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姫と騎士と彼女と俺と
作:アバウト



3/初めまして、藤宮蓮です


「なんだよこれ!」

いきなりすいません、でもこれには理由があるんです。それは、藤宮家の表札にすでに俺の名前が入っている!

なぜ!?

「加奈子さん!なんすかコレ!?」

俺は表札を指差して訴えた。

「うふふ、よくできてるでしょう?」

いや、確かに立派でよくできますけど、そういうことではなくてですね。



***



家の中に入るとこれまた驚いた。
シャンデリアが…どでかいシャンデリアがぶら下がってるよ。床は赤い絨毯だし。扉はでっかいし。庭にバスケットコートとテニスコートあるし。なんかメイドっぽい人いるし。もうあれだね。驚きを通り越して笑えるね。


「いつまでそこに立ってるの?座ったら?」

と、加奈子さんがソファーをポンポンと叩く。

俺は言われるがままにソファーに座った。

十分ほど前、訓さんは仕事がどうとか言って出かけてしまった。

どうやら無理をして俺を迎えにきてたらしい。

「早く行かなきゃ殺される〜!」って叫んでた。ちょっとだけ死んでしまえ!って思った自分をしかる。

「訓さんも忙しい人でね。許してあげて。でも、あの人は今日あなたを迎えに行くって聞かなかったのよ。7月9日じゃなきゃダメなんだって。7月9日に、なにかあったの?」

7月9日の話題になると、どうしても暗くなってしまう。

「・・・俺の姉の、命日です」

俺のせいで死んだ日。俺が誰からも愛されなくなった日でもある。
いや、もともと愛されてなんかいなかった。

「元気、だしてね」

加奈子さんは複雑な顔をしたあと、微笑んでくれた。優しい笑顔。きっと訓さんはこの笑顔に惚れたんだろうってくらいに、見る人を幸せにする笑顔だった。

俺はいつから笑えてないんだろう。

いつから、1人でいるようになったんだろう。

それはきっと7年前の7月9日からだ。

ってそんなことは置いといて、俺のこれからについてお聞きしたい。っというか孤児院に返してもらいたい。

「そんなことはいいとして、俺はこれからどうなるんでしょう?」

「どうって?普通にここに住むのよ?」

いやいやいやいや、そういうことでなくてね。

「質問を変えます。俺は帰れないんですか?」

「無理よ」

一言で両断された。

キッパリと断定されたので、言い返す言葉が見つからない。

「それに、もう戸籍移しちゃったし」

なんで俺のことが俺抜きで決められているんだろう?大人ってやっぱり自分勝手だな。



でも、ここで引き下がるわけにはいかない。

どうやら二人きりだと、俺の話を無視したり、はぐらかしたりはしないみたいだ。

ここはキッパリ言わなければ。

「加奈子さん。さっきも言ったけど、俺はあんた達の家族にはなれない。いや、なっちゃいけない気がする」

「どうして、そう思うのかな?」

加奈子さんはとても悲しい顔をして言った。

「………俺みたいな人間が、幸せになんかなっちゃいけないんだよ」

少しの静寂が訪れる。

「そうやって、今までひきずってきたのね。7年間も」

「だって、俺のせいで、姉ちゃんが…。きっと、姉ちゃんも俺を……!」

パァン!

乾いた音が当たりに響く。少し遅れて頬がジンジンしてくる。叩かれた。ただそれだけなのに、それが妙に悲しかった。頬より心が、痛かったのかもしれない。

「あなたのお姉さんは、そんな人だったの?あなたを恨んだりするような人だったの?」

いつのまにか、加奈子さんは涙顔だった。俺はまた、人を悲しませたのか。いつも、いつまでたっても。

突然加奈子さんが俺を抱きしめてきた。女性特有の甘い香りが鼻に付く。

「ちょ、加奈子さん!?」

「捨てられるのが、怖い?失うと辛いから、最初から無くてもいいって思って、だから、最初から1人で居ようとするのね。でも、それも辛いでしょう?」

加奈子さんは、さっきとはうって変わって穏やかな表情で俺に語りかける。まるで、小さな幼い子に母親が優しく言い聞かせるように。

「君はもう十分頑張ったよ。7年間、辛かったでしょう?よく耐えたね。でもね、悲しみは、みんなで分かち合えるものなの。家族や友達の人数分だけ、喜びは大きくなって、反対に悲しみは小さくなるの」

姉ちゃん。

「今まで、重かったでしょう?そろそろ、少しくらい重荷を下ろしてもいいんじゃないかな。院長も、孤児院の先生も、子供たちも、もちろん私たちもそれを望んでる。それに、お姉さんも。」

姉ちゃん。この人はやっぱりいい人だよ。

「降ろすのが無理なら、私たちに分け合って。君はもう、1人じゃないんだよ。私たちは…家族、なんだから」

家族………か。

とても暖かい。なんだか、とても幸せな気分。俺、ずっと家族にあこがれてたんだな。

姉ちゃん。俺、1人じゃないのかな?幸せになって、いいのかな?

今までためてたものがあふれてくる。

7年間、腹に力をいれ、歯を食いしばってなんとか抑えてきたものが、あふれてくる。

「俺、御託ばっかり並べて、俺は幸せなっちゃいけないから孤児院にいるんだって思ってて、ほんとは、ずっと孤児院で待ってたんだ。もしかしたら、いつか・・・母さんが迎えに来てくれるんじゃないかって………」

これが、俺が孤児院にこだわる理由。

加奈子さんは、なにか思いついたような顔をして、俺を体から引き離し、満点の笑顔でこう言った。

「蓮、おかえり」

視界はぼやけてよく見えなかったけど、本当の母さんのようだった。

「…ただいま、母さん」

つられて俺も笑った。あの日以来の、満点の笑顔だったと思う。

俺の涙は、いつのまにか嬉し涙に変わっていた。

俺の体がもう一度「かあさん」にもたれかかる。

「蓮ちゃん?寝ちゃったか」

そう、不覚にも俺は眠ってしまったのだ。

「可愛い」

そう言って加奈子さんは俺の頬にキスをする。寝ている俺には知る由もないことだが。



***



夢を見た。

そこは見渡す限り真っ白な世界で、右も左も上も下も分からないおかしな空間。

ただ、不思議と嫌な気にはならなくて、とても居心地がいい。ずっとここにいたいなんて気持ちにさせるような場所だった。

見渡す限り真っ白な空間に、影が1つ。

近寄ることはできなかった。そこに、まるで見えない隔たりがあるようで。

その人物の顔には、見覚えがあった。

7年間、一度も、一日たりとも忘れることは無かった顔だ。

「姉ちゃん。姉ちゃん!」

「蓮ちゃん、久しぶりね。もう、ちゃんはいらないか」

姉ちゃんは、少し寂しそうに言った。

俺がどんなに走っても、2人の距離が縮まることはなかった。まるで、生者と死者が近づくことを、神が許さないように。

「なんでだよ!すぐそこに居るのに!」

「無駄よ、蓮。悲しいけど、私は死者。あなたは、まだ生きてるんだから」

妙に納得してしまう答えに、俺はうなだれた。

「あんまり、時間ないから、用件だけ言うね。私のことは気にしないで。私の分まで、一杯笑って、一杯泣いて、幸せになって。藤宮さん達は、ちょっと強引だけど、凄くいい人たちだから。家族が悲しんでる時は、あなたの笑顔で笑わせてあげて、逆にあなたが悲しい時は、家族の笑顔で笑うのよ」

俺は今日で2度目の涙を流した。

「うん………うん!絶対、絶対幸せになるよ。姉ちゃんの分まで……!」

「コラ!男の子が人前で泣くもんじゃないよ!」

笑いながら、しかるように言う。

「自分だって、泣いてるくせに」

「女の子はいいのよ!」

「俺、男女差別嫌いなんだよね」

とふざけあって、ひとしきり笑った後、姉ちゃんが口を開いた。

「そろそろ、時間ね」

その言葉を聴いたとたん、姉ちゃんからも、俺からも笑みが消えた。

「最後に1つ、お願いしてもいいかな?」

「うん」

「蓮、笑って!笑ってお別れしよう!」

姉ちゃんは無理に作った笑顔を俺に向けた。

「・・・うん!またね!姉ちゃん!」

俺はあえて「またね」と言った。いつまた会えるかは分からないが、いつの日かまた会える気がしたんだ。
俺のその一言に姉ちゃんはこらえていた涙があふれ出したようだった。

「ほら、笑顔でお別れなんだろ?」

姉ちゃんは手で口を押さえてコクコクとうなずいた。

そして、こう言った。

「ま…またね!」

俺の本日2回目の満点の笑顔に、姉ちゃんもまた満点の笑顔で答えてくれた。

ぼやけた視界の先に、姉ちゃんの満点の笑顔が見える。

それがどんどんぼやけていいって……。


目が覚めたら………。


「なにやってんすか。加奈子さん」

加奈子さんがベッドで寝ている俺の顔を覗き込んで微笑んでいた。

「お姉さんに会えた?」

「な・なぜそれを!?もしかして俺寝言言ってた!?」

「それはもう大声で」

は、はずかちー!!!あ、あのメイドこっちみて笑いやがった!

しかもさっき、抱きついて泣いたからなぁ、まともに加奈子さんの顔が見れない。

きっと俺の顔は真っ赤に染まっていることだろう。

「か〜わい〜い」

とか言って俺の頬を人差し指でつんつんしてくる加奈子さん。

俺の顔はさらに赤くなったことだろう。






「あ、そろそろ時間ね。蓮ちゃん、兄としての最初の仕事よ」
急に加奈子さんが真面目に言う。

「なんなりと」
俺も真面目に答える。

「結衣を迎えに行ってちょうだい。中学校まで」

はぁ!?なんのために!?と思ったが、ここにいてもどうせ暇だろうからOKした。

「あ、でも俺結衣って子の顔知らないよ?」

「うふふ、そんなこともあろうかと」

ジャーンと顔写真を俺に差し出す加奈子さん。
ほ〜うほう。これで分かるってわけだ。

「あ、でも俺中学の場所知らないよ?」

以下省略で地図を俺に差し出す加奈子さん。

随分用意がいいな。と不審に思いつつ俺は家をあとにした。

家を出る時、加奈子さんが俺に言った。

「いってらっしゃい」

それがたまらなく嬉しくて、俺も大きな声で言った。

「いってきます!」











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