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マジで逃げ出す5秒前


 もうすぐ楽しい夏休み!

 なんて浮かれているのは1年生と2年生だけで、僕ら3年生は夏休みになったって30日間も登校しなきゃならないから、全然嬉しくも何ともない。僕のテンションは至って普通、親友の詩織も至って普通、末長も神無月さんも普通だ。けど、普通じゃない人がいる。

 誰だと思う?

 実は、坂東の様子が可笑しいのだ。彼ってさ、いつも落ち着いた感じで冷静沈着なイメージが僕の中ではあるんだけどテンションがここ2〜3日高いように感じる。それと平行してもう一人、委員長も少し可笑しい。彼女は逆にすこ〜しだけどテンションが低いっていうか、眠たそうに目を擦っているのを最近よく見かける。それで二人に「どうしたの?」って別々に聞いてみたんだけど解答は「特に何もありません」だった。

 首を傾げながら朝の全校集会を体育館で聞いていると田畑くんが後ろを向いてニヤ付いてきた。

 左右を確認して小さく「何?」と訪ねると


「耳より情報がある」


 体を後ろに倒しながら言って来た。だから聞きやすいように僕は反対に体を前に倒した。


「俺、この前新しいカノジョと平城駅に行って来たんだ」


 …もう君の新恋人の話なんて聞きたくない。ノロケなら他でやってくれと言わんばかりに上半身を元に戻していたらシャツを引っ張られた。そして可愛子ぶって唇を尖らせながら「ここからが本題だぞ☆」なんて男がすると気持ちの悪い口調を僕に向けて飛ばして来た。やめてよ、委員長来るから。突っ込みを入れつつ本題を聞く。


「実はさ、そのデートの時に俺見たんだよ。委員長と坂東が二人で歩いてるの」


 -----んええええ!?

 叫べないので心の中で3回ほど絶叫してバッと何人か前にいる坂東の後ろ姿を見た。


「マジで?」

「マジで。俺は喫茶店でご飯食べながら外眺めてて、そしたらその横を二人が歩いて行ったんだよ。向こうは気づいてないけど、多分間違いはない」

「…デート中だったってコトかな?」

「おそらく。そろそろご本人の方々からご報告が来るんじゃないか?」


 お互いに体を離しながらもう一度坂東の頭を見た。

 言われてみれば、妖しい感じはあった気もする。そうだよ、6月の受験強化合宿の肝試し大会の時だってなぜか並んで手を振ってくれていたし、ご飯を皆で食べる時だって購買から帰って来たら大抵二人は仲良さげに話していたし、だから最近坂東のテンションが可笑しかったのかな? 付き合いだして嬉しいから…あれ…

 -----大変だ! 詩織さん、僕ら二人だけグループの中から取り残されてますよ! 詩織の好みだっていう頭のいい子、紹介するから僕にも清純派さん紹介して!

 バッと横を見たけど彼女は僕の視線に気がついて目線を一瞬だけ合わせるだけで、まぁ当たり前だが何も言ってくれなかった。


 それから何日か過ぎたけど、一向に坂東と委員長から“ご報告”がない。今まで通り休み時間になったらグループ内で机をくっ付け合って、話しているだけ。…もしかして二人の関係は皆には内緒なものなんだろうか? なくはない気もする。だって委員長は世界でも有名な大会社の社長令嬢、イチ高校生としての恋愛を制限されてる…なんてドラマなことありそうじゃない?

 日に日にテンションが上がる坂東、それに反比例して眠そうな委員長を眺めながら、まぁ二人がいいならいいかと報告してくれるのを諦めた。

 2学期の終業式の日、ヅラ校長の話を聞いていると詩織が腕を引っ張って来た。


「ユーヤ、明日空いてるかしら?」

「大丈夫だけど、どこか行きたい所でもあるの?」

「平城美術館にね、マリーアントワネットの映画公開を記念して撮影に使われたセット…ドレスとか靴とか色々な物を展示してるんだって」


 そういえばそんな映画あったなぁとやっぱりメルヘン好きだなぁとぼんやり考えながらOKのサインを出しておいた。

 次の日、いつもの如くホテルまで迎えに行ってから二人で電車に乗ったんだけど、なんだか妙に混雑していた。平日の朝のラッシュのように結構ぎゅうぎゅう。詩織をドア側に立たせて揺られていたら、傾いた瞬間に誰から脚を踏まれた。しかもヒール…痛い。

 平城駅に付いたので下りようとしたら今度は人の波が一気に流れ始めて不覚にも詩織と引きはがされてしまった。慌てて改札口に走れば腰に手を当てながら「迷子のご案内しようかと思ったわ」なんて小さい子にするようにたしなめられた。苦笑して腕を出せば、握られる小指。


「人、多かったから流されちゃって」

「いいのよ、ユーヤ大きいからすぐに見つけられるもの」


 -----気も大きくなれるよう精進します。

 無理な目標を掲げながらも、やっぱり多いなと川の流れのように人が進んでいく方向を見た。平城駅はここら辺では結構大きな都市だから、まぁ人が多いのは当たり前なんだけどそれにしても今日は比じゃない。

 腕を引かれていくと人の集団から抜け出せた。目線で前を歩いていた人達を追って「どこに行くのかな?」と詩織に聞くと「さぁ?」と気のない返事。はいはい、早くドレスが見たいんですね、お姫様。


 チケットを買って美術館に入れば、それはそれは詩織の大好きなメルヘンの世界。パステルカラーで彩られたドレスに装飾品の数々。たまにビビットなカラーが引き立てるその空間を目を輝かせてジッと見つめては「可愛い」と感嘆の声を上げている親友を眺めながらパンフレットを読んだ。マリーアントワネットの名前を聞くと、姉さんを思い浮かべてしまうのは…僕の悪い癖?

 美術館内にあるカフェでお昼ご飯を食べて、平城駅周辺をブラブラしているといつの間にか時間は16時を過ぎていた。


「そろそろ帰る? それとも夕食も一緒に済ませちゃおうか?」

「そうね…」


 思考をしている詩織の腕を引っ張った。驚いて口を開く彼女の口を塞ぐ。


「シー、あそこ…」


 指を指して視線を促した。そこには並んで楽しげに話している坂東と委員長の姿。

 瞳が大きく開いたのを確認してゆっくり手を離した。すると詩織が白い歯を見せた。


「ねぇ後を付けてみない?」

「馬に蹴られても知らないよ?」

「馬に蹴られるような関係かどうかを調べに行くんじゃない」


 気がついているクセにそんなことを言う。けれど、悪いお誘いじゃない。僕だって数日前から二人の関係を怪しんでいたのだ…ちょっと覗き見するくらいいいような気がして来た。そうだよ、教えてくれない罰だよ。

 コソコソ電柱やお店の影を介しながら二人を観察しながら歩く。途中「実は…」と田畑くんが教えてくれた話をした。


「…じゃあ二人は私たちが知らないだけで昔からそういう関係だったのかしら?」

「多分そうな…」


 言葉の途中で詩織が僕の体を思いっきり突き飛ばした。自動販売機の横に設置されてあるゴミ箱にぶつかりながら後ろの建物に手を付いた。何するんだよと文句を言おうとしたら詩織は僕の隣で体をコンパクトにして丸まっていた。


「見つかるとこだったわ」

「……」


 -----見つかったって偶然を装えばいいのに…。

 すっかり探偵気分になっている彼女を止められるわけもなく、こっそりため息をついた。と、今度は腕を引かれ始めた。


「何階に向かったと思う!?」


 -----そんなこと聞かれたって…。

 入ったのはファッションビルのエレベーターの中。僕は二人だけ入ったのか、それとも他の人も一緒に入ったのかさえ見てないんだから、というか、この状況で推理なんて出来るわけないよ。まぁとりあえず、


「最上階…本屋行こうよ」


 自分の行きたい所を選択してみた。根拠は…ないわけじゃない。委員長も坂東も結構読書好きで、3人でいる時はよく本の話とかするんだ。だから、なんとなく。

 バッと振り返り、エスカレーターを駆け上がる親友の後ろ姿を追った。そしたら、いた。意外に僕の勘も当たるもんだと感心しつつ本棚から顔を覗かせているとまたもや腕を引かれる。


「ユーヤ、ユーヤ! 委員長、委員長の手元見て! カード、カードで支払ってるわ!」

「あ〜そうだね」


 日本人は結構現金主義が多いからカードで払うことろを見るのは高校生である詩織には珍しいことだったらしく、妙に興奮していた。まぁ、僕はカード大国アメリカにたからソコまで珍しくはない…ん?


「げ!」

「ど、どうしたのよ。大きな声だしたら見つかっちゃうじゃない」

「あれセンチュリオンカードだ」

「何それ?」


 首を傾げる詩織に分かりやすく説明してやる。皆はゴールドカードって聞いたことあるかな? まぁ俗にいうお金持ちが持ち歩くイメージの強いカードなんだけど、その上にもまだあって1ランク上のカードがプラチナカードっていうんだ。このカードはゴールドカードのサービスは勿論のこと年会費も設けられていて希少価値がある。で、このプラチナカードを超えるのがセンチュリオンカード、別名ブラックカードって呼ばれている物なんだけど…。

 お金持ちオーラに当てられて二人でポケッとしていると、委員長と目が合ってしまった。


「ゴメン、委員長と目が合っちゃった」

「私も坂東くんと目が合っちゃったわ」


 二人でヘラっと笑って何かを誤摩化そうとしていると二人は至極普通の顔をして近づいて来た。


「お買い物ですかぁ?」

「うん、まぁ。二人も買い物?」


 言うと二人は顔を見合わせニコっとすると「ちょっと違うます」なんて言う。

 だから核心を突いた。


「じゃあデート?」

「「いいえ」」


 揃って否定された。

 じゃあ、一体…何? 偶然どこかであったのかな? 

 と、幼稚園生くらいの男の子が走り込んで来て委員長にぶつかった。尻餅をつきながら倒れる彼女、持っていた紙袋は丁度人がいない角に飛んでいき、中に入っていた本やらがぶちまけられた。


「き、キャー!!」


 顔を真っ赤にして自分が転んだのも気にせず、散らかった冊子達に駆け寄る委員長。ついでに坂東も走っていって手伝っている。僕も加勢しようと脚を出すと坂東に「止めといた方がいいです!」と訳の分からないことを言われた。意味は分からないけれど、でも、委員長がかなり焦っている。他の人が手伝うより顔見知りの僕の方がいいだろうと判断し、坂東の言葉を無視した。…無視しなきゃよかった。

 拾った瞬間、半ば白目を向いて卒倒しそうになった。

 なんとか踏ん張って、詩織に「君は来ないで!」と声を荒げる。


「…僕と俺の秘密の花園って、何!?」


 中には予想付いているけれど、もし、もし間違っていたら失礼だろ? 誤解なんて…。

 引きつる顔を抑えて、僕が倒れそうになっている原因を作り出したその冊子を裏返した。吹き出した。

 だって<俺の嫁になれ。そして××××(ユーヤによる自主規制)>って書いてあるんだもの。

 ×××は×××であって×××でしょ!? ってか、××なんだから××じゃない!! そんなことしたら××が×××に!!!???(禁止用語連発により規制させて頂いております)

 誤解もクソもなかった。内容は疑いの余地もないくらいのBL系まっしぐらなもので…

 あまりのショックに目を点にしたままヨロヨロ立ち上がると、スッと冊子が手から抜き去られた。


「だから、止めた方がいいって言ったんです」


 くいっと眼鏡を上げ、委員長の紙袋に僕の持っていたそれを坂東が突っ込んだ。そしてこう続ける。


「誤解しているようだから言っておきますけど、僕と委員長は今日デートなんかじゃなくってコミケに行って来たんです。僕と彼女は山田くんの想像しているような関係ではなく、オタク仲間なんですよ」

「それって…」

「僕は知っての通り戦隊もの目当て、彼女はBL系目当てで…月1回あるそれにどうせだからって一緒に行ってるだけです。それ以上でもそれ以下でもありません」


 色んな所に突っ込みを入れたい所だけれど、先にボディブローを当てられた僕は委員長の顔を見ながら「そう」としか応えられなかった。だってまさか二人がそういうところで繋がってるだなんて予想だにしてなかったんだもの。…まぁ兆候はあったけど。ああ、イベントが近かったから最近坂東の様子がおかしかったわけね。そういえば去年の今頃もテンションが少し高かったことを思い出した(今日のコミケはかなり大きな物だったそう)。

 -----あれ、じゃあどうして委員長は逆にテンション低かったのかな?

 首を傾げながらもその質問は言わなかった。だって、委員長が


「田畑くんとこういった言う関係に卒業するまでになってくれると嬉しいですぅ」


 なんて爆弾を投下して来たから。もう、なんだか話しかけたらさらに凄いコト言われるんじゃないかって怖くて、声を出せなくなっちゃったんだよ。はぁ。

 その後、委員長のお迎えが平城駅まで来るとのことだったので3人でそこまで送って、空いていた1つに詩織を座らせ二人でつり革に掴まって電車で帰っている時だった。坂東が詩織に聞こえないくらいの声で僕に耳打ちして来た。


「友達だから忠告しておいてあげますよ。実は委員長、BL系の執筆活動も行っているみたいで…今日に合わせて深夜遅くまで頑張ってたみたいなんですよね」


 ああ、だから眠そうにしてたのか。

 コクコクと頷く。けど、それと忠告ってどう繋がるの?


「次のモデルは実際にいる人物…山田くんと田畑くんを題材にするみたいです」


 大きく目を開けると「気をつけて下さい」と付け加えられた。

 参考に…なんて変なコトさせられたり…えー!?

 -----マジで勘弁してよ!!

 

 

【みてみん】様の方でのプロフ画像を頂きましたvv

今回の裏話の方でUPしたので気になる方はぜひvv

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