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Star-line
作:北野 鉄露



Vol.5 暗い月明かり、微かな星の瞬き(1)


 見上げれば、かすんだ夜空に突き出された高層ビル群が放つ光が目に痛い。
 が、天上とは対照的に、この足元の暗さたるやどうであろう。
 ハイウェイや軌道交通システムが地上を離れて宙に張り巡らされたその結果、地上は建築物の基礎や橋脚が据えられるだけの存在となり、まともに整備されている箇所を探す方が難しくなっていた。
 昼間ですら光のないこの地上には、夜にも当然あろう筈がない。
『――ひいぃぃっ! か、勘弁してくれぇ!』
 暗がりで、両手足を引き千切られ粉砕され、首すらもぎ取られてボディだけになって転がっているCMDがある。
 その辛うじて活きているらしいスピーカーから、泣き叫ぶ男の声がする。
 そこへ、一機のCMDがゆっくりと歩み寄って行く。
 完全な人型をしたその機体は、天から零れ落ちてくる光を受けて、時折ちらりちらりと黄色く輝いた。
 右手マニピュレータには、ごろりとした不格好な首を掴んでいる。それをぽいと無造作に背後へ放り投げるや、ぴたりと歩みを止めた。
『……勘弁? へぇ、自分らは散々暴れたくせに、いざとなったら泣いて許しを請うんだ』
 若い女性の声である。落ち着きすぎていて、むしろ冷酷さすら感じさせる。
 頭部メインカメラを保護しているガードフィルタがピンク色に発光した。
 そうしてすうっと右脚をあげると
『許す訳ないじゃん――』
 次の瞬間。
 ドキャン! と鈍い金属音が闇に轟き渡った。
 完全に原型を失ったコックピットブロック。ハッチが無惨にひしゃげ、大きくへこんでいる。
 そこからはもう、哀れな男の声が聞こえてくることはなかった。


 放り出した数枚の資料が卓の上に散った。
「――ってことで、失格。あんな危ないもの搭載した機体に乗せるドライバーなんて、何人いても足りやしないわよ」
 ソファに踏ん反り返ったまま、突き付けるように言うショーコ。
 対している初老の技術者・ロイは一枚一枚丁寧に資料を集めながら
「確かに、仰るとおりです。多くの稼動実績を元にしたとはいえ、それを検討した人間が実地を踏んでいないというのは大きな誤算でしたな。全く、机上のプランでした。なんともお恥かしい」
「……しかし、対外感知連動制御機構のあり方として、MCOSSが決して間違っていたとは言えないのではないでしょうか? 幾ら鍛えた軍人だって生身で銃砲火を受け止めることはできないように、どこまで技術水準を高めたとしても、予期しない状況は存在します。軍用の強力なジャミングが市中で使用されるだなんて、これはレア中のレアケースなのでは――」
 その隣に座っている若い技術者は不満を露にした。自分達が総力を結集して開発した技術にケチをつけられてはたまったものではないであろう。
 が、ショーコは冷然としている。
「それは仕方ないし、あたしもサラもそのことをどうこう言うつもりはないの。ただ、いざとなったら素直に引っ込んでくれるようなシステムじゃないと迷惑なのよ。稼動記録、みたんでしょ? 動かないプログラムにいつまでも強制介入されてご覧なさい。乗ってるドライバーが幾ら腕利きだって、なぶり殺しにされるだけじゃない」
「……」
 彼女の言わんとしていることが判らないではない若い技術者。何かを言いかけたが、ぐっと黙った。
 言うべきことを伝えたと思ったショーコは、流れ始めた沈黙を潮に立ち上がった。
「MDP―0のリアルテイスティング実績については、引き続きお届けいたします。ただし、今後我々としてはMCOSSの搭載は控えさせていただきます。Nセンサーは詳細な概況をドライバーに伝達できるという点で、そのままでも十分な効果を上げていますから」
「いや、よくわかりました」
 ロイ、そして若い技術者も立ち上がり
「MDP―0の運用につきましては、貴殿方Star-lineに全面的にお任せいたします。その方がよい記録を得られることにつながりましょう」
「無理を言って申し訳ありません。ご協力に感謝します」
 そう言って差し出したショーコの手を、ロイは握り返した。
 彼女が部屋から出て行くと、若い技術者は大きく溜息をついた。
「……Star-lineの言い分は判りますが、ああいう言い方をしなくとも」
 いかにも好々爺といった趣きのロイはフフ、と穏やかに笑い
「研究者というものは、自分で自分のハードルを決めてしまう癖がある。それを高めてくれているのだから、冥利というものではないかな。――また一つ、やり甲斐ができたよ、私は」


「――ただいま」
「あ、ショーコさん。お帰りなさい!」 
 快活なユイの声が飛んできた。
 持ち帰った書類を自分のデスクにどさどさとぶちまけながらショーコは
「あれ? サラは? 今日なんか予定入っていたっけ?」
 下を向いて書類を書いていたブルーナが顔を上げた。
「サラ隊長なら、今お客様がみえています。警察機構の刑事さんですわ」
「刑事? 最近、なんかあったっけ?」
 ここひと月ほど、警察機構と仲良くしなければならないような出動は起きていない。
 ショーコが首をひねっていると
「……多分、昨日Q地区であったCMD乱闘事件のことじゃないですかぁ? 活動を始めようとしたテリエラ機が何者かに襲われて、ドライバーが瀕死の重傷を負ったらしいですよ」
 朝はテレビから始まる早聞きのユイがそんなことを口にした。
「ふーん。テロ行為を未然に防いだのはいいとして、やり過ぎよね。……どこのどいつかしら?」







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