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出会えない男

作者: レン太郎

 初めて彼女が欲しいと思ったのは中学生の頃。同じクラスの女子に好意を持ち、「好きだ」と告白するも惨敗に終わり、おかげで卒業するまで気まずい思いをした。

 続いて高校生になると、サッカー部に入り、みんなのアイドル的存在の女子マネージャーに「好きだ」と告白するも、これもまた惨敗に終わり、俺は退部を迫られた。

 でも、どうしても彼女が欲しくて、女子高の学園祭まで足を運び、いろんな女の子に声をかけるが、梨のつぶてと終わってしまう。


 さて、そんな俺は、このたびめでたく大学に入学したわけだが、今までの失敗を振り返り、ふと思う。


「求めては駄目だ」と。


 素敵な彼女と出会えないからといって、さらに出会いを求めようとしては駄目なのだ。出会いに貪欲な男は美しくない。どちらかといえば哀れにすら感じる。

 出会おうとするから出会えないわけであって、決して出会いがないわけではなく、出会いのチャンスを自分からみすみす潰しているという結論に到ったわけだ。

 そう、俺は決して顔は悪くないし、どちらかといえばイケメンの部類に入るだろう。

 友達からは、よく「せんだみつおに似てるね」って言われるが、そもそも俺は、せんだみつお本人を知らない。きっと、誰もが認めるいい男なのだろう。

 そういえば、友達同士で集まった時、『せんだみつおゲーム』なるものをやらされたことがある。

 俺が、開いた両手を顔の側面で前後に動かし「ナハナハ」と言うと、爆笑の渦が巻き起こっていた。何が面白いのかまったくわからなかったが、きっと俺は、顔がいいだけでなく、笑いのセンスまで持ち合わせたナイスガイということなのだろう。故に、俺のようなナイスガイが、女に媚びてはいけないのだ。

 そう決めた俺は、硬派を気取ることにした。サークルなんて、ちゃらい遊びはもってのほか。髪型をリーゼントにし、レイバンのサングラスをかけ、革ジャンを羽織った。これで黙っていても、女がわんさか寄ってくるはずだ。俺はその中から、気に入った女を選べばいい。

 だが、大学四年間、これを続けたが、結局女は寄ってこず、俺は彼女どころか友達すらできることなく大学を卒業した。なぜだかわからない。だが、考えられる理由をひとつあげるとするならば、俺が“格好よすぎるせい”ではないかと思う。

 例えば……まあ、絶対にいたと思うが、俺に恋い焦がれる女がいたとしよう。その女が俺に近づけない理由とは何か?

「ああ、あんな格好いい人、きっと素敵な彼女がいるわよね。私なんか不釣り合いだわ」と諦めるざる負えなかったのだろう。

 俺って罪な男だぜ。本当にそう思う。


 俺はサラリーマンになった。社会人になれば何か変わると思っていたが、家と会社の往復を繰り返すばかりで、俺の出会いの場は、ますます狭められていた。

 会社の同僚は、やれ合コンだ、やれお見合いだと、次々と彼女を作り、やがては結婚していき、俺はだんだんと取り残される孤独感に支配されそうになっていた。

 だが、俺は求めなかった。適当なところで妥協し、それで結婚して本当に幸せなのか? そんな奴らは、離婚して後悔するのが関の山だ。

 そう自分を奮い立たせ、俺は出会うべくして出会う、赤い糸で結ばれている女を待ち続けた。



 ──あれから、どのくらいの年月を数えただろう。俺はかなり年老いてしまっていた。

 だが、ついに俺は出会ってしまったのだ。出会いのきっかけは、健康のために始めたゲートボール。そのゲートボール場で、偶然に出会ったトメ子さんは七十五歳。俺よりふたつ年上だった。

 お互いに年金暮らし。トメ子さんも独身だったので、俺はトメ子さんにプロポーズをした。

 二人で婚姻届に判をつきにかっと笑う。新調したばかりの総入れ歯が眩しい。姉さん女房だったが、俺はトメ子さんと残り少ない人生を過ごすことに決めたのだ。

 人生の最後に、最高の幸せを味わってる俺は、きっと勝ち組なのだろう。



(了)


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