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あめ
作:楓桜



外泊


 あれから一時間くらい経っただろうか。
 彼女を寝室に寝かせてから自分も風呂に入り、浴槽のふちにぞんざいにかけられていた彼女のワンピースを洗濯して俊也の背広の隣に干し、着替えたはいいもののなんだか落ち着かない。いつもなら夕飯の準備をしたりテレビを見たりパソコンをいじったり酒を飲んだりと気ままに過ごすのに、今日は何も手に付かない。
 リビングをぐるっと一周してしまったり、ソファに立ったり座ったりとどうも異常な行動をとってしまう。
 結局落ち着く間もなくあっという間に一時間経過してしまったところで、とにかく彼女の様子を見てこよう、という結論に至った。
 もうそろそろ目が覚めるかもしれない。そう思い寝室のドアを開け部屋に入った俊也は、思わず息を呑んだ。
 彼女は既に目を覚ましていた。
 上半身を起こし、まだ半分意識がないのか目を半分だけ開けて部屋の壁をまっすぐ見つめている。
 なんだかその光景が、まるで一つの絵のように思えた。いつもの見慣れた寝室も、ベッドも、壁もカーテンも、彼女がいるだけで神聖なもののように感じてしまう。
 彼女の持つ空気は明らかに異質で、自分なんかが足を踏み入れてはいけない世界がそこにはあった。
 ふと、彼女は俊也の方に目を向けた。
 どきり、と胸が高鳴る。
 長い間、彼女は俊也を見つめた。
 何を考えているのだろうか。彼女に表情はなく、その顔からは様子が伺えない。
 が、突然彼女はにやり、と笑みを浮かべた。
「えっ…?」
 彼女の表情が変わったとたん、空気が変わった。
 それまでの彼女の持つ異質な空気が消え、彼女は普通の女の子の空気をまとい俊也に話しかけた。
「この部屋、いいね。私気に入った!」
「…はあ」
 第一声がまずよく分からない。
 普通はもうちょっと、ここはどことか、あなた誰とか、もしくは助けてくれてありがとうとか、予想しうる言葉が出てくるものなのではないだろうか。
 この部屋いいね…って。どこからそんな言葉が思い浮かぶのだろう。
 だが彼女は俊也の心境など全く気にしない様子で、更に驚く言葉を吐いたのだ。
「決めた!今日ここに泊まろーっと♪」
「なんだって?!」
「ということで、不束者ですがよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします……っておいちょっと待った!」
「え、何?」
 きょとん、と彼女は首をかしげた。完全に普通の女の子の仕草だ。さっきまでの神がかり的な儚さなど微塵も感じられない。
 なんだこの変わりようは、と俊也は彼女をまじまじと見つめて、それからはっとして彼女から目を背けた。彼女はまだ裸のままだった。布団で体は隠れているが、じろじろと見つめるわけにはいかない。
「とにかく、こんなんしかないけど着とけ」
 なるべく彼女の方を見ないように注意しながら俊也は用意しておいたTシャツと短パンを彼女の方に放った。
「あ、ありがとう」
 自分が裸であることに対して何も気にならないのか、彼女の声からは動揺は感じられない。むしろ俊也の方が動揺している。
 背後で彼女が着替える衣擦れの音がして、そして着終わった気配がすると、俊也は背後の少女に声をかけた。
「着替え終わったか?」
「うん、でも…」
「どうした」
「パンツがなくて気持ち悪い」
「っ!」
 恥じらいの様子もなくそう言ってのける彼女の言葉に、俊也の方が恥ずかしくなってしまう。きっと顔が赤くなっているのだろう、全身が熱くていやな汗が出てくる。
「あなたの下着でいーから貸して?」
「ば、ばか言うな!我慢しろ!」
 ついどもってしまう自分が情けない。
 とにかく落ち着かなければ、と俊也は息を吐き出し、そして彼女の方に向き直った。
 思ったとおり、俊也の服は小柄な彼女では大きすぎるようだった。ベッドの上にちょこんと座る彼女が大きすぎる服のせいで更に小さく見えてしまう。
「それ以上小さい服がないから我慢しろよ」
「うーん、それはいいけどパンツが…」
「パンツは諦めろ!」
「はーい」
 顔を真っ赤にする俊也を見て彼女はくすくすと笑った。
 年下の女の子に笑われるなんて情けないと自分自身に呆れつつ、気を落ち着かせるために俊也はごほん、と咳払いをすると両手を腰にやってベッドの上の少女を見下ろした。
「もう体調はいいのか?そもそもなんで倒れたんだ君は?」
「うーん…」
 俊也に問われ、彼女は首を傾げて考えるそぶりを見せた。
「たぶん三日間何も食べなかったからかも」
「三日?!なんでそんなこと…!ちょっと待ってろ、今なんか持ってくるから!」
 俊也は急いで寝室を出ると、リビングに向かった。確か帰りがけにコンビニで買ったパンがあったはずだ。
 リビングのテーブルにおいてあるパンを見つけると、俊也は急いでそれを取り寝室に戻った。
 寝室のベッドの上では、少女がかわいらしく体育座りをしていて、俊也が戻ってきたことに気がづくと首を傾げて俊也を見つめる。そんな少女の鼻先に、俊也は持っているパンを突きつけた。
「今これしか食べるものないからとりあえずこれ食べてろ。すぐ夕飯作ってやるから」
 ぱちぱち、と大きな目で何回か瞬きをした後、彼女はにっこりと笑ってパンを受け取った。そのパンを受け取る手も、手首も驚くほど細い。かわいそうに、きっと何か事情があって普段からあまり食べることが出来ない環境にあるのかもしれない。
「ありがとう。でもこれだけで十分だから、何も作らなくて大丈夫だよ!」
「若い女の子が遠慮するな。今作ってくるから」
「いい!いらないよ。このパンだけで十分だから」
 少女はパンの包みを開けると、少しずつかじり始めた。
 どうしたものかと逡巡した俊也だが、諦めたようにベッドに腰掛けると、少女がパンを食べるのを見守った。
 それほど大きいパンでもないのに、減り方が恐ろしく遅い。彼女の一口が本当に小さいからだ。まるで小鳥が食べているようだ。
 半分も食べきらないうちに、彼女は食べることをやめて残りのパンを俊也に差し出した。
「もういいや、これ以上食べられない」
「そんなわけないだろ、三日も食べてないのに」
「うーん…」
 困ったように眉根を寄せる少女の表情は、とてもかわいらしく、雨に濡れていた時のあの面影など微塵も感じられない。一体どうしたらこんなに豹変できるのだろうと不思議に思いつつ彼女を見つめる俊也に向かって、彼女はにやりといたずらっぽい笑みを浮かべた。
「私のお願い聞いてくれたらもうちょっと食べる」
「なんだ?」
「私を今日ここに泊めて!」
「あのなあ、なんで俺が素性の知れない君を泊めなきゃいけないんだ?」
 と言いつつも、ここでぞんざいにこの少女を追い出すことも出来ないことに俊也は気付いた。家に彼女をつれてきたのは紛れもなく俊也自身なのだ。自分で自宅に連れてきておいて今更出て行けだなんて言える立場ではない。
 それにもしここを無理に追い出したとして、このまま飢え死にされてしまったら後味が悪い。
 今更ながら自分の行動の無責任さに気付き、俊也は後悔した。
 けれどそんな俊也の心境などお構いなしに、少女は急に体勢を体育座りから正座に直し俊也をまっすぐ見つめたと思ったら、まくし立てるように自己紹介をし始めた。
「小川春菜、17歳。聖蘭女子学園高等学校2年生…」
 それ以降住所や生年月日、趣味特技やらをひとしきり俊也に伝え終えると、にっこりと笑顔でこう言った。
「もう素性の知れない仲じゃないでしょ?これで心置きなく泊めることができるよ♪」
「……」
 彼女の勢いにやられ、俊也は反論する気力さえ失った。
 一日くらいなら別に害もないだろう。何か悪いことをするようにも見えないし、なにより無理に追い出すことの出来る状況ではない。
 俊也は了承の代わりに大きくため息をついた。
「とにかく、夕飯作ってくるわ。腹がへって仕方がない」
「ねえ」
「なんだ?」
「名前、教えてよ」
「藤堂俊也、24歳。サラリーマン…」
 そこまでする義理はないとは思ったが、春菜がしたように一応俊也も自己紹介を簡潔に行った。
「俊也って呼んでいい?」
「藤堂さんと呼びなさい」
「えー?」
 不満そうに頬を膨らます春菜を尻目に、俊也は夕飯を作るために寝室を後にした。
 一応彼女の分の夕飯も作ってはみたが、春菜は申し訳程度に食べた後すぐに食べることを拒否した。
 食べるという行為が嫌いなのだと彼女は言う。
 嫌がる女の子に無理やり食べさせるのも抵抗があったので春菜の好きにさせた。
 食事を終えた頃にはもう夜の十時を越えていた。いつもならこれからのんびりと好きなことをする時間帯だが、俊也はぐったりと疲れていてそんな気分にはならなかった。
 それも当然だ。恐ろしく軽いとはいえ人一人を担いだり面倒を見たり、普段なら絶対しないようなことをしたのだ。疲れていて不思議はない。
「俺はそろそろ寝るから、お前も寝ろ。じゃあな」
 寝室のベッドの上にぺたんと腰を下ろしている春菜に言うと、俊也はリビングのソファで寝るために寝室を出ようとしたが、春菜は何を考えているのか信じられない言葉を俊也に投げかけた。
「一緒に寝ようよ」
「なっ、何ばかなこと言ってんだお前?!」
 予想外の彼女の言葉に俊也はまた体が熱くなるのを感じた。
 もういい大人が今日初めて会ったばかりの女子高生と同じベッドで寝れるはずがない。俊也が良識のある人間でなければ間違いなくこの少女は痛い目に遭っているだろう。
 それとも、俊也と会う前からこの子は他の男の家に泊まり歩いてはこんな風に誘っているのだろうか。
 そう考えると戸惑いや羞恥よりも、無防備すぎるこの少女に俊也は怒りを覚えた。見ず知らずの他人だ、彼女が何をしようといちいち怒る必要もないのだが無性に腹が立って仕方がない。
「俺はお前に恩着せがましくするつもりはないから、お前は遠慮せずにベッドを使っていい。俺はリビングで寝る」
 なんとか怒鳴ってしまわぬよう怒りを抑え、ようやくそれだけ言うと寝室のドアノブに手をかけた。
「えーやだ!一緒に寝ようよトードーさん……ぎゃっ!!」
 駄々をこねた子供のように唇をすぼめ、春菜は俊也の気持ちを知ってか知らずかベッドからおりて俊也の下に駆け寄ろうと試みた。けれど足元がふらつきうまく歩けなかったようで、彼女はフローリングで勢いよくこけて俊也をぎょっとさせた。
「えーん、痛い〜」
「ったく、何してんだお前は?!」
 呆れた様子で俊也は立ち上がろうとしない春菜をひょいとすくい上げると、ベッドに寝かせて布団をかけてやった。
 そして春菜から離れようと彼女に背を向けてドアに向かって歩こうとした時、服の裾が引っ張られたような気がして、俊也はため息をついて顔だけ振り向いた。
 俊也の服の裾を春菜はしっかりと握っていた。無言で責めてくる俊也の目をいとも簡単に見つめ返し、それどころかとびきりかわいらしく微笑んで見せる。
「離せこら」
「いや。一緒に寝よ」
「……」
 腹の底からじわじわと怒りが沸いてくる。なぜだかは分からないが、押さえようもないほどの怒りの波が押し寄せてくる。
 彼女が無防備ににこにこと笑っているから?それとも馬鹿にされている気がするから?
 分からない。ただ無性に腹が立つ。
 急に俊也はベッドに仰向けになっている春菜の上にまたがると、少し乱暴に春菜の着るシャツにの胸倉を掴んだ。
 突然の行動に春菜の笑顔が消えた。けれど怖がる様子はなく、まっすぐ、ただまっすぐと自分の上の俊也を見つめている。
「このままヤられても、お前文句言えないんだぞ」
「……」
 彼女の胸倉を掴む俊也の拳が怒りで震える。
 こんなにも怒るのは久しぶりだ。怒りのせいで眩暈さえ覚える。
「お前がどこでどの男の家に泊まろうが勝手だけど、痛い思いするのはお前だけなんだからな」
 低く、うなるような俊也の声。自分でもこんな声が出るだなんて知らなかった。
「もっと自分を大切にしろよ。飯にしても寝るにしても、自分を痛めつけるな」
「……」
 しばらく春菜は無表情で俊也の目を見つめていた。
 強い怒りに満ちた、俊也の目。
 それを迷うことなくじっと見つめ、春菜は不意に口を開いた。
「…どんなことをされても、私の心は自由なの」
 春菜の声色が、急に変わった。
 先ほどまでの、普通の女の子のような話しかたとはまるで違う。
 俊也は春菜の様子に驚いて言葉を失った。
 まただ。雨に打たれていた時の、あの儚く美しい彼女になっている。
 彼女のまとう空気はあまりにも神聖で、もろくて、今にも消えていなくなってしまいそうだ。そんな彼女を目の当たりにし、俊也は身動きが取れなくなってしまった。
 春菜の胸倉を掴む俊也の手を、春菜はそっと両手で包み込む。冷たくて、とても小さい彼女の両手。力のこもっていないその手を振り払ったら最後、彼女は二度と姿を現さないのではないかとさえ思うほど、彼女の存在は希薄で、それでいて美しい。
 彼女は言葉を失ってしまった俊也に構わず言葉を続けた。
「殴られても強姦されても、たとえ殺されても、私の心は何者にも捕らわれたりはしない」
 しばらく二人はお互いの目を見つめ合った。
 俊也は春菜の上にまたがったまま、そして彼女の胸倉を掴んだまま、そしてその手を春菜は両手で包み込んだまま、二人とも動かず、何も言わず、時が静止してしまったかのようだ。
 その状態のままどのくらい経っただろうか。実際は数十秒しか経っていないのかも知れないが、俊也には数時間経ったような気がした。
 ふいに、春菜がにっこりと笑って見せたとたん、彼女はまた普通の女の子に戻った。それを確認し、俊也は内心安堵する。
「と、いうことで、一緒に寝るの決定〜♪」
「勝手に決めんな!」
 春菜から離れ、ベッドに降りた俊也の手をぎゅっと握り締めて必死に春菜は俊也に話しかけた。
「いいでしょ?私別にいろんなところ泊まり歩いてるわけじゃないよ!トードーさんなら変なことしないって分かってるから一緒に寝たいんだもん!」
「そんなの分からないだろが!そうやって人を見た目で判断するな!まともそうに見える奴でも危ないことしてくる奴もいるんだぞ」
「じゃあトードーさんも私のこと襲うの?」
「…俺はそんなことしないけど…」
「えー、ホントかなあ?俺はしないって言ってる人に限って変なことしてきたりして…」
 突然疑わしい目で春菜に見つめられ、俊也は思わずむきになって反論した。
「俺は本当に何もしねえよ!」
「じゃあ今夜一緒に寝てそれを証明してよ」
「お、おう。望むところだ!………はっ!!」
 にやり、と春菜が意地悪い笑みを浮かべるのを見て、俊也はがっくりとうなだれた。
 つい乗せられてしまった。こんな女子高生に乗せられるなんて情けない。大の大人がこんな口車に乗せられるだなんてみっともない。
 俊也は自己嫌悪になりでかいため息をつくと、無防備ににこにこと笑ってベッドに入るように催促する春菜を見つめ、諦めてベッドに乗っかった。
「くそ、こうなりゃヤケだ!!どうなっても知らないからな」
「トードーさんなら…私の初めて、あげてもいいよ…?」
 わざとらしくもじもじと身をよじり、顔を赤らめ照れくさそうにこちらを見てくる春菜に俊也は内心どきりとしながらも一蹴した。
「変な声色使うな!!おら寝るぞ、布団にもぐれ!」
「あはは、トードーさん顔赤いよ?」
「黙れ!」
 完全に面白がられている。
 俊也は部屋の電気を消すと、なるべく春菜から離れたい一心でベッドの端に寄り、春菜に背を向けて目を閉じた。
 とたん、部屋が静かになった。確かに俊也の背後には17歳の女の子が横になっている。けれどそれが夢だったのではないかと思ってしまうほど急に辺りが静かになり、俊也はなんだか不安になって背後の少女に声をかけてみた。
「おい…」
「なあに?」
 すぐに返事が返ってきた。
 なんだかほっとして、けれどなぜそんなことでほっとしたのか分からず、しかも声をかけておいて別に何を話したいわけでもなく、俊也は困って話題を探した。
「あー…えっと、お前、雨の中傘も差さないで何してたんだ?」
「……」
 返事がすぐに返ってこない。
 聞いてはいけなかったのだろうか。
「別に言いたくなきゃ言わなくてもいいぞ?……っておい!」
 言いながら慌てて俊也は寝返りを打ち春菜に向き直ったとたん、春菜が俊也の腕の中に潜り込んできた。ぎゅっと俊也の上着を掴み、そこから離れようとしない。
「おとなしく寝てろ!離れろってば」
「この方があったかいもん♪こうやって寝るの!」
「…好きにしろ。ったく…」
 この子に俊也の言うことを聞く意思はない。もう何を言っても無駄だと悟り、俊也は諦めて春菜のなすがままになった。
 相手はまだ子供だというのに、動揺のせいか心臓がばくばくと鼓動している。きっと動揺していることも、俊也の胸に頭をくっつけている春菜にはばれているのだろう。
 眠くなるどころか落ち着くことが出来ず、疲れているはずなのに眠れない。
 困って俊也はどうしたものかと途方にくれていると、俊也の胸の中で身動きすらしなかった春菜がぼそりと呟いた。
「雨は、やさしく私を包んでくれるの」
「…え?」
「私のだめな部分も、いやな部分も、全部全部包み込んでくれて、それで許してくれる。だから、雨が降ると外に出ずにはいられない」
「だから今日、外で雨に濡れたまま突っ立っていたのか?」
「うん、私、雨大好きなんだ…。トードーさんは、雨が好き?」
「雨ねぇ…」
 雨が好きだなんて、考えたこともなかった。
 雨が降ると傘は邪魔だし着るものは濡れるし、じめじめしてうっとおしい。そうとしか思ったことがなかった。
 雨が優しいだなんて、考えたこともなかった。
 この子はしかし、雨を優しいと、自分を包み込んでくれる存在だと言う。
 思いっきり雨を体中で受け止め、それを大好きと言う。
 それは、一体どういう気持ちなのだろう、と俊也は思った。目を閉じて、ざあざあ振り続ける雨の中、傘を差さずに外に立つ自分を想像してみた。 
 ずぶ濡れになり、全身で雨を感じ、その自然の産物に身をゆだねる。
 …それはそれで、いいかもしれない。
 雨の中春菜と並んで、傘も差さずに外を歩く想像に身を任せながら、いつの間にか俊也は眠りに落ちていった。
 
 朝目覚めると、春菜の姿はなかった。部屋に干しておいた彼女のワンピースも、俊也が貸した服もなくなっている。きっと学校にでも出かけたのだろう。
 リビングにおいておいた昨夜春菜が残した食事が少しだけなくなっているのを見ると、俊也は微かに微笑んだ。
 
 
 
 

 


 


  














 












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