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めろめろキャンディ #2

 -----やっぱりタオル持ってきてて正解だった。

 裸足のまま、まだまだ冷たい水に足首まで浸けて笑い合っては、はしゃいでいる詩織と神無月さんを見守りながら心の中で呟いた。いや、持ってきているのを知っていたから入ったのかも知れない…まぁどっちでもいいか。

 河原のちょっと大きめな石を椅子代わりにしている末長の隣に僕も腰を下ろした。


「あー、明日からまた学校だな」

「早く起きなきゃいけないのがツライよね。しかも、今週末休みないしね」

「は?」

「そうだよ、全国模試で潰れちゃうから」

「最悪」


 ブチブチ文句をいう隣の親友のバックを見た。


「ねぇカメラは?」

「山田くん家に行くだけだと思ってたから持ってきてない。一眼だから重いだろ?」


 確かにと相づちを打って、また2人で女の子を見る。

 サラサラと流れていく音と太陽の光を乱反射して突き刺すように注がれる光に目を細めた。そういえば僕も末長も集まれば家派な人間だからこういうとこに2人が揃って来ると言うのは初めてかも知れない。そこら辺に転がっている石を脚で叩きながら聞いた。


「こういうとこは神無月さんと来るの?」

「チョクチョクな」


 確か神無月さんは陸上部だったから、もしかしたらアウトドア派なのかもしれない。健康的に少し焼けた肌を見つつそう思った。ついでに末長が結構、相手に合わせるタイプなのだということも確認した。僕にはそんなことしてくれないけどね。


「山田くん」


 気のない返事をしつつ、次の言葉を待つ。飛行機が通る音がした。


「詩織さんとマジでケンカしたらどうする?」


 -----そりゃ平謝りだよ。

 何度も何度も許してもらえるまでひたすら頭を下げ続けるだろうね。ってか、何コレ? 例を挙げてるだけで予見してるね。神無月さんとケンカしたらどうしたらいいのか聞きたいってことだ。要するに、ケンカするようなことをするかも知れないってこと。今日の話の流れから言ってチュウしたら怒らせるかもしれないから先に対処法でも聞いておこうって腹だろう。そんなことばっかり考えてるから奥手なのか…。


「悪いことしたんだったら謝るけど、そうじゃないなら謝らない」


 読み取って欲しい、この言葉を。神無月さんに手を出すのは悪いことじゃないって言ってるってことを。

 が、遠まわし過ぎたみたいだ。彼は僕の思いなんかをスルーして「そうか」なんて言いながらため息をついた。全く、手のかかる子だ。僕にこんなコト言わせないで欲しい。恥ずかしいじゃないか。


「神無月さんはしても怒らないし、逆に喜んでくれるんじゃないかと」

「…人ごとだと思って簡単に言ってくれるなよ」


 人ごとだから神無月さんのことを冷静に見れてると思ってるんだけど。だってなんだかんだで神無月さんの方も告白するまでは積極的だったくせに、手を繋げないことを詩織に相談したりして、そこからは奥手なんだもの。まぁ奥手なんじゃなくて、そういうことは男からって思ってるタイプかも知れなけど。どっちにしろ末長が行動を起こさないと進まない。

 -----いつになることやら。

 ふーっとため息を吐いてタオルを1枚、末長に手渡した。


「詩織、ユーヤ!!」


 空から声が降ってきた。見上げれば二宮先輩とそのカノジョ。

 多分連休だったからこっちに帰ってきていたのだろう。川から出るという詩織にタオルを投げて先に土手を上った。声をかけるといつものような爽やかな笑顔。


「そういや、行きたい大学は決まったのか?」

「いえ、大学はまだ。ただ、したいことは見つかりました」

「よかったな。おー、詩織」


 詩織の頭をくしゃくしゃと撫でながら二宮先輩が続けた。


「そういや受験に使った時の赤本が何冊かあるから、よければ取りに来るか?」

「え、いいんですか?」


 驚いて声を出すとにんまり笑って「今から取りにくれば?」と誘われた。末長に少しだけここを離れることを言って二宮先輩の後を付いて行く。詩織もいくと言うので河原に2人を残して参考書を取りにいった。

 持ち帰る時ついでにとジュースを4本買った。

 -----今してればいいのに。

 していいような悪いような想像をしながら詩織と元の道を戻る。


「神無月さんも意外に奥手なんだね?」

「そう…かもしれないわ。あれから何か進展があったなんて話は聞いてないもの」


 ちょっと怖いと思った。

 当たり前だけど、末長の行動は詩織に筒抜けだ。ということは僕の行動も神無月さんに伝わっている可能性がないわけじゃない。まぁこの子の場合は僕に面倒ごとを押し付けるし、そんな関係じゃないんだから言われてマズい物はないと思うんだけど。なんか怖い。なんて言われてるのかも、どう伝わっているのかも。


 橋を渡るため、坂をゆっくり上る。と、神無月さんと末長が並んで座って向こうを見ているのが目に入ってきた。

 -----なぁんだ、残念。

 僕らが時間を空けておいたから、もしかしたら…なんてことを想像したけど、そんな訳はなくってただ何かを話している様子だった。チェと舌打ちをした。目撃したかったかと聞かれれば、したかったからだ。まぁ見られるのは絶対にゴメンだけど。


「あ」


 詩織が缶を落とした。

 転がるそれを追いかけていく。後ろ姿を見守って、拾い上げた時の満面の笑みを頂戴させて頂いた。彼女に僕も笑顔を落としながら振り返る。パタパタと登って来る足音を聞き、先に歩こうとした瞬間、僕は180度方向転換をして駆け寄ってきた詩織の目を塞いだ。

 ついでに動けないように後ろ頭も押さえる。僕はさっき作られたばかりの飛行機雲を見上げた。


「な、何するの!?」

「動いちゃダメ」


 だって、僕の想像3秒前だったんだもの。多分、今僕の後ろでは末長が神無月さんを月に連れて行っている。僕らにはそれを見るチケットなんて存在しないのだ。していいのは、末長お得意の事後報告を聞くことだけ。


「ねぇ何?」

「子どもは黙って缶を追いかけてればいいんだよ」

「何よそれ」

「僕も追いかけるからさ」


 目元を塞いだ手は決して離さず、頭を抑えた手で肩を回す。車が来ていないことを確認しつつゆっくり缶から手を離した。顔から手を解放してやると「あー」なんていいつつ僕のコーヒーを追いかけてる。僕も缶と詩織を追いかけた。


「もう、何やってるのよ」

「月にね、神無月さんを行かせてあげただけ」

「……。嘘!?」


 理解した詩織が駆け出そうとした。だから視線上を体で塞いで腕を掴んだ。


「見ちゃダメ」

「えー!? ユーヤは見たくないの?」

「見たい…けど、まぁそれは2人がこなれてからでも遅くないから。恋路は邪魔したら馬に蹴られるんだよ?」


 縁石に座って、唇を尖らせている詩織を隣に呼ぶ。

 缶を開けた。


「乾杯しようか、あの2人に」


 言うと一度ため息を落として詩織が僕の隣に腰を下ろし、同じように缶のふたを開けた。


「楽しみは明日に取っておくわ。じゃあ、神無月ちゃんの愛に…」

「末長の下心に…」


 鈍い音をあげて缶が鳴った。





 帰り、前を歩く2人を見てすぐに視線を落とした。

 だって来る時までは僕らに気を使ってか恥ずかしかったかは知らないけど、手なんて繋いでいなかったのに繋いでるから。しかも思いっきり恋人繋をガッツリと。ったく、僕らのことなんてもう頭の隅の隅にしかないのだろうか? まぁ言えた義理じゃないのかも知れないけど…。

 -----恋人度10ポイントアップー。

 勝手に一人で末長をレベルアップさせた。


「羨ましい?」


 詩織が明らかにイタズラしますって顔をしてきた。周りを見渡して小さく「馬が来るよ?」と囁いてやった。すると彼女は頬を膨らませて僕の指を何時もより強く掴んで捻り上げた。


「そんな酷い事すると思ってるの?」

「え、違うの?」


 顔を歪ませながら苦笑すると舌を出された。

 なぜか胸が高鳴った。


「じゃあ、羨ましいって言ったら何かいい事してくれる?」


 期待なんてしてる訳じゃない。

 ただの好奇心と思って欲しい。そしてちょっぴりのイタズラ心。

 言葉に詰まった詩織を見つめて舌を出した。


「冗…」

「いい事、してあげるわよ?」


 僕の瞳が大きく開くのを待って彼女は妖艶な笑みを零して小指をいつものように握り直した。


「ほら、いい事。こんな可愛い子と手を繋げるなんて、役得よ? この幸せ者!!」

「恐縮です」


 頭を掻いて笑った。



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