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18 〜Happy Birthday〜


 駅前でバイクに股がったまま待機する。

 本当はまだお兄さんから正式には貰った訳じゃないから、こんなにホイホイ使いたくはないのだけど、今日誕生日であるダブル主役の1人、詩織たってのご希望だ。それに…姉さんとの相談で決めた和食屋さんは山の方にあってタクシーを使わないといけないような場所だ、丁度いいと言えば丁度いい。

 ぽーっと人の流れを観察する。


 ん、ちょっと待って。詩織は僕に前になんて言ったっけ? 「クラスの女子皆で」「委員長の家」って言っていなかっただろうか。バイクに股がったままはさすがにヤバいだろう。だって今から同じ電車に乗って神無月さん達がここに来るのだ。ライダーHの正体を知っている彼女はいいとして他の女子が不味い。

 そそくさとバイクから降りて駅構内へ歩いた。

 けど、それさえも不味いってことにバイクのことばかりに気を取られていて気がつかなかった。詩織が手を振りながら走ってきた瞬間、生暖かい目線達が彼女の後ろから僕に絡み付いてきたのだ。予想出来ていたことを見逃した自分を悔いつつ、顔を引きつらせる。

 -----ああ、また一つ…。


「詩織ちゃんってばぁ、時間気にしてると思ったらやっぱり山田クンだったのね」

「何あげるの!?」

「夜は何するの!?」

「ヤダー、そこは聞いちゃダメよー」


 キャッキャと自分達だけで盛り上がってはニヤニヤ僕を見てくる。反論したいが、したらしたで何か言われそうで怖い。っていうか、女の子って、集団になると聞くことが直線的になるのは何故だろう。1人や2人の時はそんなことないくせに。謎だ。


「今日はユーヤも誕生日なのよ」

「えええ!? 何それ、言ってくれれば良かったのに」

「いや、君の彼氏からプレゼントは頂いたから…」

「な、何貰ったの?」

「超いいもの。末長に言うといいよ。『山田クンにそんなにいい物あげたんだったら私にはもっと凄い物くれるよね』って」


 にっこり笑うと今度は女の子達の話題が末長と神無月さんの方へと移った。

 しめしめとほくそ笑む。


「いっぱいプレゼント貰ったね。一回家に帰ろうか? 持つよ」

「じゃあ半分だけ。持ちたいのよ」


 手を振ってクラスの女の子達と別れた。

 僕の手にも詩織の手にも大きな袋が1つずつ。


「何貰ったの?」

「えっとね、膝掛けでしょ。それからクッションカバーに…ふふ、勝負パンツだって凄いのもくれたのよ」

「しょ…」


 -----凄いのって。

 あらぬ方向を見てついつい考えてしまう。ひも、T、O、I…ダメだ。これ以上は禁止用語にしておこう。

 荷物を置いてバイクで和食屋へと向かった。






「んー、美味しかった」

「お粗末様」

「でも、お金…高かったんじゃない? 会席料理なんて…」

「それなら心配いらない。あれ、姉さんから僕らへの誕生日プレゼントだから」


 バイクにチェーンを付けながらヒラヒラと手を振る。今日来れない分はきっちり姉さんから貰っておいたのだ。

 家の鍵をあけながら手招きをする。そう、これからプレゼントを渡さなければいけない。まずは…下駄箱の上に置いておいたバラの花束を手に取った。振り返りながら玄関のドアを押さえてやる。


「はい。お待ちかねのバースデーローズ」

「あはははは。きた!! まさかしてくれるとは思ってなかったけど、されると、照れるわね、くぅ〜あはははは!!」


 でも照れより笑いの方が先攻らしく、お腹を抱えて爆笑している。というか、笑い過ぎて涙が出ている。これが正常な神経の持ち主なのか、それとも姉さんが普通なのか分からない、が、喜んでいるのは確かなようだ。

 ヒーヒー言って笑い転げる詩織をさらに招き入れた。

 机に突っ伏してバラの花を持ったまま、まだ笑っている彼女の肩を叩く。


「何、ぷぷぷ」

「そっちはまぁダミーだから」


 和柄の小さな包みを机の上に出してやる。詩織は引きつけをおこしながらも、透かして首を傾げた。開けるように促すと、すぐに満面の笑みが降ってきた。


「椿の、帯アクセね」

「うん。着物とか好きでしょ? それなら浴衣の時でも可笑しくないから」


 チョーカーになることも説明してやると、照れるように俯いた。

 頬杖付いて反応を伺う。


「蝶のと一緒に大切にするわ」


 -----あ、可愛い。

 会った時から数えきれないくらい思った言葉だけど、今日は特にそう思った。

 と、詩織も鞄をゴソゴソして机の上へ置いた。


「私からも。開けてみて?」


 前回はバイクの手袋だったなと思い出しながら袋を手に取る。今回は固さがあるような物だった。開ければ真っ黒のキーケース。


「いっつも鍵が裸でしょ? バイクの鍵も一緒にしておけばいいと思って」

「そういえば。ありがとう、そうするよ」


 立ち上がって玄関の方へ行き、バイクの鍵、家の鍵、実家の鍵をつけた。玄関から見えるようにキーケースを振って鳴らしてあげた。


「委員長の家でどんなケーキ食べたの?」

「ふふ、凄かったわよ。いろんな種類のホールケーキが何個もあってね、幾らでも食べていいって言われて、皆で張り切って食べちゃった」

「そんなに食べたの?」

「ええ、たぶん…ホール1つ半は食べたわね」


 げ。思わず詩織のお腹を見やった。けど全く膨らんだ様子は見せない。

 前にも思ったけど、一体全体その体のどこに食べたものがいくのか。全く太る気配を見せず、物理的法則を無視しまくる彼女の体は理解がしがたい。僕なら今頃100kgオーバー必須だ。

 怪訝な顔で見ているとポコンと叩かれた。お腹を見られたのが気にくわなかったのだろう。

 唇をすぼませる。


「叩かないでよ。そんなことする人にはケーキあげないから」

「え、嘘!? 用意してくれてるの?」

「だって僕だって誕生日だよ? 食べたっていいじゃないか。でも、詩織にあげるケーキはないね」

「い、意地悪!!」


 笑っていつもの仕返しとばかりにデコピンを喰らわせる。


「アイスは一番何味が好きなの?」

「そうね、定番なバニラよ」


 聞くなり冷凍庫を開けてカップを出してやる。ついでにスプーンも2つ。


「あ、ケーキの替わりにアイスね」

「そう。ちょうど君の好きなバニラならあったから」


 笑って突つき始めている。僕も一口頂く。

 アイスを食べる時の詩織は本当に幸せそうでこっちまで幸せな気分になる。ああ、だから僕は人を喜ばせるのが好きなのか。一人で納得していると、目の前にあったはずのバニラがもう、最後の一口に。しかも彼女が遠慮せず、イタズラな笑みを落としながら口の中にパクリと入れた。


「ちょっと、僕一口しか食べてないんだけど」

「だって、ボーッとしてるからいらないんだと」


 人が食べたいのを分かっているくせにカラになったカップだけを近づけてきた。

 眉毛をピクリとあげる。


「僕はね、チョコミントが一番好きなんだよ」


 言いながらまたアイスを出してやる。

 一瞬だけほうけたような顔をした詩織が、また僕に負けじとスプーンでアイスを攫っていく。

 こういう子どもっぽいトコロ、嫌いじゃない。むしろ好きだけど、あんまり食べ過ぎるとお腹壊すよ? まぁこの子はきっと壊さないんだろうけど。そしてまた最後の一口を口に放り入れながらしてやったり顔をしてきた。

 僕も思わず笑う。だって、してやったりはこっちなんだもの。


「今日は誕生日だから、もう1個聞いておきたいことがあるんだけど」

「何?」

「2番目に好きなアイスは?」

「抹茶だけど」


 今度は僕が得意げな顔をする。また冷蔵庫を開けた。


「ま、まだあるの?」

「さすがにお腹がキツいかな?」


 笑いながら机に出してやると意地っ張りなのか、それとも本当にまだ余裕があるのか、彼女は鼻を鳴らして笑った。太るよ? と茶化すけどペースは相変わらず。頭はキーンとならないのかこっちの方が心配だ。同じ動作でまたカップがこっちに流された。


「濃厚なのもいいけど、さっぱりもいいよね。マンゴーシャーベットいこうか」

「え!?」


 眉をひそめた詩織の顔の前にカップを近づける。

 そして先にスプーンで取って食べてやった。


「いる?」

「もちろんよ」


 パクパク食べ進めながら、顔を覗き込んできた。聞きたいことは分かっているけど、敢えて聞こう。何?


「アイス、私が好きな順番知ってたの?」

「まぁいつも頼んでるのはバニラと抹茶だってことは知ってるよ」

「そうよね」

「次、いきたいんでしょ?」

「え!?」


 ようやく飛び出した驚き顔に思わず吹き出してしまった。

 口元を押さえながら3番目に好きなアイスを聞く。


「チーズケーキストロベリー」

「……」


 ニヤっと笑う詩織。

 僕もニヤっと笑う。見くびらないで欲しい。


「ちょっと待ってて、確か奥の方に…」

「な!? 私が好きな順番全部知ってるわけ!?」


 肩をすくめながら冷凍庫に腕を突っ込んだ。

 カップの中身を見せつけながらさらに口の端をあげる。


「そこまで知るわけないよ。こっちおいで」


 手招きをして一度冷凍庫の扉を閉める。首を傾げながら隣にきた瞬間、冷凍庫を解放してやった。


「う、わ。何種類買ったの!?」

「18種類。僕らの歳と一緒だね。本当は32歳になった時に32個全部頼みたいなって思ってたんだけど、詩織アイス好きだから」


 指を折って計算し始めた。先に答えてやる。


「今僕らはバニラ、チョコミント、抹茶、マンゴーシャーベットを食べたよね。で、チーズケーキストロベリーを合わせると5個食べた計算になる。だから残りは13個。1日1個食べても約2週間はかかるね。よければ、食べに来る?」


 顔を覗き込めば返事なんて聞かなくても分かった。目は輝いてメチャメチャ縦に首を振っている。

 鼻を捕まえてキュと摘んだ。


「あんまり頭を振ると鼻血出るよ。…誕生日おめでとう」


 詩織も鼻を摘まれたまま続けた。


「誕生日おめでとう」

  

101話目&ユーヤと詩織の誕生日記念ということで、活動報告に二人のパラレルワールドのお話【怒り姫】をUPしてみました。

ぜひ、読んでみて下さいv

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