Vol.3 傲れる愚者VS悩める勇者 恋は勢いと土壇場で(1)
車窓に流れる夜景をぼんやりと眺めているサイ。
「――あのコのこと、心配なんでしょ?」
前を向いたまま、ショーコがふと話しかけた。彼女はハンドルを握っている。
「……心配というか、何というか。こう……裏切ったみたいな、気がして……」
――あたしはやっぱり、こういう人達の中にはいられないわ。どうしてもお爺ちゃんのことを思うと、ね。
ナナが言い残していった言葉が、幾度となく胸の内で繰り返されていく。
本当は、彼女の気持ちを守ってやるべきだったのかも知れないと、後悔にも似た気持ちがいつまで経っても消え去らない。被害者である彼女やガイトと、同じ辛さを共有していた筈であるのに、成り行きとはいえ彼はその仇といってもいいスティーレインに力を貸すことを約束してしまった。その時、一体ナナは何を思ったのだろう? もはや考えても仕方がないのだが、それでもサイは引き摺っていた。
ショーコは黙っている。
ハイウェイの照明が、一定感覚で彼女の横顔を照らしては後方へ流れ去っていく。
「……でもね、サイ君」
しばらく経って、不意に彼女は言った。
「あのコは、あなたのことを信じている。決して、裏切ったなんて、思っていないわ」
やけにきっぱりとした口調に、サイはドキリとするのを隠せなかった。
「ど、どうして、そう……思うんですか?」
彼が尋ねると、そこでやっとショーコは彼の方を向いて、ニッと笑った。
「……サイ君、あのコのこと、好きでしょ?」
「な……」
予想もしなかった思わぬ問いに、固まるサイ。
が――ナナに対して嘘をつきたくない気持ちが、彼につい本音を言わせた。
「……好きです。好きだから、なんか、余計に申し訳ないというか……」
「一途ねぇ。今時、流行らないかもよ」
と、ショーコはちらりとサイドミラーに視線を送るや、一気にアクセルを踏んだ。
途端にスピードが上がり、前を走っていた車を立て続けに5,6台追い抜いた。
また元の車線に戻ってスピードを落としながら、彼女は
「……あのコも、あなたのことが好きなのよ。あなたが彼女を好きな以上に、ね」
「は……? どうして、そんな……?」
何を言い出すのかと言わんばかりのサイの質問には答えず、ショーコは前を向いたまま
「――だから、心配は要らないのよ。あなた達二人のことは、あたしが守るから」
真剣な眼差しで口にしたその言葉は、どこか自分に言い聞かせているような風に思われた。
L地区にあるStar-line本部舎に引き上げてきた時には、とうに日が変わっていた。
リファを除くメンバーは皆、戻ってきていた。
装甲車を降りるとショーコは
「機体のチェックとパーツ交換は明日にしましょう。電源だけは降ろしちゃうわね。――サラ! それでいい?」
トレーラーから飛び降りたサラは、見た目にわかるほどに疲れ切っている様子だったが
「……ええ、いいわ。どのみち、明日は何があっても出動できないから、そのつもりでやって頂戴。報告にあげたいから、カメラ映像と稼動データだけは、早めに私にもらえるかしら?」
てきぱきと、指示を下した。
「了解。――サラ、今日はもう、報告書なんか書いちゃ駄目よ」
「わかってる。さすがに、少し休ませてもらうわね」
と言いかけて、
「……サイ君! サイ君!」
立派な造りのハンガーに気をとられていた彼は慌てて
「はい!」と返事した。
「入隊手続きの諸々があるんだけど、明日の朝にやりましょう。今日はもう、疲れているでしょうから、お休みなさい。仮眠室があるから、そこを使ってね?」
「わかりました」
サラはオフィスの方へ行ってしまった。
ショーコは軍手をはめながら
「サイ君も、休んでいいのよ? ここは、あたしやユイちゃんの仕事だから」
「いえ、俺もやりますよ。……あいつ、立ち上げてやんなきゃいけないんですよね?」
「そうそう、そのとーり!」
ピッと指をさしつつ、ユイが駆けて行った。クレーンを操作しにいくのであろう。元気な娘である。
両手を腰に当ててやれやれ、といった表情をしながらショーコは
「んじゃ、もう一仕事だけお願い! 終わったら、寝酒飲みに行くわよ!」
L地区は都市の中心部にごく近いだけあって、この時間になっても眠っていない。
見上げると高層ビル群の明かりが天を照らし、足元では夥しい数の色鮮やかな電飾がなおも輝き続けている。
Star-line本部舎からそう遠くない位置、空中軌道交通システムのレール下にある小さな屋台に、ショーコとサイはいた。ユイはさっさと逃げてしまい、リベルは自分の行きつけの店があるから、いきおい二人きりということになってしまっている。
「んじゃ、入隊おめでとう! それで、これからよろしく! ――乾杯!」
「よろしくおねがいします!」
コップをかちりと合わせて乾杯をした次の瞬間には、ショーコのそれは空になっていた。
すかさずボトルの蓋を開け、どぼどぼと注いでいくショーコ。それをも一気にぐっと飲み干して、やっと彼女はコップを置き
「――あーっ! やっぱ仕事のあとの一杯は止められない! ってモンよね」
もう二杯目なんですけど……と、サイは思ったが口には出さなかった。
酒が回ってくると、ショーコはぶつぶつと日頃の愚痴を言い始めた。とはいえ、仕事の話ではない。飲みに付き合う人がいないという愚痴である。この辛さは、飲める人にしかわからないであろう。
「サラがあの通りで、ユイちゃんはまだ飲めないでしょー? リファは飲んだら訳がわからないし、って、いっつも訳わからないけどさぁ。……よーするに、一緒に飲める人がいないのよ。わかる? この気持ち」
「そ、そーっすね……」
聞かなくても一目瞭然だが、どうにも飲むのが好きらしい。
ショーコはボトルの液体をそのままにぐいぐいとやっているが、サイはよくもこんなきつい酒をロックで飲めるものだと思っている。全く口にしたことがない訳ではなかったが、最後に口にしたのは、いつの頃だったであろう。記憶を辿れば、まだガイトの会社が健在だった時であったような気がする。
社長であるガイトはじめ、気のいい職人達が飲みに行こうという時は、彼やナナも連れて行ってもらったものであった。この都市では飲酒は18歳からで、当時は彼もナナもまだ飲酒の出来ない年齢であったが、酔った職人達に無理矢理飲まされて、右も左もわからなくなってしまったりした。そんな彼を連れて帰ってくれたナナの仕方がなさそうな笑顔が浮かんできて、サイは心がずきりと痛んだ。今頃、彼女はどうしているのであろう。
呆っとしている彼を見て、ショーコがすっと肩に腕を回してきた。
「ちょっと、サイ君! ナナちゃんのこと、考えてたんでしょ?」
酔っているにも関わらず、彼女の直感の鋭さに、サイは動揺してしまった。
「え? いや、別に……。そういうんじゃ、ないんですけどね……」
もう一つ、性格が開けっぴろげで男勝りな割に、リファに劣らず美人のショーコ。酔っているとはいえ、その彼女にびったりと抱き寄せられては、サイとしては心持ちが穏やかではない。その温もりが遠慮なく伝わってくるのである。
恥ずかしさを紛らわせるように、くいっとコップをあおったサイ。
飲み慣れていないせいであろう。気管が焼けるように熱くなり、彼はげほげほとむせてしまった。
あはははとショーコは大笑いしながら
「なーに照れてるのよ! これから美人揃いの職場でやってくんだから、今から恥ずかしがってたら、仕事になんないわよ! ほれ、飲んだ飲んだ! ぶっ倒れたら、あたしが背負って連れ帰ったげるからさ。……なんなら、抱っこでもいいわよ」
そう言って傾けたボトルはすでに空になっている。
「おじさーん、ボトルくれる? これ、瓶の底に穴が開いてたみたい。なくなっちゃったわよ」
物は言い様だと、呆れ半分に感心しているサイ。
ショーコは新しいボトルからサイのコップに酒を注ぎながら
「それにしてもサイ君、よくDG−00、動かせたわね。治安学校で特別教育を受けたサラだって、ついていけなかったのに」
「いやぁ、ずっとボロボロの機体でやってきましたから。あれくらいよく動く機体なら、動かさないと勿体ないと思っちゃいます」
「そう……そうよね」
それきり、目の前でグラスをもてあそびながらショーコはしばらく遠くを見ていた。
やがてグラスの中の酒を一気に飲み干し、
「……サラが前に治安機構にいたって、話したっけ?」
「ええ、聞きました」
空になったグラスに酒を注ぎながら、相槌を打つサイ。
「仇を、討とうとしていたの、あのコ。だから必死になって治安機構に入隊して、フォワードドライバーにも一隊の隊長にもなれる立場になった。努力したもの。……でも、あの下らない男社会は、あのコを弾いてしまった。広報課なんて、どうでもいいところに追いやられて、サラ、しばらくの間まるで生気がなかったわ」
ショーコはくいとグラスを傾けた。
仇、という単語に、サイは妙なニュアンスを感じて取った。それがサラ自身に関することなのか、あるいは彼女に関わる誰かのことなのか、気にはなるもののどうも訊くのが憚られた。彼には、ずけずけと何でも言ったり訊いたりするような神経はない。
何を喋っていいのかわからず沈黙していると、ショーコがふと我に返ったように
「あら、あたしったら、何を辛気臭くなってるのかしら。お酒は楽しく飲まなくちゃねぇ」
カラカラと笑って、サイのグラスに酒を足した。
「サイ君、今日いきなり乗ったのに、随分と凄い働きしてくれちゃったわね。何をしたらどの程度動くかってことまで計算しながら動かしてるみたい」
「まあ、機械のことですから、ある程度は人間が気をつけてやらないと。結構動けるようにメンテナンスされてましたし、俺は動かしやすい機体だなって思いました」
きちんと整備されているという言葉に、ショーコは嬉しそうな顔をした。
自分がメンテナンスした機体を褒められるのは、悪い気がするものではない。
「DG−00はねぇ、少しは無理させてもいいように、駆動部の負荷値を最大までとっておいたんだけど、サラは持て余しちゃったのよね。動きが動き過ぎると、操縦者には負担以外の何物でもない。サイ君があれだけフルに動かしてくれるなら、これからもっといい仕事ができそうだわ」
その言葉を聞いて、サイはふと思い出した。
「そのことなんですけど、ショーコさん――」
翌朝のこと。
「――稼動限界?」
セレアが不思議そうに聞き返した。
「そうです。これを見てください」
ショーコは、一枚の資料を差し出した。
そこには、DG−00の稼動データと、サイの操作反応速度とを対比したグラフが描かれている。
興味深いことに、全く稼動していない部分と急激に動いている部分とが交互にあって、まるでノコギリの歯のようなグラフになっている。それをじっと眺めていたセレアが、ふと顔を上げて
「これを見ると……どうも、サイ君の操作反応速度が、DG−00の反応伝達値と稼動制御値を上回っているように思えるのですが。……違いますか?」
「その通りです」
軽く頷き、ショーコは補足した。
「結論からいって、サイ君をフォワードドライバーに据えるならば、もはやあの機体では彼の操縦技術についていけません。近い将来、伝達系ないし駆動部に蓄積された負荷が重大な稼動障害を引き起こす恐れが大です。こういう事象は前代未聞ですが」
「機体の方が操縦に耐えられない、と?」
ショーコは少しの間言葉を選んでいたが
「……機体自体は、スペックの通り、問題はありません。ただ、サイ君の操縦技術がそれを上回るレベルだったということです。DG−00を入れて日も経っていないというのに、いきなりこう言うのも何ですが」
「それはつまり」
セレアが微笑した。「機体を交換した方がよい、というのですか?」
「はい。治安のために働く以上、彼の腕に相応しい機体を用意することは、この都市にとっても決して悪いことではないと思います」
配備機を交換しろ、というその要求が無論、半ば無茶であることは百も承知している。
Star-lineへのDG−00の配備が決定したのは、つい2週間前のことである。
スティケリア・アーヴィル重工が開発した初代人型CMD「DPX」が治安機構に訓練用機として配備され、そこで得られたデータを元に改良されたのがDG−00であった。この機体はすぐにカスタム化され汎用機として発売されたが、一足先に高性能量産機として市場に出たVU型なる他社機に長ずるところがなく、これといって受注は伸びなかった。
Star-lineはスティーレイン系列である以上VU型を導入する訳にもいかず、またDG−00は稼動部の負荷耐性値が大きいという特徴に目をつけたショーコが、実戦慣れのしていないサラのために装甲を強化した上で入れてもらったのである。操作反応が大きすぎないという点もサラにとっていいのではないかという、半ばショーコの親心みたいなものではあったが、リン・ゼールの得体の知れない高性能機の前にはなす術もなかったというのが、昨日の出動から得た結果だった。
その際、幸運にもサイという優れた操縦者を発見できたのだが、今度は彼の操縦に機体がついていってないのである。システム的に問題があるのではない。問題は、制御部がそれを処理してもハード即ち稼動部にとって大きな負荷がかかってしまっているという事実である。そのことは、先にサイが気付き、昨夜飲んでいる最中にショーコに報告してきたのだった。まさかと思いつつ朝から稼動データを調べ上げ、サイの申告が事実であることを知ったショーコは、セレアがやってきたのを幸い、話をしたのであった。
言ってしまってから、ショーコは内心早まったか、と思わなくもなかった。おもちゃを買ってもらったばかりの子供が、すぐに新しいおもちゃを無心するにも似ている。
が、意外にもセレアは反対しなかった。
「いいでしょう。この件は私からお爺様にお話しておきます。Star-lineの配備機の強化は、スティーレイングループ全体の安全に関わります。それに、DG−00自体、量産ラインに乗ってしまっていた機体ですから、大してコストがかかっていた訳でもありません。操縦者が優秀なら、それに機体を合わせるのは道理だと思いますわ」
彼女の反応に、ちょっとほっとしたショーコ。
「ありがとうございます。ただ、機体の選定ですが――」
ショーコがちょっと言葉を濁したのは、スティーレイン系メーカーが前記のような状態で、DG−00を上回る機体の用意ができないのでは、と思ったからである。
しかし、セレアは事も無げに、
「問題はありませんわ。ちょうど、スティケリア・アーヴィル重工で開発中の試作機がもうすぐロールアウトするようですから、それがどうにかできるかどうか、当たってみましょう。他の操縦者ならともかく、彼が乗るならば、色々な意味で価値があると思いますから、メーカーを説得することもできるでしょう」
それを聞いたショーコの表情が驚いている。
「え……? それって、もしかして、MDP−0……ですか?」
「そうです。さすがショーコさん、よくご存じですね。実はもう、内々で資料ももらってきているのです。これをお渡ししますから、目を通しておいてください」
ファイルの束を差し出すセレア。まだ一般に公表されていない機体のデータだけに、今の段階でこのファイル自体、数千万エルの価値があるだろう。それをあっさり渡してしまうというこの行為は、彼女のショーコに対する信用の何事かを意味している。
「ただし、このことはくれぐれも漏らさないように。漏れれば治安機構はもちろん、リン・ゼールが騒がないとも限りません」
セレアが釘を刺した。
「わかりました。そのようにします」
返事をしながら、彼女は内心躍り上がりたいような気持ちになっていた。
MDP−0。
その存在について、ショーコはちらりと耳に挟んでいた。
スティケリア・アーヴィル重工で開発中の、次世代新型CMDである。新素材を使用することで機体の強度が桁外れに改良され、リレー伝導方式から短縮伝導方式の採用によって駆動部の反応速度が飛躍的に上がっているという。
特筆すべきはMCOSS(Movement Connected Outsides Sensor System)なるシステムの搭載である。機体外部に配置されたセンサーが事細かに周囲の状況を感知し、その情報が高速処理されて駆動部に伝達されるという仕組みで、例え操縦者が慣れていなくとも、このシステムによってある程度外部の状況に対応した動作が可能になるという画期的なシステムであった。
CMD開発競争で一歩後れを取ったスティケリア・アーヴィル重工が起死回生をかけて極秘裏に開発を進めていたらしく、恐らくこの存在はどんな業界通の者でも耳にしていない筈であった。これの製品化に成功した暁には、一躍業界トップの座が待っているであろうことは、ショーコにも容易に想像できる。それ程までに革命的な機体を、ひょんな弾みからStar-lineに回してもらえることになったのである。喜びたくなるのも無理はない。
実は、役割柄メーカーに出入りする機会の多い彼女は、工場の担当者と親しくなっていた。その担当者から、こっそりと新型機開発の話だけは聞いていたのである。が、まさかそんな大層な機体が回されてくるなど現実にはあり得ないから、セレアに機体の選定を相談しかけたのである。
が、これからその機体確保のためにセレアやヴォルデが奔走しなければならないことを思うと、喜びをぬけぬけと顔に出してはいけないような気がした。
ショーコは努めて平静な表情をつくり、一礼して部屋を出ようとした。
「それはそうと、ショーコさん」
そこでセレアが呼び止めた。
「……また、昨日もお酒を飲みましたね?」
「ええ、まあ……。わかりました?」
「とっても臭います。好きなのはわかりますけど、ほどほどになさいね」
「――ショーコちゃん、ショーコちゃん」
司令室を出たところへ、リファがやって来た。
「あん?」
どうせ大した用事でもないだろうと、ショーコは資料から目を上げない。
案の定、リファは
「あのね、たんこぶが出来てたの」
「……で?」
いちいちそんなことを報告しに来たのか、と思った途端、昨日のことが甦ってきて、ショーコはだんだん腹が立ってきた。
彼女はギロリとすごい目つきでリファを睨んだ。
蛇に睨まれた蛙のように竦みつつも、リファは恐る恐る、
「あ、あの、とっても、痛かったなぁ、って……」
見た目によらず、結構リファは恨み深いのかも知れなかった。
また怒鳴りつけたくなるのを懸命に押さえつつ、深いため息をつきながらショーコは言う。「あんたもねぇ、サイ君とかユイちゃんとか、弟妹分がいるんだから、少しはシャキッとしなさいよ。可愛い顔して訳のわからんことやってたら、後ろから蹴っ飛ばされるわよ」
言いながら、最初に蹴っ飛ばしてしまうのは自分かも知れない、とショーコはふと思った。
するとリファは
「だって、だって、あたし、何にもできなくって……それで、それで――」
悲しそうに俯いている。
(やれやれ……)
ショーコは苛つきながらも、そういうことか、と彼女の悲しみを多少理解していた。
その入隊の経緯は、誰も知らない。ただ、セレアが連れてきたということだけを、チームの誰もが何となく知っているに過ぎない。何かしら秀でた技術や可能性を見込まれてスカウトされた周りの面々を見ていれば、いかに自分が何も出来ないか、リファはリファなりに悩んでいるのであろう。加えて――もって生まれたものなのかどうか、常人の域をやや逸した天然さゆえに表からはその苦悩が理解されにくいというのも、彼女なりの辛さであったといえるかも知れない。
ショーコはつと立ち止まり、両手を腰に当てて、
「あんたはあんたなりのやり方があるでしょ? 誰もそれを間違ってるだなんて一言も言ってないわ。他人と自分を比べたって、埒が開かないのよ? このチームの中で、自分が何をやれるのか、何をやったらみんなのためになるか、考えてみればいいのよ。それが答え。――わかった?」
すらすらと淀みなく明確に答えていく彼女に、リファは驚いたような表情をした。
「……それ、あたしのこと?」
「あんた以外の誰のことを言っていると思ってるのよ?」
おずおずと、リファは上目にショーコを見た。
「……まだ、怒ってる?」
「怒りたいけどセレアさんに怒られたし。……ま、次が良ければいいんじゃないの」
リファはそれを聞いてぱっと花が咲いたように表情を明るくし、
「そっか! やっぱり、ショーコちゃんはすごい! お話して、良かった!」
嬉しそうに言って、ぱたぱたと走っていった。
呆れたような仕方ないような、そんな複雑な表情でその背中を見ているショーコ。
(サイ君は黙って、自分の胸の内で堪えてたけどねぇ……。ま、人それぞれか)
<つづく>
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