ミステリー小説が好きだ。そこらの俄かファンとは比にならない位にどっぷりと。特に好きな展開は主人公が解く側でなく、思いがけず犯人だった視点の場合。シャーロックホームズ、コナンドイル、江戸川乱歩はもちろん、小説だけじゃなくて漫画やアニメ、それにドラマも大好き。有名どころで言うと、名探偵コナンに金田一少年の事件簿、沢山だ。読んだ本は千を超えると自負する。だから僕はそんな小説みたいな出来事を不謹慎ながら求め、軽い気持ちで三泊四日のミステリーツアーに参加してみた。少しお堅い感じの無名な会社を選んでみた。そっちの方がリアルに恐いと思ったからだ。
集合はとある港だった。寂れた雰囲気が漂う空気が何とも堪らない。この″いかにも″といった感じがホントに僕が求めていたミステリーツアーのスタートだ。
「君何歳?やっぱりこういうミステリーツアーとかよく来るの?」
「えっ…あっ野山俊一、十三歳です。一応ミステリーツアーというのはこれが初めてです。あなたは?」
「これは失敬。篠山孝介、歳は二十七。いや〜良かった。僕も初めてでね、心細かったんだよ。他の人に聞いてもみんな慣れてる感じで馴染めなくてさ」
良かった。この人はいい人のようだ。お父さんとお母さんに無理言って来ることが出来た手前、一人で来なきゃ行けなかったから少し不安だった。この三泊四日、この人と一緒に居よう。
「いえいえ、よろしくお願いします!」
「こちらこそ。ちなみに他の人とは話したかい?」
「いや…僕は人見知りするんで自分からはちょっと……だから少人数のツアーにしたんです」
「そうかい。ならちょっと僕からの印象だけど紹介しておこうか」
このミステリーツアーは五人からなる、孤島の宿へ泊まる。ただそれだけである。何があるのか、どんな宿なのかは全く教えてくれず、あるものを持ってこの港に集合、ただそれだけの指示だった。
「まず、あの見るからにオタクっぽい人。ミステリーツアーを無差別に行っているらしい。喋り方も失礼だけどなんか気持ち悪く近寄りがたいな」
旅行用バックとは別に大きなリュックサックを背負っている男の人。何やら物がパンパンに詰められている。そんなに必要な物は無いはずなのに何が入っているだろう。さっきから物凄い迫力を放ちながら本を読破してる。篠山さんの助言通り、気をつけよう。
「次に、煙草を吸っている女の人。口調からしてキツイ性格なのが分かったよ。今時は珍しいことじゃないけど、女の人があの煙草の量は異常だよね。でも悪い人では無いみたいだよ。ただ人と接するのが苦手みたいで」
苛々した様子で煙草を吸い続ける女の人。足元には吸い殻が何本もたまってる。若い様に見えるけど美人だから実際何歳かはわからない。僕は苦手なタイプかな。
「最後は、現代人っぽい服装でチャラチャラした感じの金髪男。喋り方もギャル語……みたいな感じで僕もなんて言ってんだかよくわかんなかったなぁ」
ホントだ。ガムをくちゃくちゃと噛んで誰かと電話してる。「マジヤベー」とか連発してるけど、そんなに大変なことがあるのにこんな所にいて大丈夫なのかな。これまた苦手なタイプだ。
「こんな所かな。参考になったかい?」
「ありがとうございます。十分過ぎるくらいです!」
「そりゃあ良かった。それより例のあれ、君はどう思う?」
「例のあれってこれですか?」
唯一、持ち物を指定された一つ。それは、自分の血を小さな小鬢に入れて持参する。一見聞くと恐いけれど病院へ行ってちゃんと注射で採取してもらえばそうでもない。でもこれは何を意味するんだろう。
「そう、血だ。僕が考えるに、このミステリーツアーの鍵を握る最重要アイテムだと思う」
「えぇ…」
まぁそれしかないというかそうじゃなきゃ意味がわからないんですけど……ここは同意ということで……それにしてもこんなことを誇らしげに言うこの人って一体………
「だろう!だろだろう!やっぱりな」
ミステリーツアーに来るような人だ。僕と一緒で何か人とズレていて普通位なのかな。
「おっと時間だ。そろそろ船が来るって時間のはずなんだが……きたきた!」
遠くから見えてくるクルーザー。参加費が安いツアーなのにクルーザーなんて凄い。よく小説に出て来る主人公が必ずクルーザーに乗って孤島に行くけれど、初めて僕も乗る。このツアーにして良かった。
「ヒャッホー!クルーザーとかマジテンション上がりまくりなんんですけど〜〜アゲアゲ的な?!」
「やっと来たわね。遅いのよ。客待たせて何が楽しいんだか……」
「やはり………クルーザーはセオリー……ミステリーツアーの基本だね……くくくっ」
僕だけじゃなくて、他の人もみんなクルーザーに喜んでるのが口では色々と言ってるけど態度には露骨に出てる。やっぱり同じ穴のムジナなんだな。クルーザーが勢いよくこちらに来る。大きな波がこちらにも押し寄せて来て顔に水しぶきが当たって冷たかったけど、こんなこともまた嫌じゃなくて楽しい。クルーザーがどんどん来る。
「…」
「……」
「………」
「…………」
「……………」
そしてクルーザーは、僕らの前で間際らしくも見せ付けるようにしてUターンでどこかへ行った。どうやらクルーザーではなかったらしい。
「なんか……ごめん」
「えっ…何がですか……?」
「いや、わからないけど…謝りたくてさ」
「その気持ち…全然わからなくないです」
その後、僕らは無駄な期待をしてしまったせいで妙にテンションが下がり、虚しい空気どうにも打破することは出来ずにそのまま何の変哲もない船に乗って孤島へ向かった。今思うと逆に何だったのだろう、あの沸き上がる高いテンションは………
孤島に着くと船を操縦していた人に地図をもらって宿を目指した。孤島といっても木々は生え放題で思いっきりジャングルであり、むしろ無人島という方がしっくりくる。これは想像以上の不思議さを持っていて、例の一件があったせいか無人島であってくれてかなり有り難かった。
「なにかワクワクしますね。宿とかに恐いおばさんとかいたりしませんかね!妖怪みたいな感じの!」
「ははっいたらおましろいね。まさにミステリーツアーって勢いにさせてくれるから」
地図は安全な道を完璧に示されていて、宿までそう時間は掛からなかった。道も歩けるように草が切られ、石など退けられていた。僕と篠山さんが話しているばかりで他の三人は独り言をたまに言う程度で多少悲しかった。
「うわ〜〜雰囲気あるねぇ」
「ホントですね」
「これマジこわこわな?感じっ」
古ぼけた木造の建物。所々蜘蛛の巣やら樹の蔓が絡まっている。期待大だ。血の事もあるし、これは何かが起こっても可笑しくない。ツアーの会社員らしき人が現れないのがまた期待を膨らませてくれる。
「いらっしゃい……」
「うっうわ〜〜〜〜!!!」
戸を開くと妖怪のようなお婆さんが出迎えてくれた。あまりにも予想通り過ぎてこれまた逆に、というパターンではなく、普通に驚いた。この時初めてバラバラだった五人の息がピッタリあってハモった奇跡は冷静になるまで気付かなかった。
「五名様ですね……聞いていますよ。どうぞこちらへ」
だけど容姿やイメージとは裏腹に、とてもやさしいお婆さんだった。
料理も上手く、お客様のためとなればとなんでもこなす仕事熱心の一面があったり、僕のおばあちゃんを思い出すようなやさしい面もあった。
元々ここはリゾート地で昔は賑わっていたのだけれど、港が廃れてしまったことから必然的にこちらの島や宿にも影響してしまったそうな。
その面影があり、宿はとても大きく、露天風呂は最高だった。娯楽施設も充実していて、卓球台は勿論、一世代前なんかのゲームに盛り上がった。さらに部屋は大部屋だった予定をお婆さんの良い計らいにより一人一人の個室にしてくれた。一日目はミステリーツアーとして考えればちょっと物足りない気がしたけれど、一人旅と考えれば充実していた。
「明日は何か起きないかなぁ。殺人事件とか……なんちゃって」
今思えば軽率な言葉だった。ミステリー小説は、小説だから楽しく、ハラハラして面白いのだ。ホントに……ホントに……
まさに事件は二日目に起きる。早朝、僕は爽やかにも鳥の囀りと太陽の光りで目がさめた。都会の汚い排気ガスやらなにやらに囲まれた土地より心なしか深い眠りにつけたのかもしれない。
「お婆さんは朝起こしに来てくれると言ってたけど、先に起きちゃってなんか悪い気がするなっ。へへっ」
その直後だった。僕が独り言で意味も無く照れた瞬間のこと、お婆さんの悲鳴が聞こえる。背筋が凍り付いて、目覚めた時のほてりも消えた。
「あっ……ああ!!藤谷様が!!藤谷様が〜〜〜!!!」
藤谷さん?そんな名前初めて出て来たような気がするけど、衝動で勝手に足が動いた。部屋を出るとすぐ隣の部屋の前で尻餅を付くお婆さん。その部屋からすると、チャラチャラした男の人だ。
「大丈夫?お婆さん。何があったの?」
「ああ……あ…」
駄目だ。混乱してて喋れないみたい。
「異様だね。これはやっぱり血、みたいだ」
「この色合い、匂いからしてね」
藤谷さん(?)の部屋にはもう残りの二人がいた。僕も部屋に入ると、そこは異様な光景。部屋の中央に大量の血がいっぱい入った大きなガラスの入れ物。もし、全て同じ生物の物であれば確実にその生物はミイラになってると誰でも考えられる量。そして誰もが頭へよぎる血の該当者。
「もっもしかして……藤谷…さん………の?」
「そうかもしれない。だけど悪い悪戯かも知れないから藤谷さんを探してみよう。荷物とか全部ここにあるしね」
「とりあえずは警察に電話かしら…」
直ぐに隈なく探したけれど、藤谷さんは案の定見つからなかった。
宿に靴があったから宿を出ていないのは一目瞭然。
それから僕は、探すということ以外は何も出来ないのでずっと部屋にいた。篠山さんや女の人は僕が部屋に戻った後も捜索を続ける。頭の良い二人は、僕と違ってやることが一杯だったらしく藤谷さんの部屋を探ったりと様々。警察が到着したのは六時間後、昼の十二時。警察が来ると直ぐに鑑識さんが入り、現場を調べられる。僕たちは刑事さんに大広間に集められた。
「え〜……まず鑑識が調べた所、幸いあなた方は何故か自分達の血が入った小鬢を持っていたらしく、病院等の裏付けも取れてあの血は藤谷さんの物とわかりました」
「!!」
「………」
「う…」
唐突な吐き気が僕を襲った。血が全て藤谷さんのだったということは…藤谷さんはどこかで死んでいる。小説では登場する人物は誰も吐き気なんか起きずに泣いたりしているだけだけど、やっぱり現実は違った。例え昨日たまたま出会った人でも人一人が死んでしまったんだ。それだけで、精神的ショックに堪えられない。
「つまり、藤谷健吾さんは亡くなってしまったわけですが、状況からして自殺とは思えません。いなくなった伊集院利人さんも気になりますし、血の小鬢等も含めて更に状況が掴め次第事情聴取を個人一人一人させてもらうことになります」
「わかりました」
「…」
「はい」
勿論お婆さんも含めて四人とも合意した。ここでいなきゃ犯人ですと自分で言っているようなものだから当たり前だ。というかあのオタクっぽい人、名前格好良すぎやしないかな。
「それでは、お二人は残って後の方は部屋から出ずに待機していてください」
呼ばれなかったのは僕とお婆さん。
真っ先に不安になったのは疑われてるんじゃないかという疑心暗鬼。残った二人が僕が犯人だと証言してるんじゃ……疑うなら伊集院さんを疑えよ……そんなことを考えながら大広間を後にするとさっきの刑事さんの怒鳴り声が宿内に響き渡った。耳を澄まさずとも内容がわかる。どうやら二人は勝手に部屋を捜索していたことに怒られているらしい。そりゃあそうだ。そんなの許されるのは小説の中だけ、現実と区別出来ないとか正直かなり引いていた。そしてその刑事さんの言葉を聞いて思った。無駄な心配だったと。それから経つこと二時間、いよいよ事情聴取が始まる。
「それじゃあ、野山くん。昨日のミステリーツアー始まりから今日の死体を発見するまでを一通り教えてください」
本物の刑事さんは威圧感たっぷりだった。
正義心で事件に立ち会ってる用には見えないし、全ての人間を疑っているような高圧的な雰囲気を放ち、そういった意味でも現実をしった。
太った優しげなおじさんでもないし、くたびれたスーツを着た新米でもない。事件は会議室で起きているというタイプだ。それでも僕は話した。朝のことだから誰も僕のアリバイを証言してくれる人はいない。自分の無実を証明出来るのは自分だけなんだから。そして、展開的にも必ず犯人はあの中にいるんだから。
「はい。じゃあわかりました……それではまたしばらく、部屋で待機していてください」
終わった後で部屋に戻ってわかったことだけど話は約十分位だったらしい。その時間は僕には三十分にも一時間にも感じられた。刑事さんはただ僕の言い分を聞くだけで反応が無い。自分も疑われている内だという状況で相手に黙って聞かれているのは凄く辛い。今の言葉はちゃんと伝わったのだろうか、勘違いされて疑いが深まったんじゃないかと色々考えてしまう。
「もしかして、僕が殺したのか……」
寝ていたとはいえ無意識に人を殺してしまったのか。ポテチの袋内に小型テレビを隠さなければ見れない位の状況を作り出す程の監視カメラが設置されていなければ、無意識でやってしまった説は濃くなるばかり。なんせ僕は新世界の神になろうとしていない。死神といっても髑髏の方は信じているけどノート持つタイプは信じていない。このまま事件解決を趣味とする超名探偵とか同じ声の高校生探偵とか出て来たらどうしよう。
もしかしたらこのまま眠りのなんたらのショーなんか始まっちゃうんじゃないだろうか。その時は小学生を注意しよう。他の人の事情聴取は僕より時間が短かったような気がする。自首した方が刑は軽いというし、思い切ってしてみよう。僕は最後に事情聴取をされたお婆さんが帰ってくるのを見計らうと刑事さんの所へ急いだ。
「竜ざ……あっいや違った。刑事さん電話でも言ったが…」
「いいや…電話番号、君知らないでしょう」
「僕が犯人かもしれない」
「忙しいから部屋に戻りなさい。そういうことはこちらで捜し出すから」
「ああ…自分でも格好のいい状態とはとても思えないが…そんなくだらないプライドは…捨てる」
「誰かこの子を部屋に連れていってやれ」
僕は二人のお巡りさんに両脇を抱えられて部屋に返された。
監禁とまではいかないにしろ聞いてくれても良かったんじゃないだろうかな。これから刑事さん、もしくは探偵の推理が始まり、犯人が分かる。少なくとも僕では無いから、消えたあの名前が格好よいオタクっぽい人を含めて四人。さらにこのツアー主催者の誰かだ。怖い反面、ミステリー小説好きの僕は少々楽しみだった。数時間後、僕は呼び出される。
「君は中学生だ。親御さんにも連絡をして船で乗った先の港まで来てもらっている。帰りなさい」
「え?だって僕も容疑者の一人なんじゃ……」
「潔白だ」
そのあと嵐が来て船を出航出来なかったり、繋がれた縄が何者かに切られていてクローズドサークルになってしまうことも無く、普通に帰った。家では両親にこっぴどく怒られてもうミステリーツアーに行かせては貰えなくなった。
数週間後、あの事件はニュースで取り上げられた。犯人は僕が全く見たことも無い顔であり、名前だった。勿論、ニュースではどんな殺人方法で殺したのかなんて教えられる訳も無く、わからず終い。もうなんなんだよ。結局血は?ミステリーツアー主催者は?誰が解いたの?残りの人達は一体?無茶苦茶気になる〜〜!! |