「今すぐ執務室へ来い。十五分以内に、だ」
俺はホテルの部屋に備え付けてある電話の受話器を乱暴に叩き付けた。
「兄さんどうしたの?」
いつだってそうだ。いきなり電話してきて有無を言わさずに用件だけ言って切る。
俺はそれを断れない。
「兄さん?」
「大佐んとこ行ってくる」
「また? しかもこんな時間に?」
俺は心配そうに顔を覗き込んでくるアルを無視して部屋を出た。
行くことなんてない。そう思いながらも俺の足は大佐の元へ向かう。
また傷付くだけなんだ。わかっていても自然と早足になる。
俺は大佐が好きだから。
執務室の扉の前に立っている俺はどんな顔をしてるんだろうな。 大佐に会えるのが嬉しくてしまりのねぇ顔してんのか? それとも泣きそうな顔か?
俺は大きく息を吸い込むとノックをせずに扉を開けた。机に座り両肘をついている大佐が、スタンドの明かりのみの薄暗い部屋で俺を出迎えた。
「残念だな鋼の。十秒の遅刻だ」
「たった十秒くらい多めに見ろよ。これでも急いで来てやったんだぜ」
俺がそう言っている間に、大佐は当たり前のように立ち上がり、上着を脱いでシャツのボタンに手をかけている。
「――で、何か用かよ」
「言わないとわからないのかね」
「わかんねーな」
本当はわかってる。こんな時間に呼び出される理由なんて一つしかない。
「私を抱きたまえ鋼の。断ることは許さん」
「フン。今日は、んな気分じゃねぇよ」
言ってみたところで結果は目に見えてる。俺は言われるままに大佐を抱くんだ。
「そうか。ではハボック辺りに頼むとしよう」
「勝手にしろっ」
そう言いながら、俺の足は勝ち誇った顔をする大佐へと歩み寄る。俺以外の奴が大佐に触れるなんて耐えられないから。
手袋を脱いでだらしなくはだけられたシャツの間に手を差し入れると、大佐は小さく笑う。
「なんだかんだ言ってやる気ではないか」
「うるせーよ……」
俺は大佐の首筋に噛みつきながら大佐を机の上へと押し倒していった。
「やあ鋼の。大至急だ。今日は十分以内に来たまえ」
電話の向こうのアンタはどんな顔してんだ?
俺がアンタのこと好きだってバレてんだろ? 俺のこと利用して嘲笑ってんのか?
それでも俺は大佐の元へ向かう。利用されて傷付くのをわかっていても、心のどっかで何かを期待しちまってる。
「――待ってるぞ。鋼の……」
fin
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