表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/253

プッツンガール #4

 多勢に無勢。

 4階の様子を伺って、僕の頭はその言葉に支配された。


 詩織の話ではおおよそ15人くらいはいるとのこと。ふーっと前髪を吹いて「困った」と呟いている。どういうことかというと、彼女曰く一度に相手をできるのは4、5人が限界で(それだけでも凄いけど)、残りの10人程をどうするか、ということで悩んでいるのだとか。普段なら裏道等の細い場所に誘い込んで2、3人ずつ倒すので20人位は大丈夫らしいが、今回の場合は部屋が広すぎるため難しいらしい。しかも僕たちがすぐ下の狭い階段に潜んでいるのを知っているにもかかわらず、襲ってこないということは向こうも人数で一気にやってしまおうという作戦なのだろう。


 状況としては、相手側が有利としかいいようがない。

 -------僕がせめて戦えれば。

 せめて何かないかと探すが、先程男達が殴り掛かってきたて鉄パイプと角材しかない。これを持ったとしても、僕にちょっと毛が生えたくらいで全く役に立ちそうにない。

 彼女は落ちてきた髪をかき揚げ、


「行くわ」


 走り出した。


「無茶だよ!!」


 僕が叫んだあと、詩織はドアの前で足を止めた。

 部屋の中では鉄パイプ等をもった男達が詩織を見るなり、ニヤっとイヤらしい笑みを浮かべた。彼女を部屋の中へ誘導するように彼らは一歩も動かない。

 赤いプリーツスカートが舞い上がったり、僕の頬を生暖かい風が吹き抜けた。


「ヒュー。赤梨さんが言うように、ホント美人だぁ」

「たーっぷり可愛がってやろうぜ」


「ぶっ殺す!!」


 部屋の中にいる誰よりも低い声で詩織が一言だけ口にした。

 男達の間合いに入るなり、水の流れるような動きで間をすり抜け、奥の方にいた坊主頭の男に飛び込む様に警棒を振るった。その警棒の打ち方はいつもとは違い、持ち手の先の部分を頭に突き刺すような形だった。音も違う、明らかに重い一発であることは素人の僕にでもすぐわかった。


「次ぃ」


 かかってこいと言わんばかりに、彼女は声を張り上げた。

 挑発に乗った男達は青筋を立てて鉄パイプやバットで次々に襲いかかる。それを彼女は上体を捻って躱した。絹のような長い髪の毛が、さらりと体に遅れて揺れ、僕がまばたきをしている間にさらに3人程の男達が地面に沈んでいた。

 --------キレた彼女は…やっぱり凄い…。

 思わず空気を飲んだ。


 警棒を持つ手を掴まれても彼女はふんっと鼻で笑い、手首を内側に返して外れかかった相手の手に下から思いっきり蹴りをやると、ガードがなくなった脇腹にいつの間にか持ち替えていた警棒で打撃を与える。さらに後ろを見ることなく首を振って、背後からの攻撃をすり抜け、後ろ回し蹴りを食らわせた。

 彼女がキレて10秒も立っていないにも関わらず、すでに6人の男が戦闘不能に陥った。


「な、強過ぎる」

「赤梨さん、なんなんスか、この女は!?」


 男達がついにうろたえ始めた。

 その視線の先には、3階にいた金髪の男がパイプ椅子に足を組んで座っていた。


「さぁ? いい女?」


 くくく、とまたあのイヤな感じの微笑をしてカメラを詩織に合わせた。なんだか分からないが、あの男とは一緒にいたくない。とても不吉な感じだ。

 じりじりと間合いを詰めながら、男達は構えた。詩織は小さな呼吸を繰り返し、ゆっくり回りながら睨みつけている。

 先に動いたのは、またしても詩織の方だった。

 彼女が動いた瞬間に恐怖で縮み上がる男の顎を殴って一発でダウン出せ、横にいたロンゲにお腹の下から拳を突き上げ、上段回し蹴りを食らわせた。


「ひっ」


 男達にようやく恐怖の色が見え始めた。

 詩織は素早くステップインして、しなるようなローキックを食らわせた。体勢が崩れた肩に掌底(しょうてい)が放たれ、男は抵抗できず転がるようにして背中から落ちる。追いかけるように距離を詰め、肩を踏んだ。起き上がろうとするが、思い通りに体を動かせねい男。脇とあばらの間くらいを余った脚のつま先で彼女が蹴るとビックリする程彼は痛がり、もがき苦しんだ。

 男から降りると、残った者達は蜘蛛の子を散らすように、さーっと壁際まで下がり距離を取った。


「あと、6人…」


 声は聞こえないが、口の動きで詩織がそう呟いたのが分かった。


「何怯んでやがるんだ、ボスはご立腹だぜ?」


 なかなか仕掛けない男達に痺れを切らしたのか、金髪の男が言った。

 -------笑ってる!? 楽しんでるんだ、この状況を。

 鳥肌が立ち、ゾォっとするような震えが僕を包んだ。仲間なのに、なんで?


「ほら、階段に何もしてない坊ちゃんがいるだろ? アイツでも人質に取れば?」


 カメラを回しながら、指差してきた。

 詩織が走ってくるには遠過ぎた。階段に近い3人が我先に、と入り口から飛び出して襲いかかってきた。


「ユーヤ!!」

「伏せろ、山田裕也ぁああ」


 僕は言われるままに、階段に伏せるような格好で頭を守った。男達の呻くような声がして顔を上げると6本の脚が宙に浮いていた。ドサッと泡を吹いて倒れる3人。ただ一つだけ、倒れることなく踵を見せた人物がいた。


「五十嵐番長!?」


 彼はこちらに振り向くことさえせず、雄叫びを上げながら部屋に突入した。

 --------なんで番長がここに!?

 肩を叩かれた。


「うわっ」


 横にはちょこんと僕の横に体勢を低くして座る末長がいた。肩を叩いたのは彼だったのだ。


「なんで、ここに?」


 先程の疑問をそのままぶつける。

 彼は眉毛を片方だけあげると、


「五十嵐番長と詩織さんの家を突き止める為に3人を追跡してたら、急に委員長が攫われただろ?」

「そうだけど、どうやってここが…」


 自分の鼻をチョンチョンと人差し指を跳ねさせている。


「僕の高性能美人センサーを忘れたのかい?」


 まさか…いやしかし、そうじゃないと説明がつけられない。僕たちだって委員長がどこに攫われたかなんて分からなかったし、外見普通のビルにいるなんて考えつかないし。何より彼らがこの場にいるのが証拠だ。でも、匂いだけで辿り着いたなんて…。受け入れようと思っても、考えを飲み込みきれなかった。

 彼の前世は犬だったのだと自分で自分をなんとか納得させる。


「ま、僕の方が驚いたよ、山田くんがここにいるなんて」


 心が読めるのか、反論するように末長は言った。確かに、転校する前までの自分じゃ考えられない。

 こそこそ話している間に男達は皆倒れ、詩織が叫んでいた。


「今度は逃がさない!!」


 少々リラックスモードに入っていた体がビクンとなり、2人がいる場所の目を戻す。

 彼女が前傾姿勢になるや否や、金髪の男は持っていたカメラを投げつけた。片足で横方向に逃げ、飛んでくる物体は音を立ててバラバラになった。彼女が避ける、その一瞬の隙を着いて男は素早く階段を掛けがり、詩織はそれを見て追うのを止めた。

 と、今度は五十嵐番長に殴り掛かった。

 --------忘れてた! キレたまんまだった。

 急いで駆け寄る。番長は慌てた様子で逆にこちらへ向かってきた。


「詩織、落ち着くんだ」


 警棒が振り下ろされる前に彼女の腕を掴み、肌に触れた。


「ごめん」


 眉間のシワが取れ、力なく腕を下げる。

 僕の方こそごめん…。こんなことでしか力になれない。荒い呼吸を繰り返す彼女から手を離し、心の中で小さく呟いた。


「わーこれ、こないだ出たばっかの奴だよ」


 末長の感嘆の声が上がった。

 バラバラになったカメラを組み合わせ、手の上でくるりと回して観察している。


「ちょっと見せて」


 なんだか気になって、奪うようにして取った。

 --------SDが入ってない。…それに外側にこんなの付いてたっけ?


「なんだよ、僕が見てたんだから」

「あ、ああごめん。父さんが買ったのと一緒の機種だったから、驚いてつい」


 ブツブツ文句を言いながら、末長は分解して部品を集め始めた。どうやら使える部品を組み合わせ、自分のカメラに組み込むつもりらしい。詳しいのかも。


「ねぇ、これって何かな」


 ある部品を指差しながら聞いた。


「ああ、これはアンテナだね。送信するタイプ。これで取った奴をどこかに送るんだ、まぁこの小ささじゃ20mくらいが限界だろうけど」

「……」


 一応階段の奥のトイレを見るが使われた形跡がどこにもなかった。それどころか便器の中には水さえ入っていない。

 僕は疑問に腕を組みながら3人の後へ続く。どこかに、画像を送っていた? なんのために?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ