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予定犯罪
作:樒 麻容



1.手紙


 何かが引き金となって壊れてしまう。
 そんな事が多いから。
 だから犯罪が無くならないんだ。


「これが真実なら…知らなくて良かったのかもしれない」
「それでも、真実は真実として受け止めなくてはいけないよ」
          

 不知火(しらぬい)(ゆい)は目の前に座り、冷たい微笑を浮かべる少年を見て溜め息をついた。
 色素の薄い灰色がかった細い髪。深く、何も映さない瞳は闇のような漆黒だった。
 全体の雰囲気が速水(はやみ)(れい)に似ているトコロが親類だということを表していた。
「一体何がしたいの?」
「ゲームだよ、ゲーム。全ては君に懸かっているんだ」
 木製の椅子がギシッと軋む。背凭れに肘を置いて楽しそうに笑う少年。
 事の始まりは一通の手紙だった。


 梅雨前線が通過した次の日、澄んだ風と共に一通の手紙が運ばれてきた。
 それを受け取ったのは零だった。それは偶然なのか必然なのかわからない。自然のようだったが、零はどこか意図的なモノを瞬時に感じた。気配で感じる感覚があった。
 手に触れた瞬間、零は思わずその手紙を投げた。音もなく、ゆっくりと落ちる手紙から目が離せなかった。
 手に残るのは、一秒でも長く持っていたくないような生理的拒否だった。
「零?」
 零のその行動に驚いた(みなもと)(れい)()は、訝りながらも落ちた手紙を拾おうとした。
しゃがんで触れようとしたその時、
「触るな!」
 零は叫んだ。その声に近くにいた唯、伶香は動けなくなった。
 絶対的な命令。
 今まで一度も聞いたことのない、零の声。威圧的で、しかし怒りはこもっていない警告の声。
 麻生(あそう)(りょう)はその中で唯一普通に動き、手紙を拾った。
「僕はいいんだよね?  『触るな』だから『感応する能力』に影響するワケだよね」
 『感応する能力』、それは『未来を予知する能力』を持つ唯と、『人の心が読める能力』を持つ伶香、そして『過去を見る能力』を持つ零のことを指していた。零の警告では、この中で唯一『物を動かす能力』を持つ亮だけが、触ることができる。
 無言で頷く零を視界に入れながら、亮は手紙に触った。
「その手紙・・・記憶がないんだ」
 平然として封を開ける亮に近寄り、零は鋭い目で差出人の名前を見た。
 やっぱり、と確信に変わる。
『速水彩』
「はやみ・・・あや?」
「『さい』。男だよ。で、従弟」
 亮の間違いを正し、零は視線を逸らした。見覚えのある筆跡が零に残る彩の記憶を鮮明にした。
「従弟? 従弟からの手紙がなんで危ないの?」
 普段通りのペースに戻った空気の中、伶香は亮に近づき、触れないようにして手紙を覗き込んだ。
「『記憶がない』っていうのが引っかかるんだけど」
 唯は零の方へ近寄り、瞳を真っ直ぐに見た。
 零の瞳に浮かぶのは、優しさとそれ以外の何かが混じった複雑なモノだった。
「彩の能力は『反能力』。すべてを打ち消すんだ」
「どういう風に?」
「言葉使って。多分、今回のは『手紙の過去』を『打ち消し』たんだ」
 今まで出会ったことのない能力に、零を除く三人は息を飲んだ。
 つまり今回、能力は役に立たない。
「なんで今頃・・・。彩は何を望んでいるんだ?」
 零の呟きは唯だけに届いた。
 開かれた手紙の中にはたった三行の文があった。

不知火唯は一人だけ仲間を連れて手紙から読み取れる場所へ。
それ以外の者はマンションへ残ること。守らないと唯を殺す。
――――ゲームの始まりだよ?零












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