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サムライソウル
作:卜全


時は江戸っぽい時代。

天下泰平の世は最早、侍など必要としていない。

そんな時代の物語り。



【壱】

チュンッ,チュンッ

スズメの鳴き声がする。

「まったく…、皆、すっかり平和した顔になったな」

男が町を見て一言漏らした。

「そんな事言うもんじゃないわよ、それより平蔵、アレはちゃんとある?」

隣を歩く女が心配そうに聞いた。

「当たり前だ、この先に茶屋がある、そこでお互い、渡そう」

「茶屋!?」

女は茶屋の一言に目の色を変え、走り出した。

「あ、あ〜ぁ、行っちまいやがった…」

平蔵も後に続く。

タッ,タッ,タッ

「!?」

「いっ…」

ドッ

平蔵は横から突然出てきた男とぶつかった。

「っとと、ごめんよ、急いでんだ」

目つきの悪い男、首辺りにチラリと龍の胴体のような刺青が見える。

「お前…、なっ、おい!?」

男は平蔵の声を無視して、走り去って行った。

「…チッ、無視かよ」

平蔵が呆然としている中。

「平蔵、はやくぅ〜」
先程の女はすでに茶屋の椅子に腰掛け、茶をすすっていた。

手には団子、椅子には空の皿が三枚。

「ハァ〜、緊張感が無いんですか?これから大切な取引きがあるのに…」

平蔵はそう言って、女と反対の椅子に座った。

「例の物…ある?」

急に女の声が真面目になり、平蔵にだけ聞こえるように言った。

「御意、こちらに…」

平蔵はそう言って懐を探る。

「………」

探る―。

「……ん?」

探る――。

「どったの?」

女が平蔵を睨んだ。

「………」

平蔵の顔がみるみる青くなり、変な汗が吹き出した。

「ち、ちょっと…」

「あーーーーーー!!」

突然、平蔵が大声で叫んだ。

「うるっさいわね〜、何?何かあんの?」

「す…スラれた」

平蔵が涙目で女を見る。

「へっ…?」

「密書…、スラれちゃった…」

その女、『(モモ)』はそこにいた。








チュンッ,チュンッ

スズメの鳴き声がする。

グゥ〜〜〜〜〜〜

その鳴き声をかき消すかのように浪人の男の腹が豪快に鳴った。

「あ〜〜、腹ァ減ったァ…」

刀を杖変わりにして辛そうに歩く。

ワイワイガヤガヤ…

「あっ?」

ふと浪人は目の前に人が集まっているのを見つけた。


「おっ…何だ?何だ?」

「お尋ね者だって」

「おい、何て書いてあんだよ?」

「お尋ね者…罪状、スリ、捕まえた者に金一封アリだって」

「かぁ〜、悪そうなツラだなぁ」

貼り紙には目つきが悪く、首辺りに龍の胴体のような刺青が見える男の人相書きがあった。

「捕まえた者に金一封…か、しかし、コイツはスリってより殺し屋って顔だな」

「まっ…、わざわざ危険犯してまでやる事はないな」

人々が少しづつ貼り紙から離れようとする中で――

「へ〜、面白そうじゃね〜か」

ベリッ―

先程、空腹だった浪人が貼り紙をはがした。

「あ、あんた…やるのかい?見た所お侍様のようだが…」

近くの町人が男に話しかける。

「おぅよ…、えと…生死問わずだよな?」

「生きて連れて来るに決まってんでしょーが!!」

町人が声を上げて言った。

「あっ?」

男が町人を睨む。

(しまった…、怒らせた…)

町人は冷や汗を流した。

「なぁ…」

「ひっ―」

男の一言に町人はビクッと体を震わせる。

「コイツ捕まえて金貰ったら返すからよ、金貸してくれ、あとここら辺に茶屋でもねぇか?」



その時、流れの浪人、『猿侍(エンジ)』はそこに居た。












チュンッ,チュンッ

スズメの鳴き声がする。

「うわ〜…」

まだ若い男が珍しそうに辺りを見渡しながら町を歩いていた。

(デカイ町だな〜、こんな所で本当に探せるんだろうか…)

若い男はすれ違う人々を注意深く見つめた。

「………」









ダッ,ダッ,ダッ,ダッ

バンッ

「ハァ…ハァ…」

若い男が息をきらしながら走り、扉を開ける。

「真雉君…」

近くの人々が涙を流しながら若い男を見た。

「あ…、うあぁ…」

真雉と呼ばれた若い男はペタリとその場に座り込む。

「し…しょう…、お師匠様…」

真雉の目の前には布団、顔を白い布でおおった―

すでに息の無い男が居た。

「師匠…、し…しょう」

真雉が涙を流し、男の死体にすがる。

「今朝…見つけたんだ、誰かに斬られたみてぇだよ」

「古木様斬るとは…相手は何者だい?」

「わかんね…、ただ、この斬り口、相手はタダ者じゃねぇ、達人だ」

「………」

チャッ

真雉が刀を手に取り、立ち上がった。

「真雉…?何する気だ?」

近くの男が心配した顔で真雉を見た。

「師匠の仇を取って来ます、相手の特徴とかわかりますか?」

真雉は目の涙を着物でふく。

「ムチャだ…、やめろ!」

男が真雉をとめようとする。

「先輩…、仇討ちとかやめろって言うんですよね、確かに、そんな事師匠は望まないかもしれない、でも―」

真雉がとめた男を睨む。

「いや…、お前、俺らん中で一番弱いじゃん」

「あっ…」












(何だかんで結局僕がやるんだよな…、よし)

真雉は町を歩きながら考える。


「そう言えば事件の前に見慣れない男が歩いてるのを見つけただよ」

それは村の人が話してくれた唯一の手がかり。

「龍…、龍の刺青が見える、目つきの鋭い男だ」
村人の証言はそれだけだった。

(手がかりは龍の刺青だけ…か、こりゃ大変だな)

真雉がため息をつくと。

ワイワイガヤガヤ

「ん?」

ふと目の前に人だかりが出来てるのを見つけた。

「何かあったんですか?」

真雉は人混みをかき分けて近くの人に聞く。

「あぁ〜、手配書だよ、スリの常習犯」

「スリ…?」

真雉が貼り紙を見つめた。

「………、?」

「あーーーーー!!」

貼り紙には目つきの悪い、首辺りに龍の胴体の刺青が見える男の人相書きがあった。



その時、男、『真雉(マキジ)』はそこに居た。









【弐】

ワイワイガヤガヤ

スリの貼り紙に集まる町人を隠れながら一人の男が見つめた。

(ヤベェ…、もうこんなに目ぇつけられてたのか)

目つきが悪く、首周りには龍の胴体のような刺青がチラリと見える。

(約束の物は渡したんだ…、さっさと逃げた方が良さそうだな…)

男はその場から去ろうとした時。


「あーーーーー!!」


「いっ!?」

男は貼り紙を見ていきなり叫んだ男を眺めた。

(見た所…田舎者みたいだな、旅費ぐらいにはなるか)

男はこの町での最後の仕事をする為、動き出した。





「ハイ、団子お待ちどーさま」

茶屋の娘が皿一杯の団子を手に走った。

「ありがとう」

桃は団子を一本手に取ると一口でたいらげる。

「え〜っと…桃ちゃん」

幸せそうに団子を食べる桃に平蔵が恐る恐る聞く。

「何?」

桃が目元で平蔵を脅した。

「こっ…これからどうします?」

「………」

桃は団子の串を手に持つと――

ヒュッ

平蔵のすぐ横に投げた。

「ひっ…」

ダンッ

串は茶屋の柱に突き刺さる。

「スッた奴探すしかないでしょ、まったく…忍者が密書スラれる何て、平和ボケしすぎじゃない?」

「す…すいません、てか町中で堂々とソレ言っていいんですか?」

「で…、ぶつかった奴の特徴は?」

「う〜ん…そうですね」

平蔵が頭を抱えて考えた



(ついてる!早速見つけれる何て…)

真雉は貼り紙を見た後、人の多い茶屋を目指した

(あとはあのスリの手がかりを探して…)

浮かれる真雉の後ろから

「………」

男がタイミングを伺うようにそのあとをつけていた。



「ガァ〜〜、ゴォ〜〜〜」

「あの…お侍様?」

猿持は茶屋で寝ている。

「おっ…ど〜だい?あんちゃん、ここいらの名物、『ぴよこ』買ってかない?」

土産物屋の前で男が手を叩き、活気よく真雉に話し掛ける。

(そだ…お土産でも見てまわろう)

真雉が初めて来た大きな町に浮かれている。

その後ろから―

(見た所侍のようだが…問題ねぇ、隙だらけだ)

男が動き出した。



真雉達の居る土産物屋の目前の茶屋に桃と平蔵が居る。

「だぁ〜、何かぶつかった奴の特徴とかないの!」

「んな事言われても…急だったし…」

平蔵が焦りながら前の土産物屋を見る。

「そうそう…ちょうどあんな感じの体格で…」

平蔵が真雉の後ろを歩く男を指さした。



「ここに来たならこれ買わなきゃ損ってもんだ、どうだい?」

「ぴよこかぁ…一つ買ってみようかな」

タッタッタッタッタッ

「あんな感じの目つきに…」

ドンッ

「おわっ!」

男が真雉にぶつかった。

「おっと…ごめんよ、急いでんだ」

男はいつものセリフを言い、そこから離れようとした。

(へへ…チョロいな)
スリの男はぶつかった拍子にずれた着物の上から龍の胴体のような刺青が見える事に気付いていなかった。



「そんで…あの人みたいに首周りに龍の胴体のような刺青があったよ」

「ふ〜ん…龍のような刺青ね」

桃は一息いれたあと

「って…思いきり本人じゃない!」

桃は平蔵にツッコミをいれて茶屋を出て走る。



(今見えたのは龍の刺青…だよな?)

真雉は呆然とその場に立ち尽くしていたが。

ぴーーーん。

すぐに文字通りピンと来た。

「見つけ…」

真雉が思いきり叫ぼうとする。



その時に

ガスゥッ

「がぷぅっ!?」

真雉の頭を何かが踏ん付けた。

「見つけたぁーーーーー!!」

ダンッ

桃は真雉の頭から見事に着地するとそのままスリを追い掛けに走り出す。



「あんちゃん、大丈夫かい?」

土産物屋の店主が心配して話し掛けた

「………」

真雉は地面に転がっている。


「来たな…」

むくっ…

さっきまでイビキをかいて寝ていた猿侍がいきなり、起き出した。

「お…お侍様、起きてたんですか?」

「オッサン、スリはどっち行った?」

「あ…あっちですが…」

町人がスリの男が走って行った場所を指さした。

「おっしゃあ!待ってろよ、金ェ!!」

ビュンッ

猿侍もスリを追いに走り出す。

「は、速い…」



「つっつつ…何だったんだ?あの女」

真雉が頭を抑えながら起き上がる。

「あの〜大丈夫ですかい?」

店主が心配して話し掛けた。

「あぁ、大丈夫、心配かけたな」

真雉は商人の手前、かっこつけて立ち上がった。

「待ってろ…師匠の仇―――」

ガスゥッ

「おざぷぅっ!」

再び、真雉の頭を何かが踏んだ。

「あっ?何か踏んだか、まぁいいや」

猿侍は構わず、走り続ける。





「………」

「あんちゃん、あんちゃん」

土産物屋の店主が真雉をゆすった

「だ…大丈夫、大丈夫、侍はこの程度へでもない」

「そうかい、そいつはよかった」

店主はそう言って店の前のぴよこの箱を指さした。

先程の女と男、それに真雉が倒れた衝撃でぴよこの箱がぐちゃぐちゃになっている。

「………」

店主は真雉に向け、手のひらを出した

「え〜っと…どういう事?」

「お代」

店主がニッコリと笑った。



その騒動の中を

「ククッ………」

平蔵は口元に笑みを浮かべ、桃達とは反対方向に走り出した。









【参】

「ぜっは!ぜっは!」
スリの男が息をきらし、町を走る。

ふと後ろを振り返ると――

「に〜が〜す〜かァ!!」

桃がスゴい勢いでスリの男を追っていた。

「な…なんだこの女!」

男が走りながら舌打ちをした。

「はんっ!あたしをそこいらの町娘と一緒にされちゃ困るね!!」

桃が追いかけながら話す。

「ウチの里の者だってあたしに追い付くのは…」
ダッ!,ダッ!,ダッ!

「ん…?」

後ろからの足音に桃が振り返った。

「…何あれ?」

桃の目線の先には

「オラオラオラオラオラァ!!」

猿侍が叫びながらへいの上を走っていた

「なっ…!」

ダンッ

「よっと…」

猿侍はへいから地面に飛び降り、また走る。

「うわっ!追い付いてきた!!」

猿侍が桃のすぐ隣に並んだ。

「あっ?…んだてめぇは?」

猿侍が走りながら桃を見た

「アンタこそ何者よ…、あたしに追い付くなんて…」

「何だよ…てめぇもアイツを追い掛けてんのか?」

猿侍が首でクィッと前を逃げるスリの男にやった。

「そ、そう!アイツ捕まえるの協力してくれる!?」

桃が猿侍を頼むように見つめた

「はっはぁ〜ん、なるほど…つまり…」

猿侍が走りながら手をアゴにやった

「?」

「てめぇに賞金は渡すかぁ!!いくぜ…Bダァァァァァアッシュ!!!」
ビュンッ

猿侍がその声と共にスピードをあげた

「な…何てめちゃくちゃな奴…」

ビュンッ

桃も圧倒されながらも猿侍の速さについていく。

「逃げ切ったか…?」
スリの男がちらりと後ろを見た。

「オォォォォオ!!」

「待ちなさ〜い!!」

「…何で増えてんだよぉぉお!!」

スリはそのまま走り続けた。



「いい!あたしはね、アイツの持ってる物が欲しいの!!」

桃が先を走る猿侍に追い付き、怒鳴る。

「あん?何だそりゃ?」

「あれが無いと戦が始まるってほどの物よ!!」

「興味ねぇな…、まっ、賞金以外はど〜でもいいぜ」

ダッ,ダッ,ダッ,ダッ,ダッ

「ひ…ひぃ!」

スリの男も後ろを振り返る。

「クソッ…このままじゃ追い付かれる」

男はあちこちを見回った。

「おっ!」

男の顔が赤ん坊を持った女で止まる。

グィッ

「キャアッ!」

男が赤ん坊をひったくった。

「ハァッ…ハァッ」

男は走り続け、目の前はへいに囲まれた行き止まりとなった。

「よ〜やくおとなしくなったな、覚悟しろよ」

猿侍は息ひとつ切れていない

「ハァ…ハァ、あんた何者って、まぁいいや」

桃が息を整えてスリの男を見る。

「さぁ、スッた物を返して貰いましょうか」

桃がスリに近付いた時
「よるなぁ!!」

男が赤ん坊に短刀を向けた

「!?」

「来るな!来るなよぉ…、この子がどうなってもいいのか?」

スリの男がそう怒鳴った。

「あらら〜…人質って事?更に罪重ねちゃうわよ」

「へっ…構うもんかよ、逃げればいいんだしよ、オラッ…道を開けな」

赤ん坊に短刀を突き付け、スリがすごむ。

「ったく…どうしようかね?」

桃はちらりと猿待を見る。

「何が?」

猿待はさらりとそう言い、前に出た。

「えっ!ち、ちょっと…」

「お、おい!来るなっつってんだろ、このガキが見えねーのか!!」

「あぁ?そりゃ見えるけど」

「だったら大人しくしてろ、このガキがどうなっても知らねーからな!!」

「あぁ、知らねー」

チャキッ…

猿待は刀の柄に手をかける。

「ちょっとあんた、そりゃマズイでしょ…」

「あ?知らんガキだぞ、何か問題でも?」

「あるに決まってんでしょーよ!!」

グィッ

桃が猿待の肩を掴んだ。

「いい?ここは私に任せて」

「あ?何でだよ」

「まぁまぁ…いいからいいから」

「お前、賞金は全部俺んだぞ」

「あ〜…はいはい、そんじゃ―」

桃が手を袖の中に入れる。

「手裏剣んんん!!」

団子が出てきた。

「って…あれ?手裏剣、どこやったっけ?」

パクッ…

袖から出した団子を食べつつ、桃がゴソゴソと探す。

「あっれ〜…どこやったっけなぁ」

「おい早くしろよ、腹減んだろが」

猿待が退屈そうに話す。

「ちょっと待って…確かここに、あっ、あった」

桃が再び着物の袖から手を出す。

まきびしだった。

「ありゃ、おっかしぃな〜…、確かにいれたはずなのに」

ポイッ

桃がまきびしを後ろに投げ捨てた。

「ちょっと待てや女!手裏剣あったら何やる気だったんだ!?」

その様子を見ていたスリが怒鳴る。

「あ〜…気にしない気にしない」

「なぁ…もういいか?斬っちまっても」

「だから駄目だって…」

「へっ…へへ、そうだ、動くな」

スリと猿待と桃が睨み合う。

と―――。

「師匠ぉぉぉお!今仇をうちます!!」

「「「!?」」」

猿待と桃の後方、走ってくる少年が一人。

真雉だった。

「師匠の仇ぃ!覚悟ぉぉぉぉお!!」

ザッ←わらじの足音

ザッ←わらじの足音

ザッ←わらじの足音

ザクッ←?

「…え?ザクッ?」

恐る恐る地面を見る真雉。

地面には先ほど桃が捨てたまきびしが転がっていた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

「な…なんだアイツ」

スリがその状況に戸惑ったその僅かの瞬間。

「はっはぁーーーー!!」

猿待が飛び出した。

「!?」

スリがそれに気付き、短刀を赤ん坊に――

グサッ―

「ッ!?」

スリの腕に何かが突き刺さり、短刀を落とす。

串、団子の串だった。

「妙な真似はしないでちょうだい」

串をなげたのは桃だった。

「ぐっ…女ぁ!?」

「よっ!」

ダンッ

猿待はまだスリとの距離があるも跳躍する。

「え?」

が、その跳躍力は一発でスリとの距離を縮め。

ズガァッ

――飛び蹴り。

「ぐぼっ!?」

スリを後方へ吹っ飛ばした。

「ったく…手間とらせやがってよ」

「って!赤ん坊は!!一緒に吹っ飛ばしてないでしょーね」

「赤ん坊…?あぁ、あれか?」

猿待が指差す先は空中。

落下先はまきびしの下だった。

「やば―」

慌てて桃が駆け出す。

が、距離的には間に合わないだろうか。

トッ…

「!?」

「ふぅ…もう大丈夫だよ」

真雉が赤ん坊を無事、キャッチした。

「おぉ…ナイスキャッチ」

「…!?」

真雉、赤ん坊をキャッチするさいに飛び出した為、まきびしが刺さっている。

つまり…

「あぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

真雉の叫び声が天に響いた。












【四】

「さて…捕まえたはいいけど」

赤ん坊は母親に返し、縄でぐるぐる巻きにしたスリを桃、猿待、真雉の三人が囲む。

「皆それぞれ何の用なの?私はコイツにスられたもんがあるんだけど」

「俺は金一封」

「僕はコイツが師匠の仇だからだ」

「…う〜ん」

三人の主張を聞き、桃が考える。

「まぁ用事の優先順位は私→あんた→君で」

桃は自分、次に猿待、最後に真雉を指差す。

「あっ?ざけんな、どう考えても俺→お前→てめえだろ」

猿待は最初に自分、次に桃、最後に真雉を指差す。

「なんで僕だけ優先順位いつも一番下なんですか!仇討ちとかどう考えても僕が一番深刻でしょう!!」

「仇討ちなんて流行らないわよ〜」

「殺しちまったら金貰えねーだろが、オラッ」

「誰になんと言われようが僕はやります、師匠の仇を、今こそ…」

「ち、ちょっと待て、俺はまだ人殺っちゃいねぇ!!」

「おや〜、さっきは赤ん坊を人質にしたクセにぃ」

スリの必死の声に桃はニヤニヤと笑いながら答える。

「あっ…いや、でも人を殺してないのは本当だ、信じてくれ!」

「嘘をつくな!この龍の刺青が何よりの証拠!!」

ズリッ

真雉はスリの着物に手をかけ、強引に脱がした。

「って…あれ?龍の刺青じゃ…ない」

その龍の背中に見えた長い胴体の正体は。

「…ドジョウじゃん、これ」

「ドジョウの刺青?」

「イカスだろ?」

スリは自慢気にふふんと笑う。

「紛らわしいんだよ!!」

真雉はスリに向け刀を抜こうとした。

「まっ…残念だったわね」

桃は真雉の肩をポンッと叩いてスリの前に出る。

「さて…次は私の前ね」

「てめっ、何勝手に」

「まぁまぁ、アンタの用事はコイツを奉行所に届けるだけなんだし、後でいいじゃない」

「…チッ、早くしろよ」

「わかってますって、さぁて…あんたのスッた中で手紙あったっしょ?それ返してくんない?」

「!?」

桃のその一言にスリの身体は凍り付いた。
「…あれ?別に金返せとか言ってないけど」

「あ…、いや、それは…」

「…もしかして、無いの?」

「…ある侍に渡した、そういう仕事だったし」

「…もしかしてアンタ、アレが何かわかっててスッたとか」

「い、いや…、物はどんなのか知らねぇ、ただ、頼まれたんだ!ある男から!!」

ヒュッ

「ひっ!?」

その瞬間、桃が男の首筋に短刀を向けた。

「ヒュ〜ッ♪」

軽く口笛を吹く猿待。

(全然…見えなかった)

その光景に唖然とする真雉。

「…どんな男?」

桃の冷たい目がスリを見る。

「め…、目つきの鋭い、龍の刺青をした男」

「なっ…なんだって!?」

スリの答えに真雉が前に出る。

「…そいつの名前は」

「…な、名前は――」

スリがそう言いかけた時だった。

ドスゥッ

後方から飛んで来たクナイがスリの頭を突き刺し、殺す。

「!?」

「!?」

「あーーーーー!!金一封!!」

猿待の叫びが響いた。

「やれやれ…ペチャクチャといらねー事喋りやがって」

「…アンタは」

「よぉ…桃様」

「平蔵、何の真似?」

そこには手にクナイをもった平蔵が居た。














【五】

「やれやれ…なかなか追い付いてこないと思ったら、アンタ、里を裏切る気?」

「ククク…抜け忍、とでも言いたいんだろ?」

「まぁ…見た感じね、んで、目的は何?」

「…(いくさ)ですよ」

「…戦?」

「今の時代は最早、忍びも侍も必要のないようになって来ている…、でも、それじゃあ駄目でしょう?」

「あ〜…なるほどね、あの手紙が無事に渡れば戦は無くなるからね、あれをスらせたのもわざとって事ね」

「えぇ…、戦は始まらないといけない、そして、戦が戦を呼び、この国は再び忍びと侍の台頭となる」

平蔵はそう言い、チラリと猿待を見た。

「浪人!お前もそうだろ、高ぶらないか?いくさ人としての心が!!懐かしいだろ?戦場の匂いが?」

「知るか」

グリグリと鼻をほじる猿待。

「そう…知るか、だ!…え?知るか?」

「さっきから聞いてりゃ戦だなんだ言ってるけどな、おっ…デケェのとれた」

ごしごしっ…

鼻くそ(デカイらしい)を真雉の着物にこすりつける猿待。

「ち、ちょっと!僕の着物に何してくれてんですか!!」

「こちとら"記憶喪失"でよ、細かい事は知らねぇの」

「なっ…!」

「それよりコラッ!俺の金一封を殺しやがって…覚悟しろよ」

チャキッ

猿待が刀の柄に手をかける。

「…ぐっ、時代に流されたへたれ侍が」

「平蔵、アンタ…私に勝てると思ってんの?」

「まぁ…俺一人じゃ無理だろうがな」

タタタタタタタッ

「!?、浪人…」

桃、猿待、真雉の三人を二十人くらいの浪人が囲む。

「皆、戦に出たがっている者ばかりでね…、俺の意見に賛同してくれた」

「私の手裏剣が消えたのもアンタの仕業ね」

「頭領には孫娘が刺客に殺され、その時にブツも奪われた、とでも報告しておきます、ご安心を」

「ひぃ…こ、これってヤバくないですか?」

真雉がガタガタ震えながら話す。

「…ねぇ」

「あ?」

そんな中、桃が猿待にボソリと呟いた。

「アンタ、強いよね」

「ったりめーだ」

「何人やれる?」

「全員」

「そりゃ心強いわね」

「よ…よし、僕だって」

真雉も気合いを入れ、刀の柄に手をかける。

「あ〜…アンタはいいから、はじっこの方で素振りでもしてなさい」

「道場の稽古じゃないでしょーが!!」

「さて…皆、かかれ!!」

平蔵の掛け声に周りの浪人が三人に駆け出す。

「しょ〜たいむだぜ!!」

ダッ

猿待が一気に跳躍しつつ、回転。

バスッ

そのまま、一人の浪人の腕を斬り落とした。

「貴様ぁッ!!」

間をいれず、浪人が猿待に斬りかかる。

「あらよっ!!」

猿待はバク転でそれを回避し

ズパッ

着地、と同時に手頃な浪人の足を斬る。

「がっ…」

ヒュッ

そのまま足を斬った浪人を回し蹴りで吹っ飛ばした。

「かっも〜ぉん!!どんどん来な」

「す…すごい!!」

猿待の戦いに真雉が見とれた。

(型も何もないむちゃくちゃな我流…、でも強い!!)

「!?、隙だらけだぜ!!」

浪人の一人が真雉に向け、刀を構える。

「おっ!わっ、たぁ!!」

真雉も慌てて刀を抜き、浪人に構えた。

「ん?おいおい…震えてんじゃねーか」

浪人が余裕な顔で一歩、前に出る。

「だ、黙れ!!」

「はっ…強がりやがって、死ね!!」

浪人が刀を上段にふりかぶった。

「うっ!」

真雉が目をつぶる。

ゴキッ

その瞬間、にぶい音。

「だから隅っこの方で素振りしてなって言ったじゃん」

「…あれ?」

真雉がゆっくりと目を開ける。

桃が浪人の首を折っていたのだ。

「そもそも戦いの最中に目をつぶるって…死にたいの?」

「いや…そんな訳じゃ」

ゴソゴソ…

「何やってんの?」

「ん…手裏剣探してんだけど誰も持ってなくて」

「浪人だし、持ってないでしょう」

「あぁ…そうかぁ、じゃあ脇差しでいいや」

桃は殺した侍から脇差しを抜き取ると

ビュッ

浪人の一人にぶん投げ、刺し殺す。

「なっ…なっ!!」

何?何すか…この二人。

めちゃくちゃ強いじゃないっすかぁ!!

バスッ

ドスゥッ

「…う、嘘だろ、何人居たと思ってんだよ」

平蔵が目を見開いて唖然と話す。

それは当然、平蔵の目前には浪人の死体が多量に転がっていた。

残るは自分一人なのだ。

「桃の強さは知ってるが…あの記憶喪失の浪人、やつは何者だ!?」

「さぁて…残るは大将だけか?覚悟しな、食べ物の恨みは怖ぇぞ」

「食べ物の恨みなの?」

「金なんてすぐ食いもんになるからな」

スゥゥゥゥゥウッ

猿待の刀の先が平蔵をとらえた。

「…待ちなさい」

「あ?」

「コイツはうちの里のもんだからね、後始末は私にやらせてもらうよ」

「…へ〜い」

猿待はつまんなそうに刀を鞘におさめる。

「い、いいんですか?あの人に全部託しちゃって」

「黙って見てな…、始まるぜ」



「平蔵…刀を持ちなさい」

「…桃様」

「そんなに戦をおこしたいんだね」

「………」

「確かに今の時代、あたしらは必要ないのかもしれない…」

スッ

桃と平蔵が同時に刀を構えた。

「けど…戦で私らは喜ぶかもしれないけど、泣く人だっているだろ?」

「…桃様」

「さて…行くよ!」

「…御意」

ダダッ

同時だった―

桃と平蔵が同時に走り

ズパァッ

そして、決着は一瞬でつく。

「…強く、なられましたな、桃様」

「………」

ドサッ

平蔵の身体が地面に落ちる。

「…桃様、北へ、奴らは戦を起こす」

「奴らって龍の刺青をした男とか?」

「…はい」

「そう…ありがと」



「…北に居るんだ、師匠の仇」

真雉がボソリと呟いた。











【終】

「本当について来るの?」

「え?ダメですか?」

自分の後をつけてくる真雉に桃が話す。

「いや…ぶっちゃけ足手まといだし」

グサッ

キツい一言が真雉の心臓を貫いた。

「で…でも、目的が一緒じゃないですか」

「龍の刺青の男…ね、ねぇ、アンタはどうするの?」

「あ?俺か」

桃は前をぶらぶらと歩いていた猿待にも話す。

「そ、アンタはこれからどうすんの?記憶を探すとか?」

「んなめんどうな事するかよ」

「あたしらと一緒に来ない?アンタ強いし」

「遠慮しとく」

猿待はぶらぶらと手をふった。

「まっ…運がよけりゃいずれまた会うだろ」

「そうね」

「はい」

猿待の言葉に桃と真雉が頷く。

「んじゃ…またな」


続く…かもしれない。













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