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OH! Come on Baby!!…Babies!?

「ぁ、ヤバ…」


 大きく瞳を開けながら布団から飛び出した。

 あと5分って思っていたらすでに20分もまどろんでしまっていた。誰も声をかけてくれないのだから仕方ない。普段はこんなことなくちゃんと起きれるんだけど、昨夜医学書の深い部分まで読んでしまって興奮したのかも知れない。…深層心理的には違うかも。詩織のあの言葉が正直脳裏を離れなかった。お昼の間に晋也との夢でのやり取りで落ち着いたかとは思っていたんだけど心はそこまで単純じゃなかったようだ。うーん、頭の中ではしっかり整理出来てるんだけど、心っていうのは難しい物だね。ま、そのうち頭について行くだろうから…今僕のすべき事は急いで朝の準備をする事だよ!! あと15分もしないうちに詩織が来てしまう!!

 でも急いでいる時に限って大抵邪魔が入るもんだ。

 歯ブラシを口に突っ込んだのに鳴り始める着信メロディ。本来なら無視だ。けれどパネルに映った名前を見るなりすぐさま耳に当てる。


『ふぁい』

『…何か食べながら話してるの? 行儀悪いわよ?』

『違う、歯磨きちゅー。へ、何姉さん…』


 口に含んだまま、仕方なかく先に出来る事を始める。制服のズボンを叩いて履く。そのままベルトを通してまた洗面所に戻った。

 でもその間も姉さんは何も言わない。

 だけど僕にはそんな時間も惜しいからスピーカーフォンにして歯磨きを始めた。


『裕くん、私…』


 彼女が僕を「裕くん」と呼ぶ事に顔をしかめながらも次の言葉を待ちながらずっと歯を磨く。

 ゆうに5分は経った。だから吐き出そうとしたら…


『私、妊娠したみたいなのよね』


 吹き出した。

 咽せながら顔を洗って聞きなおす。しかし聞こえるのは“妊娠”と言う言葉だけ。放心しつつも体はキッチリ動いてスピーカーフォンから戻し、学ランに袖を通す。


『それ、確かな話なの?』

『…まだわかんないわよ。でも、アレが2ヶ月も来ないってことはそうだと思うのよね』

『ってかさ、僕男の子なんだからそんな話しないでくれる? 母さんに言ってよ』

『だっ…だって結婚は決まってるけど、籍がまだだし。それにモデルの仕事の事もあるし、言えるのユーヤしか思い浮かばなかったのよ。いいじゃない、姉弟なんだし、どうせ貴方医者になるんでしょ? それくらい…』


 いつもの剣幕ではなく、少しばかりしおらしい姉さんに眉をハの字にした。そうだろ? 僕にそんな話するなんて彼女なりに結構参ってる証拠だ。取り乱して僕に確証のない話をする辺り特にね。この分じゃKENさんにも言ってないね。でも言う前で良かったと逆に思うよ。

 ため息を吐くとインターフォンが鳴った。

 姉さんの途切れ途切れの話を聞きながらドアを開ける。


『ねぇまずどうしたら良いと思う?』

『妊娠検査薬買って調べてよ、話はそれからだよ』

「おは…え? 妊娠? 話はそれから…?」

『薬局よね…。…でもそれって恥ずかしいし、もし私が買ってるのファンの子や知り合いに見られたら…』

「ご、誤解しないで!!」

『何を誤解…ああ、ユーヤが買って来てくれるのかしら? 貴方って本当に優しい子よね』

『ちょ、待って!! 誰もそんな事言ってない!! 僕はイヤだ!!』

「ユーヤ何言ってるの!? 嫌って、それって…」

「違う!!」


 だんだんカオスになってきたことに気づいて叫んだ。

 電話の向こうではまだ妊娠しているのかも定かではないのに『叫ばないで、胎教に悪い!!』と怒鳴る姉さんに、誰かを妊娠させあげく認知しようとしない酷い男だと誤解を始めた詩織が僕の事ジトっと睨んできている。

 次の瞬間、彼女達が同時に僕を攻め始めた。


『裕くんのせいでストレス溜まったらどうしてくれるのよ!!』

「ユーヤの不潔!!」

『ストレスが胎児に与える影響は甚大なのよ!!』

「挙げ句の果てに…イヤだなんて、まだ生まれてないけど命なのよ!?」


 冷や汗が吹き出した。

 この場合、一番ストレスを与えられているのは僕じゃない? そして変な思考に持っていった詩織も悪いんじゃない? でも確かに僕も悪いだろう。神経過敏になっているだろう姉さんに大きな声出した。詩織が開けた時に丁度言い放った言葉も悪かった。

 まずはどっちを落ち着かせるべき? 子どもが体内にいるかも知れない姉さん? 想い人である一番誤解されたくない人物である詩織?

 -----そんなの選べないでしょ!!

 仕方なく僕がとった行動は…未だ何か声が聞こえる携帯を詩織に渡す事だった。そして合掌しながら一生のお願いだと言わんばかりに話してくれと懇願する。憮然とした顔で詩織が嫌そうに耳に当てて声を出した。


『…その声、詩織ちゃん!?』

『え? お姉さん!?』


 バッとこちらを向く詩織に安堵のため息を吐きながらコートを取りに部屋に戻る。

 何やらゴニョゴニョ会話を交わすのが聞こえる。

 玄関に戻ると先程とは打って変わってバツの悪そうな顔で詩織が見上げてきた。だからオデコをちょんと突ついて電話を交代する。


『とりあえず妊娠検査薬どうにかして手に入れて、それでもし陽性なら産婦人科だね』

『ユーヤ。あれって精度は…』

『最近のは良いみたいだからほぼ確実だと思うよ。どうしても買いにいけないって言うなら通販で買いなよ。僕には絶対に無理だから』

『わかったわよ。結果がどうであれ、また連絡するわ』


 今日明日の授業の終わりの時間を告げてから通話を終了した。

 放課後、帰りの会が終わるなり姉さんから電話がかかってきた。詩織と顔を見合わせて急いで教室の隅で通話をオンにする。

 詩織の見守る中、結果は…


『裕くん、やっぱり私妊娠してる』


 まぜか目眩がした、別に僕がオヤジになるわけじゃないのに。多分これから起こる出来事に対しての僕なりの予見だ。きっとぶっ倒れるようなことが起こる。それが分散して今に来たのだろうと持ち直して喉を鳴らす。

 とりあえず僕の言うべき言葉を、


『おめでとうございます』


 詩織の顔を見ながら言った。

 大きくなる瞳。そして一度に二人が合唱を始める。


『先にアイツに言うべき!? それとも父さん母さん!?』

「ほ、本当に!? 変わって、変わって!!」


 まず腕を出して僕から携帯をもごうとする手を掴んで制す。


『その前に一応産婦人科に行こうよ。万一があったら困るから…今からそっちに行くよ。一応僕の方で姉さんが行っても混乱しないようにしておくから。悪いけど保険証出して待っててよ』


 電話を切ると詩織が隣で頬を膨らませた。

 どうやらおめでとうが言いたかったみたいなんだけど、


「今から病院いくけど、君も行く? 直接の方が良いでしょ?」

「行く!!」


 返事を聞くなり鞄を引っ掴んでもう1度携帯と向き合う。そしてかけるは一嘩。実はこの子の両親は産婦人科の開業医なのだ。だからなんとかうまくしてくれるだろうと思う。電話が繋がり事情を話せば、すぐさまなんとかしてくれるという。やっぱり持つべき物は友達だよね。

 バイクを飛ばして家に着くと、なんとも複雑な顔をした姉さんが僕たちを待っていた。

 タクシーを呼んで病院へ向かう。裏口に案内してもらって姉さんの診察が終わるのを別室で待っていれば、さらに放心したような顔で姉さんが戻ってきた。

 詩織と顔を見合わせ、僕らも神妙な顔で聞く。


「ど、どうだったの?」

「それが…妊娠に3ヶ月目くらい入ったところで…。……。ふ、双子みたいなのよ…」


 姉さんと目が合った。大きく揺れる、僕と似た虹彩の目。多分、晋也のことを思い出しているのだと察した。でも、姉さんのお腹の子が僕らと同じようになるなんてどうしても思えなくって、気づかない振りをした。代わりに詩織と声を合わせて祝福をする。すると姉さんも安心したのか「ありがとう」と顔をほころばせた。

 それは僕が大変な事になるスタートの幕開けだった。そう、妊娠&マリッジブルーに陥った姉さんに振り回される…ね。しかし本当の地獄は出産後で…姉さんをも上回る台風、双子ちゃん達に僕は多大なる被害を与えられるようになる。うん、体力お化けであるKENさんと姉さんの子どもが一度に2人だから、ね…。



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