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18 〜Give a present〜


 拝啓、一嘩様。


「固過ぎ?」


 こんちには…違うな。Hello…軽過ぎ。お元気ですか?…お元気って、どうなの? この度は…結婚式みたい。

 僕は今、一嘩に向けて手紙を書くためパソコンと睨めっこしている。先にこっちで文章を書いてしまって、それから便せんに写そうと思っているのだ。まだ渡せないけど、多分近いうちに必要になると思うから、こうやってキーボードを叩いてるってワケ。それにしても手紙を書くって難しい。書きたいことはいっぱいあるのに、いざ文面におこそうとするとなかなか巧く書けない。一行目にしてコレなら、終わりの方は文章が壊れているかも知れない。

 でも、書いておかないといけない。

 僕のありったけと、僕の予想を、彼女への答えを。ああ、だから書きにくいのかな。今書けば嘘になるから。でも、すでに心は半分以上そちらの方へ動いていて問題は決してない。そうなるというか、コレも予感だけどなるから…。ただ書きにくいだけだ。文才はないけど気持ちを込めることは出来る。渡す時に気持ちを注入し直そう。よし。

 打っては消し、打っては消しを繰り返す。

 アラームがなった。


「はいはい」


 時間だと告げてくれた携帯のボタンを軽く押して、テキストの保存をし、パソコンの電源を落とした。

 今日、学校は昼からだ。なんでも新1年生への部活紹介があるらしいのだ。部活のある人達は先に行って準備、部活のない僕ら帰宅部は昼から登校で、点呼の後、体育館にて1年生と一緒にいろいろ見たりする。まぁはっきり言ってしまえば僕には関係のないことだ。今更部活なんて入らないし。


 体育館に背の順に並ぶとさすが1年生が前を陣取っているだけある(前から1年、2年、3年の並び)。僕は一番後

ろの体育館の壁を背もたれ代わりにすることに成功した。あぐらをかいてポーッとしていると、詩織も僕の横に座ってポーッとし始めた。


「ユーヤは中学の頃、何か部活に入ってた?」

「いや、僕はずっと帰宅部。詩織は?」

「私も帰宅部よ」


 バスケ部、サッカー部、柔道部…壇上でどんどんパフォーマンスが流れていく。


「ねぇ、今週末の日曜日って何があるかわかる?」

「今週末の日曜日…」


 カレンダーを思い出す。あ、そういえば4月20日は…


「私の誕生日なの」

「え?」


 目を見開いた。3秒間見つめ合った後、首を傾げられたのでまた舞台を見た。


「私に誕生日があったら変って言いたいのかしら」

「違うよ、僕は驚いただけ」

「何に?」

「僕もその日が誕生日だから」

「嘘!?」

「4月20日でしょ、姉さんに聞いてごらんよ」


 コツンと頭を壁にくっ付けた。

 メールをコソコソ送る素振りを見せる詩織を横目に、首を傾けた。詩織が誕生日ってことはプレゼントを考えなくてはいけないからだ。

 正直そろそろネタがキレてきた。いや、バラはもちろん送るよ、お笑いとして。僕も腹がよじれるくらい誕生日に笑ってる詩織が見たいからね。でもそうじゃなくって、誕生日って男はそこまで意識していないけど女の子達にとったら結構大事なイベントみたいなんだ。多分、クリスマスと同等くらい。まぁ自分の生まれた日を祝ってくれるっていうのは誰でも嬉しいけど…。話がずれちゃったね、誕生日プレゼントだ。


 僕は今まで何を詩織にプレゼントしたかを頭の中で検索し始めた。修学旅行でネックレスでしょ、クリスマスはヘッドフォンでしょ、そういえばバレンタインには逆チョコを贈ったし、ホワイトデーは悩んだ挙げくゴムをプレゼントした。次は何? 靴は人に贈るものじゃないし、服だって趣味があるし…ホテル暮らしだから特に実用品も必要ないだろう。田畑くんに習ってアクセサリー? ネックレスはあげたから指輪…ない、ないね。僕は詩織の彼氏じゃない、指輪なんて贈れないよ。それに、さすがに指輪は詩織も勘違い野郎だと思うに違いない。

 -----何にするかな?

 考えあぐねていると詩織の携帯のバイブ音が聞こえてきた。画面を見てから僕の顔を見てきた。


「冗談かと思った」

「自分の誕生日を冗談で言わないよ」


 苦笑しながらサバもよんでません、と付け加えた。

 僕も携帯を取り出す。姉さんに詩織の誕生日を伝えなければ殺されるからだ。でも、返ってきた解答は既に怒っていた。その日、彼女には撮影が入っていて戻れそうにない、どうしてもっと早く言わなかった…と。僕だって今知ったし、弟の誕生日でもあるのに…。弁解のメールを入れて携帯を閉じた。


「どうする? 折角だからその日、ご飯でも食べに行こうか?」

「ふふ、誕生日だから奢り合いね」

「リクエストある? 誰かと予定あるなら別に違う日でもいいよ」

「…実は、昼は委員長の家なのよ。さっき話したら女子皆で祝いましょってことになって。だから夜でよければ。そうね、リクエストは和食かしら」


 -----和食…ね。

 多分、女の子同士だから昼はイタリアンか洋食系なのだろう。ということは、ケーキもお昼に食べてしまう可能性が高い。難易度がまた上がった。ケーキも考えなくてはいけないし、プレゼントも考えなきゃいけない。

 姉さんの歴代の彼氏たちの贈り物を思い出す。ネックレス、指輪、指輪、鞄、指輪、時計…。時計だけアリだ。センター試験は携帯持ち込み不可だから腕時計が必須なのだ。いいかも知れない。っと、お兄さんにも確認のメールを入れておかなければ、重なるといけない。送信して数分、バイブがなる。


(俺は時計だ)


 閉口した。先にやられてしまったようだ。相手も考えることは一緒だったらしい。

 -----仕方ない、土曜にでも平城駅周辺を散策してみよう。

 みつかればいいけど…。

 

 




 土曜、平城駅前。

 1人ブラブラ街を散策する。皆で行ったファッションビルに行って見るがコレといったものがない。きっと何を贈っても喜んでくれるとは思うけど…迷う。さっき電気屋さんに行った時はitunのカードがいいななんて思った。どう思う? クオカードなんて。悪くはないよね、詩織だってipod使用者だし、よく音楽を聴くようになったから、きっと喜ぶだろう。でも、なんだかお金をあげる気分になるのは僕だけだろうか。


「あ」


 気がつけばいつか詩織が覗き込んできたアクセサリー屋さん。

 とりあえず入ってみれば、やっぱり姉さんにあげたものと同じような雰囲気のものがある。でも、ほとんどがピアスばっかり。専門店と言ってもいいだろう。姉さんにピアスを贈っていたとはいえ、普通こういうお店を発見して入っていくものだろうか。もしかしたら自分がしたいのかも知れない。そういえば彼女の耳には一つもピアスの痕がない…そのうちあけるつもりなのかも。となれば、ここは違う。え? 欲しそうならピアッサーを買え? 馬鹿言わないでよ。ピアスってことは耳に穴をあけるってことだ。仮にも詩織の体のことだよ? 自分の意志で買うならまだしも僕が買って贈るなんて…彼女に穴をあけろって言ってるようなもんじゃないか。プレゼントでそれはないよ。なんか、怖いし、お兄さんとかも…。


「ありがとうございました」


 何も買ってもいないのにお礼を言ってくれる店員さんの声を聞きながら店を出た。

 もう少しブラブラしてみようと思う。もし見つからなかった時は、クオカードでいいよね?

 -----詩織の好きな物って何だっけ?

 アイスは食べ物だし、メルヘンで可愛いものって…何? 時代劇…DVD? 


「着物見に行ってみようかな」


 呉服屋を探す。いやいや、まさか着物を買うなんてコトはないよ、結構高いし。買うなら帯か小物類だね。っと、あった。

 中にはアンティークの物からブランドの着物まで新旧を扱っていてなかなか広い。来年用の成人式の着物が出ているコトにビックリしつつ、帯の前に立つ。

 -----ピンキリだなぁ。

 数千円の物から数万円の物まで、色も模様も様々だ。しかし目につくのは艶やかな高い物ばかり。ファッションセンスはあるとは言えないが、姉さんのせいで目が肥えてしまったようだ。いいなと思うのは、安くても2〜3万はする。嫌なスキルだ。

 -----「あーれー」ってさせてくれるなら買うけど…。

 無理な話である。

 どの口が裂けて「時代劇みたいにくるくるして帯を脱がしたい」なんて言えるだろうか。もし言えたとしても、水戸黄門のおえんのように熱湯攻撃か言い終わった瞬間に手刀を喰らってダウンだ。何より、そこまでして次がないなんて寂し過ぎる…し、止まる自信もない。変態なんて言わないで欲しい、男なら分かると思うけど。って、そうじゃない。あー、何にするかな?

 ふと見れば、帯のアクセサリー。

 ポンと手を打った。

 これなら今まで持っている物に付属させるだけだし、プレゼントとしてオモくない。値段もいい具合だ。

 一つ一つ手に取ってみる。


「可愛いでしょ? その椿の帯留めね、浴衣と着物には勿論なんだけど可愛い紐を通せばチョーカーにもなるんですよ?」


 すすす、とお姉さんが寄ってきて「おすすめ品です」と付け加えた。


「他の色は?」

「ちょっと待っててください…ここに。全部で3つ、赤と白と黒です」


 詩織の浴衣は白、であの時はワインレッドの帯だった。お正月の着物は赤で帯の色は金とオレンジ。赤はまずないとして、黒…白…。どっち? 


「じゃあ…白で」

「かしこましました」


 お金を払いながら次を考える。

 ケーキだ。これも難題。だって委員長の家で食べるんだよ? 僕の想像では超パテシィエが超凄いケーキを作っていると思うんだ。気持ちを込めて手作りでもしてみようか。ははは、いいかもね。バラとセットでかなりウケると思う…僕がケーキを焼くなんて出来ないと思ってたでしょ? できるから。でも、焼かない。なんで自分の誕生日ケーキでもある物を自分で焼かなきゃいけないんだよ。2人一緒とはいえ、はっきり言って寂し過ぎる。せめて買わせて欲しい。


 近くのケーキ屋さんに脚を伸ばしてみたけど、やっぱり委員長のとこよりインパクトなんて出せそうにない。

 日が暮れてきたのでとりあえず電車に乗って揺られる。

 -----ケーキなし…怒るかな? そういえば和食のリクエスト忘れてた。

 切符を自動改札に入れながら携帯を取り出して姉さんに電話をかける。ここは相談だ。

 で、ケーキなんだけどどうしよう。


 噴水公園にて辺りを見渡す。

 ここら辺にはケーキ屋さんが2つある。別にどっちに行ってもいいような気がしてきた。だって、どう転んだって委員長のとこに勝てる訳なんてないんだから、それならもう普通に何も考えない方がいい。

 -----右か左か…。

 キョロキョロしていると32アイスクリームが目に飛び込んできた。


「アイス…好きだったよね」


 そしてピンと来た。

 一度してみたいと思っていたことがあったのを思い出したのだ。にっこり笑ってアイス屋の扉を開いた。



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