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千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第九章 一昨日のパートナー

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第98話

 アルディスへ仕事の話を持ってきた顔役のジャン。
 彼の口から出たのは、かつてアルディスが討伐した魔物『四枚羽根』の名前だった。

「今さらあの島に何の用があるってんだ? チェザーレに聞いた話じゃあ、それ自体は何の変哲もない島なんだろう?」

 感じた疑問を素直にアルディスが口へ出す。

「ああ、そうだよ。島自体には用もない。問題なのはあの島で大型の魔物を目撃したという話がまた上がって来ている事だ。アルディスが四枚羽根を討伐したにも関わらず、な」

「まさかとは思うが……。俺が四枚羽根を討伐したことに、疑いの目が向けられてるんじゃないだろうな?」

「安心しなよ。ごく一部にはそういう声もあるみたいだが、大半は違う。ヌシの居なくなった島に別のところから大型魔物がやってきて住み着いたんだろう、という意見が優勢みたいだ。とはいえ実際にどうなのか、確かめてみないとわからないだろ?」

「それで調査依頼か?」

「そういうこと。本来なら王軍の兵士を調査に向かわせれば良いんだろうけど、なんせ四枚羽根が居たような島だ。もしあれに匹敵するような魔物が居た場合、兵士を無駄死にさせるだけだからな」

 それにしても金貨五十枚というのは、調査依頼の報酬として破格である。

「何か裏がある依頼じゃないだろうな?」

「国から傭兵に出される依頼なんて、裏のない物の方が珍しいだろうに。第一、アルディスはそんなの気にするタイプじゃないだろ?」

 肩をすくめて言い切るジャン。

「まあ担当官の話を聞く限り、調査に行けば戦闘になる可能性がかなり高いと想定しているみたいだな。ついでに討伐してくれれば良い、くらいの考えなんじゃないか? 討伐込みで金貨五十枚と考えれば特別高いとも思えないだろう?」

 確かにジャンの言う通り、魔物に遭遇すれば十中八九戦いになる。
 討伐するにしても逃げ出すにしても、援護も何も期待できない孤島では難易度が格段に跳ね上がるだろう。空を飛べるアルディスと違い、普通の傭兵は船で行くしかないのだから。
 金貨五十枚はそれを織り込んだ金額なのかもしれない。

「討伐込みで金貨五十枚なら……、まあわからない額でもないか」

「だろ? とはいっても、今王都にいる傭兵の中でこの仕事をできそうなのはアルディスくらいなんだよ。他のやつらにはちょっと荷が重い」

 確かに船を手配して島へ行き魔物の正体を見極めて帰還するというのは、並の傭兵には難しいだろう。

 そもそも船を出してくれる船主が見つかるとは思えない。
 討伐されたことがわかっているとはいえ、海を生活の場とする人間にとって四枚羽根の恐ろしさはなかなか忘れられるものではないからだ。

 その点アルディスならば船を手配する必要もないし、いざとなれば身ひとつで逃げ出すこともできる。

「わかった。どのみち何かの討伐で稼ごうとも思ってたところだ。その話、受けよう」

 数秒考え込むような仕種を見せた後で、アルディスは依頼を受けることにした。

 それから運ばれてきた食事に手をつけながら、ジャンから依頼の詳細を聞く。細々(こまごま)した話を終えると、ジャンは「じゃ、頼むな」と軽く手を上げながら宿を出て行った。

「お望みの討伐依頼だぞ、ロナ。強いかどうかはわからないが、少なくとも報酬ははずんでもらえるみたいだ」

「ちょっとは手応(てごた)えある相手だと良いんだけどなあ。四枚羽根ってどれくらい強かったの?」

「どうだっけな? あんまり印象に残ってない。……ネデュロよりは弱かったと思うが」

「なーんだ、その程度なの? どうせなら百体くらい居ればいいのに」

 さらっと迷惑なことを口にしつつ、ロナが食事の続きに戻る。
 五人前あった食事はすでに半分以上が姿を消していた。

「お前なあ……。国が滅んだら報酬も何もないんだぞ? それに露店で買い物しようにも、売る側の人間が居なくなったらお金があっても仕方ないだろ」

「大丈夫大丈夫。百体くらいなら二、三分で片付くから」

「そういう問題じゃない……」

 思わずため息が出るアルディスだった。



 翌朝、アルディスとロナはせせらぎ亭で朝食をとると、人目のない海岸沿いまで徒歩で移動する。
 そこから体を浮かせて高度を取ると、漁から帰ってくる漁船を眼下に見ながら南へと飛んでいった。

 やがて風を追い越すこと数分。かつて四枚羽根が住み処としていた南の小島へと到着する。

「ここがその島なの?」

「そうだ」

 ロナが見下ろしているのは、以前アルディスが四枚羽根討伐で訪れたことのある島だ。
 海岸線に沿って歩けば半日もかからないわずかな土地だが、島全体は木々の緑に覆われ生命の気配であふれている。

 見た目はそのころと何も変わっていない。ヌシとして名を知られていた魔物がいなくなったからといって、島の様相(ようそう)がすぐさま変わるわけでもないだろう。

「ねえアル、気付いてる?」

「ああ、これはちょっと予想外だったな」

 依頼そのものは島の調査。
 新たな魔物が住み着いているなら、その正体や危険度を探り国へ報告することを求められている。
 危険な魔物だったらついでに討伐してしまえばいい。アルディスはそんな軽い気持ちでやって来たのだ。

 ところが、どうやら相手は簡単に片付くような存在ではなかったようだ。

「どっから湧いてきたんだ? こんな強い魔力を持ったやつが」

 遥か上空からでも感じられる、四枚羽根など比べものにもならないほどの強い魔力。

「ねえねえ。もう仕掛けちゃっていいかなあ?」

 待ちきれないといった風にロナが催促(さいそく)してくる。
 モフモフの尻尾が揺れているのは決して風のせいではないだろう。

「なんで討伐が前提になってんだよ。受けた依頼は調査なんだからな。戦う必要がないならそれはそれでいいんだ」

「えー、つまんないよ」

 不満たらたらなロナを抑えつつ、アルディスは魔力の発生源へと近づいていく。

 四枚羽根程度の魔物であれば調査ついでに片付けてしまっても良かったが、今感じている魔力は『ついで』で何とかできるものではない。
 まずは慎重に様子を窺うため、アルディスとロナは島の海岸に降り立つとそこから徒歩で距離を縮めはじめる。
 さして広くもない島の中。三十分も進めば対象の魔物に接触できる、そうアルディスは思っていた。

 ところが、それから一時間が経過して――。

「おかしいな」

 歩いていたアルディスは首を傾げる。
 島に降り立ってから対象の魔力目指して真っ直ぐ歩いているにもかかわらず、いまだに魔力源へとたどり着けていなかった。

 相手が高速で移動しているというわけでもないのだが、どうにも距離が縮まらない。
 アルディスたちが右側から回り込もうとすると左側へ、左から回り込もうとすれば右へと相手が進路を変えるため、一定の距離から近づけさせてもらえない。
 対象の魔力はアルディスの動きに呼応して距離を取り、まるで捕捉(ほそく)されまいとしているかのようにするりするりと島の中を動き回る。

「もしかして、こちらの位置がわかっているのか……?」

 さすがにそんな事が何度も続けば、アルディスも考えざるを得ない。
 アルディスと同じように向こうも魔力を探知する術を持っていて、その力で危険な敵――この場合アルディスとロナだが――を避けているのではないだろうか。
 対象を刺激しないようゆっくりと歩いていることも、彼我(ひが)の距離が縮まらない理由のひとつだ。

 こちらの人数が多ければ網を張ってジワジワと包囲を狭めることもできるが、あいにくこの場に居るのはアルディスとロナのふたりきり。
 このままでは時間だけが無駄に消費されてしまう。
 多少強引にでも近づいてみるべきか。そうアルディスが思案しはじめるのと、ロナの我慢が限界に達するのはほとんど同時であった。

「ああ、もう! めんどくさいなー! いつまでもコソコソ逃げまわるなー!」

 そう叫ぶなり、対象の魔力に向かい突進して行ってしまった。

「あ、コラ! おい待てロナ!」

 慌てて追いかけるアルディス。
 魔物と思われる魔力も突然近づいて来たロナにビックリしたのか、急激に加速して逃げはじめる。

 だがその速度は本気のロナに比べると遅い。
 しかもそこそこの広さがあるとはいえ、ここは海に隔てられた孤島だ。どこまでも逃げられるわけではない。
 どこかに隠れようにも、魔力でその所在を感知してしまうロナからは逃れようがないだろう。

 ロナの後ろ姿を追いながら、アルディスも魔物に近づく。

「これでもくらえええ!」

 金色の毛に覆われた耳をピクピクと動かし、ロナが魔力で無色の刃を形成する。

 威力重視で形作られたそれが二枚。暴風を伴いながら森の中を真っ直ぐ飛んでいった。
 途中に立ちふさがる木々を根こそぎ刈り取りながら、それでも威力をほとんど減衰させずに刃は魔物の居る場所へ向かう。

 その威力は並の魔物に防ぎきれるものではない。
 四枚羽根程度なら跡形もなく肉片に変えてしまえるほどだ。

「おい! 調査だぞ!」

 今回の仕事はあくまでも調査である。
 結果的に討伐する事になればそれはそれで構わないが、相手の姿も見ていないうちから跡形もなく消してしまうのは問題だろう。
 『討伐しましたが相手が何者かはわかりません』では依頼主の国も納得しないはずだ。

 せめて首くらいは残っていてくれ。そんなアルディスの願いは、別の意味であっけなくかなった。

 ロナの放った魔法の斬撃がぶつかる直前。魔物の放つ魔力が急激に膨張したかと思うと、その周囲に強固な魔法障壁が形成される。
 そして凶悪なまでの威力を誇るロナの刃が障壁にぶつかって四散した。

「え? うそ?」

 戸惑いに満ちたロナの声がアルディスにも聞こえた。

 おそらくロナも全力ではなかっただろう。
 しかしそれでもロナが放った一撃は非常識なまでの威力を持っている。
 ネーレのように障壁で受け流す技術を持っているならいざ知らず、真っ向の力比べで防がれるとは思っていなかったのだろう。

 瞬時にアルディスは警戒レベルを引き上げた。
 魔物の持つ魔力はそれほど大きいものに見えなかったが、どうやら一筋縄ではいかない相手のようだ。
 見かけの魔力だけで判断すると、手痛いしっぺ返しを食らうだろう。

「むー。だったらこれでどうだー!」

 初撃を防がれたロナが、立て続けに攻撃を放つ。
 弾幕とも表現できそうな刃の群れが、魔物の居た地点へ向かって流し込まれた。

 攻撃を向けられたのがアルディスだったとしても、さばききるのに骨が折れそうな密度と威力。
 魔物程度が防げるとも思えない攻撃は、周囲の木々を根こそぎ切り払った後で思いもしない反応を呼び起こした。

「や、やめてよー! 痛いのやだよー!」

 被害の中心点から聞こえてくる、気の弱そうな声。
 続いて魔法障壁に跳ね返される刃の音が立て続けに響いた。

「へ?」

 攻撃を仕掛けたロナ本人も、予想外の反応に目を丸くする。

 やがて砂ぼこりや散った葉によっておぼろげだった視界が時間とともに回復していくに従い、声の主がようやく姿を見せる。

 そこに居たのは体を黒い毛で覆われた四つ足の獣。肉食獣を思わせる面立ちと体の骨格は狼のような印象を与えるが、その大きさは明らかに違う。
 体長はおよそ七メートル。その顎も大きく、人間を丸かじりできそうなほどだった。

「お、お願い……。殺さないで……。助けてください……」

 鋭い牙を生やしたその口から発せられるのは、震える声の弱々しい言葉。
 その大きな魔力が感じさせる強者としての気配とは裏腹に、尻尾を股に挟んで命乞いをする姿は非常に情けないものであった。
2017/11/01 誤字修正 伺う → 窺う
おかげさまで重版しました!
スニーカー文庫より発売中!

大幅加筆……というか3分の1は書き下ろし。
Web版とは少し違う展開になっています。

さらりと流されたあのキャラが、書籍版ではアルディスの前に立ちふさがる!
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