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春エロス2008フェアに参加しています。興味のある方は他の方の素晴らしいエロスも体験してみてください。

 安っぽい香水と煙草のけむりが蒸せ返した汗の匂いを、彩った数秒間の間奏を、踊り狂った制服女子が睨み続ける。

 卑猥な絵画が、意図的に壁に張り付いて、窮屈そうに出口を探して彷徨っている。

 この地下では、湿度も精度も正常ではない。ただ、狂気だけが沈殿と浮上を繰り返して小踊りしている。

 この空間を支配しているのは、音楽でもなければ思想でもない。

 言葉に意味などはない。それは音と記号のロジックである。

 傾けたソーダの炭酸の抜けた甘ったるい匂いがして、胃の中のものを全て吐き出したい衝動に駈られる。

 理性の外れた、サラリーマン風の男が何かを言っている。

 虚ろな目をした、中学生のカップルがお互いの悪い所を誉め合っている。

 何もかもが現実感を失っている。それは、僕自身も例外ではない。

 そのうち意識が朦朧としてくるのが分かる。

 ずっと昔から、君は共存と依存の違いについて語っていて、ダラダラと汗をかきながら生きる僕の眉間の皺のように深く深く息を溜め込んでいる。

 怖がってばかりなら、むしろスプーンはいらないし、別の何かもっとベタベタしたものが必要だろう。

 「僕は量り間違えたのか」

 彼女は要求していて、醒めた目で僕を見るのだ。

 君の語る理想的な共存は、大言壮語に重ねた傲慢な待遇処置であり、そこにあるものがハートと呼ばれる赤い何かになってる。

 僕が溶けこみたいと願えば、それは完全な融和か冷たい剥離かを選択することになるだけで、それもまた共存や依存という言葉に近い響きを持っている。

 カットフルーツでは満たされない食欲と性欲の兼ね合いにおいて、妙に張りつめた空気を演出している。

「ムードが大事なのか」

 微笑によく似た彼女の仕草。

 もう察してくれと無機物に近い温度で、固まるコンクリートのような僕のモラルと共存していて、サブリミナル効果を期待した誰かが置いていったマネキン人形にすら依存している。

「誰でもいい訳じゃない。君だけでいい」

 螺子と歯車と余った部品で構成される感情と今にも消えそうになってる燭台に安っぽい銀紙で丸めた下手くそな皮肉を投げ入れる君と、聞こえないふりと、何度もフリーズを繰り返した夜の天窓。 重ねたられたミルフィーユのような僕という株価の変動。

 ショウケースを模した、硝子の頑丈でない檻に閉じ込めた君の意識に何回目かのコードチェックで僕が叩き出したエラー表示の記念碑的な数値は零が多いほどいい。

 自動的に再生されるムジカ。永久反復とノイズの効果音。

 スイッチが切り替わる瞬間の火花のように重く凄惨な調べ。

 宵待ち月と涼風に揺れる柳の布幕。

 押し付けた体積の分だけ、沈み込む絹の跡。

 零れそうな夜露に濡れる薄紅色の誘蛾灯。

 脚と脚の間で蛇を締め殺すように擦りつけ、白い果肉を夜風が揺らす。

 緩慢な動きで、或いは俊敏な動きで。

 僕たちは、魚だった頃の事を思い出しながら、深く沈んでいく。

 そして、くぐりあった後には気怠さと虚しさだけが残った。

「63回目のエラー」

 君を送るためだけに、道はあるのかもしれない。

 あるとき、触れようとした月の円の輪郭が窓ガラスの反射によって崩れた瞬間に思う。

ご期待に添えたかどうかは解りませんが(がっかりした方も)この機会に春エロスを覗いてみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 単純に美しいな、と思いました。ただ、世界に入っていくのに少々難解でしたが詩的な美しさに魅入りました。
[一言]  エロスかどうかはさておき、とてもすばらしい作品だと思いました。  ごく、個人的な意見ですが、『限りなく透明に近いブルー』をはじめて読んだときの感覚に似たものを感じました。なんというか、にお…
[一言] はっきりいってエロは感じなかった。 人はどこにエロを感じるのか。 それはやはり、肉体ではないか。体の部位、仕種、声。 暗に示す機械的な表現では、難しいと思われます。 だが、面白かった。難しい…
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