8.予定
「呉さん! 水野さん! 決まりましたよ!」
開いていたドアから勢いよく入ってきた柴田耕平は思い切り強く呉にぶつかった。しかし、予想していた衝撃がなかった。
柴田が来るのを予知していた唯はすぐに呉に伝えていた為、呉は柴田を受け止めていた。柴田は顔を上げ、照れくさそうに笑った。
「耕?」
「呉さん、すいませんでした。唯ちゃん、ありがとう。えっと・・・そう! 犯人捕まりましたよ!」
その言葉に彩は思わず立ち上がった。呉と水野は意味ありげに笑い、柴田は明るく笑った。
「彩くん、水野さんに渡した写真、覚えてる? 君が過去に行って撮って来た藍さんの写真。アレに証拠が写っていたんだよ」
後はまかせました、と水野にバトンタッチをした柴田は、目の前に立つ呉に握り締めていた資料を渡した。その厚さは柴田の努力の証だった。
「死因の刺し傷が明らかに注射のモノだったからね。僕が調べていたらすぐに捕まったんだろうけど・・・上の息がかかったヤツらが担当した事件だから。ちゃんと鑑識の写真にも写っていたから証拠になるよ」
「その証拠で他殺と決定したので、すぐに自白しましたよ。杜撰過ぎる犯行でしたから」
ね?と資料に目を通していた呉に同意を求めた。
軽く内容を把握した呉は柴田に頷き返し、彩の方へと向き直った。強張った表情の彩は呉からの視線を一度逸らしたが、すぐに受け止めた。
「これで終わったんだ」
「・・・いいんですか? この事件は政界のあの人たちの親の力がかかって未解決だったんですよ? あなたたちに迷惑をかけるために『ゲーム』をしたんじゃない」
犯人が捕まったのは嬉しい。しかしそのために呉達に迷惑がかかるならリスクは大き過ぎた。唯だって初めから殺すつもりなどなかった。
彩はただ、零や唯たちに真相を知ってもらいたかっただけだった。
「迷惑はかからないよ。僕と呉を切るリスクの方が大きいからね。呉に至ってはあの人達がそれを許さないと思うし」
水野の意味深な発言に呉に、隣の柴田は溜め息を吐き、呉は曖昧に笑った。まだ唯達が知らない謎が呉達にはあった。
零は何かを悟ったように、呉に対して笑みを浮かべた。勘の良すぎる子だ、と呉は微妙に苦笑し、黙っているようにと目で合図した。零は頷き、放心している彩に近づいた。
「彩、藍さんはこのことがわかっていたんだと思う。前日に僕の所へ来て言ったんだ。『彩のことを頼む』って」
「姉さんに力は・・・」
「なかったよ。でも人間の持っている第六感でわかっていたんだ。虫の知らせとかあるしね。藍さんは最後まで彩のことを心配していたんだ」
静寂が辺りを包み込んだ。様々な思いが渦を巻く。
姉を思う彩の気持ち。弟を思う藍の気持ち。
従弟を救いたかった零。彩を救った呉と唯。
全て聞いたことで、実際見て体験していないが資料を集め、彩のために動いた柴田。証拠を指摘した水野。
そう全てこれは。
「これは予定犯罪だったんだ・・・。藍は全て知っていた」 |