Vol.2 勇者になるための決断、そして運命の女神は二度微笑む(前編)
A地区までたどり着いた頃には、もうとっぷりと日は暮れていた。
この都市が築かれた時に最初に開発されたこの地区は、都市機能が移転されていくにつれて次第に活気を失い、今や経済的に下層の人々が住むだけの区域になっている。都心部から遠いという理由で家賃や地価が低くなっており、旧世代に建築されたままの古いアパートが無数に立ち並んでいる。スラム化という程ではないが、路という路はろくに修繕も清掃もされていないために荒れていく一方で、その薄汚れた地底のような地面から宙を仰げば、くすんだ中層建築アパートが天を圧している。建物と建物の間には洗濯物を干すためのロープが天と地を遮るように張り巡らされていて、疲れ切った生活感だけが澱んだ空気のように漂っている。
かつては都心部や他地区までの地下鉄や空中軌道交通システムが地区の中央まで通っていたが、それもいつの頃かカットされてしまい、今はB地区、F地区に隣接するエリアまで行かないと利用することはできない。この地区は政府からほとんど見捨てられているのではないか、住民達はそう自嘲気味に話し合うことが日常茶飯事になっていた。
F地区側の駅に降り立ったサイは、その近くにあるぽつんと営まれている小さな商店に立ち寄った。今晩の夕飯を買わなければならない。
発展している他の地区にはコンビニエンスタイプのストアが無数にあるが、この地区にはそういう店もない。こうしたエリアでは、防犯上の対策が困難、というのが理由であるらしい。
「……こんばんは」
錆びきって重い扉を開けて中に入ると、妙に鉄くさい。一世代前に流行した鉄骨建築物の名残にはよくある状態で、まだ潤っていた頃のこの地区で、特に集中的に建築されていた。老朽化してくるとその錆の匂いが目立つようになる。修繕なり改築すれば改善もされようが、この地区の誰もがそういう発想を持たなかった。というより、したくてもできないに違いなかった。
中は暗い。いつの時代のものなのか、ほとんどアンティークのような古びた裸電球が一個、天井からぶら下がっているきりである。そして狭い。人が4人も入れば、もう窮屈になるであろう。
商品とて、ろくになかった。陳列棚という必需品すらなく、何かの箱をひっくり返し、その上に無造作に品物が置かれているだけである。商売をしているというには余りに不完全で、しかしこの地域の何事かを象徴していた。
奥の扉がギィーッと開き、サイと同じ位の年かさの女性が顔を出した。
衣服こそよれよれだったが、表情が活き活きとしていて、顔立ちがやや勝気な印象を与える。彼女が登場したことで、荒んだ空間が少しだけ華やいだようになった。
女性はサイの姿を見ると、ちょっとはにかんだ。
「あら、サイじゃない。バイトの帰り?」
「お、ナナ。家にいるなんて、珍しいな」
「……潰れちゃったのよ、お店」
ナナといった女性は、仕方なさそうに笑った。
つられて笑顔を浮かべるサイ。が、すぐに表情を消した。
「じゃあ、また大変だろ? 社長、良くなさそうだし」
「そうね。あたしが戻ってきて、ちょっと嬉しそうだったけど。でもそれじゃ身体は元に戻らないわ。すっかり老け込んじゃって、見ている方が辛い。ウェラさんが毎日来てくれているのが、せめてもの救いかしらね」
彼女は言いながら、肩からずれ落ちている服をひょいと無造作に戻した。決して明るい話ではないのだが、ナナの口調はどこまでもからりとしている。
彼女とその祖父こそ、かつてサイが勤めていた土木建築会社の社長と、その孫娘なのである。もともとサイとナナとは幼馴染であった。二人とも早くに父親を喪っており、サイに至っては11歳になった時、彼の面倒をみてくれていた母親も病気で喪った。そんな彼を励ましてくれたナナの母親も、その一年後に亡くなった。こういう経済的環境で生きていく以上、人々は多少の無理を承知で働かねばならず、そのことが結果として健康を害してしまうらしい。
まだ少年の身ながら、両親を喪ったサイもまた、自ら働かねばならなかった。
そんな彼を時々食事に招き、あるいは知っている伝手を頼って彼の働き口を探してくれたのがナナの祖父・ガイトであった。ガイトはかつて大手の建築会社にいたが、不正を発見してその立場を追われ、やむなく自分で小さな土木会社を興し、細々とやっていた。3年前、サイが16歳になった頃、ガイトは厳しい経営ながらもサイを自分の会社に入れてくれた。
そこでサイはガイトの恩に報いるため、独学ながらもCMDについて学び、会社の所有財産ともいえる一機のCMDを大切に扱うことに努めた。ガイトはそんな彼の姿に感銘し、苦しいながらも会社の必要のためとして彼に重機免許を取りに行かせてくれたのである。サイは現場でCMDを操作する一方、戻ってくると自分でメンテナンスを行った。真面目な彼にはそういう素質があったのかどうか、CMDの一般的な知識にも詳しくなっていった。依頼されて知り合いの会社へ助勤に行き、そこのCMDをみてやることも度々でてきた。
しかし、時代の波は容赦なく彼らに襲い掛かり、ガイトの会社は大手の建築会社の圧迫を受け、潰れてしまった。それ以来、生き甲斐を失ったガイトは一気に体調を崩してしまった。ナナは何とか祖父を養うために遠い都心部の地区まで稼ぎに出ていた。
それが、駄目になってしまったという。
都市は今だに経済成長を続ける一方で、貧困問題は深刻化していくばかりであった。容赦のない技術革新に中小零細企業はついていくことができず、かといって過度に効率化されてしまった労働現場はマンパワーの過剰な雇用を拒絶した。CMDはじめ、機械化するメリットの方が遥かに大きかったからである。
リン・ゼールなど反政府組織の一部は、そういった社会問題を盾にして活動理由に挙げているが、あくまでそれがポーズであることに、ほとんどの大衆は気付いていた。自分達が体のいい理由にされていることに気付かぬほど、大衆というものは鈍感ではない。それらテロ組織が巨大な社会的脅威になろうとも躍起になるのは政府系組織ばかりで、一般庶民にはどこ吹く風であるという現実の裏側には、そういった事情があった。
サイがヴォルデのスカウトに素直に頷けなかったのも、無意識のうちにそういう大衆心理の何事かが作用していたからだと言えなくもないであろう。
ナナが遠くの地区まで出稼ぎに言ってからというもの、元従業員のウェラという侠気ある中年女性がガイトの世話をしつつ、知り合いの卸屋から安く分けてもらった商品を売るという商店の真似事を始めた。
サイにとって今気を許して話のできる相手といえば、このナナかウェラくらいなものであった。
しかし、そのウェラも最近「どうも、体の調子が良くなくて……」と言っていたのを、彼は耳にしていた。このままでは、とてもガイトの世話どころではあるまい。幸いナナが戻ってきたとはいえ、彼女は稼ぎ口を失ってしまっている。これから先、ガイトの世話をしながらどうやって暮らしていくというのであろう?
勝手に気持ちを暗くしているサイの心の内が見えているのか、ナナは努めて明るく
「でも、少しくらいなら貯めてきたから、何とかなるわよ。それに、ここんとこ、機械会社中心に配達仕事が流行ってるっていうじゃない? それなんかどうかなぁって」
傍らの箱の上に腰を下ろして、ナナはそんなことを言った。
一歩早くサイがそれを試してきた訳なのだが、とにかく散々な目に遭った。かといって、それでもいいからやらなければ、生きていくことはできない。今、そのことをナナには言えないような気がした。
サイを相手に知らず知らずぼそぼそと愚痴めいたことを口にしていることに気がついたナナは
「あ、ごめんごめん。早く帰って食事にしたかったでしょ? 久しぶりに会ったものだから、ついついこう、色々とね」
「いや、いいよ。ナナがいると、何か、心強いしさ」
偽らざる心境であった。
どちらかといえば優柔不断で流されやすいサイと、しっかり自分の意見をもってどんどん前に進んでいくタイプのナナ。いつの頃からか、メンタルな部分をナナに支えてもらっていることが多くなっていることに、サイは気が付いていた。
照れたように、ナナが笑う。
「やだ、サイってば。急に何言うのよ? 弱気になっちゃって」
弱気の一つもなるだろう、とサイは思う。これだけ明日の見えない暮らしをしている中で、いつも快活で楽観的(サイからみて、だが)なナナの生き方というのが、不思議な程である。彼女には彼女なりの哲学もあるらしいが、面と向かってそれを聞いたことはない。それをぬけぬけと口にするのは、ナナにとっては恥ずべきことなのであろうと、サイは彼なりに思っている。
だから「……そういう日もあるさ。いつもじゃないけど」と、適当に自分の発言にケリをつけておいた。本当は昼間のドタバタを引きずっていてそのことを言いたかった訳なのだが、何となく口に出すのが憚られた。
「あ、で、どうする? 今日はこれだけしかないわ。いいから持って行って、って言いたいけど、ウェラさんがこれの支払いをどうしているのかが分からないのよ。だから、その――」
「あ、いや、いいんだ。今日は――」
とまで言いかけて、サイはふとポケットの中の五千エル札に気が付いた。
あんな事件があってすっかり忘れていたが、リン・ゼールの人間と思われる男性から怪しげなプログラムの運び賃としてもらったものである。結果としては犯罪に加担するような格好になってしまい、それを成り行きで彼自身が片付けたようなものだが、どうもこの金をもらってはいけないような気がした。彼の中にある軽い後悔の念が、その気持ちの出所であったかもしれない。しかし、この金を無駄にすることなく浄化する手段が一つだけ、あった。
彼はほとんど発作的に、その金をナナに差し出した。
彼女はちょっと驚いたような表情をして
「……まぁ、大金。でも、これ全部買っても、そんなにしないわよ?」
「いや、じゃなくて、その――」
サイはポリポリとと頭を掻いた。
「……社長に、お見舞いさ。世話になってるし、その、今日は」
正直に社長を労わる気持ちが、彼に罪のない嘘を赦した。
「新しく見つけたバイト先で、思ったより仕事が多かったんだ。だから、真っ先に社長に恩返ししたくて、俺。だから……」
「受け取れないよ、サイ」
即座にきっぱりと断ったナナ。
「それは、あなたが生きていくためのものよ。お爺ちゃんの恩は恩。でも、サイは明日も頑張って生きていかなきゃいけないんだから、それはあなたが自分の糧にしなくちゃ」
言いながら、彼女はそっと目頭を拭った。祖父を想ってくれるサイの気持ちが嬉しかったのであろう。
サイはちょっと戸惑ったが、ナナがそういう以上はどうしようもなかった。彼女は、こうと思い切った以上は決してその意向を翻すことがない。
「あ、うん、そう……だよね。こんなもので、恩返しなんて、ならないよな」
泣き笑いしながら、ナナが頷いた。
「あたし今日、いきなりクビにされて、正直どうしようかと思って暗い気持ちで帰ってきたの。……でも、サイがきてくれて、そんな風に言ってくれて、とっても嬉しかった。帰ってきて、良かったみたい」
「……そう、かな」
最後は自分の気持ちであったが、入り口は不純な金の処理であったかもしれない。ナナがこうも喜んでくれていることが却って、苦しかった。いつにもなく心が不安定で落ち着かない。
のろのろと、彼は店を出ようとした。
「あ、サイ? いいの? 大丈夫?」
ナナが追ってきた。
「あ、ああ、うん。用事はそういうことなんだ。あんまり、腹も空いてなくて」
本心がどこにあるかわからない。あんまりにも、自分自身が頼りなかった。
「じゃ、また来るよ」
サイはくるりと背を向けて歩き出した。
「……」
闇に溶けていく彼の背中に何事かを感じたナナ。それは、どこか重く、そしてやや不吉な感じすらした。
急に彼女は、そそくさと走り寄って行き、並んで夜道を歩き出した。
「ナナ?」
「何か、あんまり大丈夫じゃないみたい。あたしの勘が、そういってる」
昔から、ナナの勘は鋭かった。サイの母親が倒れた時も彼女の直感が働いていて、サイはその異変に気が付くことが出来たのである。あるいは、彼にはCMD関係の作業が向いているのではないかと、ガイトに助言したのも彼女である。そもそもCMDに触れるきっかけを作ったのは、ナナであるといってもいい。
彼女にそういう予感がするというのは、余り好ましいことではない。
昼間のことがふと脳裏を過ぎる。
が、ナナはそのことを知っている訳でもなく、根拠はないといえばない。治安こそ悪化していないが、こんな夜に女性を一人歩きさせる方が心配である。
サイはやや無理して笑って見せ
「はは、ちょっと疲れてるしね。……別に何もないから、家に戻りなよ」
ナナは、じっとサイの目を見た。
「……違うの。サイ自身のことじゃなくて」
「俺のことじゃなくて、どういう?」
「よく、わからないわ。だけど、何となく嫌な感じがするのよ」
憂鬱そうに言って、彼女は口を閉じた。
それきり、二人は沈黙したまま暗がりを歩いて行く。
久しぶりに会ったナナに何か話をしようと思うものの、これという話題が出てこない。あるといえば、ようやく見つかった仕事の初日にろくでもない目に遭い、思いがけなくもCMDに乗ってテロリストを叩きのめしたという日中の一件なのだが、今彼女にそれを言うのは憚られた。これといって理由はなかったが――かといって明日からの生活が楽になる訳でもなし、逆にもう仕事には行けない状態になり、しかもナナまでもが失業していた。そんな明るくない条件ばかりが重なって、彼の心を物憂くしていたせいかも知れない。
取り留めもない考えだけが頭の中を堂々巡りしていく。
いつの間にか、サイは自分の意識の中にいた。
ふと、真っ直ぐにいつもの道を行こうとした彼の袖を、ナナが引っ張った。
「こっち。西4C3Lの廃墟、今日壊しちゃったんだって。もう何もない筈だから、ショートカットできるよ」
「そう? 別に、そんな近道しなくても――」
「いいじゃない。少しでも楽しなきゃ、カラダ、保たないわよ?」
それもそうかと思いつつ、サイはナナに従って道を曲げた。
地区はどこも基本的に碁盤の目構造だから、空き地になった区域を斜めに横切ることで、多少は近道ができるということなのである。それに、長いことこの地域に住んでいる二人には、どこをどう通れるかということは、猫のように詳しく知っている。
古アパートとアパートの間の細い小路を縫うように進んでいく二人。彼らは直進と左折を繰り返しながら、方角的には北西の方向へ進んでいるということになる。
当然街灯なんかないから、ほとんど真っ暗である。CとLのつく大きな通りだけは申し分程度に照明があるが、それでも他地区から比べれば月と星の差である。
狭い小路が途切れ、ナナが言った廃墟の取り壊し跡という空き地に足を踏み入れようとした。区域の角にあたるそこはCとLの通りがクロスする場所でもあり、他の場所に比べればやや明るい。
ふと見ると、その空き地に一台の車が停まっていた。
(……見慣れない車だな)
反対側から明かりに照らされて逆光になっていたから最初はよく見えなかったが、車の側面の文字が見えた瞬間、サイはぎょっとした。
ロデリー精密機械会社、とある。
彼の脳裏に、瞬く間に午後のあの出来事が甦った。
不意に荷物の運搬を依頼され、何気なく引き受けたそれが、実はリン・ゼールからその下部組織への密荷であった。あれから詳しい話は聞いていないが、どうやらリン・ゼールのその動きは偵知されていたらしく、監視ネットワークシステムによってサイがテリエラのアジトに到着したところを治安維持機構が現認し、突如一斉に包囲されたのである。要するに、サイでなくとも、あのタイミングで誰かやってくる人間があれば、即座に動き出すというシナリオだったのであろう。運悪くサイが、しかも本当に密荷を運ぶ羽目になってしまったということなのである。
今ここに依頼主、即ちリン・ゼールに違いなかったが――が現れたということは、少なくともサイと無関係ではないであろう。
夕方のCMD乱闘事件によってテリエラのアジトが踏み込まれた事を知ったリン・ゼールが、露顕する引き金となったサイの居所をどうにかして突き止め、口封じにやってきた、と考えて矛盾はない。それが、サイの故意であろうとなかろうと、そんな理屈は彼らには必要ないのであろう。接触した人間は消す、それだけである。
偶然にもナナが一緒にいて、近道しようと言ったがために先んじて彼らを発見することになったが、普通にいつもの道を歩いて帰ったならどうなっていたであろう。張り込んでいたリン・ゼールに見つかって殺されていたに違いない。
しかし、今のサイにはそこまで思い至る余裕はなかった。
咄嗟にサイは、前を歩いていたナナの腕を掴むと、元来た暗い道へ引っ張り込んだ。
そこまでは良かった。
しかし、彼女はそんな事情など知らないのである。強い力でぐいっとやられた彼女は
「ちょっと、サイ! なに――」
声を上げてしまった。
人気のない夜道に、彼女の声はよく響いた。
程なく、空き地の方から
「――おい、誰かいるぞ!」男の声がした。
(やばい! 絶対、やばい!)
サイの背中に冷たいものが流れていく。
立ち往生している彼の顔を不思議そうに覗き込むナナ。
「……サイ? どうかしたの?」
「……」
二人は、建物と建物の間にある狭い小路にいる。
まごついているうち、その出口のあたりに、人影がさした。
「そこに誰かいるのか!?」
暗いといっても、人の気配がわからぬ程ではない。男は、二人の存在に気が付いたらしい。
「……ゲル! モス! こっちに人がいる。若い男女だ」
「何ィ、若い男女? それぁ、昼間のあのガキじゃねぇのか?」
一帯に人気がなくシンとしているから、その程度の会話でもよく聞こえてくる。
明らかに、サイのことを言っている。
彼は怖気が立った。このままでは、男達がやって来てしまう。
幸い、背後には逃げ道が続いており、しかも細い小路が網の目の様にはしっている。
「――走るんだ、ナナ!」
いきなり彼女の手を握ると、一気に駈け出すサイ。
「ちょっと! 一体、どうしたのよ! 何で逃げるのよ?」
「いいから! 事情はあとで説明するから!」
逃げるしかない。
どういう手段を使ったのか、わざわざ彼の居所を突き止め、先回りして待ち伏せしているような連中である。捕まったが最後であろう。
「――おい! 止まれ!」
後ろで声がしたが、構わずサイは走る。意味もわからないままそれに付き合わされるナナこそ、災難であったろう。
適当なところで彼は、左に続いていた細道に駆け込んだ。
その直後、パァン、という音が彼の耳に届いた。そう遠くはない。
「サ、サイ? 今の、今のって……」
ぎょっとしたように、ナナが聞いてきた。
前を走っているから表情こそ彼女には見えなかったが、サイはほとんど必死の形相であった。答える余裕など、全くなかった。
上手く道を変えて行かなければ、後ろから撃たれてしまう。
得体の知れない恐怖が、全身を貫いた。
「……」
考えなしに走り、いきなり途中で横道に逸れるサイ、そしてナナ。
その瞬間、パァン と乾いた破裂音と、キュンッ、という銃弾が弾かれる音がした。
廃墟街の静けさに、その殺意のエコーはよく響いた。
もはや、ナナも口を利かない。今の銃声で確信していた。
自分達は何者かに命を狙われている。その理由は、どうやらサイが知っているらしい、ということを。
が、とりあえず今は、逃げるしかない。
ナナは懸命に、彼の背中を追いかけ続けた。
<Vol.2 続く>
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