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怪談竒譚

がさり

作者: 鵜狩三善

 大学から帰ると、部屋のドアノブに白いビニール袋がぶら下がっていた。

 一体なんの悪戯だろうか。

 当惑して周囲を見回すが、夕暮れを過ぎて暗い廊下に人影はない。実に静かだった。


 俺が一人暮らしするアパートは、歯に衣着せずに言えばオンボロだ。

 オートロックだのなんだのといった、気取ったセキュリティの類は存在しない。外部からの立ち入りは容易で、つまり誰がどういう意図でこれを引っ掛けていったのものか、さっぱり見当がつかない。


 迂闊に触れるのもよくない気がして、半歩の距離で鍵を弄びつつ観察した。


 ビニール袋は店名もロゴも入っていない真っ白なものだ。それが何枚も重ねられ、透けない白に遮断されて、中身を窺い知る事はできない。袋の口はしっかりと結ばれている。鼻先には何の匂いも届かない。

 判断材料が少なすぎて、推測の立てようもなかった。

 大人しく開けてみる他ないかと手を伸ばした、その時。

 

 がさり。


 袋が身じろぎをした。

 上げかけた悲鳴を喉元で飲み込む。思わず後ずさって、袋から更に距離を置く形になった。


 生きているのか、中身は。


 だが不自然だ。袋は小型であっても犬猫が収まるサイズではない。仮にハムスターのような小動物が入れられていたにしたって、であるならばもっと前から不審に揺れて然るべきだ。

 窒息しかけた中身の最後の足掻きというケースも考えられたが、それにしては袋の揺れは随分と大きく強いように思えた。


「……」


 数秒待ってみたが、袋に新しい動きはない。それは沈黙を決め込んでいる。

 踏み潰してしまおう。

 そう乱暴に結論した。このまま部屋に入れないのも馬鹿らしい。靴底とドアの間に挟みこんで、お終いにしてしまおう。嫌な感触くらいは味わうかもしれないが、何重ものビニール越しだ。実害はあるまい。

 後はそのまま袋ごと、アパートのゴミ置き場に投げ込んでくればいい。それで一件落着だ。


 意を決してビニール袋を睨む。

 おかしな圧迫感があった。

 唾を飲み込むその音が、やけに大きく響いた。そういえば静かだ。夕食時だというのに、どこからも生活音が聞こえない。廊下は暗い。どの窓も真っ暗だ。明かりが灯った部屋はひとつもない。

 言い知れぬものに俺は立ち竦む。

 正体不明の緊迫にえずきそうになる。


 がさり。


 嘲笑って、白い袋はまた揺れた。

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