Vol.6 女神の悲哀、回りだす運命の歯車(7)
その夜は、セカンドグループが当番に当たっていた。
夕食を終え、サイとナナが休憩室で呆っとテレビを観ていると
「……あれ? ショーコさん、いないですねぇ」
風呂からあがってきて姿を見せたユイ。
Tシャツに短パンというラフな恰好をして、タオルで濡れた髪を拭いている。
「ん……。ちょっと、用事があるみたいだ」
言いながら、サイは冷蔵庫から冷えたドリンクを出してやった。
「あ、ありがとうございまーす」
この娘はサイやナナより年下だから、二人やショーコに対してはどこか甘えた部分がある。しかしそれを仕事に持ち込んだりしないあたり、若いながらも聡明な娘であった。
ユイはドリンクをきゅっと飲み干すと、また頭をごしごしと拭き始めた。
「今日は晴れているから、またショーコさん、星でも見ようっていうんじゃないかと思ったんですけど」
首を傾げている。
「……そうね」
テレビに釘付けになっていたナナの視線がこちらを向いた。
「でも、お風呂あがりだから、夜風には当たらないほうがいいわ。風邪を引いちゃうから」
ユイはこっくりと頷き
「そぉですよね。今倒れちゃったら、みんなに迷惑かけちゃう」
「……」
何気ない一言ではあったが、重大な何事かを暗示しているような気がして、サイもナナも自然と口をつぐんでしまった。
二人の胸中を知らないユイは、長くなりかけた髪の先をしきりと触っては枝毛を探している。
そのままテレビに目線をやっていたサイはふと思い立って、休憩室を出た。
階段を上りきり、屋上へと通じているドアを開けた。屋上といっても、普段彼等が非番の夜に来ているそこは二階の上であり、大して眺望が良い訳ではない。正面を見やれば、高層建築物の胴の辺りか、横に長く走っている空中軌道交通システムの軌道が目に飛び込んでくるだけである。
Star-line本部舎は、横長に出来ている。
暗闇に目を凝らしつつ左右を見やると――果たしてショーコはいた。
独り、手すりにもたれてぼんやりと無愛想な都市の夜景を見つめている。
今日は誰かを誘うような気分ではなかったらしい。
サイがゆっくり近寄っていくと、彼女は振り返りもせずに
「……聞こえていたでしょ? 夕方の話」
いきなりそんな訊き方をしてきた。
「……ええ。細かいところまでは、わかりませんが」
心持ち低めなサイの声を、夜の微風が軽く邪魔していった。
彼はショーコの背後に立っている。
「……ホントに、いきなりよ」
ショーコは手すりの上に両腕を組むようにして、その上に顎を乗せている。
「あたし達がX地区へ出動している間に、都市統治機構総務局補佐室次長たらいう人が来たんだって。――でさ」
応対に出たサラに対し
「おたくの隊員にユイ・エルドレストさんがいますね?」
スーツに身を固めた三十代と思しきその男は、のっけから高圧的な態度だった。
「はぁ……それが、何か?」
細長い眼鏡を中指でくいっと上げ
「……ご両親が、大変心配されています。まだ未成年であるにも関わらず、このような生命と身の安全に関わるような職務に就いているということで」
明らかに、見下している。
サラは既に腹に据えかねる思いだったが、そこはグッと堪えつつ
「で? その先を伺いましょうか?」
彼女も若いとはいえ、一隊の長として何度も修羅場を潜り抜けてきている。狂信的なテロリスト達の殺気に比べれば、何ということはない。目を細めて視線鋭く男の顔を見やった。
意外にも強烈な、その圧すような眼差しに、補佐室次長という男は気圧されかけたらしい。目を逸らしながら
「……その、ご両親としても、まだ若いことでもあるし、今はまだ然るべき場所で学びに徹して欲しいと、望んでおられる」
「つまり、こういうことですか」
すっと顔を振り上げたサラ。
「彼女をStar-lineから除隊させよ、と。そして、どこかの大学へ通わせるつもりだと」
無意識のうちに、声に凄みが効いている。
止め処なく湧いてくる怒りを、サラは自分でも抑え切れなかった。
「……ユイちゃんの親御さん、あなたの上司ですよね? 総務局補佐室長という方は。親子の間ですべき話を、あなたのような第三者にさせるなんて、一体、親として何を――」
今さら、何を言っているのか。
彼女は聞き知っている。
ユイの両親はどちらも都市統治機構の高級官僚であり、その家に生まれた彼女は幼い頃から英才教育漬けにされてきた。ろくな愛情も注いでもらえず、二言目には「一流大学に入って、都市機構か国家機構へ」という台詞を子守唄代わりに聞かされてきたという。
十五歳になってハイスクールへと進学が決まったが、そこで彼女は両親と衝突した。両親が希望する学校を無断で蹴り、かねてから興味のあったCMD関係専門のハイスクールへ入学届けを出したことが知れたからである。
「そんな下劣なことを学ばせるために、お前を育てたのではない!」
そう怒鳴りつつ平手打ちを喰らわせた父親。
ユイは瞬間的に、家出を決意した。
まだ何か言おうとしている両親を突き飛ばし振り切り、彼女は泣きながら家を飛び出した。
自分達の考えこそ絶対で、娘の思いなど一顧もしない。よりによって、彼女がもっとも関心を持ち、学びたいと思っていたCMDを「下劣」呼ばわりした。もはや、人格全てを否定されたにも等しい。
家を捨てたものの、ユイには行く宛てもなかった。
数日というもの、雨に濡れて街をさまよい歩いているうち、彼女は思うともなしに思っていた。
あたしが死んだら、パパとママは、悲しんでくれるんだろうか――。
そうして死に場所を探してうろうろと歩き回っていたが、空腹やら疲労のためにとうとう道端で倒れてしまった。
が、運命の女神は彼女を決して見捨てはしなかった。
ユイが気を失って倒れていたところ、偶然にも通りかかった者がいた。
当時十九歳のショーコである。
「……ありゃ? 行き倒れだわ。こんなに若いコなのに」
彼女はユイをおぶって帰り、数日というもの看病に努めた。
目覚めたユイはショーコの大雑把ながらも人情の深さに感じ入るものがあったのか、身の上をぽつぽつと語って聞かせた。
その間、ユイの両親は当然警察機構に捜索届けを出し、彼女の居所も知れることとなった。ショーコの自宅を訪れてきた警察機構係員を見た途端、ユイは怯えてショーコの背中に隠れたりした。それを無理矢理に連れ出そうとすると刃物を手に暴れ出す始末だった。警察機構の係員も、持て余した。
警察機構係員が引き上げた後、泣きじゃくっているユイを見てショーコはさすがに考え込んだ。
が、幸運にもこの時ショーコは治安維持機構Dブロック整備班長の肩書きを蹴っ飛ばして辞めており、縁あってスティーレイングループの子会社に職を得ていた。スティーレイングループはどのセクションも自由闊達で社員は活き活きとして働いており、治安維持機構の閉鎖された暗い職場とは天と地ほどの開きがあった。しかも、会長のヴォルデという人物は非常に精力的で慈悲深く、時間を見つけてはグループ企業に自ら足を運び、せっせと現場を回って歩いているという。ショーコに、一案が閃いた。
(こうなりゃ、一か八か。スティーレインが鬼でなけりゃ、きっと力になってくれるでしょー)
行動力のあるショーコは思い切ってスティーレイングループ会長に直訴の手紙を送り、それは日ならずしてヴォルデの手に届いた。
子会社の一社員から寄せられたその内容に驚きつつも、差出人であるショーコの経歴を調べた彼は、側近に言ったらしい。
「治安維持機構のブロック整備班長に推されていながら辞退とは……。このような優秀な女性が我がグループにいてくれたとは。どうやら、我々もまだまだ、目先が見えていないようだな」
そこからのヴォルデの対応は迅速であった
ユイに直接会って家庭の事情や本人の意志を確認した後、都市統治機構総務局へと足を向けた。
国家統治機構や経済界にもその名を知られた彼の来訪とあって、都市統治機構本庁は大騒ぎとなった。
一室でユイの両親と面会したヴォルデは
「……家庭の事情をどうこうと、私は口を差し挟むつもりは毛頭ない。ただ、娘さんがどうしても両親の元へは戻りたくないという意志がある以上、これを無視してはお互いによい結果は待っていないと思うのだが」
彼の言う意味を、ユイの父親も理解できないではない。
これだけ騒ぎになってしまっているのである。家庭の枠を超えて警察機構やスティーレイングループにまで飛び火している。さらにもめれば、彼もただでは済むまい。そういう理屈から理解できてしまうあたり、親というよりも官僚という機械でしかない。哀しい人間である。
が、母親は嫌な顔をしている。親としての自尊心を傷つけられたとでも思っているらしい。女性ながら、経済局予算管理部副部長という立場にまでなった人間である。
「では、どうしろと仰るのでしょうか?」
彼女はキッとヴォルデを睨んだ。軟化しつつある父親とは対照的に、敵意が剥き出しである。
「……私どもに、娘さんを預けていただきたい」
ヴォルデはきっぱりと言った。
「娘さんは帰宅を固く拒んでいる。かといって、無理強いすれば、恐らく取り返しのつかない禍根を残すでしょうな。私も、関わった者としてそれは何より避けたいと思うし、ご両親もお忙しい立場だ。事を穏便に済ませるのが上策ではありませんかな」
「……」
この官僚の塊のような両親に対する言い方というものを心得ているヴォルデ。
心の奥底でその通りだと思っている二人は、黙って頷いて見せた。
「そこでだ」
ぐっと身を乗り出し、両親の顔をヴォルデは代わる代わる見つめた。
柔和な目つきが、刺すように鋭くなっている。数々の困難を乗り越えてきた場数は、二人の比ではない。その凄まじさに、ユイのまだ若い両親は蟠っていた敵意すら失って、身を硬くしている。
「せめて、将来の進路くらいは娘さんの意向を尊重してあげていただきたい。彼女は機械工学、特にCMD関係に強い関心をお持ちのようだ。幸い、当グループもCMDには力を入れているところでしてな。一流の専門家を揃えた研究機関も出来たところであり、また、現場経験を踏むにしてもメーカーにリース会社もあれば、近い将来警備部門も新設する予定です。つまり、娘さんには学びながら実地の経験も積んでいただくことが可能だ」
「……」
「当社では、社員としての資格を与えるから当然給与も出る。我が社は社宅の整備にもちょいと力を入れておりましてな。――親御さんの前でこういうのも失礼かとは思いますが、彼女の素質としては、申し分のない研究者、あるいは技術者の道が開けていくことでしょう。ユイさんの当面のことは、このヴォルデが責任をもって引き受けます。いかがでしょう?」
この重要人物にそこまで言われてしまうと、両親も拒むことはできなかったらしく、話はその場でついた。
この一件はユイだけでなくショーコの将来をも導き出した。
程なくスティケリア・アーヴィル重工付属のCMD開発機関に配属された二人は、しばらく研究開発職員として働きながらCMD理論の全般を学んでいた。ショーコにすれば不足していた知識を充当し、ユイは自由な環境で思い切り自分が希望する学問に触れることができ、充実した日々を送った。
やがて一年ほど経った頃、新しい話が持ち上がってきた。
ヴォルデがユイの両親にちらと漏らしたところの「CMD特化警備部門」新設である。
独立した会社としての形態をとるその新部門は、一切の運用が所属員の手に任されるほか、出動における豊富なCMD運用パターンのデータを入手できるため、CMDを学ぶには恰好の場となる。これについては強制、という形ではなく、創設者であるヴォルデの推挙、という形式で二人に話が降りてきた。嫌なら、嫌と言えばいい。
当時、ほとんど同居状態になっていた二人。
その夜、ベッドでごろごろしていたショーコは
「……ユイちゃん、今日の話、どうする?」
膝を抱えてテレビを観ていたユイ。ひょいとこちらを向き
「え? Star-lineのことですかぁ?」
「そうそう。云といえば、間違いなくあたし達はそのStar-lineとやらの隊員になる。CMD触り放題に特殊免許取り放題、ついでに給料はガーンとアップ。……ただし、グループ会社の一切を警備しなくちゃならないから、場合によっては寝るヒマなし。学ぶ時間なし。最悪、テロリストに襲われて生命の保証なし。ってカンジか」
正直、ショーコは迷っていた。
もう少し、今の環境でのんびりと、昼間は適当に助手のようなことをして給料をもらいながら、空いた時間でCMDの知識を深めるのも悪くないと思っている。ついでに言えば、これというのはまだ発見できていないが、今の職場なら男もそれなりに数はある。
が、ユイはくるりとショーコに正対し、にこと微笑んで見せた。
「あたしは、行こうと思います! ヴォルデさんみたいにすごい人が、わざわざあたしって、指名してくれているんですから。それに、Star-lineで実績を上げて、助けてもらった恩も返したいんです」
些かも、迷いはない。
現状のままでいいかと思いかけていたショーコは、ちょっと自嘲気味に笑いながら
「……おっしゃ! 一丁、キメますか! Star-lineとやらを、あたし達の手で立派な会社にしてやろうじゃないのよ!」
それを聞いて嬉しそうな顔をしたユイ。
あとでショーコは考えたが、恐らく――彼女が一緒に来てくれることが、ユイにはこの上もない喜びであったのだろう。
二人がStar-line入隊の返事をして間もなく、ヴォルデが二人の元を訪れた。
「……ありがとう、ありがとう。私は、誤った固定観念に縛られた治安維持機構などには、毛頭頼るつもりはない。これから君たちが創り上げる『Star-line』に、グループの安全全てを託したい」
力がこもりすぎて痛いくらいの彼の握手と、そして嬉しそうにしているユイの横顔を目にした時、ショーコはこれでよかったのだと、あらためて思った。
発足まで様々紆余曲折はあったものの、そこで同志となったサラやリファ、リベルにブルーナと共に懸案事項をまとめ片付け、そしてStar-lineは動き出した。動き出して間もなく、サイという超天才ドライバー、そしてやや問題はあるものの、万能隊員で直感の女神・ナナをも得ることができた。
サラにしてみればこの間、自分だけではない、ショーコやその他の面々の汗と涙をしてようやくStar-lineは都市を代表する優良な警備組織へと成長できたのである。そして、言うまでもなく、ユイなどは草々の功労者である。
それを――。
「そもそも、当グループの会長ヴォルデとお父様の間で、話はついていた筈ではありませんか。それを今になって――しかも、直接こちらへ除隊させてくれだなんて。娘さんはそんなことを全く望んでいないのですよ!? ご両親はまた、同じ事を――」
繰り返すのか、と言い掛けてサラは黙った。
不条理すぎるほどユイの両親の言い分に筋が通っていないのは判っている。が、翻って考えてみれば、彼等の家庭の問題に帰着すると言えなくもない。それをストレートに衝くことは、サラには憚られた。
「そ、それは、確かに、あなたの仰る通りではあるのですが。その……」
どすが利いた彼女の戦闘的な態度に、補佐室次長の高慢さはいつの間にか鳴りを潜めていた。
彼のテンションはすっかりただの一役人的な、吹けば飛ぶようなそれになって
「かねてからの貴殿方の活躍は、ご両親も承知しています。しかしながら、今や状況は飛躍的に進んでしまっている。世界的に知られたテロ組織を相手に戦うとなれば、話は別だ。そこまでの了解があって、娘さんを自由にさせている訳ではない。Star-lineとして、彼女の生命と身体の完全なる安全を保証できるでしょうか? ヴォルデ氏との約束においても、そういった危険業務に携わらせるなどという話はなかったということですが」
そう言われれば、少しは理屈として通っている。
しかし、とサラは考えざるを得ない。
これは自分達への建前であって、ユイの両親の思うところは、恐らく別にある。こう言ってはなんだが、あの素直な娘がどうやって育ったのかと疑問に思われるほど、彼女の両親は名利や出世に貪欲で、そのためには自分達の子供をすら利用しかねない。
直接会ってその人となりに触れた訳ではないが、これまでの話をどう総合しても、そういう結論にしかならないのである。
とはいえ、それは彼女の憶測でしかないから、口にする訳にはいかない。
ふうっと溜息を一つ落としたサラは
「……会長とのお話では、そうだったかも知れません。ただ、ユイさんはあくまで後方支援にあって機体をメンテしてフォワードドライバーを支えるのが使命であって、直接テロ組織とやりあえなどと命じた覚えはありません。それに――」
まっすぐに、男の方を見た。
「……そのユイさんに、このファー・レイメンティルの治安と安全は守られているのではないですか? ご両親も、あなたも」
恥かしくないのですか、とまで言おうと思ったが、そこは言葉を慎んだ。
完全にサラのペースに呑まれた補佐室次長の男はしばらく沈黙していたが
「ともかく、私はご両親からの意を受けて、本日前もってお話を伝えに来たということですので。詳しいことは、後日また追って」
事務的な台詞を残して、彼は帰っていった。
――と、いう一幕であったらしい。
「……」
ショーコの長い話を、サイは無言で聞いている。
「ホント、訳わかんないよね。親ってみんな、そういうものかしら? あたしは気付いた時にはもう両親いなかったし、何とも言えないけどさ」
彼女の言わんとしている意味が、サイにもわからなくはない。
家庭の話を、わざわざ自分の部下にさせる。
一体どういう感覚の持ち主なのか、彼にも想像がつかなかった。サイやナナは、少なくともある時期までは親がいた。彼等は、子供に食わせるために身を粉にして働き続け、そして生命を縮めてしまった。
社会的地位や財産があると、そういう親としての必死さは失われてしまうものなのだろうか。サイにはよくわからない。ナナも、同じ事をいうであろう。
「ユイさんには、その話は……」
「まだよ。だけど、遅かれ早かれ、耳に届くでしょうね。ってか、直であのコに両親から連絡がいくかも知れない。ユイちゃんは死んでも拒否するでしょうけど……」
脳裏に過去のシーンが浮かんでいる。
狭い部屋の片隅で、刃物を構えながら喚き続けている彼女の姿が。
その獣みたいな狂気に満ちた目を見て、ショーコはぞっとしたものだった。
しかし、よくよく見れば、ただただ抱えきれない大きな悲しみを宿しただけで――彼女には、何の罪もない。そう思った瞬間、ショーコは胸中にユイへの愛情が怒涛のように湧き起こってくるのを抑えることができなかった。
『……ユイちゃん。あたしがいるわ。あたしが、警察機構なんかには行かせないから。安心して』
そう言って大手を広げた彼女の懐に、ユイは刃物を捨てて飛び込んできた。そのまま、ずっと、いつまでも泣き続けていた。
親から愛情を注いでもらうことができなかった、子供の不幸。
確かにユイは、経済的に恵まれた環境の下で育った。しかしそれは、決して幸福を意味してはいない。
ショーコは物心ついた時から親こそいなかったが、心を許しあえた最愛の妹がいた。
その妹を喪っていた彼女には、何だかユイがとてつもなく愛おしく思えた。スティケリアに配属となって以来、ユイはショーコにべったりで、ほとんど妹のように懐いていた。もし、このままユイがいなくなるようなことがあれば、と、ショーコは居たたまれない気持ちに苛まれている。
――が、これはショーコ独りの胸の内だから、背後にいるサイにはわからない。
ふと我に返ったショーコは、意味もなく呟いていた。
「……何だか、リファがいなくなってから、おかしなことばっかり続くよね」
サラが全てを話し終えた時、セレアはぐっと頭を下げた。
「……ご免なさい、サラ隊長」
「……?」
訝しげな表情で彼女を見つめているサラ。
やがてセレアは顔を上げたが、視線は卓の上に落とされたままでいる。
「それは……正直、今の私には、どうすることもできません。お爺様の、判断をいただくしか――」
そういうことか、とサラは独り納得している。
セレアはセレアで、ヴォルデから一手に任されたStar-lineの運営に心気を絞ってきた。部下となるサラや、その他の面々の要望等々、彼女は嫌な顔一つせず耳を傾けてきた。
しかし。
こればっかりは自分ではどうにも出来ないという事態に直面して、初めて彼女は諸手を挙げて降参した訳である。普段のセレアからは微塵も感じられなかったが、彼女としてもグループ内での軋轢や国際的なテロ組織からの圧迫、それにStar-line内部の諸々がまともに降りかかってきて、総責任者としては非常に辛い立場にいたであろうことは容易に想像がつく。
「……いえ、そんなこと、言わないでください」
サラは泣きそうになっているのを、必死に堪えている。
「ともかく、隊長として非力を承知で言いますが、どうか、会長には、その――」
「わかっていますわ、サラ隊長」
ゆっくりと顔を上げたセレアが、切なげに微笑んだ。
「お爺様の、力を借りましょう。そうすることで解決できるなら、今の私達がするべきことはそれでいいと思うのです」
「その……ユイちゃんには……」
言いかけたサラの言葉を遮るように、セレアはきっぱりと言い切った。
「お話しましょう。隠していても、誰のためにもなりません。明日にでも、時間をみて」
「それは……私から話します。例え結果的に、敵わなかったとしても、私は出来る限り彼女の力になってあげたいですから」
サラの強い思いを込めた一言に、セレアは
「……どうか、よろしくお願いします」
今一度、頭を垂れたのであった。
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