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姫と騎士と彼女と俺と
作:アバウト



9/迷子の迷子の子猫さん


俺が俳桜に移り住んでから、早数日が過ぎた。なんとか土地にも慣れてきて、俺は迷ったりなんかしなくなってきた。実は俺は方向音痴ではあるが、記憶力は良く、道順を覚えるため、一度行ったことのある場所は迷わず行ける。

今さっき今日最後の授業を終えたところで、今は帰宅途中だ。今は雨が降っていて、傘を忘れた俺は濡れながら帰っていた。走って帰るとか止むまで学校で雨宿りとか考えたが、もうメンドくなって普通に歩いて帰っている。

そんな中、道端でしゃがみ込んでいる女子を見つけた。うちの学校の制服を着ている。近付いてみると、それが結衣であることが分かった。

「なにしてるんだ?」
「え?お兄ちゃん…見て」

結衣の目の前には、雨でずぶ濡れになっている1つのダンボール。その中には同じくずぶ濡れになっている生後間もないと思われる小さな子猫が2匹横たわっていた。

「…生きてるかな?」

結衣は今にも泣きだしそうな顔で聞いてきた。俺は動物を飼ったこともないし、猫の生死の確認ができるわけでもないが、とりあえず子猫に触れてみた。実際に触れても、生きてるかはよく分からない。

「うん、多分生きてるよ。大丈夫だ」
結衣を心配させたくないので、嘘をついてしまった。
「よかったぁ……」

俺は少し腹が立っていた。
飼い主は誰なんだ。動物を飼ったからには、ちゃんと最後まで育てる義務がある。それができないのならなぜ飼うんだ。
でも、世の中にはしょうがないということもある。もし、飼い主が泣く泣くこの子猫たちを捨てたのだとしたら、その心中を察せないほど俺は鈍くない。
そのことを考えると、複雑な気持ちになった。

「人間って、勝手だよ」

結衣がポツリと呟いた。

「…そうだな」

「なんで…こんな可愛い猫ちゃん捨てたんだろう……。許せないよね…」

「…そうだな」

「お兄ちゃん、ずぶ濡れだよ。はい」

結衣が俺を傘に入れてくれた。けど、結衣の傘は2人で入るには小さすぎて、俺の半身は出ている。でも、結衣の気持ちが心底嬉しかった。

その時、こっちに近付いてくる人物が見えた。

「結衣ちゃん、何してるの?…その猫……捨て猫?」

「あ、香奈ちゃん。そうなんだぁ…」

香奈ちゃんは俺に一礼してから、結衣の隣にしゃがみ込み、子猫に触れた。香奈ちゃんはとてもしっかりして真面目そうな感じで、黒髪のショートカットがとても似合ってる。美人秘書みたいな感じがする。

「…生きてるみたいだけど、随分弱ってるみたい」

「そっかぁ…」

なんだか慣れた手付きで猫を撫でる香奈ちゃん。もしかして飼ってたことがあるだろうか?

「香奈ちゃん、だっけ?猫飼ってたことあるの?」

「はい、前に住んでたところで飼ってました」

「じゃあ、その猫、悪いけど飼ってもらったりできないか?」

「……すいません。今住んでるマンション、動物は駄目なんです」

心から済まなそうに頭を下げる香奈ちゃん。なんだかこっちが悪い気がしてくる。その礼儀正しさっぷりに良く分からないが俺も頭を下げてしまった。香奈ちゃんに首を傾げられたのは、言うまでもない。

香奈ちゃん家が無理となると、俺の家で飼うしかないか。猫に罪はない。

「じゃあ、結衣この猫飼おう」

「……いいの!?」

なぜか驚いたような顔をする結衣。

「なんでそんなに驚く?」

「だって動物嫌いそうな顔してるから」

なんだその理由。なんだかショックなことを言われた気がするが…。それと動物は嫌いどころか大好きですけどねっ!

でも大好きっていうのはどうかと思い、「動物は結構好きだぞ」と俺が告げると、結衣は傘を捨てて子猫を抱き、頬すりをして喜び始めた。そんな結衣の傘を拾って結衣の上にさしてから、香奈ちゃんに告げた。

「でも、買い方とか必要なモノがわかんないから、色々教えてくれないか?」

「はい!任せてください。できるだけ力になります」

「ありがとう。それじゃ帰ろうか、結衣。よかったら香奈ちゃんも家によってかないか?早速教えて欲しいんだけど」

「わかしました!」

そう言って香奈ちゃんと結衣が一匹ずつ子猫を両手で抱えたので、俺が2人の傘さしてあげた。傘からすべり落ちた雨の滝が容赦なく俺を襲った。それを見かねた2人がささなくてもいいと言ってくれたが、2人はまぁいいとして、子猫を雨にさらしたくなかったので、さし続けた。




「「ただいま〜」」

2人そろって帰ると、加奈子さんが笑顔で迎えてくれた。

「あら!蓮ちゃんどうしたの?ずぶ濡れで!」

「気にしないでくれ」

え?猫に気付けよ。っていうか本音気にして欲しい。風邪ひきそう。

「あら!結衣のお友達?初めまして、結衣の母です」

「初めまして、朝倉 香奈です」

そこじゃないでしょ?一番びっくりするとこがまだ残ってるでしょ!?

「ゆっくりしていってね。今タオルもって来るわね」

あれ?気付かなかった?なんでだ?これだけ堂々と抱いているのになぜ気付かない。どんだけ鈍感なんだ。

「加奈子さん。猫、いるんだけど」

「知ってるわよ。だからタオルもってくるんでしょ?」

そういい残してスタスタと奥に行ってしまった。あぁ、納得。って俺じゃないのかよ。できれば俺にもタオルプリーズ。

心配せずとも加奈子さんは俺の分のタオルも持ってきてくれた。この家で猫を飼うのも、快くOKしてくれた。もちろん、俺と結衣がしっかり世話をするという条件つきだ。しかし、本当に飼うとなると、色々必要になってくるだろう。そう考えた俺は、香奈ちゃんに必要なモノを聞いてみた。

「猫飼う時って、なにが必要?」

「それより、ちょっと言いにくいんですけど……」

「何?」

少し躊躇うようなそぶりをしてから、香奈ちゃんは話し始めた。

「………捨て猫って、病気にかかってたりするんです。だから、この子たちを病院に連れてってあげてください」

「わかった。病院って…どこにある?」

「繁華街のはずれにあるんです。そこはペット用品とかも売ってます」

それなら一石二鳥だな。早速行ってみるとするか。ここで問題が発生する。GPSでは周辺までしか案内してくれないので、しかも繁華街なら俺は迷わない自身がない。はぁ、方向音痴の兄ってどんだけ頼りないんだろう…。

「…悪いけど香奈ちゃん、俺と一緒にその動物病院に言ってくれないか?」

「いいですよ。でも結衣ちゃんは?」

はい?なぜそこで結衣が出てくる?別に付いてきてもいいけど、もし猫が病気だったら泣き出しそうだしな。さて、どうするか。ここは結衣の好きにさせよう。

「結衣、付いてくるか?」

「もちろん行くよ♪私はこの子たちのお母さんなるんだから」

結衣の中ではもう子猫のお母さん気分のようだ。これなら猫の世話はしっかり結衣がすることだろう。

「じゃあ、早速行こうか」

「それよりもお兄ちゃん、着替えてきなよ。それじゃ風邪ひくよ〜!」

「うーん、じゃあ、ちょっと待っててくれ」

俺は部屋に行き、適当な服を選んで下へ降りた。

「じゃあ、行こうか」


***



動物病院の獣医の話だと、幸運にも2匹とも病気にはかかってないとのことだった。結衣と香奈ちゃんは飛んで喜んでいた。その獣医に、必要な品を教えてもらい、今買い込んでいる最中だ。餌を与えるための皿で、俺と結衣の意見が割れてしまった。

「見ろってこの文字。抗菌、殺菌って。最高じゃん、カビ生えないって最高じゃん」

「それよりこっちの可愛いやつの方が猫ちゃんも喜ぶに決まってるよ!」

「だって、猫でしょ?結衣に猫の趣味が分かるの?」

「同じ動物なんだから趣味は一緒だよ!」

なんだその理屈は。俺は、なんの変哲もない普通のもの。結衣はいかにも女の子が好みそうな可愛らしいもの。しかし、値段は結衣の方が525円高い。それに比べ、俺のは抗菌・殺菌がついている。勝負ありでしょ。

「結衣は抗菌・殺菌のすばらしさを知らないんだ。前に俺の弁当箱で菌が繁殖して中が森みたいになってたことがあるんだ。それくらい菌は恐ろしいんだ」

そこで、香奈ちゃんが俺につっこんできた。

「それって蓮さんがだらしないだけなんじゃ………」

そうとも言う。

なんだかんだでもう5分は言い合っている。ついでに言うと、結衣は今も俺に何か話している。俺も最初は必死な結衣が面白くて言い合ってたのだが、そろそろかわいそうになってきた。というわけで、この辺で折れることにしよう。

「じゃあ、結衣がちゃんと毎日きれいに洗うならいいぞ」

俺がそういうと、今まで頬を膨らませていた結衣が、一瞬で笑顔になった。

「やった〜!ありがとうお兄ちゃん!」

本当に嬉しそうにしている結衣に、早く折れてあげればよかったと少し反省。でも、面白かったからいいや。

「じゃあ、これで全部だから、買ってくるよ」

俺はレジに向かい商品を買うと、一気に持ち上げるが…重い……。猫用品を一式買ったのだから、当たり前だと言えば当たり前だが、予想以上に重いしでかい。

「うわ〜重そうですね」

「……うん。なかなか強敵だよ」

俺はため息をつきながら言った。

「じゃあ、タクシーでも呼びます?」

「う〜ん、そうするかぁ…………ってはぁ!?」

「わっ!びっくりした」

びっくりしたのはこっちだ!タクシー?何それ!最近の中学生はタクシー使うの!?タクシーってあれじゃん、金持ちのアトラクションじゃん。俺なんて金もったいないからタクシー乗ったことない。うわ〜なんかショックだぁ。ここはびしっと金がもったいないといってやろう。

「駄目。金がもったいない。俺は大丈夫だから、先に帰ってていいよ」

「それなら、私たちもゆっくり歩いてるのでがんばってください」

「…了解」

それから俺が家についたのは、お腹の虫が悲鳴を上げ始める頃だった。











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