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姫と騎士と彼女と俺と
作:アバウト



11/…カッチーン


「お兄ちゃん、入るよ?」

「あぁ」

こんばんは、蓮です。なにやら妹が俺の部屋に侵入してきました。迎撃準備!なんつってー…………頼むからしらけないで。

「ここ教えて欲しいんだけど、いい?」

そう言って俺にワークを差し出す結衣。

「どれどれ?日本史…ね」

ワークにはでかでかと日本史と書かれている。日本史かぁ。日本史なぁ。………どうしよう……。

「…おしい!ほんとにおしい。世界史なら得意なんだけどな」

適当にごまかしておこう。や、中学の日本史がわからない兄って、就職できないお父さんくらいいらない気がする。っていうか中学の日本史が分からない自分にびっくりしたわ!

「あ、じゃあ、これ教えて」

まさかの後ろにワークを隠し持っていやがった!しかも今度のワークには世界史の文字がでかでかと…。

「結衣…そこに座りなさい」

「…何?」

俺のベッドの上に正座する結衣。何もそこまでかしこまらなくても良い。

「人間ってな、前を向いて歩いていかなきゃならないんだ」

「うんうん」

「どんなにつらい過去があっても、後ろ向きに歩くと大きな間違いを犯すんだ。分かるか?」

「まぁなんとなく」

「よって、俺は過去は振り返らない主義だ」

というかさ、いいじゃん、歴史とか。そうだよ!過去を振り返っててもろくなことがないじゃないか!人間前を向いて歩いていこうよ。

「で、ここの答えは?」

「さっき言ったじゃん。過去は振り返らないんだ」

「や、ただわかんないだけじゃないのお兄ちゃん?」

ぎくっ!……勘の鋭い妹だ。そんな妹を持てて兄は嬉しい。しかし、ここは兄の威厳を保たないと。

「そ・そんなわけにゃい……ないじゃないか」

噛んだぁ!もう、泣きたい。

「今の…無かったことにするね?」

「……ありがとう」

でもなんであえて俺に確認を取ったの?できれば何も言わずに見逃してほしかった。

「…勉強、俺に聞かないでくれない?」

「うん、そうするね」

なんて頼りない兄なんだ…。やばっ、視界が霞んできた。

ここで勘違いしないでいただきたいのが、俺は別に頭が悪いわけじゃない。……と思う。単に授業中は寝てるかペン回しの練習してるかどっちかなだけ。今ではもうすごいことになってるよ俺のペン回し。

「ねぇお兄ちゃ〜ん、ちょっと結衣の話聞いてよ」

雰囲気が一変してなんだか真剣にそれでいて泣きそうに言う結衣。雰囲気でここはボケるところではないことを感じる。
ってかなんで泣きそうになってんの?なんだか心が痛むんだけど。

「いいよ。言ってみ」

結衣は思い出すように話し始めた。

「今日の昼休みのことなんだけどね…」


***


「でね、彼方兄、昔サッカーで全国大会まで行ったんだって!やっぱりうちのお兄ちゃん凄いよね♪」

こんにちは、結衣です。今は桜ちゃんが私と香奈ちゃんに彼方君の昔話をしています。
私は自分のお兄ちゃんが大好きだから、あまり面白い話ではありません。

「いいな〜。お兄ちゃん」

香奈ちゃんは純粋に羨ましがっている様子。でもでも私は面白くない。なんだかお兄ちゃんをバカにされている気分。
自分でも顔が引きつってるのが分かる。

「あ、その顔は結衣彼方兄に嫉妬してるな〜!」

なんて勘の鋭い子なの!?

「だって私のお兄ちゃんの方が絶対凄いもん」

あ、意地張っちゃった。

「ないない!彼方兄の方が絶対凄いよ!!!」

「そんなことないもん!」

「スト〜ップ!!!」

ヒートアップしてきたところで香奈ちゃんが止めに入った。
ここまで来たら引き下がるわけにはいかない。
絶対私のお兄ちゃんの方が凄いもん。
何が凄いかって言うのは私も気になるトコなんだけどね。

「じゃあ、今度の球技大会で勝負してもらえばいいんじゃない」

「ええ!?」

なんで!?

「あ、それいい!」

なんで!?


***


「って感じでさ〜、お兄ちゃんと彼方君に勝負してもらうことになりましたっ!」

「…はぁ?」

く、くだらねぇ。なんでそんなことで勝負せにゃならんのだ。
っつか運動の勝負なんだ。まぁ、いいよ。日本史か世界史の勝負じゃなかっただけいいよ。
って勝負なんかしないから!

「お願いお兄ちゃん!」

お願い!じゃないんだって。勝負してもいいけど負けるよ?それはもうコテンパンに負けるよ?
俺これ以上イメージ悪くしたくないんだよね。
一応、主人公的な位置にいるし、主人公が勉強もダメ、運動もダメってもう、自殺行為でしょ。
もしかしたら主人公交代の文字すら頭をよぎりますよ。

「無理無理。負けるだけだって」

「そんなことないよ!」

や、君僕の運動してるとこ見たことあんの?

「だから無理だって」

「もしかしてお兄ちゃん、運動苦手なの?」

「……どうだろうな」

実際のところ俺にもよくわからない。
体育なんて真面目にやった記憶がないし、いつもチームの足を引っ張らない程度に適当にこなしていたので、本気になって運動したことがないのだ。

「とにかくダメだ。大体、彼方は異常なまで運動神経がいいんだ。負けるに決まってる」

そう、彼方の運動神経の良さは異常だ。
それはもう異常だ。百歩譲って俺が運動神経がいいとしても、彼方には絶対に届かない。
っていうか俺は主人公交代なんてしたくない!

「桜ちゃんには謝ってその話は無かったことにしてもらえ」

そう言って結衣を部屋から追い出した。少し可哀想だと思うが、負ける勝負をするなんてまっぴらだ。

それに、なぜだか分からないけど、結衣にかっこ悪い姿は見せたくなかった。
どうしても、結衣の前ではカッコイイお兄ちゃんでいたかった。

なんでなんだろうな…?数分考えて出した答え。

それはきっと、俺が兄だから―――


***


「はぁ」

こんばんは、今さっきお兄ちゃんに追い出されてしまった結衣です。
お兄ちゃん、なんであんなに勝負したがらないんだろう?

私は―――お兄ちゃんが頑張ってる姿さえ見れればそれでいいのに。

そうだっ!桜ちゃんに相談してみよう!
携帯電話を取り出し、桜ちゃんに電話をした。

「あ、結衣?どうしたの?作戦うまくいった?こっちはもうやる気まんまんだよ♪」

どうやら彼方君は快く承知していた様子。

「それがね、お兄ちゃんやらないって…。今部屋追い出されちゃった」

「え………」

その後数分間桜ちゃんが黙りこくってしまった。
え?なんで部屋追い出された私より桜ちゃんが落ち込んでるの?
しかも「え」って言葉が妙に耳の中でエコーしちゃってる。
ちょっと怖い。

「桜ちゃん?どうしよっか?」

「……はっ!な、何!?」

ダメかなこれ。ショックすぎて思考停止してたみたい。

「勝負のことどうしようか?」

「う〜んとね、とりあえず私に任せて!なんとかしてみるから!」

「本当に?大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫!じゃあ、結果は明日の放課後にでも報告するね!ばいばい!」

そう言って電話を強制終了されました。何をするつもりなんだろう?
大丈夫だよね、桜ちゃんだし。
………桜ちゃんだから心配だなぁ。



***
次の日の昼休み
***



「ちょっと、蓮兄!」

「…ええ!?」

こんにちは、蓮です。今は学校昼休み。俺は彼方と例のごとくテラスに来ています。
そしたら知らない子に大声で話しかけられました。
しかも蓮兄です。見ず知らずの少女に蓮兄と呼ばれました。

「おい、どしたんだ桜?」

なんだよ、彼方。知り合いか。ちょっとこの子をどうにかしてくれ。
さっきから睨んでくんですけど。怖いんですけど!
ちょ!顔近い!離れて!

「彼方兄は黙ってて。それより蓮兄!なんで勝負しないんですか!?」

あ〜、なるほど。この子が桜か。それで俺に勝負のことで怒ってるのか。

桜ちゃんは元気そうな子だ。なんだか周りまで元気にしてくれそうな子だな。
髪は結衣ちゃんより色素が薄く、かなり茶色い。
髪を頭の横で束ねているのがまた可愛い。

でも言いたいことが1つ。

「俺はあんたの兄じゃない」

「そんなことはどうでもいいの!なんで勝負しないんですか?」

「やだから」

「もしかしてお兄ちゃんにコテンパンにされるのが怖いとかですか?」

おいおいおい、なんなんだこのお子ちゃまは!何このトゲのある言い方!
君が彼方の妹じゃなかったら俺の右回し蹴りが右後頭部を捕らえてるところだよ?
脳震盪のうしんとうで今頃地面にひれ伏してるよ。

それと、さっきの可愛いは無かった方向でよろしくお願いします。

「おい!桜、いい加減にしろ」

流石だな彼方。俺が言いたいことを言ってくれた。
そうそう、勝負なんてさ、メリットないって。彼方もそう思うでしょ?
あ、いいんだよ。声に出さなくて。わかってるから。

「でも、彼方兄だって蓮兄と勝負してみたいって言ってたじゃん!」

何ぃ!?お前、話に乗ってたのかぁ!?
俺一人で考えて一人で納得して恥ずかしいじゃないか!
なんだよもー、みんなそろいもそろって俺をいじめやがって。

「や、お前、こ、ここでそれを言うか」

たじたじしてんじゃねーよ!
おい、なんで今一瞬こっち見た?なんでちらちらこっち見てくんの?
それってあれか?勝負しようってか?やですよ。

「なぁ、頼むよ。お前、本気でやったら絶対強いって」

お前にそんなこと言われてもな。
嫌味にしか聞こえない。

「彼方兄にまで頼まれてるんですよ!まだ逃げるんですか!?」

………逃げる?俺が?…冗談じゃない。

「…カッチーン」

怒りましたよ、俺。

やってやるよ。勝負だろうがなんだろうが。





この時俺は、なぜか「逃げる」という単語に敏感に反応してしまった。
もしかしたら、俺の今までの人生をリアルに表した言葉が、「逃げる」だったのかもしれない。










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