4.事件
「これがその事件だよ。藍は死んだ。蜂に刺されてね」
藍、堂島、その他の登場人物はまだドラマのように物語を作っていた。
彩達の姿は見えていない。なぜなら、この世界は三ヶ月前の事件の日だからだった。
「部屋は密室。密室と言っても鍵は開いていた。蜂は実験用に育てていたのが何故か飛び回っていた」
彩は倒れている藍と警官、その他の関係人物を目で追いながら呟いた。無意識的に視線は藍へと向いている。
その目には今までなかった憂いがあったのを、唯は見逃さなかった。
「藍さんって・・・」
「皆さんはどういう関係なのですか?」
唯の問い掛けは警察官の声にかき消された。
一方的に始まっているドラマ。呉はその劇をじっと見つめたまま動かない。
ずっと堂島の隣にいた女性が代表して答えた。
「薬科大の研究仲間です。藍さんと堂島くんがAチームで私、高橋と松田くんと長谷川さんがBチームで研究していました。研究内容は『虫の毒』について。今は『蜂』がテーマです」
「人物関係はいらないよ。この事件で解くのは謎だからね。まあわかってると思うけど、藍と堂島は付き合っていたんだ」
丁度良いタイミングで彩は話す。今進んでいるのは人物関係の話だった。
「藍の体には多数の蜂に刺された痕が残っていた。白衣に何匹か蜂の死骸が残っていて、室内の蜂は一匹ずつ多種いたんだ」
「容器が開いていて、密室だったんですね」
警官は苦虫を潰したような顔になった。彩はそれに対して舌打ちをした。表情は本当に悔しそうで、唯はある疑問が確信に変わっていくのを感じた。
「あれ? 長谷川さんは部屋に入っていませんね」
「ええ・・・堂島くんの声がいつもとは違っていたので。あと松田くんがドアの前に立っていて入れなかったんです。・・・見せないようにしてくれたんです」
長谷川は目を逸らした。その瞬間に呉と目が合った。いや、視線が重なっただけだった。これは映画のようなモノだ。
呉は劇から目を逸らし、彩の方へ向いた。
彩は微笑し、指を弾いた。
「結果、偶然密室で、偶然刺されたということになったんだよ。警察は事故としてこの事件を終わらせたんだ」
パチンッ、と軽い音が響いた。 |