木の上
キーンコーンカーンコーン
小学校の中庭に立っている大きなイチョウの木、先生から強く木登り禁止と言われているその木の上に、俺はいる。
どれ位ここにいるんだっけ?
居心地が良いからスッカリと長居してしまった。だけど、ここから見える夕日が綺麗だから、まだ下りたいと言う訳じゃない。
きっと、ここから見上げる星空だって綺麗に違いないから、それを見るまで下りなくても良いんだ。
少しだけ目を木に向けると青々とした若枝、生命の力強さを感じるね。
木に登った切欠は、下りられなくなって不安げに鳴いていた猫を見つけたから。
絶対に助けるんだ、その一心で必死になって登って、手を伸ばして受けた引っかき傷が右腕に1つ、2つ。
その猫は今、俺の腕の中にいる。
相変わらず不安げな表情で見上げてくるけど、もっと上を見てよ。空が綺麗だよ?
猫を撫ぜてやりながら見上げると、夕日の色はさらに濃くなり、薄っすらと夜の気配を感じさせている。いくつかの星も見えるし、いよいよ夜が来るんだ。
楽しみだな…うん。楽しみだよ。
そうなると日の出も合わせて見てみたい。だったら朝が来るまで下りなくても良いんだ。
朝までまだたっぷり時間があるなぁ。
別に下りたい訳じゃないよ?猫とこうして一緒にいるんだから暇でもないし、居心地だってこんなにも良いんだ。
ただ、少しだけ足を崩したいなって思うだけ。それだけ。
ピンポンパンポン
「皆さん、下校の時間です。校内に残っている生徒は速やかに帰りましょう」
言われなくても、最終下校の時間だってのは分かってるよ。けど、夕日と、星空と、朝日を見るんだから下りなくても良いんだ。
うん、下りなくても良いんだもん。
「コラ!何やってる!?下りなさい!」
真下から聞こえて来る声に目を向けると、1人の先生が俺を見上げながら怒ってた。
あ、見付かっちゃった…見付かったよ。
夕日も、星空も、朝日も見られなくなって残念だよ、本当だよ?本当に残念だと思ってるからね!
俺は心底見たかったんだよ、そして木の上で一夜を明かす覚悟だってしてたんだ。
あぁー、仕方ないから下りないと。
「先生っ助けてー!」
下りたくない訳じゃないんだ、下りられないんだよ。