挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕 が含まれています。

「アースルーリンドの騎士」特別編『教練校での出来事』

作者:天野音色
※このお話は、アースルーリンド番外特記
『ファントレイユとの出会い』
http://ncode.syosetu.com/n2169d/novel.html
を読んでから、お読みになる事を、お勧めします。
登場人物が多いので。しかも、会話形式なので、
人物把握してないと、誰が何を言っているの?
ってコトに、なっちゃいます。

番外特記に出てない人物は、
マリーエル。シュトレーゼ。
グエン=ドルフです。
(テテュス、レイファスは
特記の最終章に登場します)

レイファスの要請で北領地[シェンダー・ラーデン]に出向く、近衛連隊のファントレイユ、ギデオン、レンフィール、シャッセル、ヤンフェス、フェリシテ、スターグ。
そして援軍として、『神聖神殿隊』付き連隊のシュトレーゼと『光の塔』付き連隊のテテュスが加わり、『神聖神殿隊』付き連隊長レイファスの指揮の元、北領地[シェンダー・ラーデン]に辿り着き、その地で出迎えた北領地方連隊長マリーエルと、やはり助っ人参加した東領地ギルムダーゼンの大公子息グエン=ドルフ。
このメンバーが集まっての昔話です。

右将軍、ギデオン。
左将軍、ファントレイユ。
ヤンフェス、シャッセル、レンフィール、レイファス、
テテュスはこの時皆が、21歳。

グエン=ドルフは一つ上。

マリーエル、シュトレーゼは、二つ、上です。

フェリシテは一つ下、スターグは二つ下。

の頃の、思い出話しですね。

ファントレイユがまだ、きらきらの美少年だった頃のお話で、モロBLネタです。
でも直接のリアルなシーンはありませんので、
余程BLに嫌悪している人でなければ、大丈夫だと思います。
笑えます。
登場人物については、登場人物紹介
http://easeruurind.seesaa.net/
を覗いて頂けると嬉しいです。
カテゴリの、登場人物紹介。でお目にかかれます。

簡単な、補足説明。
教練は、二年間で、14歳で入校します。
以前は四年制でしたが、二年の訓練後、各連隊へと配備されます。
この時、ギデオンの叔父、ドッセルスキが右将軍についていた為、身分差別がとても激しく、大貴族アイリスを父に持つテテュス。
王族の血を引くギデオンは当然の事、身分の高い彼らは上級生らにもそれは、一目置かれていました。

一つ年上の、グエン=ドルフは二年でした。
二年制なので、この頃はシュトレーゼ、マリーエルは既に連隊へ配備されていました。

ファントレイユとギデオンの友達、ヤンフェスは、彼らと同じ年ですが、農家の出身で、弓が卓越して上手いと領主に紹介を受けて特別入校。
ですが、剣士ではないので、別部隊の、特待身分として、寮も訓練場所も、違っていました。

フェリシテも短剣の逸材なので、ヤンフェスと同様です。

レイファスは、アイリスの配慮で、アイリスが連隊長をしている『神聖神殿隊』付き連隊への自動入隊を決め、特待生として、教練で無く、別部署での訓練を、受けています。
荒っぽい猛者ばかりの、狼の巣に、小柄で外見だけは可愛らしいレイファスを入れたくなかったんでしょうね。

ファントレイユは、それ迄いつもレイファスと一緒で、可憐な彼の方が男の注目を集めまくり、そのレイファスが入隊していなかったので、自分に注目が集まって、あれ?ってカンジだったでしょうがこの新入生の中では、ギデオンとファントレイユはその綺羅綺羅しい容貌でダントツ、目立っていて、上級生にそれは目を、付けられていたのでした。

あ、三剣士の内のアドルフェスですが、この出動の時は、怪我で参加していません。
なので代わりに、スターグが起用されました。
少数精鋭が、レイファスの要望で、マントレンは当然、都に居残っています。
『影の民』が、勢力を増した戦いの出動です。

シュトレーゼは、『光の民』とのクォーターで、ちょっと人間離れして綺麗です。
ミロリンダとは、『光の民』としての一族の掟の決めた、承認された相手
という所でしょう。
一緒に教練に入校していたので勿論、男性です。
ハーフならば『光の民』の能力がもっと強くて、結界内に居ないと体が持ちませんが、シュトレーゼとミロリンダはクォーターで人間に近く、『光の民』の血族としては異例の、教練入校でした。
がその独特の雰囲気が、マリーエルは気に入らなかったんでしょうね。
犬猿の、仲です。
この二人の教練校時代もそれは面白いので
時間があれば書いてみたいです。
一級下がグエン=ドルフなので、彼の登場も多分、面白いでしょうね。

外見補足説明。

ファントレイユ、テテュス、レイファスはいとこ同志で、面差しが似ているがテテュスは大柄、レイファスは小柄。
ファントレイユは中間。
髪は皆茶系だが、テテュスは濃く、ファントレイユが一番薄い茶色。
レイファスは栗栗の、艶やかな栗毛。
この時代は当然!皆私の大好きな、ロン毛です。
背中くらいまであるんじゃないのかな。
あ、レイファスは胸くらい迄で、ちょっと短めですが。

ど金髪は二人。
ギデオンと、グエン=ドルフ。
美女顔のギデオンの瞳は青緑。グエン=ドルフは緑ですね。

シュトレーゼ、シャッセルは二人ともが長身で、白碧。
つまり白っぽい金髪。青い目です。
シュトレーゼは綺麗系。シャッセルは、美しい騎士。
といったところでしょう。

フェリシテも白っぽい金髪で、紫の瞳の、それは女性のようなべっぴんさんで背も低く、華奢でした。
ヤンフェスが先輩で、特待身分で本当に良かったね。
でも軍に入隊してから、狼が寄ってきて、それは苦労した人。

レンフィールも、白っぽい金髪ですね。“狐"と異名を取り、細面、すらりとした綺麗な姿はしていますが。
性格が問題なんですね。大貴族だから、我が儘なんですね。

貴族は大抵べっぴんの奥さんをもらい、殆どが皆、容姿が整っていました。

その中でダントツ目立つ、ギデオンとファントレイユは余程、派手だったのでしょう。
現にテテュスは、ファントレイユと面立ちは似ていても、その大らかでゆったりとし親しみやすく頼りになる人柄で、目立ち、好かれていました。

マリーエル。栗毛に、明るい栗毛がメッシュで幾筋も、入っています。
女顔です。
だが究極の猛者で、その気迫の凄まじさに、誰も彼の外見に惹かれて口説こうなんて命知らずな事は、考えません。やはり母親がとても美人で母親似なんですね。
でも母親の性格はそれは気位が高い野獣で、そっくり受け継いでいます。

あ、ヤンフェス。気のいい男で栗毛の肩迄の、短髪(?)栗色の瞳。
農家出身ですからね。農民が長髪だと、お手入れが大変。
そんな手間はかけていられないんですね。
人なつっこい笑顔。中肉中背。
私ならこの中では、まっとうにヤンフェスは、好感の持てるいい男だと思います。

スターグ。唯一の、まっすぐめの黒髪。青い目。
一人だと、キレのいいナイフのように格好いい。しかも、モテる。遊び人。
…でも、このメンバーでは年下で一番下っ端で、しかも強烈なキャラだらけなので
神を呪っている。
気苦労の、多い人である。

更なる補足説明…。
を書くより、話を一本書いた方が早いか?

ちなみに、ファントレイユとギデオンが、いい仲だとみんなに
知れ渡っています。
全て、アドルフェスのせいで彼はそのタメファントレイユに腕の骨を折られて、今回出動に参加出来ませんでした…。
レイファスは怒らせると口でいいまかされ、陰謀にハメられるけど、ファントレイユを怒らせると、暴力と口で、報復が帰ってくるんですね。
敵に回すと散々です。

アメブロで、二人の「幼い頃」連載してます。
どうしてファントレイユがこういう性格になったかを、書いています。
で、やっぱりファントレイユって実は面食いの男好きなんじゃないの?
って締めくくりになると思います。
彼に聞かれると作者が怖いので(頭の中で文句を言うので)
ここだけの話です………。


グエンが、言った。
「ギデオンには遠慮する奴が多数居たが、ファントレイユ相手にはごろごろ襲いかかってたじゃないか。狼が」
レイファスがつい、ファントレイユに尋ねる。
「テテュスが居ても、そうだったのか?」
「彼だって、四六時中私の側に居られないだろう?」
フェリシテが囁く。
「…そんな、大変な目に合ってらしたんですか?」
皆の視線が集まるのを感じ、ファントレイユの眉が思い切り寄った。
「…だが、犯されて無い…」
「………つまり、ギデオンが下か?」
マリーエルが呆気にとられ、グエンも叫ぶ。
「それは意表を突いてるな!」
「いつの間にお前、そんなに逞しくなったんだ?」
マリーエルがファントレイユに言うと、グエンは教練時代を思い返す。
「一見大人しそうだが、気は強かったぜ!
…テテュスの方がよっぽど優しい」
グエンが言うと、マリーエルは横のグエンに顔向ける。
「…その、テテュスに振られた癖に…!」
「口説いて、無いぞ!」
「何言ってる、マジ惚れだから、お前ともあろう者が怖くて手が出せなかったと、有名だったぞ?」
それを聞いてシュトレーゼの目が、まん丸に成った。
「…お前が、マジ惚れ………」
「…誰だ!そんな事抜かしたのは…!」
グエンが、真っ赤になって怒鳴る。
ファントレイユが、解ってない皆に説明し出した。
「…ヤンフェス、フェリシテ、スターグ、それにレイファス。君らは知らないと思うが、グエン=ドルフはこれで教練時代、毎晩誰かを寝室に連れ込む凄まじい遊び人だったんだ」
「…つまり、君の相手が男になったという事か?」
ヤンフェスに言われ、途端にファントレイユが怒った。
「私は毎晩していない…!」
「言っとくが、俺は連れ込んでいない。あっちが押し掛けてくるんだ!」
「…毎晩?」
スターグが、その年上の、美男だが獰猛な男につい尋ねる。
「…ああ。奴らが勝手に曜日を決めてな!」
テテュスが、そっと聞く。
「…普通、相手が押し掛けても手を出さなきゃその内来るのを、止めるんじゃないのか?」
グエン=ドルフがテテュスにそう聞かれた時、凄く打撃を受けて気弱な表情を見せたので、マリーエルの言った
『テテュスにマジ惚れ』
というのも、案外嘘では無いのかも、と皆が思った。
「グエンはケダモノだしな」
マリーエルが肩をすくめるとグエンも素っ気なく返す。
「あんたもだろう?」
「俺は毎晩連れ込まない」
「…!だから!あっちが勝手に押し掛けて来るから俺は据え膳喰ってただけだ!」
「…でも、喰ったんだな…」
シュトレーゼに言われ、グエンは怒る。
「それで、どうして俺の話に、なってるんだ!
違うだろう…?!
とっとと、ファントレイユの話に戻れよ!」
「…どうしたらそんな事になるのか、参考に聞きたい…!」
レンフィールが身毎乗り出した。
が、グエンはふて切って投げやりに返す。
「部屋に押し掛けて来るから、相手してやったら通って来るように、なっただけだ」
「…だって一人じゃ、ないんだろう?」
そのレンフィールの問いに、そっぽ向くグエンで無くシュトレーゼが答えた。
「俺が聞いた話だと、きっちり七人、居たそうだ」
マリーエルも言う。
「数が増えると、そいつらで誰が残り誰が外れるか、それはもめたらしい」
グエンがとうとう悲鳴を上げる。
「…頼むからもう、俺の話は終わりにしてくれ!」
「…それは、上級生も居たんですか?」
スターグがつい、掘り下げる。
マリーエルが、肩ををすくめた。
「…まあ、そりゃ、ファントレイユみたいに貞操を狙われてる奴らが、グエン相手なら誰も彼を怖がって、手を出して来ないから、盾代わりには、使われてたな」
が、ギデオンが顎に手を乗せてつぶやく。
「私の聞いた話は違う。一度すると凄くいいからつい、他の奴よりグエンが良くなると聞いたぞ?」
レンフィールが、更に喰い付いた。
「そんなに、凄いのか?」
「…頼む……!」
グエンは泣きそうだった。
だが、ファントレイユは畳みかけるように言う。
「何人も、グエンに乗り換えられては振られたと言う男が居た。
文句を言おうにも、グエンは学年一の剣士で暴れん坊だったから、振られた男達はみんな、泣き寝入りだ」
「…それでお終いにしてくれ…!」
「………良く毎晩、身が、持つな……」
レイファスに、しみじみ言われ、グエンはもう、泣きそうだった。
「…そういう、時代も、あったと言うだけだ」
シュトレーゼが彼を、じっと見て言った。
「嘘付け。東領地でも、男にも女にも、モテモテだろう?
お前、来るもの拒まずじゃないか。
…今だって毎晩してないか?」
「ここに来てからは、してない!」
「……やっぱり」シュトレーゼがため息を付き言い
「来る迄は毎晩だったんだな?」マリーエルも、付いた。
見るとグエンはもう、頭を抱えきっていた。
レイファスが思わず、言った。
「……彼が、打撃を受けてるぞ?」
皆が、グエン=ドルフの、頭を抱え込む様子を、見た。

マリーエルがすかさず、話題を変える。
「それで、ファントレイユの話だが」
ファントレイユから、タメ息が漏れた。
レンフィールが、聞いた。
「…あの有名な話からは、さすがにちょっかいかける奴は減ったんじゃ、無いのか?」
それを受けてファントレイユが、済まして言う。
「…ああ、あれ以来はさすがに、静かになった」
シュトレーゼが思わず尋ねる。
「そんなに有名な、逸話があるのか?」
ギデオンが、つぶやく。
「剣の講師を、滅多切りにしたヤツだろう?」
マリーエルが呻いた。
「…そのお陰で俺は負傷して療養中だってのに、アイリスに、講師に引っ張り出されたんだ…!
ファントレイユの様子を知らせてくれって注釈付きでな!
まあ、事件を見ていたら、無理も無いが………」
「ドゥーンだろう…。うんと嫌な思いを、したのか?」
ギデオンに尋ねられ、ファントレイユはもう一度ため息を付き、その事を、話始めた。
「…入って、三ケ月たった頃だった…」

そう、ようやく、身辺が、落ち着き始めた頃だった。
彼はギデオンと共に目立ちまくっていたものの、ギデオンのような高い身分で無かったから、上級生達にしょっ中、物影に連れ込まれる事が、度々あった。
ギデオンがつい、聞いた。
「…そんなに、頻繁だったのか?」
黙って彼を見つめるファントレイユの代わりに、テテュスがつぶやいた。
「…君、全員の会する昼食の席で派手に、耳元で君を『とても綺麗だ』とささやいた上級生を、いきなり殴ったろう?
『綺麗だ』とささやいただけで殴られたと、その上級生はそりゃあショックだったが、見ていた全員も君の、外見に不似合いな乱暴な性格に、それはショックを受けていた。
それから、君を狙っていた連中はみんな一斉に君を、敬遠し出した。
…あの後からすっかり標的が、ファントレイユ一人に移って、教室を代わる事に彼の姿を探す羽目になった」
「…君は反撃、しなかったのか?」
ギデオンに聞かれ、ファントレイユがつぶやいた。
「…アイリスが、面倒事はテテュスに頼めと言っていたし…。ヘタに逆らうと、私相手だと何をするか、解らないような輩が居るからと……」
レイファスがつぶやいた。
「それで私を特待生扱いで教練所に、入れなかったんだな?
アイリスは」
テテュスが言う。
「君なんか入ってたら、ファントレイユとの比じゃ、無いだろう?」
ファントレイユも彼を見てつぶやいた。
「テテュスが、泣いてた。保護相手が、私と君の、二人も抱えていたら」

…大抵、上級生は、テテュスの姿に掴んでいたファントレイユの腕を放した。
テテュスは上級生相手に
「彼に何か、用ですか…?!」
と彼の手を引き自分の後ろに隠して毎度そう、告げる。
テテュスを、アイリスの息子と知っている上級生達は彼の出現で
「彼が解らない事を、教えようとしただけだ」
と言い、慌ててその場を、去って行った。
テテュスは大概
「何を教える気だか…!」
と、彼らが去った後、吐き捨てるようにその背を睨み付けた。

剣の講師、ドゥーンはかつては戦場でかなりの腕だったと言う事だった。
濃い栗毛の巻き毛で、青い目で、がっしりした体付の、なかなかの男ぶりだった。
大怪我をし、戦場を退いてここの講師の地位を大貴族と遠縁のコネで得ていた。
自分はいい男だと思い込んでいるふしのある、でもそれは嫌な男で、自分の権力にモノを言わせて教え子をペットにしていると、有名な男だった。
大人しく、身分がそれは低く、見目のいい下級生がもう三人、彼の私室に呼ばれたと言う噂を、全員が会する昼食の席で上級生から、ファントレイユは漏れ聞いた。
確かに、同級のサンテがひどく青い顔をして講師専用宿舎の私室から出て来るのを見たし、その後、彼は講義の席で気分が悪いと、失神した。
そしてファントレイユはドゥーンがやたら、自分を見るそれは嫌な目つきに、気づいていた。

それは広い室内の剣の講堂内での授業で、そのドゥーン相手に三本の内一本は打ち負かす腕前を、既にギデオンは見せていた。
ギデオンはどこに居てもその素晴らしい容姿と堂たる態度で、人の注目を集めまくっていた。

「…ギデオン、君、ドゥーンの私室に呼ばれたろう?」
剣を置く彼に、レンフィールが心配げに声を掛けるのを、ファントレイユは耳にした。
「…ああ」
レンフィールも噂を、知っているようだった。
ファントレイユは剣を持ち、練習相手の元に行く足を止めて、つい、その会話を盗み聞いた。
「それで、その…なんか、あった?」
「なんか?なんかって、何だ?」
「…つまり…あいつが馴れ馴れしく体を触ったり…」
「ああ、確かに耳元でしゃべって腕を回そうとして来たからつい、気持ち悪くなって、あいつの腹に一発喰らわした」
ファントレイユはそれを耳にし、つい、クスクス笑っていたと思う。
あんまり、彼らしくって。
「…それで?」
「…さあ?後なんか、振り返らずさっさと出てきたしな」
レンフィールも女顔で、銀に近い金髪でグレーの瞳の、それは可憐な姿をしていたがとても気取っていたし、やたら態度がでかくて威張って我が儘だったので皆が敬遠していた。
だがギデオンと共に居る時のレンフィール彼は、我が儘ぶりが影を潜め、それは上品な態度を取り、いつもギデオンの後ろに控えていた。
レンフィールだって、黙っていればそれは綺麗だから、自分よりも彼だろう、と思っていたが違っていた。

剣を次々と相手を変えて交えていた、その途中にドゥーンはやって来て、ファントレイユの耳元で
「この後私の私室に、来るように」
と、告げて行ったからだ。

「…それで?呼ばれて悪戯されたのか?」
グエンが聞いて来るので、ファントレイユは眉をしかめた。
「…テテュスに告げようにも、あいつ見張っていたし、私の横にぴったり付いて連行する形を取ったから…。
対決するしかないかな、と思っていたんだ」
「…そこで、滅多切りにしたんじゃ、無いんだろ?」
ヤンフェスに聞かれ、シャッセルが言った。
「…それをしたのは講堂でだ」
ファントレイユは肩を、すくめた。

…部屋に入るなり、抱き寄せて来る。
こちらの反撃を一切受け付けない気らしかった。
いきなり顔を寄せて、体格にモノを言わせて唇を塞いで来るからもう、我慢出来なくなっていた。
が、ギデオンの時に懲りたのか、体をぴったり寄せられて、拳を殴り入れる隙も無く、口づけられて机の上に押し倒され、首筋に唇を這わせられて、ファントレイユはもがいた。
さすがに武人だけあって、隙の無い締まった体付の逞しい男だったから、ファントレイユは暫く彼のしたいようにさせるしか、無かった。
上着のボタンを外されて胸を晒され、その胸へと唇が降りていくと…

ファントレイユは口に手を当てて、言った。
「…もう、限界だった……。
あんまり気持ち悪くて、吐きそうになって…。
つい、気づいたら膝で奴の、腹を蹴っていた……。
奴が呻いて腹を抑えてた。しまったとは、思ったんだ。
もう少し、穏やかにやるつもりだったが……」
「…それどころじゃ、無かったんだな」
ヤンフェスに言われ、ファントレイユは頷いた。
「けど、その後だ、例の…。
ギデオン、君が良く知ってる、例の講堂での嫌がらせだ」
シャッセルも、レンフィールも、思い出すと思わずため息を付いた。

ドゥーンはファントレイユだけに、休みを与えなかった。
大抵、相手を変えて三人もの相手と打ち合うと、休憩に入ったがファントレイユだけには、次の相手を宛い、休ませなかった。
初めは気づかなかったが、ついにテテュスが言った。
低い、皆に響きわたる声で。
「…ファントレイユは、10人相手で休み無しだ。
もう、休んでもいい頃だ!」
決然とした声だったが、ドゥーンは言った。
「…彼は訓練が、足りない。次の相手はレッティがする」
テテュスは彼を思い切り、睨み付けた。

「…それで…ぶっ続けで?」
スターグが、つい自分の教練時代を思い返し、ぞっとして聞いた。
テテュスがつぶやいた。
「意地っぱりでね…。ファントレイユは。
あいつの特訓を受けて立つ気で、ふらふらでぶっ倒れる迄、止めなかった」
「だがそれに真っ向から文句を言ったのは、ギデオンだった」
シャッセルが、思い返すようにつぶやいた。
ギデオンが、肩をすくめる。
「…終了の鐘が鳴り終わると同時に、ファントレイユが倒れている。
どう考えたって、異常だろう?」
だがその後、シャッセルもレンフィールも変な顔をして、下を、向いた。
「…どうしたんです?」
フェリシテに問われて、ギデオンがつぶやいた。
「…私が余計な事を、言った。
あいつ(ドゥーン)が、ファントレイユは劣っているから訓練が必要だと言うから…!」

もう教室中が、ドゥーンのファントレイユいじめを知っていた。
その日も、ファントレイユは10人ぶっ続けで、彼はフラフラだった。
その様子に、皆がひどいと思った。
テテュスはきつい顔をして、ただファントレイユを見つめていた。
テテュスの抗議くらいではドゥーンは気も変えなかったからだ。
ドゥーンに意見出来るのは、この講義室で唯一人。
王族である最高身分のギデオン。
そして唯一人のギデオンが、とうとう叫んだ。
静かな迫力をたぎらせて。
「…どう考えても、おかしい。
彼より実力不足な奴は他にもっと居る。
ファントレイユの腕はレンフィールやシャッセル、アドルフェスにも劣らない!」
さすがのドゥーンもギデオンの抗議だけは、聞かざるを得ないようだった。

「……つまりそれで、我々とやって、勝ったら特訓の解除をしようと言い出したんだ。あいつは!」
レンフィールが、怒ったように言った。

ファントレイユは既に、ふらふらだった。
誰の目にも、彼が勝てると、思わなかった。
ギデオンは尚も言った。
「…彼らより上だとは、言ってない!
彼らと肩を並べる程の腕だと、私は言ったんだ!
勝たなければ特訓を止めないと言うのは、おかしい!」

「…だがファントレイユは、黙ってギデオンに庇われてはいなかった。
ドゥーンの申し出を、きっちり受けて立つ様子だった」
テテュスが肩を、すくめてファントレイユを、見た。
ファントレイユがギデオンを、優しく見た。
「…だって…お姫様に庇ってもらってたら、騎士としちゃ、格好付かないだろう…?」
途端にレイファスが、呆れたように肩をすくめてため息を、付いた。
ギデオンが振り向き、怒鳴ったのと同時に。
「…誰が、姫だ!
…私はあの時真剣に心配していたし、私に任せて置けば良かったのに、お前と来たら剣を握って進み出る…!」
「…私の目には、そう映った。
君は何と言おうと綺麗だったし、必死に私を気遣ってくれたし、凄く…嬉しかったんだ」
皆が、そういうファントレイユを、つい見つめた。
が、グエンが、顎に手を乗せ呟く。
「…俺の目から見ると、お前の方がよっぽど騎士が必要なお姫様に見えたがな。
…そりゃあ綺羅綺羅しくって、華奢ですらりとしていて、はっとするくらいの美少年だ」
ファントレイユはそういうグエンを思い切り、眉をひそめて睨んだ。
「その、私の騎士を口説いてた癖に…!」
思わずみんなが、テテュスを見る。
グエンはいきなり、慌てふためき喚いた。
「…だから…!口説いて無いって!」

そしてその時テテュスはファントレイユを止めようと見たが、彼の静かだが凄まじい目を見、引くしか無かった。
例え、ギデオンにファントレイユを止めるよう、視線を振られても。
腕組みして俯くテテュスのその判断を、ギデオンは信じられないように目を見開き見つめた。

「…あそこで負けたら、あいつをつけあがらせるだけだったんだぞ?
10人とやった後のふらふらの上に、三人だ。
…しかも…レンフィールは天才の名を欲しいままにしていたし、アドルフェスもシャッセルも、名家の誇りにかけて、剣の教師がそれは手塩にかけて育て上げて、教練に送り込んで来た実力派だ」
「…それでもギデオン。君には勝てなかった」
レンフィールが、肩をすくめた。
マリーエルが口を開く。
「…戦闘ってのは、剣の腕だけじゃ、駄目だ。
このグエンなんて、基本はめちゃめちゃの自己流だが怖ろしく強い」
シュトレーゼが言った。
「お前もだろう?マリーエル。
負けん気と気迫で殆ど相手をすくませている癖に…」
「…つまりお前は、俺の気迫にひびらないから避けられるのか?
…俺はそういう…自分は怖いものが無いって風の、『光の民』の血を継ぐいかにも特別ですってすました面が、気に入らない!」
シュトレーゼ(彼は光の民とのクォーターで『光の里』育ち)は肩をすくめた。
「…しょうがないだろう…?『神聖神殿隊』とやってみろ!
あいつら、能力使いながら剣も振るから、並じゃ、信じられない攻撃をしてくる。
そんなん相手にして、お前程度にびびれるか?」
皆が、『影の民』の信じられない攻撃を目の当たりにしたので、思わず人外の者の能力を使う攻撃の凄さに、納得した。
だがこの『お前程度』がマリーエルの気に触った様子で、彼は凄まじい目を、シュトレーゼに向けた。
だがシュトレーゼはそんな目を受けても平気な様子で言った。
「…安心しろ。奴ら結界内から出ては殆ど力は使えないから。
この国じゃ、お前はちゃんと、強いさ」
「…それで俺が喜ぶと、本気で思ってんのか?」
「じゃあ俺も聞くが、お前にぶった切られるかお前の下で泣いてやったら、本当に気がすむのか?」
マリーエルは再び、せせら笑った。
「本当に、気がすむぜ!」
グエンが思わず、怒鳴った。
「…もう、やめろって!」
レイファスがグエンに、聞く。
「…昔から、こうなのか?」
「…まあ、いわゆる犬猿の仲って奴だな。
顔を付き合わせたら、最後。ずっとこんな調子だ」
「…わざわざ教練に入隊しときながら、いつも特別ですってすました顔をしていたな!」
マリーエルが吐き捨てるように言うと、シュトレーゼは真顔で返した。
「…すましてない。こういう顔なんだ」
「ミロリンダと一緒で、自分達だけの世界とやらを、作ってやがった癖に!」
「…しょうがないだろう?一族の掟で、『光の民』の血が入ってると他の奴らとは寝られないんだから!」
つい、ギデオンが、聞く。
「…どうしてそういう事に、なるんだ?」
テテュスが、訊ねた。
「…彼の側に居ると、凄く心地良くないか?」
「…ああ」
レイファスが、説明し出した。
「人外の者だし、彼らと寝ると、凄くいいんだ。
誰でも心地いい。
ところが一族の中にだってとんでも無い奴が居て、その力を利用して遊びまくり、ついにはそいつに振られた娘が自殺迄した。
それで一族は人間との交わりを禁じ、交際相手を一族内と限定したんだ」
シュトレーゼはため息混じりにつぶやいた。
「寝てやってもいいが、俺は猛獣を飼い慣らす気は、無いしな…」
「俺がお前に惚れ込むと思ってんのか?」
マリーエルの言葉に、シュトレーゼは思わず肩をすくめた。
「俺が人間とそうなるって事は、そいつと一生、連れ添う義務が生じるんだぜ?
どうだ、ぞっとしないだろ?」
「俺はお前を一生飼い慣らせるんなら、楽しい」
「心底、悪趣味だな」
「良く、解ってるな!」
グエンが、ため息混じりにつぶやいた。
「…どうしてそこまで仲が悪いんだ?
お前らの言い回しを、奴らが本気にするぞ?」
だがマリーエルは本気のようだった。
「…別に本気にしてもいいぜ。
この男を鎖で繋いで好きな時にいたぶれるなんて、考えただけでも、楽しい」
講師時代の彼を良く知っているテテュスがつい、つぶやいた。
「…あんた、シュトレーゼ相手だと人が変わるな…」
「…一度こいつと剣を構えてみろ!
俺の言った事が解るぞ!
これだけふざけた男は、どれだけ腹を立てても足りない!」
「…俺はふざけてないがな」
シュトレーゼがぼそっと言う。
グエンがついそれに気づき、口を開く。
「…こういうところが余計に、腹が立つんだな。
シュトレーゼもあんた相手には、全然気を使わないしな。
だがもう止めろ。頼むから。
俺が言うのも何だが、もの凄く、みっとも無いぜ」
途端、二人は口を閉じて、そう言うグエンを見つめた。
シュトレーゼは彼を見ながら、真剣な顔でつぶやいた。
「お前が、みっとも無いって思う程なのか…?
………それは相当、まずいな」
マリーエルもため息混じりに認めた。
「…お前に、みっとも無いって言われるのは、確かに最悪だ」
二人の意見を聞いて、グエン=ドルフが目をむいた。
「…お前ら、俺がどれ程みっとも無くとも、平気だと思ってやしないか?」
「体裁をぜんぜん構う男じゃ、無いじゃないか」
シュトレーゼが、顔を上げて彼を見つめて言うと、マリーエルも、続けた。
「…みっとも無いのが、お前だろう?」
そして二人でお互いを見た後、俯くと、二人共が、がっくり肩を落とした。
「………………………」
グエンはその二人の様子を見て、もう言葉を無くして怒っていた。
スターグが思わずグエンに気を使って、慌てて話題を変えようと、シャッセルとレンフィールを、見た。
「…それで、どうなったんです?」
「…ああ…」
シャッセルが言うと、レンフィールが顎に手を乗せて彼を、見やった。
「…手加減、したか?」
シャッセルは俯いた。
「ファントレイユが不要だと言うし……。
こちらがふらふらの彼に、打ち込み兼ねて様子を伺っていると、鋭い剣を振って来るから、つい……」
「……だろう?
こいつ(ファントレイユ)は実力があるのに出し惜しみしていたそうだから言うが、俺もかなり本気で打ち合った」
「…それで?」
ヤンフェスが聞くので、ギデオンが答えた。
「…この男はふらふらな癖して、三人を倒してドゥーンに思い知らせた」
が、ファントレイユは言った。
「だがレンフィール。君はかなり手を抜いてたろう?
講義室中がギデオンの言葉と共に私に同情していたし、あそこで真剣に私に打ち込んだりしたら、完全に悪者だ」
だがレンフィールは上目使いで、ファントレイユを睨んだ。
「………だってお前、マジで向かってきやがったろう?
手なんて、抜いてる暇が無かった…!
だがふらふらふな相手とマジにやって負けたなんて、凄く、体裁が悪いじゃないか?
…手を抜いてやったと言った方が、ギデオンの受けも良かったし……」
が、ギデオンは睨んだ。
「レンフィール。口でいくら言ったって、私にはバレてたぞ。
…確かにお前もシャッセルも手加減しようとしたのに、この男が意地を張って、凄い所に剣を入れてくるから、二人共本気に、成らざるを得なかった」
レイファスがつい、思い切りため息を、付いた。
「…今思えば君の前で、よっぽどいい所を、見せたかったんだな。ファントレイユは」
レイファスに見られて、ファントレイユはついその視線から、顔を背けた。
が、ギデオンはムキになって怒鳴った。
「…そんな場合なんかじゃ、無かったぞ?
本当に、ファントレイユはフラついていたし…。
シャッセルもレンフィールも、ファントレイユの態度にきっちり腹を立て、途中から真剣に打ち込んでいた!」
「…だがファントレイユ殿が、勝ったんですね?」
スターグの問いに、ファントレイユが彼を見て答えた。
「…まあ、シャッセルもレンフィールも、それでも私を侮っていたから、隙だらけだったし」
ギデオンがファントレイユに振り向く。
「普段、実力を出し惜しみしてる甲斐が、あったと言う訳か?
だがアドルフェスはどうした?
あいつはやる気満々だったぞ?」
「…いや?彼は君を随分意識していたし、レンフィールもシャッセルも、だらしないと得意満面だったからそりゃあ、振りが大きくてね。
…確かにこっちもへばっていたから、あいつの重い剣をまともに受けると腕がしびれたけど」
「討ち取る隙は、あったんだな?」
ヤンフェスに聞かれて、ファントレイユは頷いた。
レンフィールが、大きなため息をついた。
「…脇に鋭い一突きを入れられ、呆然としていたな。
あの気持ちは解る。確かに、今思うと侮っていた。
テテュス相手ならもっと慎重に、身構えたろうしな…。
お前ときたら、テテュスの影にすっぽり隠れ、お人形のように大人しくしてやがった!」
これにはグエンが、思い出すように口を挟んだ。
「…事実、当時はお人形みたいに綺麗だったしな。
俺が助けた時はそりゃあ、可愛かったのにな…。
…だがまあ、とんでも無い性格だったのは、確かだ」
が、ファントレイユは思い返すと思わず口に手を当て、グエンを睨んだ。
「…あんた、ああいう風だから毎晩相手する羽目に、なるんだ!」
「…助けたって?」
ギデオンが聞くと、テテュスが言った。
「…あの、講堂内での事の前にあいつ、ファントレイユにちょっかいかけてて…。
私が目を離した隙に、木陰に連れ込みやがったんだ」
珍しく、テテュスの言葉使いが悪かった。

…そう、教室の移動の渡り廊下を外れた所だった。
テテュスが同級のロンドに話しかけられ、ファントレイユは先に行くと言ってその場を、離れた。
庭伝いに木立を通る時、木陰からあの男の腕が伸び、腹に一発入って痛みに呻くとあの男が、被さって来た。
唇を塞がれ、もがくと木に背を押しつけられて逃げ場を無くした。
そしてもう一発腹に喰らい、痛みに殆ど気を失いかけ、奴にもっと奥の人気の無い場所迄運ばれた。
正気づくと木にもたれかかって座っていて、しかも両手を頭上で、縛られていた。
ドゥーンは笑っていた。
アイリスが、身分の低い自分相手だと何をするか解らないと言った意味が、この時ようやく解った。
腕を縛られてこんな男に好きにされるかと思うと、ぞっとした。

「…あんたは、いつ気づいてたんだ?」
テテュスに言われ、グエンはつぶやいた。
「…無茶言うな。
俺が通りかかったのは、お前の姿が目に入ったから…。
それでお前がファントレイユを見なかったかと叫んでいたから……」
ファントレイユが、思い切りふてた様子で言った。
「嘘を付け!
テテュスはそれは、あんたが見かねるくらいに慌ててだんだろう?
そういう様子を見て、やっとあんたは動く気になったんだ!」
皆が、グエンを、見た。
グエンは肩を、すくめた。
「…だって……ああいう時はうんと嫌な思いをした後、ぎりぎりで助けるのが、定石だろう…?
そうすれば、助けられた相手は嫌な思いをした分、こっちにうんと感謝するもんだし、こっちもうんと恩を売れる。
その後に念入りに慰めりゃ、貰ったも同然だ」
皆が一斉に、この言動に呆れた。
テテュスが思い切り、軽蔑の視線を、向けた。
「…やっぱり、ドゥーンがファントレイユをどこに拉致したか、既に知っていたんだな?!」
ファントレイユが更に唸った。
「…おまけに、テテュスにいい格好する為に助けた癖して、何だって私に迄キスするんだ?!」
グエンは困ったように言った。
「…普通、するだろう?助けた礼として。
これでもそれ以上の礼を貰うのは、テテュスの手前、我慢したんだぞ?」
これには、そこに居た全員が呆れ果てた。
「…そんなんだから、テテュスにあんたは振られるんだ!!!」
ファントレイユが怒鳴り付けると、グエンは思い切り、肩を落として息を吐き出した。
ギデオンが、ファントレイユを見て尋ねる。
「グエンは君に口づけたのか?」
シュトレーゼとマリーエルが、ため息を、付いた。
「大袈裟に取らない方がいい。ギデオン。
グエン=ドルフのキスは、例えディープでも挨拶代わりだ」
シュトレーゼが言うと、マリーエルも頷いた。
「…但し、お眼鏡に叶った可愛い子ちゃんに限るが」
「……お眼鏡に叶った可愛い子ちゃんって、もしかして私の事か?」
ファントレイユが、静かにグエンを睨み付けた。
グエンはそれでも面を上げた。
「…だって…可愛い子ちゃんだったろう…?当時は。
ギデオンと人気を二分していたぞ」
「…そういう事を、言っていない!
テテュスに惚れてるんなら、何で他が目に入っているのか、聞いているんだ!
私だって、姉と付き合ってて、いくら妹が評判の可愛い子だとしても、妹は口説かないぞ!
一体、どういう貞操観念をしているんだ!」
シュトレーゼもマリーエルも、肩をすくめた。
「…グエン=ドルフに、貞操観念ってモンがあったのか?」
マリーエルが聞くと
「一度たりとも、無いな……」
シュトレーゼも言い、グエンは慌てて叫んだ。
「どうしてあんた達、そこでは仲良しするんだ!」
「別に仲良ししていない」
シュトレーゼが言うと、マリーエルも口を開いた。
「世間の見解が、お前の場合だと皆一致するだけだ」
「言っとくが、俺は助けたんだぞ?!」
ファントレイユは睨んだ。
「……もっと早くに、助けられたんだろう?
あんたさえその気だったら…!」

その時、ドゥーンは言った。
顔をすり寄せ、服を脱がせながら。
「…今後、ずっと俺の物になると誓え…。
そうしたら、教室でも優遇してやる…!」
確かに本人が自惚れるだけあって鼻筋は通っていた。
顎もすっきりとはしていたかも、しれながその下劣な品性には、心底ぞっとした。
「………っ!」
ファントレイユが顔を背けると、ドゥーンは直ぐにその顔を引き戻す。
どうやらファントレイユの美貌が、お気に入りのようだった。
体に触れ、感じさせようと、しているようだったがファントレイユは上がってくる吐き気と、戦っていた。
下半身迄すっかり剥かれ、肌に唇を滑らす。
自分の獲物を扱うようなやり用に、ファントレイユは本当に、泣きたくなっていた。
指で何度も、双丘の間を探っては、ここに入れてやる…!
と脅しを、かけたし。
首を振って避ける度、ドゥーンはファントレイユの顔を、自分の視線へと引き戻した。
ドゥーンが被さり、ファントレイユは腕を縛られたままドゥーンに引き寄せられて挿入の体勢を、取らされた。
だがドゥーンが、更に進んでそこに捻り入る事は無かった。
……腿を引き上げられた時だった。
どさっ!と言う音がし、ドゥーンの体が後ろに倒れ、そこに、グエン=ドルフの冴えた美貌が、見えた。
細面だったし、しなる弓のようなしなやかな体付で、確かに長身ではあったが、もっと体格の立派な男達が多数居る上級の中で、グエンは群を抜いて強いと、有名だった。
金の流れるような流麗な髪と、緑の射るような瞳をしていて、すらりとした隙の無い、金の豹を思わせる姿が、野性味溢れた優雅さを見せ、彼を誰よりも際だたせていた。
グエンが、笑ったのを、覚えている。
間もなく、短剣で縛られた腕の縄を切って解き、ファントレイユの、吐き気でぐったりした裸の体を抱き止め、そして抱き起こして覗き込んだ。
「…大丈夫か?」
…の、訳が無かった。
グエン=ドルフはファントレイユに衣服を手渡し、ファントレイユはそれを受け取り、身につけようと、のろりと身を動かした時、グエンはあろう事か手を貸しながらいきなりすっ、と顔を寄せ、口づけた。
ドゥーンとは違いあんまり何気なくって、暫くファントレイユは何がどうなのか、解らない程だったが、やっぱり殆ど他意も無く、グエン=ドルフの腕が彼を抱いて、更に深く唇を重ねてきて初めて、グエンにキスされてしかも抱かれている事に気づいた。
グエンの体温をじんわり感じた時、ドゥーンのあの最悪に嫌な感じとはまるで違っていて、どれだけほっとしたか、しれやしない。
吐き気が、遠ざかったからだ。
グエン=ドルフは唇を離すと、さっきの口づけは何だったんだ?と思う程平然と、ファントレイユが衣服を身に付けるのを、助けた。
そして服を着け終わると、屈託無く笑って言った。
「とっとと行こうぜ。奴が目を覚ますと五月蠅いからな。
…お前を俺に取られたと、親戚に注釈されると厄介な事になる…」
そうしてファントレイユの手を取ってその後、もう一度戦利品を品定めするような豹のような瞳を向けて、首を傾けてファントレイユに、キスをした。
ファントレイユはもう本当にふらふらだったからさせて置いたが、やっぱりグエンの口づけは本当に爽やかだったし、それは軽かった。
が、テテュスが自分の姿を見つけた時凄く取り乱していて、可哀想な位で、自分を必死に抱きしめ、それは心配かけて悪かったと思う程強く抱きしめられたので、テテュスにどう謝ればいいのか、思案した程だったが、見るとグエン=ドルフが……。
同じ様に、ひどく動揺していた。
そしてテテュスが自分の様子を尋ねる度、グエンが、好きな相手と話す男の子みたいに少し照れながら、それでも様子を説明し、時折口ごもったり、少し頬を染めたりするのでファントレイユは途端、なんでこんな反応をテテュスにするのに、自分に平気でキスしてるんだ?とだんだん正気が、戻って来たのを覚えてる。
更にファントレイユは、拉致された後に正気づいた時チラと茂みの奥に、金の髪と緑の瞳を、見た記憶が蘇った。
木に縛られ、正気づいて間もなくで、あれから暫くはファントレイユはドゥーンに、体を嬲られていたというのに。
だがテテュスの様子があんまり心配げで、レイファスに継いで自分迄護れなかったら…と、それは心を砕く様子が見て取れて、ファントレイユは心配ないと、テテュスに微笑むだけで精一杯だった。

「…そんな事を、されていたのか?」
ギデオンが、皆の代表で言った。
マリーエルが、思い切り深いため息を吐く。
「お前な……。
普通そういう時は木に縛られていた時点で、助けるだろう?」
シュトレーゼもつぶやいた。
「よく、それを見て通り過ぎられたな…」
二人に言われ、グエン=ドルフは肩を、すくめた。
「ドゥーンは厄介なんだぜ?
デリングレーのコネで講師をしていたし、デリングレーときたら学年で一番身分の高い大貴族で、俺の事を、目の敵にしてやがったからな。
…まあ俺も、あいつを散々『能なし』とからかってやったが」
「お前どうせ東領地ギルムダーゼン大公子息って身分を最大限に使ってその大貴族に、楯突いてたんだろ?」
マリーエルに言われ、グエン=ドルフは怒鳴った。
「“城"の気取った能なし大貴族が大嫌いなのはあんたも同じじゃないか…!」
マリーエルが、同意するように頷いた。
「…まあな」
ギデオンが、俯き頷く。
「確かに、デリングレーも王族の血を継いでいたしな…。
私の母とは別の系統のかなり遠い血縁の一族で、行き来はまるで無いが…」
「まあ、何と言ってもあの頃身分でいうなら、お前がだんとつ一番だったぜギデオン。
いくら大貴族だろうが、王家の直系の血を継いでる奴はそうそう居ないしな」
グエン=ドルフに言われ、でもギデオンはファントレイユを、心配げに見た。
見られてファントレイユはそれでも、肩をすくめて見せた。が、ギデオンの声は細かった。
「だがその後だろう…?
私があんな事を言って…。お前が勝って…。
特訓を、もうしないと誓わされて…。
それであいつは腹の虫が、収まらなかったんだろう…?」
「…あの後は一体何だったんだ?」
レンフィールが聞くと、シャッセルも聞いた。
「…私も知りたかったが、聞ける様子じゃ、無かったしな…」
と二人してテテュスを、見た。

グエン=ドルフはテテュスがかなりお気に入りで、彼と話すのが嬉しい様子だった。
この金髪の、一際目を引く暴れん坊は新入生の中で一番テテュスに目を付けていて、新入生が通りかかり、その中にテテュスの姿を見つけると必ず寄って来ては彼に、声を掛けて行ったからだ。
「…どう考えても、私を救出して株を上げ、ダシにしたとしか思えなかったが…」
ファントレイユが思い返してつぶやき、グエンは呻いた。
「ドゥーンを後ろから殴ってやったから、俺だとは、気づかれて無かったと思ったんだがな………」

だがドゥーンはデリングレーに、グエン=ドルフがファントレイユとテテュス側に付いているとご注進した。
デリングレーはそれは端正な品のいい大貴族だったが、いかにも下品で粗暴で自分に楯突くグエン=ドルフが、学年の注目を一身に浴び、ダントツの人気者だった事が気に喰わなかった。
それで取り巻きを連れ、テテュスとファントレイユが後庭の広い人気の無い建物寄りを通る時、待ち伏せした。
「…君と、少し話がある…!」
まず、テテュスがデリングレーに正面を塞がれ、両脇を二人の大きな男達に囲まれ、更に背中を木に押しつけられて四方を塞がれ、逃げ場が無かった。
ファントレイユがその中に入ろうとすると、後ろからドゥーンに手を握られ、引かれた。
「…お前は、こっちだ…!」
テテュスが目を剥いたが、デリングレーと二人の男は脅すようにテテュスの進路を、遮った。

レンフィールが、思わず身を乗り出す。
「…奴らは、テテュスに迄ちょっかいかけるような事を言っていたが、そうなのか?」
シャッセルが肩を、すくめた。
「当時は、テテュスがグエン=ドルフのお気に入りだったから、彼を自分の物にする為に待ち伏せたと、もっぱらの噂だったな」
レンフィールも、頷いた。
「テテュスはアイリスの息子で大貴族だったから、グエンのような野蛮人とじゃなく、自分のような大貴族と付き合うべきだと、デリングレーは思っていると…。
俺はそう、聞いたけど……。
それだけじゃ、無くてファントレイユみたいに、その……。
奴に、手を出されたのか?」
が、テテュスの代わりにグエンが答えた。
「…まあ、俺のお気に入りと聞きゃ、犯すくらい、するだろうな」
グエン=ドルフが言い、皆が一斉にテテュスを見たが、レンフィールはグエンに聞いた。
「…あんた、そこ迄嫌われてたのか?」
だがファントレイユが腹の底から響くような声で、静かに怒鳴った。
「…一応、助っ人に入ってくれていたからあの時言わなかったが、あんた向こうの丘から、様子見て知っていた筈だ!
ちゃんとブロンドが見えたぞ!
今度はテテュスだってお前のせいでヤバかったのに、何だっていつも登場が遅いんだ!」
ファントレイユのその声は、彼が真剣に怒った時に出す声音だった。
グエンは、テテュスに初耳だ、と見つめられ、思わず言い訳するように肩をすくめて見せた。
「お手並みを、拝見していたんだ」
ギデオンはファントレイユに、促した。
「…それで?」
「決まってる。私にはテテュスが可愛ければ逆らうなと言い、テテュスには私だ」
つまりそう言われて、ファントレイユはドゥーンの唇がしつこく被さり塞いでも、手なんか出せなかった。
ギデオンに聞かれた。
「…だって…テテュスは完全に囲まれていたんだろう?」
グエン=ドルフが、だが嬉しそうに答えた。
「だがこいつは囲みを破ったぜ。
ドゥーンがそりゃあ嬉しそうにファントレイユを嬲り始めたんで、正直、そろそろ出番かなと腰を上げたとこだった」
グエンが言うと、皆がやっぱり…!
と一斉に彼を、睨んだ。

腕に抱き、体を撫で回されて、また吐き気が思い切り上がって来た時だった。
テテュスが正面のデリングレーに、その気で顔を寄せられるのが、見えた。
自分だけで無く、テテュス迄が三人の男に犯されるんじゃないかと、心底ぞっとして身が震った時だった。
テテュスの顔が視界から消え、デリングレーが体をくっ!と前に折り、彼から一番遠い方の男が後ろに吹っ飛んで消えた。
テテュスが身を低くして囲みを破り様、手前の男が慌てて駆け去るテテュスの腕を掴もうとし、テテュスは振り向き様、下から体を沈めて思い切り拳を入れたのが、見えた。
自分に被さっているドゥーンを、後ろから引き剥がして、彼と自分の間にさっと立ち塞がる。

「…やるなと、感心したぜ」
グエンが思い返し、微笑みながらつぶやく。
「……間違いなく正真正銘の、騎士だしな!
それは、頼りになる背中だった。
俺はお前のお姫様なんかじゃあ無かったから、別に俺が何言おうがお前はどうって事無いだろうが、テテュスが俺の為に散々殴られても飛んで来なかった事だけはきっちり腹が立つぞ!
お前が、テテュスに振られてざまあみろだ!」
ファントレイユの言葉が突き刺さったようで、グエンは思い切り心臓を抑えて俯いた。
みんながグエンのその様子を、呆れて見る。
「…どうして飛んで来なかったんだ?」
マリーエルに聞かれ、グエンが口籠もった。
ファントレイユが直ぐに言った。
「決まってる。
テテュスが囲まれてた時点であの丘を出ていれば間に合ったのに、囲みを破る迄ぐずぐす見物していたから、テテュスが三発もドゥーンに貰う迄、走っても間に合わなかった。
テテュスと来たら、あんなでかい体の力自慢の男に俺を庇う為に無抵抗で殴られて、それでも俺の前から、引かなかったってのに…!」

ファントレイユは必死で、テテュスの庇う体を、押しのけようとした。
重い拳で、軽く入れられただけであれ程効くのに、今奴はテテュス相手に思いっきり振り回して入れ、テテュスの両手は自分をガードする為じゃなく、庇う為後ろのファントレイユの体に回されていた。
ファントレイユは気が気じゃ、無かった。
テテュスを必死で自分からどかそうとすると、テテュスの無言の腕は決して自分を離すまいと決意していた。
どれだけ殴られても、あいつにファントレイユを、引き渡す気は無いように…。
その気迫籠もる様子を、今でも覚えている。
テテュスの身が、ドゥーンの拳が入る度揺れるのに、その背はファントレイユの前から、消える事は無かった。
「……本当に、格好良かった………。
でも私はあいつ(ドゥーン)の拳がどれだけ重いか知っていたし、テテュスがぼろぼろになっても絶対私の前からどかない事も知っていたから、本当に泣きそうだったってのに、このいけすかないろくでなしは、テテュスの口に血が溜まるまで姿を現さない!」
ファントレイユの怒りに、グエンは顔を下げきっていたが、顔振り上げ咄嗟叫んだ。
「…だがちゃんと、助けただろう?!」
マリーエルが、聞いた。
「…お前、何発ドゥーンに入れたんだ?」
「三発」
シュトレーゼも、聞いた。
「そんなに入れなきゃ、倒せない相手だったのか?」
「だってそりゃ…。
一発で沈めちゃ、テテュスの敵が討てないだろう?」
テテュスが、下を向いてつぶやく。
「…三発喰らっているのを、ちゃんと見て、数えてもいた訳か………」
皆から、重く深いため息が、それぞれ長く尾を引き漏れた。
グエンは慌ててテテュスに叫ぶ。
「俺はちゃんと走ったし……!
三発殴られてるお前を見てちゃんと、まずかったと思ったって!」
焦るグエンを、見はしたものの、テテュスは思い返すようにつぶやく。
「…だが正直、私はあの時ファントレイユの様子に気が気じゃなかったから、まさか連中が私に迄手を出そうだなんて、全然気づかなかったんだ。
…ファントレイユは拉致された時ですら、腹に二カ所も青痣が残る位の殴られた跡があった…。
あんなやり方で又彼を好きにしようだなんて…。
周囲の障害物をどう蹴倒して、あいつがファントレイユにする行為を止める事しか、頭に無かったんだ…」
「………それはすごく、君らしいな」
レイファスに言われてテテュスは少し、笑った。
「…それでファントレイユに視線を送りながら敵の隙を必死で伺っていたら、ファントレイユが私の方を見ていて………。
気づいたら…正面のデリングレーが私を色目で見てて、両脇の男もどうやらその気の様子らしい。
……ああそうか。
ファントレイユも私の身を、心配してるのかと……。
ドゥーンに…抱かれて衣服を剥がされて、それこそ、本当に嫌な思いをしているのは、ファントレイユの方なのに……。
なのに私を気遣って、瞬間泣きそうな表情を、したんだ…。
それを見たら……。
私は何をしてるんだろう?ってむかっ腹立って…!
彼にそんな思い迄させているのにどうしようも出来ない自分が、猛烈に情け無くって…」
ファントレイユが、その時本当に気遣うように、そう語るテテュスをそっと見守った。
テテュスの、握る拳が微かに、震った。
「……そう思った途端、かっと頭に血が昇った。
…だから、デリングレーが顔を寄せてきた時、努めて大人しくみせてやった。
獲物が抵抗を見せないと解った奴らは隙だらけだったから…その機を逃さず叩いたんだ」
「……普段穏やかに見えるが、本当に、やる時はやるもんな。
…そりゃあ人気があった。あの当時。
上級から下級貴族迄、身分の差別無く好かれていた」
レンフィールが、そうつぶやく。
レイファスは、当然だなと頷く。
だがテテュスは嬉しそうにファントレイユを、見つめた。
「…でも本当に、痛みなんか感じなかった。
揺さぶられるような衝撃だけだ。ドゥーンに殴られている間は。
…凄く、嬉しかった。君の元へたどり着けたのが…。
とにかく、あいつの君への行為を私の体で止められんだし…君の体温を背に感じられて、本当に泣きたい位に嬉しかったんだ。
それに…君が奴にされた事と比べれば、あんな事は些細な事さ。
それこそ、蚊に刺されたような物だ。
…護れなくてそれこそ身が震うくらいに悔しくて悲しい、心の痛みに比べれば、本当に全然、どうって事無いんだ………」
ファントレイユは気遣うようにテテュスを見つめ、つぶやいた。
「だけど間違いなく、ひどい状態だったし……。
あいつは全然手加減無しで思いっきり拳を振っていたから、ヘタすりゃ腸が破裂したっておかしくないような状況だっただろう…?
…俺はテテュスの様子がそりゃ、心配だったし、ドゥーンのお陰で吐き気で気分は最悪でふらふらだったが、テテュスが、グエン、お前の事を疑いもせずに素直に感謝するのを見て、絶対!違うと思っていた!」

グエンは、頭を抱えた。
レンフィールが、小声でファントレイユに聞いた。
「その後だったのか……あの教室で………。
お前が、もの凄く、キレてたのは………。」
シャッセルがヤンフェスに向かって言った。
「例の、滅多切りだ」
教練に居ず、噂でしか知らないその事柄に、ヤンフェスは『そうか』と頷いた。

つまりその後、教室でドゥーンが、自分の相手をしろと剣を、握った。
自分の得意分野で、今度こそねじ伏せてくるんだと解ったが、もうファントレイユは真剣に、心の底から腹を立てていた。

「止めなかったんですか?」
フェリシテに聞かれ、テテュスは肩をすくめた。
「ファントレイユの実力を知っていたし…。
彼が真剣に怒ると、誰にもどうしようも無い事も、知っていた」
それを聞いてレイファスが思い切り、頷いて言った。
「…普段努めて大人しくはしてはいるが、その分一度キレると手が付けられない」
「ギデオンは止めたんだよな」
レンフィールが言うと、彼は頷いた。
「私でさえ、三本に一本取れれば良かった相手だ。
ドゥーンは」
ファントレイユはため息を付いてギデオンを、見た。
「自分が代わると迄、君は言ってくれた」
レイファスが呆れた。
「…それで完全に、騎士道精神に火がついた訳だ。
お前の心の流れが、目に見えるようだ」
その言葉に、ファントレイユは肩をすくめて目を伏せる。
シャッセルが、思い返すように言った。
「最初、あいつは実力差で完全に嬲っていたな」
レンフィールも、思い返す。
「だがファントレイユは全部寸での所でかわし、そのうちいい所に、入れて来る。
あのパターンは、知っている。
侮れないと気づいた時にはもう遅い。
こっちの予想をどんどん裏切って来る…!
終いに……いいのをもらっちまう。
…だがあの時のファントレイユは寸止めなんて、しなかった」
ファントレイユはどうして寸止めの必要がある?という顔を、向けた。
「…当たり前だろう?テテュスの礼はしなくちゃいけなかったし。
私の吐き気の元だ。これ以上付き合うのも、テテュスを二度と巻き込むのもごめんだったから、毛虫はきっちり退治しないと。
それこそ、ぐうの音も出ないくらいに」
この言葉に、スターグもフェリシテも、ぞっとした。
ギデオンは一つ、ため息を付いてファントレイユをチラリと見た。
シャッセルは頭を抱えた。
「…だがへたすりゃ、殺すか半身不随にする所だったんだぞ?」
皆が、驚愕の表情でシャッセルを見た。
「…本気で腹を立ててたんだな」
レイファスがテテュスを見た。
テテュスはうなだれた。
ファントレイユが心から怒ると全く容赦しないのを、二人共良く、知っていたからだった。
ギデオンが、つぶやいた。
「……でもそれでも、足りないようだった。
動きに全く、ためらいも間も無かったからな…」

三度程、鋭い突きがドゥーンの腹に入った。
右。左。そして左。
予想を裏切られてドゥーンは動揺してよろける隙に、ファントレイユは彼の右肩に、剣を振り上げて思いっきり一撃、殴り入れた。
ドゥーンがその、凄まじい衝撃で前に体を折り、痛みを庇うように左手を添える間に、ファントレイユはさっと後ろに周り込み、隙だらけの左肩に、後ろからまず重い一発を叩き込む。
…ばきっ!と、骨の折れる鈍い音がした。
そして容赦無く右腿側面へ、横から思い切り振り入れる。
また、鈍い音がして、明らかに骨に達していた。
ドゥーンは腿の痛みに、もう体を支えられずに、背を晒して崩れ落ちた。
が、ファントレイユはまだ止まらなかった。
それこそ、もう抵抗すらすっかり無くし、痛みに呻いて前に屈むドゥーンの無防備な背中中央に、一瞬の躊躇無く上から振りかぶって、思い切りの一発を、叩き込もうとしていたからだ。
瞬間ギデオンが、体事後ろから抱きつき、ファントレイユを止めた。
「…止めろ…!もう充分だろう…?!」

ギデオンは思い返して言った。
「…戦地に出て、背中をひどく痛めて、下半身が麻痺して動かなくなった兵士の話を思い出した。
止めて無かったら、確実にあの男は、車椅子だ。
…振り下ろす場所が少し上にずれて首に達していたなら、もしかして息の音も、止まっていたかもしれない………」
ヤンフェスはやれやれ、と肩をすくめた。
「レイファスは毒入りだと言ったが……」
ファントレイユは彼の言葉に、思わず言い返した。
「ヤンフェス。彼は普通に、毒が入っている。
私は滅多にキレないが、その滅多に無いキレた時に、毒を出すだけだ」
「…普通って、なんだ。
私が毒体質みたいじゃないか…!」
皆が、そうだろう?という顔をしてみせた。
グエンが話を継いだ。
「…だがその派手なパフォーマンスのお陰で、デリングレーが動いたんだ。
ドゥーンは担架に乗って講義室を運び出され、二ケ月は寝台を離れられないだろうと言われ、後遺症も残るだろうと心配された重傷だ。
とうてい普通の授業じゃあ、考えられないだろう?」
マリーエルが、やれやれとタメ息を、付いた。
「…それでアイリス迄出向く、大事に成ったんだな?
俺迄引っ張り出されたし」
その後はレンフィールもシャッセルも、知っていた。
「…あのやり方は…ひどかった。
お前の方が誘ったとか迄、言われていた」
シャッセルがつぶやき、レンフィールも俯いた。
「どう考えても、不当裁判だ」
「裁判に、なったんですか?」
スターグが聞く。
二人は、頷き、レンフィールが言った。
「ギデオンが生徒代表で呼ばれた」

通達が張られ、呼び出しがされた。
公聴会だった。
その場には、教練のお偉いさんが並び、その一連を見物出来る場は、生徒達で埋まった。
グエンも引き出され、公の席でデリングレーがグエン=ドルフを叩くのは目に見えていた。
その朝、アイリスもその場の公聴人として、出頭して来た。
テテュスを見、長身の素晴らしくしなやかで優雅な動作で、大事な愛息の頬に手をかけ
「大丈夫かい?」
と心配げに、ささやいた。
整いきった容姿をしていて、それは綺麗で艶やかな輝きを持つ濃い栗色の長い巻き毛を胸に垂らし、独特の、人を魅了する濃紺の瞳をしていた。
アイリスは笑うと、それはうっとりつい見とれてしまう程とても柔らかな感じの良い笑顔の、人好きのする美男だった。
女も男もつい、そのチャーミングさに、引きつけられてアイリスに心を捕らわれた。
だが剣の腕も度胸も素晴らしかったから、いつも何でも無いように危険な事をとても優雅にこなしては、そのチャーミングな笑顔で戻って来るのでみんなに、並で無いと呆れられていた。
しかもアイリスが動揺したりその優雅な態度を崩す様を、殆ど誰も、見た事が無かった。
戦場でアイリスの見せるチャーミングな笑顔は敵を震え上がらせたし、一戦を退いても彼は敵に隙を見せる事が無かったから、彼の失脚を狙う男達は大抵、返り討ちに合い逆に失脚してく程で、素晴らしく強い剣士なだけでなく、辣腕の政治家でもあった。
だがその男が、ファントレイユを見るなりひどく心配げな表情を、向ける。
「…ひどい目に、あったようだね?」
そう言って、触れてくるアイリスにファントレイユは言った。
「テテュスを、誉めてやって下さい。
ひどい怪我を負ったのに、私を庇い通したんですから」
言うと、アイリスは、知っている。と言うように、笑った。
「…彼は私なんかより、よっぽど素晴らしい騎士なんだ」
そう言って、ファントレイユを抱きしめた。
「何も、心配はいらない。決して悪いようにはしないから」
アイリスがそう言った以上はそうなるとは、解っていたが、相手は王家の血族だった。
公聴会では広い講堂の中央の、一団高く作られた四角の場所に、公聴人達の椅子が並んだ。
議事進行の司会者が中央に座し、そして証人席がしつらえられ、両脇に、争う証言者達が座っていて、その講堂をぐるりと囲んだ四方の二階席に、傍聴人の生徒達が溢れ返っていた。

デリングレーとグエン=ドルフの対決で、上級生達は二階席からはみ出して下に落ちんばかりに押し合い、ギデオンの出頭で、初級課も全員、詰めかけていた。
議事は進行して行った。
まず訴えにより、ドゥーンがなぜ大怪我を負ったかという検証だった。
「…教室でひどい虐めがあったと、証言者が居るが…」
と司会者は言い、ギデオンが証人席に、付いた。
彼の美しさは傍聴人達にそれは素晴らしいと、一斉のため息を誘った。
焦げ茶の重い配色の構堂内で、窓から差す一筋の陽を浴び、ギデオンの輝く波打つ金髪とそれは白い肌、そしてその上の宝石のような青緑の瞳と赤い唇はそれは見事な美しさで、素晴らしく見栄えした。
だが彼は、落ち着き払ってきっぱりと言った。
「…講師のやり方は常軌を逸していました」
「…が、ファントレイユ君の方もそうだったのでは無かったか?」
「彼は、講師の要請に従って剣を握っただけだ」
「…だがその講師が、ひどい怪我を負っている」
ギデオンは一旦口を閉じたが、開いた。
「ドゥーンは講師だったし、監督責任は彼にあった。
生徒が危険な状態なら、止める役目が彼の本来の役割だ。
だがご存知の通り、講師である彼自身が剣を握っていたし、対するファントレイユも講師である彼にそうするよう指図され、単にそれに、従っただけだ。
そしてその後、一体誰が、講師である彼がそんな無様に、生徒に叩きのめされたりすると思う?!
……誰に予測が出来た?
講師の彼自身ですら、ファントレイユの腕がそこまで立つと、見抜けなかったと言うのに!
…本来止める役割の講師がそんな体たらくで、我々に一体、どうすれば良かったとおっしゃる?!」
「……つまり、ドゥーン以外に誰も止める権限を、持っていなかったからドゥーンは大怪我を、負ったという事か?」
ギデオンは平然と言い放った。
「そのように私は解釈している」
アイリスが、口を開く。
「…つまり彼は自分の本来の役割を逸脱していたと、君は解釈しますか?」
この言葉にギデオンは、即答した。
「完全に、逸脱していた」
そう答えるギデオンは、それは綺麗で可憐で決然としていたから、傍聴席から一斉に、感嘆のため息が漏れた。
司会者がギデオンに頷き、退席を許した。
「…ありがとう。ギデオン。さて……。
デリングレー君達が、テテュス君を取り囲んだという件だが…」
「…我々は彼の態度に意見していただけだ!」
椅子から立ち上がって叫ぶデリングレーの言葉に、グエン=ドルフが腕組み、腰掛けたまま叫び返す。
「ふざけるな!口づけしようと顔を寄せるのを、俺は見たぞ!
…つまりは、その気だったんだろう?!」
グエン=ドルフの言葉に、傍聴席が一斉に、熱狂的にどっ!と沸き返る。
グエンの人気は、凄まじかった。
「静かに…!静かにしたまえ…!!
重要なのは君だ、ファントレイユく君。証人席へ…」
ファントレイユが引き出され、騒ぎはざわめきながら引き、事件は確信に、迫ろうとしていた。
台上に居るファントレイユは、背はそこそこあるものの、華奢で線の細いしなやかな体付で、ふわりと柔らかなグレーがかった艶やかな輝きを放つ栗毛を綺麗に肩の上に揺らし、色白で隙の無い整った容姿でピンク色の唇をし、煌めくような雰囲気を持っていて聴衆達の視線を釘付けに、した。
「君の証言では幾度もドゥーン講師に関係を強要されていたようだが」
ファントレイユは黙った。
傍聴人達が皆一斉に、好色そうな瞳で、いかにもそんな男に目を付けられそうなその華奢で線の細い、美しい少年を見つめた。
が、ファントレイユは素っ気なく言った。
「一度私室に呼ばれ、その後に二度、ひどいいやがらせを受けた」

シャッセルが、思い出すようにつぶやいた。
「…あの時は……ファントレイユはそれはお人形のように綺麗だったし、皆が、彼がドゥーンにされた事を想像しながら好奇の視線を彼に向けて、それはにやにやして聞いていたにも関わらず、大した態度だった。
…今と同じ、平静そのものだ」
皆が、子供の彼を思い描こうとした。
もっと小柄で、綺羅綺羅しい彼の姿を。
だが司会者は言った。
「別の、証言もある…。
君の方がドゥーン講師を誘ったにも関わらず、その後彼にひどい態度を取った。
それで講師ドゥーンはやむなく君に、思い知らせる為に……」
ドゥーンの普段の素行を知っている傍聴席から、一斉に凄まじいブーイングが飛ぶ。
だがデリングレーが、騒ぎを割って叫んだ。
「ご覧の通りの容姿だ!
簡単に自分になびくと思っていたのに、ドゥーンが思い通りにならないので業を煮やした。
…テテュス君迄巻き込み、自分は被害者だと装っただろう!
我々はテテュス君に、君の真意を伝える為に意見しようとしただけだ!」
これには、テテュスが眉を寄せて思わず立ち上がり、証人席で晒し者のように立たされ、デリングレーの糾弾を受けるファントレイユのか細い体を、心配げに見守った。
デリングレーは、身分高い大物のアイリスとその息子テテュスを敵に回さず、身分の低いファントレイユだけを、蹴落としにかかったからだ。
だがデリングレーの糾弾は続いた。
「…もう、白状したらどうだ?
君を庇ってドゥーンに殴られたテテュス君こそ、いい面の皮だ!
ドゥーンを、思い通りにしたくて、君の方から誘ったんだろう?!」
その場は凄まじい大騒ぎになり、講師達が全員総出で皆を、やっと静めた。
騒ぎが静まりを見せ始めるとその後、証人席のファントレイユに視線が一斉に、投げかけられた。
彼は俯き、自分の両手で証人席の手摺りを、握り締めていた。
肩が、揺れていて、彼が泣いているのかと、皆が一瞬同情しかけた。

「…その後は、本領発揮だった」
グエン=ドルフが言った。
レンフィールもシャッセルも俯き加減で頷き、レイファスは
「想像つくな」とつぶやいた。
マリーエルも肩をすくめた。
傍聴人席に、生徒を押しのけ、座って見物していたからだ。
スターグ、ヤンフェス、フェリシテ、そしてシュトレーゼが、問う顔を、した。
ギデオンも、ため息混じりに、つぶやいた。
「怒鳴ってたな」
「なんて?」
フェリシテが聞いた。
がシャッセルは口を閉じ、腕組みして問うフェリシテの顔を、じっと見つめた。

怒濤のごとく、ファントレイユは口を開いた。
最初はそれでも、静かな口調だった。
彼の声が、震えていた。
「…私が、誘ったとおっしゃるのか…?
あの男を?よりによって?」
皆がそのか細い声に、ファントレイユが泣くのかと一心に、同情を寄せかけた、その時だった。
ファントレイユが爆発したのは。
「どっからどう発想したらそんなどうしようも無い考えが浮かぶ?!
私だけを攻撃したいんなら、もっと他の、私でも何とか大人しくやり過ごせる方法を、使ったらどうだ!
そしたら私だって可愛らしくあんた達の茶番に付き合ってやれるさ!
だがいいか?このやり方だけはどうしても我慢ならない!
…あの男が5メートル向こうに居ただけで、虫ずが走って最悪に気分が悪い!
あの自分のいかにもいい男だ風の、自分を鏡で真剣に一度も見た事も無いだろうと思えるくらいに無神経な、どうしようも無く自惚れて世間の評価を全く耳にした事の無い、自己欺瞞に満ちてうんざりし、救いよう無くぞっと悪寒が体中を駆け巡るような寒気がする程の馬鹿をさらした声を耳にしただけで、害毒を撒き散らす毛虫を、殺すように踏みつぶしてしまいたくなるってのに!」
この言葉の凄まじさに、いきなり会場は静まり返った。
だがファントレイユはまだ全然足りないとばかりに怒鳴り続けた。
「…だいたいあの男を誘うぐらいなら、いちばん顔のひしゃげて歪んだ怖ろしく醜い豚を誘った方がまだうんとましだ!
うじ虫だって、あの男に比べたら数千倍も愛らしく、可愛いらしく見えるぞ!!!」
皆がこの言葉に目をまん丸にしたが、デリングレーでさえ例外では、無かった。
だがファントレイユはまだ続ける。
「あの男の事を、思い返しただけで吐き気が止まらなくなるくらい、最悪に気持ち悪いってのに、なんで好きこのんでそんな最低の中でも更に一番最悪な男を、私が誘わなくちゃならないんだ?
誘うんだったら、私だってちゃんと考えて、少なくともうじ虫や豚よりはマトモで、最低条件ですら吐き気をもよおしたりなんて絶対しない、意思疎通くらいはどうにか出来る、ちゃんと一応人間に見える男を、選ぶに決まってるじゃないか!」
ギデオンはこの凄まじい侮蔑の言葉の羅列に、眉間に皺を寄せ、口元に手を当てた。
一気に殴られて気絶する方が相手にとっては随分楽で、思いやりのあるやり方なんだと、自分のやり方を思わず、心の中で誉めた程だ。
ファントレイユはついにデリングレーを直接見つめ、あんまりの怒りにその身を震わせて、怒鳴り付けた。
「どこ迄私を馬鹿にすれば気が済むんだ?
そんな男を私が選んだりする、どうしようも無い阿呆だとでも思っているのか?!
…少なくとも、顔がチラリと浮かんだだけで気色が悪くて吐き気が止まら無くなるような男を、私は死んだって絶対!選ばない!!!」
デリングレーはその叫びに思わず、気圧された。
そう言う彼は華奢な体付きの、全く素晴らしい美貌の、その面を歪めて心底馬鹿にされて、心から悔しいように、叫んでいたからだ。
…だがそれでも、ファントレイユは言い足りないようだった。
「やっとあの男をぶっ潰して、その事を思い出さずにすむようになったってのに……。
よくそんな、気持ちの悪い事を、無神経に、平然と、その上更に嬉しそうな顔で持ち出すもんだな!」
もう誰もが、本来の形では無いにしろ、彼に一応別の形で同情する羽目になった。
…つまり、誤解を受けた、清廉潔白で、その上純情可憐で可哀想な被害者としてでは無く、そんな馬鹿げた選択をするどうしようも無い阿呆と思われ、ひどい侮辱を受けた者として、同情を受けたのだ。
そして最後にとうとうこう言い放った。
「…この私の吐き気を、一体どうしてくれる!
何処まで気色悪い事を自分が言い、どれ程ひどい侮辱を私に与えているのか、あんた本当に、真剣に、心の底から、解ってないのか…?!!!!
あんた、そこ迄人間の気持ちを無くして思いやりの欠片も無い、神経が一本足りとも通って無い、丸太のでく人形なのか?!!!!」
怒りで体中を震わせ、凄まじいど迫力で言い切ってデリングレーを睨み付けた後、ファントレイユはだが沸き上がる悪寒と吐き気に、とうとう口を、抑えて体を、前に折った。
テテュスが慌てて証言席に、駆け寄った。

「その場に居た全員が、あまりの彼の迫力に、口をきく事すら忘れた程だった」
ギデオンが言い、皆も、そうだろうな…と俯いた。
マリーエルも思い返して、ぼそりとつぶやいた。
「デリングレーはもう返す言葉も無く、目をまん丸にしてファントレイユの様子を、見つめていたしな………」
「それで?」
レイファスが聞き、テテュスが言った。
「……結局、ファントレイユはその場で吐いたし、彼の迫力ある答弁で、彼もグエン=ドルフも私もお咎めは無く、ドゥーンだけが懲戒免職になった」
シュトレーゼが、愉快そうに肩を揺らした。
「つまりデリングレーは、ぐうの音も、出なかったんだな?」
グエンが言った。
「あれだけ徹底して言われた上に、目の前で、吐かれちゃな……。
あれですっかり、言葉を無くしたようだ」
皆も一瞬、静まり返った。
ファントレイユは思い返すようにつぶやいた。
「あの後、アイリスと一緒になったが彼はずっと、笑っていた。
こんな形で決着が着いたのは、初めてだと…。
あんまり彼の笑いが止まらないから、つい、睨んだ程だ」
テテュスが継いだ。
「…アイリスは『ああ、失礼』と言いながら、まだ君を見て笑ってたしな」
「…最低だ。気分は悪いし、彼にあんなに笑われて」
レイファスが呆れた。
「君の気にする所は、そこか?」
「他の、どこを気にするんだ?」
「例えば世間体とか、デリングレーとか」
スターグが聞くと、ファントレイユは肩をすくめた。
「あれ以来彼と目が合うと、彼はそれは神妙な顔をして私から目を、背けるようになった」
グエンが、くっくっくっ、と笑った。
「あれ以来、あいつの側を通る奴は大抵つぶやく。
『丸太のでく人形』と。
言われてあいつはまっ青に、なるんだぜ?
同情する気は無いが、そんな俺ですら、気の毒に見える程顔が青かった……」
そしてまた、くっくっくっ、と笑う。
だが腹わたが煮えくり返りそうな表情をし、ファントレイユが怒鳴った。
「…どう考えたって、あいつが悪いじゃないか!
あんな手を使うだなんて!!!
他のやり様だったら私だってもう少し、しおらしく傍聴人達の期待に、応えてやっていたさ!」
皆が首を思い切り横に振りながら、下を向いてため息を、吐いた。
マリーエルがつぶやいた。
「…そりゃデリングレーだって、人形みたいに綺麗で大人しいと思ってた相手から、あんな凄まじい言葉の羅列が飛び出すなんて、思わなかったんだろ?」
ファントレイユは思い切り、肩をすくめた。
「…あの前迄乱暴者にモテまくったが、あれ以来、訪問者はパッタリだった」
「良かったじゃ、ないか…」
それでもヤンフェスが、何とか友達甲斐のある様子を見せた。
「…でも、そんな苦労されていたなんて、知りませんでした」
フェリシテが言うと、グエン=ドルフが言った。
「…だがあの性格は絶対、長くは隠しては置けまい。
ちょっかいかける奴はそれこそ掃いて捨てる程いたから、どのみちどっかで誰かがやられていたさ」
ファントレイユがいかにも不本意だと、つぶやいた。
「…私の方が問題児のような言い方だな…」
だが皆を見回すが、誰も違う、と言う様子を見せなかった。
ギデオンの、ため息が漏れた。
「…あれ以来だ。私でさえ、君だけは、真剣に怒らせないよう気を使ったのは………」
皆がつい、そう言うギデオンを意外そうに見つめた。
レイファスが、つぶやく。
「…つまり君に迄そんなに衝撃を与える程、凄まじかったんだな?」
ギデオンは黙して、頷いた。
ファントレイユは彼を見て、途端に心配そうに、小声で聞いた。
「…そうなのか?」
「私の、それこそ目の前で、君は叫んでいたからな……」
ファントレイユが、不安そうに聞いた。
「怖いもの無しの君でも…まさかそんなに、怖かったのか…?」
「そりゃ、剣や拳で来られたら対応のし様があるが、あんな手で来られたら…返しようが無いじゃだろう?
半端な言葉じゃ無かったし、あんな迫力で、心に衝撃を与える言葉を、もうたくさんだと耳を塞ぎたくなる位に並べ立てられるかと思ったら……。
凄く怖いじゃないか…。
普段いつも大人しい奴だから…。
どこでキレて爆発するか、もの凄いスリルだ」
皆が、改めてファントレイユを見て、ため息を、付いた。
「…どうやら近衛の双璧は、ギデオンとファントレイユのようだな?」
レイファスが笑って、ヤンフェスに言った。
「…まあ、少なくともその時の答弁を、聞いた者にとってはな……。
たがマントレンがやたらファントレイユの度胸を買っていた理由がそれで解る。
マントレンもその時同期だったろう?」
皆が、一斉に頷いた。
シャッセルが思い返してつぶやいた。
「あの後暫く、ファントレイユに大人しげに微笑まれて挨拶されても、顔が引きつったしな………」
それを聞いて、ファントレイユの、大きなため息が漏れた。
「それは君だけじゃ無い」
テテュスも俯いて、頷いた。
「…それまで色目で見ていた上級生に至るまで、怖気たように、通り過ぎるファントレイユを見ていた………」

その場は深い、溜息で埋め尽くされた………。










本編からの抜粋なので、しりきれとんぼで終わってますね………。

短編としての完成度はサイアクでしょう………。
王冠1イラスト入り登場人物紹介王冠1
完成次第、随時増えて行く予定ですが、作者の絵の腕がヘボなので
向上していくときっと、登場人物に似てくる事でしょう…。
長い目で、見守ってやって下さい。
アースルーリンドの騎士「幼い頃」ブログ連載中
ぼやきページでは、制作途中イラスト披露してます。


ベル天野音色のその他の作品ベル
宝石ブルー『幼い頃』
王冠1 アースルーリンド 王冠1
宝石赤『ファントレイユとの出会い』 
 大人のファントレイユが近衛で大活躍してます!
宝石ブルー『教練校での出来事』
 入学したてのファントレイユに貞操の危機が?
宝石緑『野獣のうぶな恋心』
 天然テテュスに惚れ込む、遊び人のグエンの翻弄される恋心
宝石紫『ゼイブンの夢。』
 ファントレイユの教練入学でゼイブンがパニック!
宝石白『確かなもの』
 ギュンターの生い立ち
宝石ブルー「アースルーリンドの騎士」ギュンターとローランデ『[シェンダー・ラーデン]の恋人』
  成り行きでローランデを犯したドゥーゼンは、ギュンターに睨まれ捲り…。
『シェンダー・ラーデン』のアップで18禁になりました…。
マリーエル8才、10才の頃のローランデとギュンター。
『幼い頃』に登場以前のギュンターらは
マリーエルの8才の頃に描かれています。

宝石赤「アースルーリンドの騎士」ギュンターとローランデ『仮初めの時間』
 「幼い頃」アイリスの屋敷に来る前の、ローランデとギュンターのお話。
事件勃発で18禁Rに成りました。完全BLです。
宝石赤「アースルーリンドの騎士」ギュンターとローランデ『卒業』
 ローランデの卒業時のギュンターとのお話。
近衛に進むローランデに同居を申し込むギュンター
ギュンターが突進し続けたので、18禁になってます…。
宝石赤「アースルーリンドの騎士」ある日の出来事
 ギュンターの来訪。続編アップで18禁に

流れ星その他SF
ナゾの人『Memory of Haruka or the far past』
 彼はかつて、アトランティスに居た・・・。
いて座『キリスト教圏では絶対書けないショート。』
 キリストの、もう一つの物語

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ