キレlife のうみつ共同作業(ユーヤ編) #2
クエストの画面に入りすぐさま互いに<よろしく>と挨拶を済ませてからアイテムボックスに走った。
回復アイテム、ペイントボール、たいまつ、携帯食料、携帯砥石その他諸々をとる。アイテム欄を出しながら携帯食料へとコマンドを持っていく。
-----あ、スタミナ上げる前に…
<すみません、体力あげます>
<基本中の基本だからね>
言った瞬間、相手は僕の話半分に携帯食料を食べてしまっていた。
思わず画面に向かって突っ込んだ「早っ!!」。
<早く飲んでいきましょう。絶対に勝つぞ>
苦笑した。マイペースと言うかなんと言うか。
まぁいいかと僕もすぐさまスタミナを上げていく。食べ終わったと同時に今度はまたキーボードに指先を置いて、
<はい、お願いします>
レスを返した。
ステージに入るとそこは平丘フィールド。緑が広がる平野部分や森の部分もあって基本平坦なフィールドで、まぁ結構戦いやすい場所かな。森に入られなければ…。
でも…見渡す限り遠くの方に山が見え、所々に木々があるだけでモンスターを1匹たりとも見受ける事が出来ない。だからただひたすら歩くだけ。うん、正直寂しいです。モンスターも出ないし、組んだ人とは初めてで特に話すこともないし、話しかけてきてもくれないんだもの。
どのくらい歩いただろうか。
------あ〜、やっぱ無理。
僕さ、人見知りなのかなんなのか良く分からないんだけど、慣れない人と無言が続くって結構ダメなんだよね。ま、実際の距離は何十km、何百kmって離れているんだろうけど…
耐えきれず、話しかけた。
<何もいませんね>
<当たり前。こんな所でボス居るか?>
<すみません>
ボスって言う意味じゃなかったんだけど、どうやら相手は僕がここで標的を探していると思ったのだろう。ちょっと冷たい答えが返ってきた。…もしかしたら相手は友達と話しながらプレイしているから何も出現しなくても手持ち無沙汰じゃないのかも知れない。もしくは無言が大丈夫な人か。
コップに注がれた水を数秒眺めてから、動き続ける僕のキャラクターをみつめた。
次のステージに入れば、また平丘ステージ。
-----見えるとこにはまだいないかぁ。
いつまでこの無言を続けていればいいのかな? なんてポーッと操作していたら、向こうがようやく話しかけてきてくれた。画面に詩織の顔が映る。
<なあ、ユーヤ君>
<はい?>
<なぜ、君は片手剣なんだ?>
<そうですね。片手剣って戦闘態勢のままでも速く動けるし、罠も仕掛けられるし、使い勝手が良くて。詩織は?>
<詩織? 何を言ってるんだ?>
しまった!! そう思った時にはもうエンターを押した後で、向こうから素早い突っ込みレスが返ってきていた。
いくら画面の中に詩織と同じ顔があるからって普通間違える? しかも向こう側でこのキャラを操っている人は男の人で…。小さく溜息を漏らしながら自分の非を認める。
<あ、ごめんなさい。間違えました>
ついで、場の雰囲気を汚してしまった罪滅ぼしに今度は僕から話を振る。
<あ〜。アキラくんは今友達と一緒なんですよね。よく友達とはこんな時間に?>
<こんばんは! 朝倉…すまん>
<!? はい、いいですよ>
-----友達が割って入ってきたのかな。ちょっと楽しそう…
ゲームってさ、一人でやるのも楽しいけど、友達とやるのも楽しいよね。ああ、こういうオンラインのヤツもそうだけど、そうじゃなくて…並んでやるの。何人かで同じ画面に向かってさ、人が失敗したのを見て突っ込んだり助言したり苦手な所はプレイしてもらったり。たまに末永や坂東とするけど、かなり面白いもんね。普通死んじゃったら僕の場合気分的にあんまり良くはないんだけど、友達とだとそれさえも可笑しい。とくに凡ミスの時とかはね。自分がやっても相手がやっても可笑しい。しかもそれが続けば尚可笑しい。
------にしても…ちょっとレス遅いな。
しかもキャラクターが動かなくなってしまった。まさか…
<あの、アキラくん…? 落ちてないよね?>
<全然落ちてませんよ! どうも朝倉ナナでーす>
<あ。一緒にいた友達ですよね?>
-----ナナ…。ってことは隣に居たのは女の子か。
携帯を見れば、数字はすでに22時をとうの昔に過ぎている。さっきまで僕と交信を取っていたのがアキラくんだから…結論を出そうと思ったらそれより先に答えが出てきた。
<ううん、夫婦ですよ>
-----夫婦。プレイヤーは若いと思ってたんだけど…そうでもないのかな?
コップを手に取って水を口に含みながら片手でキーボードを打つ。
<……。学生結婚ですか?>
<高校2年だけど同棲生活です>
口に手を当て吹き出すのをなんとか抑えた。
-----あぶなぁ〜。
もう少しで僕の大切なパソコンがおじゃんになるとこだった。ゴクリと飲み込む。
<そうなんですか。それは…>
<アキラってさ、ずーとネトゲーでつまらなかったから、ネットチャット楽しい>
<すみません、アキラくんをクエストに誘っちゃいましたね。楽しんで頂けてよかったです>
<でもね。聞いてよ! アキラってね>
-----あれ?
チャットが止まった。もしかして、アキラくんが戻ってきたのかも知れない。
思うと同時に文章の雰囲気もまた変わった。
<待たせてすまない。さて…そろそろ行くか>
-----今度はアキラくんね。
ということはクエスト再会の合図だろう。
<はい、お願いします>
同時に無言の時間の合図でもあったみたいで…また会話がなくなってしまった。
-----アキラくんの方は口下手なのかな。
あるいは僕と初めてだから話題に困ってるか、って僕も困ってるんだけど…あ、そうだ。
<あ。そういえば僕たちって同い年みたいですね。僕も高2です^^>
<そうですね。2年B組です>
<あ、僕も2-Bですよ!!>
<おおおお、偶然ですね!>
<ちょっと親近感湧きますねvv>
ホント、マジで湧いた。たったこれだけ、同い年でただただ偶然当てはめられた2年B組と言う記号だけで。
でもそう思ったのは僕だけじゃなくて相手方もそうだったみたい。
<ええ、何か僕のクラスに居そうな感覚ですね。何処の高校ですか?>
<大正学園です。アキラくんは?>
<江戸高校です。大正学園と結構近いですよ>
体がビクリと揺れた。
や、良く読めばそんなビックリなことではないんだけど、先に見覚えのある方に目がいっちゃってさ。2−Bとかいうからクラスメイトかと一瞬思っちゃったんだよね。ま、そんな偶然そうそうないとは思うけどさ。でも、世間は狭いね。住んでいる地域が言う通り結構近い。
さらに親近感を覚えた僕は素直に自分の感じたことを連ねる。
<一瞬先に大正学園の方が目に入っちゃってちょっとビビりました(笑)。ホント結構近いですね>
<ユーヤさんの周りの生徒はどうですかね?>
…周りの生徒…。僕の周りは、僕のことを伝説の男の弟だと思ってて、多少(?)怖がられてて…うーん、言えない。いやいや、もっと身近なことを聞いてると思うんだよね。そう末長とか、詩織とか。…ええと二人には、
<うーん。結構振り回されてますかね(笑)>
<同じく…女の子にね>
<おお、そこも同じく>
<俺の近くには滅茶苦茶な女が居てなww>
<ええvv>
-----詩織&姉さん…。
ここまで共通点があるとは、ちょっと笑えるね。ま、あのハリケーンな美女達と張り合える女の子とはなかなか会えないとは思うけれど、それでも画面の向こうのプレイヤーさんは僕と似たような境遇な匂いがする。いや、もしかしたら相手の方が不幸度が強くて珍しく他人の不幸話で浮上出来るかも知れない。
悪いなとは思いつつも口の端が自然と上がった。
<一人はカノジョ、そしてもう一人は住み着いてる奴>
-----ん…?
疑問が一気に湧いて出た。コイツは確実に僕よりいい人生を送っているんじゃないのか?
と、もう1つ。こちらはチャットに書き込む。
<いや。さっき奥さんって、同棲してるって言ってたからてっきりその人がカノジョだと思ったんですが…>
そう、すでに同棲しているナナさんという人がいるのに、アキラくんはさらに外にカノジョがいるという。これは…確実に僕より良い思いをしているね。はっ、モテ男さんですか。少しでも僕の方が不幸じゃないのかも知れないと思った僕が馬鹿だった。
まぁでもさぁ
-----浮気してるんだったら、さっきのナナさんにはこの事黙ってないといけないよね。
多少面倒な事を聞いてしまったなと思いつつも、顔も知らないアキラくんに「言わないよ」と心の中で男の約束を勝手にしてあげた。
<ちょっと待てよ>
<はい>
-----言い訳タイム?
別に顔も知らないプレイヤー同士なんだからそんなことしなくてもいいのに。別にナナさんに言ったりしないのに…なんて考えながらだだっ広いフィールドを眺める。だけどなかなか相手は次を書いて来なくて…。多分またどこかに行っちゃったんだと思う。
-----遅いな。
暇をつぶす為にゲームしているのに暇になるというまさかの事態。ちょっと寂しさを覚えて、何かないかと自分のキャラを動かした。すると次のステージからやってきたのか、向こう側から草食獣がこちらの方に歩いてきていた。
「お」
アイテム欄を確認すれば“こんがり肉”が5個くらいしか入っていない。多分、前にログアウトする時に荷物を補充しないでセーブしちゃったからだろうけど…
-----暇だし、いっか。
ボタンを押してモンスターを視線の直線上に入れる。そのまま詩織キャラを置き去りにして…速度を上げて走っていく。タイミングを合わせてXボタン、ジャンプしながらモンスターを斬りつけた。そのまま連続コンボ、脚を崩し倒れたトコロをさらに畳み掛ける、X、X、X。1匹を討伐した所ですぐにクイックターン。もう1匹を同じように倒してから“生肉(うまく焼くとスタミナを回復させるアイテム“こんがり肉”になる)”を5つ手に入れた。
一旦元の場所に戻って、親友と同じ顔したキャラクターを見た。動かない。
-----うーん、じゃ“生肉”でも焼いて待とうかな。
コマンドを押して調理開始。変なBGMを聞いて鳴り止み数秒…肉を引き上げれば「上手に焼けました〜」とスピーカーから声が聞こえたきた。僕って実はこの地味作業好き。なんかね、音楽も間抜けで可愛いしさ、うまく焼けた時の掛け声(?)もなんかいいんだよね。ええ、実はコレばっかりやってた時があって、今では100回やれば100回「上手に焼けました〜」が聞けます。…地味な特技ですみません。
5個とも“こんがり肉”に仕上げた頃、プレイヤーが戻ってきたのか“詩織”が動き始めた。
<おまたせ>
<はい>
<ごめんなさい…あいつ逃げ足速い…>
<仕方ないですねvv>
<あいつの言った事は嘘だ…同棲っぽいしている事は確かだが>
<そうですか。了解しました^^>
それでも同い年の男女が同棲生活…うーん。羨ましいと言うかなんと言うか、やっぱり確実に相手は僕より幸せだと確信した。
<さて、行きますか>
<はい>
再びエリアチェンジをする。
-----また無言になっちゃった…。
慣れ始めたと思ったらすぐに何かしらあって、なかなか話が最高潮までいけない。ま、糸口は見つけたけどさ。
キーボードを鳴らす。
<そういえばさっき2-Bって言ってましたよね。女の子にも振り回されてるって。他にも共通点あったりしてvv 好きな食べ物とかあります?>
<刺身ですかね。和風好きですよ>
<ktkr!! 僕も好きです刺身。和風も>
<それは奇遇ですね! 温泉も好きなんですよ。やっぱり和風ですね>
一気にテンションが上がる。
<わ。僕も温泉好きですよ!!>
<こんだけ共通点があるって怖いな〜。ユーヤさんも近くで振り回される人が居るかも? …詩織?>
<え?>
面食らい、キーボードをこれ以上押せなくなった。
するとその間にアキラくんがさらに突っ込んでくる。
<確か僕の事、1回だけ…詩織って>
-----鋭い人だな、姉さんみたい…。
実は何もかも嘘でプレイヤーは姉さん…なんてオチはないだろうね? なんて多少疑いつつも、ゲームセンス0の姉さんな訳ないかとすぐさまレスする。
<鋭い方ですね。そうです、その子です。元凶はvv>
<可愛いのかな? その子?>
眉尻がピクリと反応を示した。時間を貰う為に、敢えて<……>を送信する。迷った、言うか言わざるべきか。そうだろ?
------可愛いとか可愛くないっていうか、今君が使ってるその顔なんですけど…。
言ってやりたい。
僕の親友、詩織はゲーム内で君が最も見慣れているであろう顔ですと。
でも言えそうにない。
やっぱり「んなわけないだろww」って言われそうだし。
でもなぁ…ここまでそっくりだと逆に…。とりあえず気になってしょうがない所から聞いておこうと質問返しをした。
<あの、つかぬことをお聞きしますが、そのキャラって…>
<うん。あの馬鹿野郎が作ったよ>
<そうなんですね>
------…やっぱり言わないでおこう。
まだまだアキラくんとは知り合ったばかりだし、もし次のクエストに誘う事があった時に「コイツ親友とか言ってるけど実は好きな子なんじゃないのか」「だからクエスト誘ってくるんじゃないか」「キリン装備(露出多し)見たいだけなんじゃないか」みたいなあらぬ誤解を受けるのだけは避けておきたい。言うのであっても、もう少し仲良くなってからの方が良いだろうと判断した。
<で、詩織さんの容姿は可愛いですかね?>
<そうですね、可愛いっていうか美人ですね>
<美人程気が強いね…女って>
<そんなとこですかね^^>
どっちかっていうと、詩織も気は強い方だけどそれを言うなら姉さんな気がする。うん、確実にそうだ。姉さんはさ、僕とは本当に正反対の性格で気が強いし勝ち気だし自信もある人だ。運も強運ですることなすこと彼女の思い通りに事が運んでいく。で、顔はさ、実はモデルっていう職業する程だから悪くはないとは思うし…うん、黙ってれば可愛い部類だと思う。けどね、アキラくんが言うように綺麗な薔薇には棘があって、彼女は意識無意識関係なく僕の事を不幸のどん底まで追いやってくれる。まったく、僕はMなんかじゃないから全然、1mmたりとも嬉しくはないんだけどさ、姉弟の運命か…なぜか逃れられないし憎みきれないし嫌いになれない。ま、山田裕也の最大の不幸は姉さんの弟として生まれ落ちた事なんじゃないかと思うね。それほど彼女は強烈だ。
と、アキラくんが急に話しかけてきた。
<ユーヤ! 多分、次のエリアで会えると思うよ、モンスター>
<わかりました>
すぐさま頭を切り替えて、コントローラーを強く握った。
<じゃ! 行くわよ>
<!? はい、お願いします>
-----ああ、ナナさんが戻ってきたのか。
戦闘中、なんか確実にあるだろうなと良く当たるイヤな予感がプンプンした。