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プッツンガール #5

 五十嵐番長が先頭に立つことにより、今までの慎重さとは打って変わって5階へと突っ込んだ。

 イサギがいいというのか、それとも単純なのか、不明だが今回はそれでよかった。

 天井と床以外、全ての壁がガラス張りになった空間は不思議な感じがした。

 部屋の真ん中にはヤン坊マン坊も吃驚な大きな双子の男が立っていた。身長は…五十嵐番長より少し高く、横にもかなりデカイ。しかも手にはバットに釘が打たれた金棒みたいなものを持っている。それを振り回そうってわけじゃないよね?


『そいつらを倒したら、倍の金払うってよ』


 拡声器のようなノイズ混じりの声が部屋に響いた。声の出所は階段とは反対側の鏡の壁にあるスピーカーからだった。


『あ、お前ら4人は抵抗しちゃダメだぜ? 今からは一方的にやられるだけだ。女、武器を捨てろ』

 先程と同じ声がした。たぶん、あの金髪の男の声だ。


「なんで貴方のいう通りにしなきゃならないのよ!」

『くくく、イーんだぜ? お嬢様の大事な体に傷がついても』

「…無事なんでしょーね!?」

『疑り深いところもいいね。オラ、なんか喋ってみろ』


 ビッと何かが剥がされるような音がした。


『詩織ちゃん、逃げて!! 犯人はんぐぅうう』

『というわけで選択の余地はないから。くくく。まー早々にヤラレても意味がねーから、逃げる避けるはいいぜ?』


 スピーカーは音声が繋がったままでザザッとノイズが走ったり、静かになったりしている。詩織は言われた通り階段の方へ警棒を投げ、何も手に隠し持っていないことを両手を上げてみせた。2人の巨漢はそれを見ると顔を見合わせ、ニターと口の端をあげた。

 詩織と五十嵐番長は戦闘態勢をとった。

 双子の男の体が、思った以上に早く躍動した。二手に分かれ、まずは詩織と五十嵐番長に襲いかかり、その勢いを利用して持っている金棒をブンブンと大降りに振り回す。それは非戦闘員である僕と末長にまで及び、僕たちは逃げ惑うこととなった。


 階段へ逃げようにも、その巨体からは考えられない程のスピードで先回りされ、出口を塞がれる。悲鳴を上げて逃げる末長を嘲笑まじりに追いかけ、当てそうで当てない。それは僕にも同じで、まるでリアルな鬼ごっこのようだ。

 詩織は華麗にすべてを避け、五十嵐番長は男と組み合っては手を離し、大降りな振りをさらに大きく体を動かして攻撃を避けていた。

 部屋には双子が馬鹿笑いする声と、スピーカーのノイズの音だけが木霊していた。


 どのくらいたったのだろうか? 僕には1時間にも思えたその時間はたったの1分だったのかも知れない。末長の悲鳴が聞こえて振り向くと、大男が彼に向かって金棒を振り下ろさんとしていた。その間に割って入る一つの陰。


「ぐぁああ、くっ」

「番長!!」


 腕に釘が何本もめり込み、制服に鮮血が飛び散った。陰の正体、五十嵐番長の顔には苦渋の色が見て取れる。

 片膝を付き、その場に座り込む彼に末長が叫んだ。

 注意をとられていた隙に僕も吹っ飛ばされた。


「わぁ」


 背中に刺さるような痛みが走って鏡の割れる音がした。降り掛かってくる無数の破片に頭を抑えながら倒れ込む。背中も、殴られたお腹もうずくように痛い。

 --------なんで僕までこんなめに、早く逃げておけば良かった。

 今更後悔している僕を他所に、スピーカーから楽しそうな声が聞こえてくる。


『くくく、お嬢様よ。早くディスクのありかを教えないと友達みんな死んじゃうかもよ? ……あ、そーか喋れないよな』

『ぷはっ! 何も、ディスクなんて知らないんーー、んーーぅ』


 口が塞がれたような後、委員長の声がまた聞こえなくなった。代わりに金髪の声で『もっとやれ』と双子に指図があった。

 体を地面に預けたまま、僕の頭はフル回転を始めた。 

 -------彼らの目的は彼女自身を交換取引に使うのではなく、最初から委員長にディスクの在処を聞き出す事だったんだ!!

 オカしいと思っていたんだ。

 委員長の携帯の電話を追ってここまで着たというのに僕の携帯は圏外。電波がないのか、ジャミングされているのかは分からないけど、彼女のも僕のも同社の物だから繋がらないのは同じハズ。電波を追えないにも拘らず、このビルに案内された。 

 ビルの中に侵入した後も、どうして男達が僕たちがいることを予め知っている風だったのかも不思議だった。


 でももし、始めから僕らを計画の中で利用するつもりだったとしたら? 


 僕たちをいたぶって委員長にディスクの在処を聞き出す、回りくどいけど彼女を殺さなくて済むから実は確実に目当ての物は手に入れられるし、しかも父親のいない今日は格好のチャンス。

 チャンスを生かして僕らを誘い込み、正確に彼女の居場所へ連れて行く。さらに僕たちが侵入した事を告げられる人物…それは、秘書の猿渡さんしかいない!!

 だから僕たちの前で警察に連絡しようとしなかったんだ。

 助けに入ったつもりが全て罠で、あまつさえ利用されていたなんて。悔し過ぎる。


「くっ」


 双子の男に気づかれないよう、顔だけこっそり上げた。

 向こうでは詩織が反撃する事も出来ず、ただ避けている。末長は番長に連れられ部屋の入り口をでて、こちらを伺っていた。それを必死で守ろうとする五十嵐番長。


『くくく、もっとやれ!! 誰も抵抗できなくなったらお嬢様が白状するまで一人ずつ頭を潰して行こうぜ』


 金髪の男がさも愉快そうにのたまった。

 -----そういえば、アイツ何処に?

 4階から5階へ駆け上がって行ったのを見た。なのにどこにも姿が見えない、その上ずっとこちらを見ている風な口調…。出来るなら、最初からそこから指示さえ与えていればいい。考えろ、なんでアイツはわざわざ僕らの前に姿を現した!? 

 そのとき、ふっと金髪の男がカメラを持っていたのを思い出す。

 カメラ? そういえばカメラに送信タイプのアンテナを付けていた。…ひょっとすると、このビルには監視カメラがついていないのか!? だからわざわざ持ち歩いて撮影していたのか。でも、さっきカメラは壊れてしまった、そうアイツが投げたんだ。監視用のカメラを。破壊してしまっては、送信する事が出来ないじゃないか。送信できない…そうか、要らないんだ!!


 物音を一切立てないように頭のみ動かし、部屋の全体を見渡した。

 ------目分量だけど、明らかにこの階だけ狭い。

 東西南北、天井と床以外が全て鏡なのは別にここがダンススタジオだったからじゃない。マジックミラーのカモフラージュだったんだ!!スピーカーのある壁の向こう側は外じゃなくて部屋があるハズ。

 そこにはアイツも委員長もいるはずだ。

 僕は徐に立ち上がり、スピーカー側の壁に走った。


『おい、1匹回復したみたいだぞ?』

「「まぁ待て、そんな何も出来ない奴どころじゃないんだ!!」」


 こんな時まで双子だからか、男達の声はハモっていた。

 僕は転がるように壁際に背中を寄せる。どこかに、入る為のドアがあるはずだ。

 目を凝らして角度を変えて見ると、あった、向こう側に掘られた引き戸の取っ手穴が。

 --------このことを詩織か番長に教えれば…。


「ぎゃ!」


 入り口の前に立っていた五十嵐番長が膝をついて仰向けにひっくり返り、末長が下敷きになった。2人は気絶してしまったのかピクリとも動かない。

 2人を見下ろした片割れは、もう一人の片割れに呼ばれて詩織へ向かって行く。僕なんて後でどうにでもなるって訳か。

 --------って、これじゃあ誰にも突入してもらえないよ!!

 頭を抱えて青ざめる。

 せっかく活路が見出されっていうのに。

 さすがに疲れが見え始めたのか、それとも二人掛かりだからか、詩織は大きく肩で呼吸を繰り返し始めている。このままじゃ、みんな共倒れだ。


「そんなの嫌だ!!」


 立ち上がって、先程見つけた鏡のドアへ急いだ。

 丁度、僕たちが下の階で見てきたキッチンやトイレがあったのと同じくらいのスペース分。2階から4階までのパターンでいくと、5階はキッチンのハズ。今までの階で水を流した気配はなかった。且つ、外を見て回った時ガスメーターが動いてた。ということは、もしかしたらアレがあるかも!!

 スライディングしながら指を取っ手穴に引っかけた。

 思った通りそこが隠し部屋への入り口で、ガラリというふすまを開ける時にも似た音がして中が見えた。滑り込むようにその中へ入ると、委員長の体にぶつかった。


「ようこそ」


 金髪の男が、笑いながら見つめてきた。

 僕はその冷たい目に、蛇に睨まれたカエルのように動けなくなってしまった。


「よくここが分かったな、大したもんだ」


 スピーカーの電源はONになっているようで、詩織がいる部屋にも聞けているようだった。自動ドアのようにドアが勝手に閉まっていった。

 委員長の肩が触れ、震えているのが分かる。


「お前ら、何ちんたらしてるんだ。そろそろ片付けちまえ!」


 金髪がそう言うと双子は同時に詩織へ金棒を振り下ろした。


「詩織、やっちまえ!」


 同時に僕も叫んでいた。

 彼女はそれを聞くや否や、地面ギリギリまで体を落とし攻撃を躱すと逆立ちするような形で脚を蹴り上げ、一人目の男の顎に打撃を与えた。その反動を利用し立ち上がり、もう一人の男の腕を掴むと抜き手で喉を潰した。気道を潰され思わず喉に手を当てる男にさらに詩織が挙打を浴びせた。

 その間、約3秒。


「形成逆転…だね? 詩織なら、一瞬でガラスごと君を倒せる」


 彼女がこちらに歩いてくる事を感じながら述べてみせた。

 しかし口の端だけを上げ、金髪は両手をうった。パチパチパチ。


「すごいすごい、ここまでやるとは思ってなかったぜ。でもな、切り札ってのは最後に見せるもんだ」


 徐に冷蔵庫を開け、中から拳銃と男を出してみせた。

 ------え?

 その男は口をガムテープで貼られ、腕には手錠をされている。秘書の猿渡さんだった。


誤字修正の指摘がありましたので、修正させて頂いております。

ご指摘ありがとうございました。

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