた。
「す、すごい。アイツら倒したんだね!? さすが詩織さん!!」
詩織はふっと笑って、彼の言葉を否定した。
「違うのよ、確かにトドメを刺したのは私だけどユーヤよ」
「!? ウソだぁ?」
「本当ですぅ、凄かったんですからぁ!!」
「ぼぼぼ、僕じゃないよ!」
それから僕らは事の真相を話した。あそこに隠し部屋があったこと(見れば分かるけど、委員長が興奮して言った)、犯人は猿渡と言う委員長の会社の秘書であったこと、金髪の男には逃げられたこと、実は僕らが奴らに利用されていたことなど、彼らが知らないことを全て教えてやった。
「ぅうう、なんだか頭痛くなってきた」
「俺もだ」
困惑した表情で何やら頭の中を整理しているようだった。
「ユーヤ、携帯貸して」
「え?」
「連絡するのよ、警察に」
携帯を投げると彼女はキャッチして、パクンと開けた。
「それにしても山田くん、よく小麦粉の爆発のこと知ってましたね」
「あ、ああ。なんかの本で読んだことがあってね」
まぁ、金髪の男が猿渡を止めてなきゃ今頃みんな死んでいたなんてことは口に出さず、適当に応えておいた。
コール音が聞こえる。どうやらスピーカーフォンになっているようだ。
『事件ですか、事故ですか?』
事務的な男の人の声が聞こえてきた。
「事件です」
『はい、どのような…』
「誘拐事件がありました。場所は安土町の大通りある得々スーパーの向かいの白いビル」
『ちょっと待って! 貴方の名前を教えてください』
焦ったような声だ。そりゃそうだ。
詩織は僕と目を合わせ、一呼吸をおいて言った。
「プッツンガール」
『え、ちょ…』
携帯の小さな外画面には(通話終了)の文字。
周りの3人は首を傾げていたが僕だけは大笑いだった。
理由を聞かれたが、断固として教えてやらなかった。