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予定犯罪
作:樒 麻容



7.水野医院


「・・・彩?」
 水野医院を訪れた唯、零、呉の前にいたのは紛れもなく彩だった。水野の前の患者用の椅子に座り、二人は仲良く話している。それはどう見ても初めて会った二人、という光景ではなかった。何度か会ったことがある親しさが表れていた。
 ドアが開いたのに気付いた彩は視線だけを移し、軽く言った。
「久しぶり。元気だった?」
 呆然として言葉の出ない唯、零に対し、呉はやっぱり、と呟いた。何処か確信していた節がある呉の呟きに唯は、前に聞いたセリフを思い出して小さく口に出していた。
『彼はまたきっと現れる』
 零もそれを聞き逃すはずもなく、彩から視線を外し、呉を見た。
「やっぱりって・・・『きっと現れる』ということは」
「水野がね、患者に面白い人がいるって言ってたんだよ。死体の写真を見せて、死因は何かって訊いてきたって。結局その時は何も教えてくれなかったけど」
「それで『また現れる』ね。やっぱり呉さんの予言は当たるわ・・・」
 唯は苦笑して呉を見た。呉は優しく微笑み、目で零を見るように合図した。
「零、久しぶり・・・。もっとも君は会いたくなかっただろうけど」
「まさか」
 否定の言葉を発したきり、零は黙った。
 彩はどう言葉を繋げていいものか迷っていた。零に対して言いたいことは山ほどあった。三年前から今まで溜めていた思いがある。しかし全てを言うわけにもいかないし、何から話せばいいかわからない。
 無言のまま時は過ぎる。水野はというと、この状況を楽しんでいた。水野はいつもこういうとき傍観者を決め込む。下手に口を挟むのは良策とは言えない、という理由より、ただ好奇心が勝ってるだけだった。
 呉がぽんっと背中を押したので、唯は足を一歩踏み出し、二人の間に立った。
「零はね、手紙の差出人がわかった時、少し笑ったのよ。苦笑っぽくね」
 例えるなら懐かしい友人から手紙をもらったような、と付け加えた。
 零がそんな反応をしていたとは思わなかったため、彩は心底驚いた。表情にはっきりと表れる。
「嘘・・・」
「なんで嘘?」
 一歩、零は近付いた。彩は椅子に座っている為、逃げることが出来ない。少し体を引いた。
「嫌われているかと思ったから・・・『なんで今頃』って・・・」
「・・・聞いてたワケ。何もない時に手紙が来たら不思議に思うけど? 手紙が来て、正直嬉しかった。三年前、嫌われていたのは僕の方だったはずだから。・・・嫌いじゃない」
 最後の言葉に安心して気が抜けた彩は、前へと屈み込んだ。
零は彩が聞いていたことに対し、少しも驚かなかった。彩の能力を考えれば可能だった。ただ、あの時感じた意図的なモノや気配は彩だったのか、と納得した。三年間会っていなかったので正体が掴めなかった。三年前ならすぐにわかっただろう。
彩は暫くしてゆっくりと顔を上げた。
「そっか・・・」
 気を緩めた笑顔に唯、呉、水野は驚いた。
 こんな顔も出来るんだ、と。
 零は以前に見た顔と変わっていないことに安心し、ほんの少し表情が柔らかくなった。
「久しぶり。元気にしてた?」
 零特有の口だけに笑みを浮かべる笑顔で手を伸ばした。
「まあね」
 何の迷いもなく手を受け取った彩は立ち上がった。
 それからあっさりと手を離し、背中に回して指を組んだ。
「僕、水野さんのトコロでお世話になることになったんだ。『帰る場所はない』って言ったら、『ここに住めばいい』って言ってくれて。零に嫌われていてもいいから、近くに住みたかった。零と唯と呉さんのいるこの場所が良かった。水野さんもイイ人だし」
にっこりと笑って水野の顔を覗き込んだ。水野は笑っている。二人はまるで兄弟のように見えた。












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