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Star-line
作:北野 鉄露



Vol.3 傲れる愚者VS悩める勇者 恋は勢いと土壇場で(6)


 碁盤の目状に配されているファー・レイメンティル州二十五地区のうち、北から2番目、西側から2番目に位置しているのがG地区である。
 都心部に近接する地区でありながら、港湾部や他州へのルートバイパスと反対側に位置しているという地理的条件のため、近年まで大規模開発の手が及んでいなかった。ようやく開発が始まるも、中小工場の割合が高かったためになかなか難航を極めた。工場主や従業員が団結して、立ち退き反対運動を大いに展開したためである。その背景には、A、B,F地区といった貧困層居住区が隣接しており、従業員の多くがそこに住む者達だったという事情がある。しかし結局は都市統治機構を後ろ盾とした大資本の手によって彼等は追われ、跡地には大手メーカーの工場が姿を現したのであった。
 従って開発の進行が遅れたことによって地区自体の地理的有効性にも変化が起こり、大手企業の中でも特に最大手のメーカーが、生産強化のために第二工場的な機能の施設を建設した例が多い。
 生産性を第一としてその機能に特化された他地区の工場と比較して、第二工場と称されるそれらの施設には生産ラインだけではなく、研究開発機能も付属しているケースが目立っていた。新規に開発された製品を即座に生産ラインにのせるという、傍目には単純な意図なのだが、CMDについてはこれがどれだけ開発競争に火をつける結果になったか、その功罪は計り知れない。国内の世情不安に伴い、治安維持機構のCMDスペックに対する関心度が高くなったというのが、その最たる理由であろう。はたまた、再開発の進むファー・レイメンティル州にあっては、より高性能な土木作業用CMDの需要が高かった、という面も見逃せない。
 そういう新拠点としてのG地区は、都心周辺部の地区の中では特に景観も考慮されている。不健康な灰色の工場ではなく、白く近代的な外装を義務付けられており、また敷地やその外周には緑化スペースも確保しなくてはならなかった。
 しかし、そういう配慮が一体誰のためになされているのか、それを知るような市民はどれほどもいないに違いない。
「――ふん。開発、開発、か。愚劣なものだな、都市機構のお偉いさん奴は。結局は税収対策と企業誘致しか頭にないんだろうが」
 腕組みをして、ヴィオがぼやいている。
「まぁ、そういう仕組みになっちまってんだよ、この社会は。本当に困っている人間が声を出せなくされて、一握りの特権奴が上手い汁を吸えるように日々改造されていっている。もうちっとマシな社会だったら」
 窓を僅かに開け、短くなった煙草を放り投げたグロッド。
「――俺も、テロの片棒なんか担がないで済んだろうよ」
 それを聞いたヴィオが、その鋭い眼差しを彼に向けた。
「お前がリン・ゼールにいる動機は、それか?」
 グロッドは前を向いたまま、思い出したように時々ハンドルを動かしながら
「……さぁな。今となっては、よくわからん。所業が所業だ。もう、どういう大義名分も通用するまい。ただ社会の鼻つまみ者でしかあるまいよ」
 自嘲気味にそう呟き、あとは黙った。
 ヴィオはそんな彼に対して不満そうに
「だからここの連中には覚悟が足らんと言うのだ。宗教対立で明け暮れしているアミュード・チェインの奴らは、自分が信じる神のために平気で命を投げ捨てている。そういう自己懐疑にとらわれているヒマなんかはない。生きるとは、常にそういうことだ。違うか?」
 多少興奮気味に問いかけてきたが、グロッドは興味なさげに
「……神は、同胞同士で殺しあうことを命じたもうた、か?」
「貴様ァ……まだ俺の言うことが――」
「そろそろ、ポイントに着くぜ。乗っておきな」
 持て余し気味に、グロッドは促した。
 ヴィオは忌々しげに彼を見ていたが、やがて
「……フン!」
 座席の背もたれを水平に倒すと、くるりと後転するようにして後方へと消えた。
 横目でそれを見送ると、グロッドはちょっと声のトーンを上げて叫んだ。
「1615スタートだ。迎えは1630! 準重点警戒特区だからな、遅刻したらそれまでだ! わかってるな!」
「――わかってる! お前こそ、ヘマをするなよ!」
 背後でヴィオが叫ぶ声が聞こえた。
(妙に自分を信仰しやがる……。お国柄なのか?)
 内心で呟きながら、グロッドはヘッドレシーバーを頭からかけた。
「……各車、聞け。一度だけ言う。1615をもって作戦を開始する。ナンバー2と3は西側、ナンバー4と5は東側にて待機。ナンバー1が正面から突入次第、各機行動を開始せよ。目的は新型MDP―0の奪取。スティケリアのセカンドにあることは確認済みだ。手段は問わない。……以上だ!」


 その頃。
 スティケリア・アーヴィル重工セカンドファクトリーでは、Star-line一行が開発主任ロイ・マッケンリーの出迎えを受けていた。
 技術畑一筋できたらしいこの初老の技術者は、やってきた新進気鋭の警備部隊員の半数以上が若い女性であることに驚いたようであった。
「いやいやいや、時代は既に女性へ主導権を渡したようですな。頼りない男性連中への、時代の鉄槌なのでしょう。ようこそ、お越しくださいました」
 穏やかそうな好々爺を思わせるロイは、そんな大袈裟な表現で自分の驚きを伝えた。
「Star-line隊長サラ・フレイザです。この度は、私どもの無心を受け入れいていただいて、感謝の仕様もありません」
 そう言って差し出した手をロイは握り返し、
「いやいや、貴方達の目覚しい活躍は、会長はじめ各方面からも聞いております。一昨日は、A地区のスティリアム物理工学研究所を襲った賊を、十分かからず仕留めたとか。――それで、そのドライバーは……」
 サラがちらりと後ろを振り返ると、サイがぼんやりと建物を見上げていた。余りに立派な普請を目にして、度肝を抜かれていたらしい。
「……サイ君! サイ君ったら!」
 小声で呼びかけると、彼ははっとしてこちらへやって来た。
「彼が、当隊フォワードドライバーのサイ・クラッセルです」
「ど、どうも……」
 ぺこりと頭を下げると、ロイは彼にも握手を求め
「いやいや、大変素晴らしい稼動記録を見させていただいたよ。ああまで機体のスペック、そして性能に配慮した操縦ができる人を、私の長い研究歴の中で初めてみたよ。君になら、MDP―0を託してもおかしくはない。いや、望むところだ」
「はあ……」
 このしきりと感心癖を発揮する老技術者が、サイはなんとなく可笑しくなった。
 一同は厳重にセキュリティで守られた工場の中へと通された。
 南側にある入り口からみて、右手東側に生産ライン、左手西側に研究開発施設が位置している。一流ホテルのように豪華な吹き抜けのロビーを進み、エスカレーターで二階へ上がった彼等は、右手の一面がガラス張りになっているのに気が付いた。
「ふあぁ……」
 その向こう側で延々と広がっている巨大なスペースを目にしたユイが思わず驚愕の声を上げていた。
 大きなトンネル形状の穴から、規則的にCMDが流れ出てくるのである。そこで工程上のチェックを受けた装甲を取り付けられていない内部機関剥き出しの機体は次のトンネルへともぐっていく。そうした幾つもの過程を経て、完成品として出荷されていくのだとロイは説明した。
「今、皆さんがご覧になっているのは、当社の主力商品、土木作業用GTN−03です」
 言われてみると、完全な人型の機体ではない。下重心安定型のずんぐりした形態のそれであった。
「……DG型は、ここでは生産されていないんですか?」
 ユイが無邪気に質問した。
 はっはっはとロイは愉快そうに笑いながら
「DGタイプは既に市場シェアから殆ど消えていこうとしています。従って、ここのような大規模生産ラインからはもう外れています。ごく僅かな需要のために、I地区のサブファクトリーで細々と生産と受注部品の製造を継続しておりますが、それがストップするのも時間の問題でしょう。何しろ、我々には起死回生の切り札がありますからね、お嬢さん」
 MDP―0のことを指しているらしい。
 生産ラインの見学はそこまでとして、一同は左手の研究開発棟へと案内された。
 空港待合室のように広く機能的な研究スペースには、大勢の技術者達がいた。顔を見る限り若者が多く、男性もさることながら驚いたことに女性の姿が目立っていた。
 一向が部屋へ足を踏み入れると、あちこちにいる技術者達が、一斉に視線を向けてきた。
特に、男性技術者達の反応が大きいあたり、サラ達若い女性隊員の存在が気になるのであろう。ついでに言えば、その格好である。ユイは作業着姿だからまだいいとして、ショーコは作業着の胸元を暴力的に開けっ広げにしており、サラの制服は両肩から先がないタンクトップ状のものである。そしてリファに至っては素足が大胆に露われていて、すらりと美しい。皆それなりに整った容貌をもっていたから、男性技術者達が目を奪われるのも無理はないかも知れなかった。
 彼女らは何となくその視線に気が付いていたが、後ろからのこのこついてくるサイとリベルは、ただ施設の立派さに見とれっ放しだった。この冴えない若者と親父の取り合わせでは、女性技術者達が反応しようもないであろう。 
 さっと一望したサラはロイに向かって
「……若い人たちが多いですね。とても将来性を感じます」
「ありがとう。これも、ヴォルデ氏の将来戦略の一つでしてね。……ま、とはいっても簡単に育つものではないですが」
 それでも、男と年功序列社会の治安維持機構などとは比較の対象にもしてはいけないとサラは思った。十分に、各自が能力を発揮できる体勢が整えられているではないか。ヴォルデという経営者の手腕をまざまざと見たような気がした。
 小奇麗なミーティングルームに通されたStar-line一同は、MDP―0専門開発チームという数名の技術者から自己紹介と、MDP―0スペック概要についての簡単なレクチャーを受けた。
 この段階で、すでにリファの頭上には「?」がはっきりと点滅を繰り返している。
 そのうち首がゆらゆらし始めたため、隣にいるショーコはさりげなくわき腹に肘打ちを入れた。
「……!」
 目が覚めたばかりか、やや痛そうなリファ。
 わき腹をそっとおさえ、恨みの目でショーコをじぃっと見つめている。
 それに冷たい視線で応じるショーコ。
(こんな重要な席で居眠りするからだ、バカ! バカ! バカリファ!)
 口に出せないから、内心でしこたまバカ呼ばわりしてやったのであった。
 
 
「――不審車両?」
 正門脇の警備室で、施設の異常を報せる警報ランプが点滅した。
 モニターに3Dで施設全景を表現したCGがぐるりと展開し、真上から眺めた状態になって停止した。西側と左側、両方に赤い点が2つづつ点滅している。
 中年の警備員は一瞬躊躇ったが、すぐに場内警備室への通報スイッチを押し、電話の受話器を手に取った。
「……こちら、正門警備室。東西に不審車両がつけていると思われる。すぐに警備隊を回してくれ。……そう、CMD班がいい。東と西へ――」
 言いかけた時である。
 正門前の大通りを西から東へ、大型のトレーラーが疾走してくるのが見えた。
 真っ黒である。ナンバープレートも確認できない。
 警備システムがそれを不審車両と認識したらしく、モニターにもその存在が現示された。
 大型トレーラーといえば、積荷は殆ど限られる。
 CMDしかない。
「おい、警備室! CMD班を正面にも回してくれ! CMD搭載と思われる不審なトレーラーが――」
 言い終わるか終わらぬうちに、鉄製の頑丈なスライド式門扉がバァンと弾け飛んだ。
 スッと黒い影が通り過ぎたまでは見た。
 が、次の瞬間。
「……うわぁっ!」 
 吹っ飛んだ鉄の門扉が小さな警備室を直撃し、たちまち半壊させた。中にいた警備員は壁と壁に挟まれて気を失っていた。
「……脆い、脆いぞ! 一流を気取るCMDメーカーがこういう脆弱な警備体制しかとっていないとは、笑わせてくれる!」
 正門から中庭に通じている通りを駆け抜けていく一機の黒いCMD.
 完全な人型をもつその機体は、両肩や肘、膝部分が大きく尖って伸びていた。頭部の目にあたる部分は左右に薄く開かれていて、内部では眼球のような赤いメインカメラが光っている。チィッと音を立てながら細かく両側へ動き、そして中央でぴたりと停まった。
 夕刻の日差しを受けて黒光りしているその機体は、いかにも凶悪さをイメージさせるに十分なフォルムであった。
 百メートル近いその通りを数秒で駆け終えたほどに、機体は速かった。
「フフ、なかなかではないか、CQP。グロッドの奴、大したおもてなしだよ」
 と、ディスプレィにチチチと機影発見のサインが点滅した。
 キュッと機体を停止させて左手を見ると、ずんぐりした警備隊のCMDが二機確認できた。白と黒で塗り分けされたその機体は清潔感こそあるものの、動きが鈍重そのものである。細い腕とも呼べないアームの先に、申し訳程度の警棒を握っている。
『そこの不審なCMD! 停まりなさい! これ以上狼藉をはたらくと――』
 ニヤリとヴィオが歯を見せた。
「……バカめ」
 その直後である。
 突然凄まじい速さでダッシュしたCQP。
 ギョンギョンギョンと地面を断続的に蹴りながら、一気に警備隊CMDに迫っていった。
『な、何をする!? 停まれ! 停まりなさ――』
 が、ヴィオは勢いを緩めない。
 一歩前に位置していた警備隊のCMDのボディに体当たりを食らわし様、CQPは右足を踏み出した。
 正面から打撃をもらったそのCMDは、ボディを大きくへこませつつ後方へと吹っ飛んでいった。
 CQPの流れるような動作は終了していない。
 突っこんだ勢いを体当たりで緩和しつつ、右足を軸としてくるりとバレエの様に機体を回転させた。
 振り回された左脚の先には、もう一機の警備隊CMDがいる。
『うっ、うわぁ……』
 バギャッと音がして、粉々になったパーツが宙を舞った。
 見事な回し蹴りは正面から警備隊CMDをとらえ、あたかもカンフー映画のように蹴り飛ばしてしまった。しかも飛ばされた方角には、体当たりを食らった同胞のCMDが転がっている。
 ゴオン! 
 鉄塊同士が凄まじい勢いをもって衝撃した。
 中庭のアスファルトを削りながら後方へ滑っていき、ようやく停止した二機の警備隊CMD。どちらも原型を留めておらず、装甲が砕かれてガラクタ同然の姿である。
 やや間をおいて機体全体がブブブッと震えた後、ガクガクと痙攣を起こしたようになった。そのうち、ボディ中央下部の電装部がショートしたらしく、バンッと小さく爆発した。
 もはや、動けるものではない。
 腰部や脚間接部が火花を散らして弾け飛び、あちこちから煙が噴き出し始めた。
 この間、ほんの数秒の出来事である。
「……フッ」
 左脚を宙に舞わしたままの体勢で動きを停めていたCQP。
 やがてゆっくりと脚を下ろすと、一瞥をかますように赤いカメラがキュイッと左側へ素早く動いた。
「雑魚などは俺の前に出てくるな。……死ぬだけだぞ」
 ヴィオは残忍そうな笑みを浮かべ、舌でペロリと唇を舐めた。
 

「――わぁ……」
「おおー……」
「……やるじゃん」
 一同、大きなガラスにへばりついたまま動こうとしない。
 ガラスを隔ててその向こう側の大きなスペースには――一機の人型CMDが静かに佇んでいた。
 すらりと伸びた手足にボディ。
 白地を基調に、ところどころワンポイント的にグレーが配されたカラーリング。
 そして、DG−00とは全く異なり、額の辺りが細長に盛り上がり、その下に細くメインカメラが見える。細いマスク部分の両横、頬の辺りに小さく形の良いセンサーが備えられていて、そこから耳の方へとパーツは連続している。さらには発達した動物の耳のように、頭部両横に大きな突起が後方へ向かって伸びていた。 
 全体的に精悍でスマートなシルエットを有しているこの機体こそ、
「……みなさん、これが我が社の最新鋭CMD、Mulch actionable Direct Progress 0型、通称『MDP―0』です」
 にこにこと、ロイが紹介した。
「かれこれ、ここまでの開発に大分時間を要しましたが、こいつ以上の性能を発揮できる機体など、わが国をはじめどこを探してもないでしょう」
「へぇ……」
 新しい乗り物を見た幼児のようにあどけない表情で眺めているユイの横で、リベルがグフフフと一人笑いを漏らしている。
「ふーん……」
 どういう表情もなく、ただ静かに新しい相棒を見上げているサイ。
 その後ろから、
「……どう、サイ君? このコが、これからのあなたの機体よ」
 ショーコが言った。肩にそっと手を置いている。
「ええ、そうですね……」
 正直、どういう感想もなかった。
 強いてというなら、どこか冷たいような印象を受けなくもない。
 機体を眺めたままいつまでも動こうとしない一同に、サラは
「さ、早速、駆動プログラムの調整から始めましょう? ロイさん、DG−00の稼動データは原則的に移行可能であるとは聞いているのですが?」
「そうですな。我々の方でもダミープログラムで試験を行っていますが、エラーは起きていません。恐らく、ちょっと修正する程度で大丈夫でしょう」
 一同はガラス向こうの機体があるスペースに出た。
 ショーコやユイは機体に接続された簡易端末を使ってチェックを開始し、リベルはパーツ関連の話をしにどこかへ行ってしまった。
 サイは何をする訳でもなく、じぃっと機体を見つめている。
 するとサラが
「……サイ君? チームの方に質問があるなら、今のうちにしたら?」
 と、促した。
 しかし彼は向き直り
「サラ隊長、俺……コックピットの仕様を見ておきたいんですが」
 意外な希望にサラがどうしたものかとロイの方を見ると
「いいでしょう。これから乗るのに支障がないよう、可能な範囲で触っていただいて構いませんよ?」
 と、好意を示してくれた。
 すると、傍で端末を叩いていたショーコが
「じゃあ、サイ君。一度、直起動させてみて貰える? 持ってきたプログラムを放り込んだ状態でちゃんと動くか、確認したいのよ」
 直起動とは、コックピットから正規に電源を立ち上げて起動させる操作である。
「わかりました。じゃあ、準備出来たら合図しますので」
 ヘッドレシーバーを片手に、搭乗用の梯子を伝ってコックピットへ潜り込むサイ。
 どっかと座ると、新しいシートの匂いがした。
 内装はまだ仕上げられておらず、ケーブル類があちこちにだらだらと垂れ下がっていて、制御機器も剥き出しの状態である。ディスプレィも簡易モニターがいい加減に取り付けられた程度のものであった。
(なかなか、こういうのも悪くない……)
 メンテ慣れしている彼だけに、そういうことを思える余裕がある。
 サイはヘッドレシーバーを頭に引っ掛け、
「――ショーコさん、聞こえますか? いきますよ」
 呼びかけた。
 ショーコ達は機体の足元、左側にいるからコックピットの様子が見えないのである。
『――OK! いつでもどうぞ、サイ君!』
 起動に必要なキーカードを差込み「Stand-by」と表示された電源スイッチを押した。
 たちまち、目の前の幾つものディスプレィがパパパパッと光った。粗末なディスプレィに「Mulch actionable Direct Progress」の文字が左から右へ表示されていく。
 それからほんの一、二秒して、機体全体がヴゥンッと唸りを上げた。末端部まで伝導接続されていく音である。
 やがて画面に「ALL CONECTED」のサインが表示された。手足頭胴体の各駆動系全てが操縦系と接続され、動かせる状態が整ったことを意味する。
 早い。
 従来のリレー伝導方式から、新しい短縮伝導方式が採用されているためであろう。これにより、末端部へ運動指示信号がより速く到達するため、機体の運動性能も大きく向上するという訳なのである。
 そして――頭部額の辺りのセンサーがチカチカと点灯した後、メインカメラがギィンと赤く鋭い光を放った。
 MDP―0は起動した。
 レシーバーから、ショーコの嬉々とした声が届いた。
『よーしよしよし、いい感じよ、サイ君! ひとまずは受け入れてくれたようね、このコ。そしたら、次は――』
 言いかけた途端である。
 ヴィーッヴィーッと警報がけたたましく鳴り響いた。
 誰もがハッとして手を停めた。
 ややあって、大きなボリュームで女性のマシンボイスが喋り出す。
『……緊急警報、発令。当敷地内に、侵入者、確認。C、M、Dを所持している、可能性あり。……繰り返す。緊急警報、発令――』
 一瞬間をおいて、たちまち工場内は騒然となった。
「侵入者だと!? 警備隊はどうした?」
「おい! 正門を破られているぞ! 賊は、賊はどこにいる!?」
「治安機構に通報は? 早くしないと、危ないぞ!」
 あれだけ整然としていた研究開発棟の研究スペースは、もはや混乱の巷である。
 右へ左へとドタバタ走って行く技術者や研究員達を尻目に、すっかり冷めた表情のユイとショーコ。
「……なんかあたし達、こーゆーのが多くありませんかぁ?」
「さぁね。少なくとも、狙われているのはあたし達じゃないことだけは確かよ」
 端末の画面を下から上に流れていく膨大なデータに目を落としたまま、ショーコは顔も上げない。







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