5.事件2
研究室の中には高橋、長谷川、松田、そして今より表情が豊かな彩がいた。時間が変わっている。
「あははっそうなんですか?」
「そうなのよー。もう山なんて行きたくないわね」
楽しそうに笑っている彩の隣には高橋が座っていた。高橋は困ったような表情を浮かべて彩を見ていた。その光景は姉弟のように見える。
真ん中には円形のテーブルがあった。主に談話の為に利用されている空間だとわかる。高橋の隣には長谷川、松田と並んでいた。
「僕はよく研究室に行っていたんだ。理由はどうでもいいよね? 皆と仲良かったよ。・・・僕がそう思っているだけかもしれないけど」
彩はゆっくりと、座っている過去の彩の方へと歩いて行った。
「私、ハチ駄目なのに高橋、無理言うんだもの」
「あーアレね。でも松田くんもキノコ、駄目だったよね?」
高橋の問いに松田は苦笑した。右手をぶらぶら振って彩に笑った。
「前に毒キノコを食べてね・・・それ以来駄目なんだ。笑い系だったんだけど」
「大変だったんですね・・・僕は蛇に噛まれたことならありますよ」
「えー君こそ大変じゃない。松田くんなんて目じゃないよー」
長谷川は松田の背中をバンバン叩いた。咽る松田。
高橋と彩は顔を見合わせ、笑った。
確かに彩の言った通り、仲は良かったようだった。
「何やっているんだ? 少しくらい手伝ってくれてもいいだろう・・・。彩、藍はもうすぐ来るから」
両手に機材を持ち、器用にドアを開けて堂島が現れた。それと同時に、現実の彩は座っている彩に後ろから抱きついた。
「堂島さん・・・あなたのせいじゃないよ」
「ここからはヒントだよ。僕が持っている情報を平等にあげる」
彩は登場人物になりきり、目の前に現れた堂島に声をかけた。現実の彩と過去の彩が重なる。
「堂島さん、この蜂、研究室にいますか?」
彩はいつの間にか一枚の写真を手にしていた。そして堂島の眼前へと移動させた。
堂島はじっくり見た後、少し考えてから彩の方へと視線を移した。
「いたけど、今はいない。遊びに来ていた他の研究員が刺されたからな」
「そうですか・・・」
少し安堵の表情を見せた彩に、堂島は苦笑した。
「大丈夫。ちゃんと知っているから」
今ここにいるのは偽者の堂島だとわかっているが、彩は顔が緩むのを抑えられなかった。その彩の表情は唯には泣きそうで、何かを我慢しているように見えた。涙以外の何かを我慢している。
唯の思考を遮るように、再びコンクリートの壁が現れた。 |