罰
自分でも罪だと思っていない罪を拭うためにはどうすればいいのか。
いや待てよ、自分で罪だと思っていないのなら、拭う必要がないんじゃないか。タカノに言われたから気にしているだけなのじゃないか。
それでも、気になるということは、ちょっとは罪の意識があるということか。
そもそも、罪の意識とはなんだろう。
「わかんないよ?」
気づくと、タカノがカウンターを挟んで目の前に座っていた。そしてもう一度、「わかんないよ、って?」と言った。
「また、おれの気持ちを代弁したっていうのか」
小さく睨むと、それに挑戦するかのようにタカノは目を閉じる。
「こうすれば、わかる。わかりやすいお前がいけない」
まぶたの裏側に相手の思考が写るとでも言いたいのだろうか。
「わかんないとかわかるとか、わけわかんねえよ」
「それはお前だ、」
自分のことをわからないふりをするな。
そしてまたコップを磨く。お陰で手のひらの皮が厚くなったらしい。地味な職業病だ。
あれから三日が経った。
答えを探そうと唸るスズメの周りで、タカノはコップを磨き続けている。
満足がいくと、その完璧な(あくまでタカノにとって)コップに、溶けそうな白ワインを入れてくれた。
結局タカノは人間に傾倒しているのだと思う。硝子のコップはどこまでも道具なのだ。
「どうして彼女を殺したんだろう?」
タカノが言った。
おれの気持ちを読むと、その証拠に声に出したがる。心配しなくても、おれはタカノしか信じていないのに。
「殺すということは、存在を消すということだ。彼女がいなくなって、なにを得られただろう」
なにを得たいと思っていたのだろう。
「やめろよ」
無理矢理その思考を止めた。
カウンターに突っ伏す。キュッキュ、は止まらない。
「スズメ」
なにもいらない。お前からは。
「白ワインは味方だ。どこにもいきやしねえよ、ほら」
慰めるな。知っているくせに。
「欲望に忠実なことは、いいことだ」
おまえはそんなに人間が好きか。
「だけど、理性を失うのは愚かなことだ。そこでひとはひとでなくなるんだ」
おれは、ゆるされたいわけじゃない。
「なじられたっていいんだろ?なじられたいんだろう」
やめろって言ってるんだ、その話は。
「最終手段を望んでいるのなら、そうすればいい。そこまで自分を追い詰めたのは、スズメ自身だろ」
そうだ。
「俺は止めない」
やさしくするな。
「仕方がない。おまえのことが大切なんだから」
「なら、」
助けろよ。
スズメは顔をあげた。磨き上げた硝子に映る自分が見えた。タカノが苦笑する。
「泣くくらいなら、正直になればいいのに」
タカノの掌が初めて、スズメの頭に触れた。
頑丈な熱。夏の余韻のような空間に、浮き上がるような熱さ。
おれの気持ちはなんて聞き分けがないんだ。
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