予期せぬ結末?
「なっ……ロイスブルッグは何をしたのだ? 突然城に穴が空いたぞ!」
「まて! さっきのアレは本当にハイド殿下なのか!?」
「クレイム! 魔族化とは何だ!」
「誰か侍従のハリフスを呼んで来い!」
「いやそれよりロイスブルッグを呼び止めろ!」
「何故こんなことに……」
伯爵様達を回収するまでの間に、残しておいた偵察機で謁見の間を見ていたけど、貴族達の大半は伯爵様が去った後でようやく我に返ったみたい。
王様は事態が信じられないのか頭を抱えてるばかりだし、偉そうに伯爵様を見ていた貴族達はそもそも何が起きたのかさえ理解してない者が大半だ。
「ロイスブルッグ! さっきの話は本当なのか!」
「本当ですよ。閣下。細かいことは閣下がご存知のはず。閣下がご存知ないのは、昨夜殿下を始末させに出した連中から、殿下が奪われて魔族化させられたということです」
「ハリフスは捕らえたのか?」
「いいえ。すでに逃げているでしょう。お気をつけ下さい閣下。連中の狙いがこの国ならばこのままでは終わらぬでしょう」
役に立たぬ俗物の中から、一人だけ伯爵様を追い掛けたのはミューラー公爵だ。
やはりこの人はなかなか凄いね。
「ロイスブルッグ! 今こそお前が必要なのではないのか!」
「閣下。私は二十年前の件は忘れてはおりませぬぞ。また貴方達は私に死んでこいと?」
「国が失われたら全てお仕舞いだぞ!」
「閣下。ならば今度こそ陛下や貴方達が、先頭に立ち戦うべきでしょう。それが建国の盟約です」
伯爵様とミューラー公爵が盛り上がってるけど、予定通り牽引ビームで伯爵様とエルとジュリアを回収しよう。
「ロイスブルッグ。何処にゆくのだ?」
「クリスティーナの元へ参ります」
「ロイスブルッグ! まさか……」
牽引ビームの光に包まれて宙に浮く伯爵様とエルとジュリアの姿に、ミューラー公爵や後を追うように出てきた人達が驚き見入ってる。
戦闘艦は迷彩バリアで隠してるけど牽引ビームは隠せないんだよね。
彼らから見たら伯爵様は光に包まれながら何もない宙に浮いていく姿にしか見えないはずだ。
「ロイスブルッグ…… それほどまでに国のことを…… 死してなお国を守ろうとして……」
あれ? ミューラー公爵が変な誤解をしてる。
「回収完了」
「ちょっと予定と違うけどいいか?」
「問題ないと思う」
「じゃ帰るか」
「了解」
戦闘艦の下では盛大な勘違いをしたらしく、泣き崩れ空に祈りを捧げるミューラー公爵と多くの人々の姿がある。
それは城ばかりか王都の方でも見られていて、もう誤解は解けそうもない。
オレとケティは悪い影響はないだろうと、半ば現実逃避しながらクリスティーナ様の待つ島に帰ることにした。
「お帰りなさいお爺様!」
「心配かけたの。クリスティーナ」
「終わったんですの?」
「うむ。いろいろと予定外なことばかりじゃったがの」
伯爵様は自分が勝手に死んだことにされたので、帰りの艦内で珍しく頭を抱えていた。
情報収集用に残した偵察機からの情報では、王都では早くも伯爵様は英霊のような扱いになってる。
死して国のために甦り危機を救った伯爵様という、かなり都合がいい筋書きだけど、ミューラー公爵に悪気はなく彼は本当に誤解したままだ。
説明が出来ないので、もう放置すると伯爵様は匙を投げた。
やはり祖国が亡くなるのは望まないし、オルボア公国もこのまま引くとは思えないしね。
島に戻ると伯爵様は予想以上にしっかりとした町に驚きつつ、駆け寄ってきたクリスティーナ様と抱き合い再会を喜ぶ。
あーあ。
王都ではとうとう国王までもが、伯爵様は死してなお国の為に戻ってきたと、勝手な妄想で泣き崩れて国の為に自ら立ち上がると誓ってるし。
今更ただの牽引ビームだって言えないよね。
「結果論ですが、伯爵様の願いはかないましたね」
正直今回ばかりはエルやアンドロイド達も予想外だった。
だって牽引ビームだよ?
魔法で消えたと誤解してくれるだろうというのがオレ達の目論見なのに。
ちょっと苦笑いを浮かべるというレアなエルの表情に、オレはついつい笑ってしまう。
「歴史なんてこうやって、誤解が積み重なっただけだったりして」
「ワシは生きたまま英霊か」
「お爺様が死んだことになってますわ!」
「変装用のアイテムもありますから、町に行かれる時は変装した方がいいでしょう」
伯爵様やクリスティーナ様に付いてきた人々みんなで王都の様子を映像として見ていたが、みんな唖然として爆笑してしまった。
ロイスブルッグの奇跡とか、名付けられるのかもしれないと考えたら、可笑しくって仕方ないんだよね。
いろいろと問題もあったけど、とりあえず作戦終了かな。