キレlife のうみつ共同作業(ユーヤ編) #3
次のエリアに入るとアキラくんが教えてくれた通り、レオリウスがいた。フィールドの真ん中辺りで、こちらにシッポを向けて反対側へ向かって歩いている。まだ、こちらには気がついてようだ。
ふーっとため息を吐いて、ようやく見つけたと胸を撫で下ろした。と、アキラくんが話しかけてきた。
<ユーヤ。あれがレオリウス(銀)>
<そうみたいですね。どうします?>
<…とりあえず、慎重に>
<ですね>
<……>
<……>
<……>
僕も無言なら、相手もだった。いや、ここは普通のプレイヤーなら「俺先行くわ」って誰もが我先に最初のダメージを与えにいこうとするんだけど…アキラくんも僕と同じ慎重派プレイヤーなのかもしれない。でも、普通は攻撃力がある人が先手必勝、先戦攻撃をするのがセオリーなんだけどな。僕片手剣だし…。
あ、もしかして僕が促すの待ってくれてるとか…?
<…先、お願い出来ますか?>
<うん? 僕? いや、ユーヤがお先に>
------ええ!?
そんな事言われたって僕は先には出たくない。僕だって慎重派プレイヤーだもの。
すぐにレスを返す。
<ちょvv アキラくん大剣じゃないですか>
<ユーヤ君は片手剣じゃないですか?>
<攻撃力ある方が先の方が良いですよ>
<移動型の片手剣は下調べにちょうど良いんです>
<いやいやvv 走って攻撃しに行ってるときに罠張っときますから>
<今、罠仕掛けてどうするんですか。お先に>
<向かってくる方計算してやるんで大丈夫です。どうぞ>
<下調べもせずに罠を仕掛けるな! まずは観察だ>
懸命に自分は先に出たくないと互いに真剣に打ち合う。そう、モンスターが振り返り、ビックリマークが展開され、戦闘時の音楽が変化しているのにさえ気がつかないくらい。
<いやいや、リウスの動きは全部一緒ですよ。多分体力が多いだけだと>
<だけどどれくらいのダメージかを調べないと戦い方が決まらん!>
さらにキーボードの打ち合いは白熱。もう耳に地面を蹴る音が近くなっているのは入ってきているくせに頭がそれを認識出来ない。でも、すぐさまそれは終わりを告げた。「あ」と気がついた時には翼を広げ大きく口を開けたレオリウスがすぐそばまで着ていて…視界いっぱいに銀色の鱗が広がる。
-----ヤバい!!
すぐさまキーボードから手を離し、コントローラーを握った。
けれど、時すでに遅し。
僕のキャラはガードする間もなく吹っ飛ばされた。次いで体力ゲージが一気に下降を始める。視界の端には同じように緑色の線がグングン少なくなっていくアキラくんのキャラ。
ドスンと言う音がして背中から無様に着地をした。しかし音楽は変わっていて…
「あぁ…」
思わず嗚咽を漏らした。
そう、僕とアキラくんはエリアの端っこにいた為、モンスターの突進を受けて前のエリアまで突き出されてしまったのだ。しかもHPを半分近くまで減らされて。
全く作戦会議に集中し過ぎて、そのせいでヤバい事になるなんて意味分からない。勝つ為にしていたのに、これじゃ元の木阿弥だ。
-----ま、いいか。
ポジティブに捉えようじゃないか。逆にフルボッコにされなかっただけマシと言えばマシだし、まだ作戦も練っていなかったのだから今度はしっかり話し合える。
とりあえず率直に思った事を伝えた。
<…吹っ飛ばされましたね>
<…でも、どれくらいの攻撃力を持っているかは分かったよ>
<はい。結構強いですね、最難関クエスト>
<体力が半分も減ったな…。怒り状態ではないけど>
確かに…。
ま、それってさ、
<ガードする暇もなかったですからね^^ とりあえずどうしましょう>
<ガード出来なかったのは誰のせいだろうね?>
<あ、すみません>
これまた確かに…。
------でも、これって僕だけのせいじゃないような…。
咄嗟に謝ってしまってから気がついた。でも、もう謝ったし、自然に言葉が出たってことは僕に非があるって自分でも思っているってことだ。うん…別にこれは僕自身が…
<やい! モヤシ!>
------そう、モヤシだから…んぇえええええ!?
否定しようと思った言葉が画面に出て釣られてしまった。酷くない? いや、でも…実際に優男だし、細いしヒョロいし…反論は不可能だ。
<め、面と向かって言わないで下さいよρ(-ω-、)>
<悪い! アイツは真っ直ぐに言うから…>
-----そうか。さっきのはナナさんが。でもアキラくん…
今、パソコン画面に書くなら本来なら…orz。そうだろ? 彼は慰めてくれてるみたいなんだけど「真っ直ぐに言う」ってことはアキラくんも少なからず僕の事そういう風に見てるってことで…。
------フォロー失敗してるよ。
けれどせっかく慰めてくれてるんだし、謝ってくれているのだからいいじゃないか。うん、大丈夫。これくらいじゃへこたれない。
<全くアイツは、ガハハハハハハ>
<vvvvv>
なんか文章が可笑しくなってきた。多分、ナナさんが邪魔してるからだと思うんだけど…ま、いいか。僕はその間にキャラクターの体力回復、ついでに心も回復だ。え? なんでかって? だって、なんかこれからナナさんがちょくちょく乱入してきてまた「モヤシ」とか言われる気が物凄くするもの。うん、頭を切り替えます。YES!! 広い心、子どもを扱う感じにシフトチェンジだ。
と、やっぱり向こうでは何かあっているらしくさらに意味不明文が届けられる。だから柔和に返す。
<私は破壊王子ベジッたーーーいい加減にしろ!>
<ベジッタは強いですね〜^^>
<ユーヤ! なんでそんなーーーベジッタって強いでしょう? モヤシさんと違って>
<そうですね。モヤシさんは敵いそうにないです^^>
<それだけじゃなくて魅力とか人間的にモヤシさんはニコ>
<あ。努力…します>
-----ベジッタって確か負けたくないって泣いちゃった事あるよね。「俺は王子だぞ」っていいつつ。
決してあれよりは子どもっぽくはないとは思うけれども、まぁ彼には彼の魅力が確かにあるよなぁとポケッとこの戦いの終焉を待つ。
<もう1回言ってやる! もやしもやしもやしもやしもやしもやしーーーすまん。もやっしーもやっしーもやっしーもやっしー>
<モヤシ、しょうがないですね>
今何回モヤシと言われたでしょう? うん、数えなくて良いよ。凹むから。けどさ、ここまでモヤシって言われたのは姉さん以外で初めてかな。うーん、この気の強さ…ちょっと姉さんを感じるね。まぁさぁ、悲しいことにモヤシなんて言われ慣れてるから正直もう、こんな程度じゃ僕の心は…
<うん、一生童貞andモヤシ>
エグラレタ。
年齢=カノジョいない暦の年頃な高校生男子に“童貞”はキツいと思いますよ、僕じゃなくても。しかも貴方、一生がついてますからね。なんかあれだよ、マジで将来のこと考えちゃうよ。一生カノジョ出来なかったらどうしようなんて…
でも、そんなこと正直に書けなくて、怒る事も僕は出来ない。何もかもを悟れるのは嫌だ。
ってことで困った時のとりあえずワンフレーズを送る。
<ちょvv>
<本当、すみません! すみません! どーてい〜〜>
<大丈夫ですよ>
もうなんかいいかと、半分諦めてレスした。のに、答えは返って来なくて、しかもまた今まで動いていたアキラくんのキャラが動かなくなってしまった。
-----これはまた何かむこうでやってるな。
うーん、これは前回のあれですね。僕のコト放置プレイ再会ですね。
ふぅと息を吐き出して全く動かない詩織を見つめた。
「ホント、そっくり」
全く、この顔がいけないのか? この可愛い顔が現実でもネットの世界でも、僕を振り回し巻き込む台風の目になっている気がする。そうだろ? リアルではあの子が美人すぎるせいでキレるから、だから僕は彼女のそばにいつもいなくちゃいけない。だから僕はいつも何かしら巻き込まれて大変な目に遭わされている。そして今度はネットの世界も。僕の楽しい楽しい時間になるはずのこの時を、君にそっくりなキャラを見つけてしまったが故にネカマの衝撃と詩織ではない失望を味わされ、さらに見知らぬ女の子から「モヤシ」だ「一生童貞」だなんて言われている始末なんだもの。…ごめん、これは君のせいじゃないね。
-----にしても、何やってるんだろ?
ポカンとしているのも手持ち無沙汰で、仕方なく先に討伐対象がいたエリアを覗いてみる。すると、今度はフィールドの反対側の方でまたしてもこちらに背を向けているレオリウスがいた。
-----よかった、まだいてくれて。
安堵のため息を吐いてまたぶっ飛ばされた、詩織にそっくりなキャラがいるエリアに戻った。
と、目が合ったと同時に彼女が動き始めた。
<やーーい、童貞!! おまたーー>
<ええと…行けそうですか?>
何かを返そうかと思ったけど、なんか無駄な気がした。それにもうクエストを開始してから随分時間を喰ってしまっている。もうここは本当の事なのだし、ナナさんはこういう性格なのだと全てを受け入れて、そろそろ先に進まなければ制限時間をはみ出してクエスト失敗になってしまう。そう、僕はもうゲームに集中をしたいのだ。
<うるさい! どーていは引っ込んでろ!>
<どうしたらいいですか?>
とりあえず、色んな意味で言った。まぁ大まかには2つ。アキラくんに、この子はどうしたら良いですか? ナナさんに、引っ込んでろってどうしたら良いですか?
まぁとりあえず僕の方針としては子ども扱いに加えて姉さんと同じ扱いにする事に決めたけどね。そう、逆らわない歯向かわない受け流すの三原則だ。コレさえ護っていればこの手の女性は満足する。ついでにシタデに出る事もお忘れなく。
<このナナ様がどーていをサポートしてやるぞ>
<あ、そうなんですね。ありがとうございます、よろしくお願いします>
だけど彼女は多少S気があるのか、調子に乗ったのかこんな事を言い始めた。
<土下座しろ…>
<え?>
<土下座しろ! リアルでもゲームでもだ! 土下座だどーーてい>
チラリと時刻を見た。まだ1発もモンスターに当てていないのにこの状況…
------早めに終わらせよ、痛くも痒くもないし。
Bボタンを押した。僕のキャラクターが画面の中で膝まづいた。
<…アキラだ…悪いな…我慢だ我慢>
<大丈夫ですよ(*´▽`)>
-----どうせ現実では何もしてないし。
舌を出してレスを返した。
<さて、行け!! どーてい!!>
<行くのはいいですが、作戦はどうしますか?>
<ったく…だからお前はモヤシで童貞なんだよ!!>
<ああ。じゃあ僕から提案しておきますね。基本僕は脚狙いで行きますから…>
<男は突っ込んでなんぼのもんじゃーーい>
<…じゃあ、サポート行きます。モヤシなんで>
<ったく…アキラが男見せるから良く見ておけ…このアリンコが!!!>
-----アリンコ…モヤシって今度は言わないんだ。
ちょっと言い方にウケて微笑する。ついで、まだまだ姉さんみたいに計画性のない所が可愛いなと思った。でしょ? 1つ1つの言葉に後々に来る恐怖って言うものがないし、現実に土下座していないのにそれで満足してるんだもの。多分、姉さんと違ってまだまだそこまで計画性がないのかな。詰めが甘いっていうか…。ま、姉さんの中学時バージョンってとこかな。
でもこれからもさらに何か言われるんだろうと、ゲームの気も現実の気も引き締めるが如く真っ黒なコントローラーを見つめた。
<よろしくお願いしますね>