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千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第八章 レイティンの商人たち

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第85話

 レイティンを発ったアルディスは、テッドたち『白夜(びゃくや)の明星』のメンバーと共に王都グランへ到着した。

 いくつかの場所を回って所用をすませると、市場へ向かいネーレに約束していたニワトリを数羽調達し、その他日用品の類いを大量に買い込む。
 幸い『白夜の明星(荷物持ち)』が一緒なので、いつもにも増して買い物の量は多い。

 せっかく王都まで来たのだからと、テッドたちをアルディスの家に案内することとなり、だったらついでに普段は持てない量の買い物をということになったのだ。
 テッドとノーリスに大量の荷物を背負わせて、アルディスたち一行はグランからコーサスの森へ続く道を歩いて行く。

「結局森の中に家を建てたのね」

「街中だとどうしても双子を人の目から隠せないんでな」

 道中でオルフェリアの疑問にアルディスが答える。

「留守中の安全が確保されるなら、その方がいいかもしれねえな。ネーレって言ったっけ? あいつが家に残ってんだろ?」

「ああ、おかげで俺がこうして外に出られる」

 双子を保護した経緯も把握し、ネーレとも面識のある三人だからこそ、安心して家に招くことができる。
 逆に言えば、それ以外の人間は誰ひとりとしてあの家へ近づけるつもりがないアルディスだった。

「それでさ、アルディス。気付いてるよね? どうするの? 後ろのアレ」

 王都で名が売れたアルディスは常に注目を浴びていた。
 それには好意的な視線もあれば、悪意を持った視線もある。

 あまり王都に滞在せず大量の荷物を背負って街から出かけていくアルディスの行動を、不審がる者もいるだろう。
 そんな事情が、アルディスに対する尾行という形で現れることもあった。

「森に入ってから()く」

「了解」

 ノーリスが口にしたのは、アルディスたちの後方を付かず離れず追ってくる傭兵の一団だった。
 誰かに頼まれたのか、それとも自分たちの判断なのかはわからないが、グランを出てからずっとこちらを尾行してきていた。

「放っておいても家まではたどり着けん。どうせ森の魔物と戦えるような輩じゃないからな」

 アルディスの言葉通り、彼らは森に入ってまもなく獣の襲撃を受けて引き上げていった。
 それから三時間ほどかけて森を進むと、ようやく双子やネーレが暮らす家が見えてくる。

賑々(にぎにぎ)しい帰還だな、我が主よ」

「留守番ごくろうさま」

 アルディスの帰りを予期していたのだろう。家の前では優雅な立ち姿でネーレが待ち受けていた。

「フィリア、リアナ。ただいま」

「お帰り、アルディス」

「お、お帰りなさい……」

 いつもなら飛びかかるように抱きついてくる双子は、ネーレの後ろに隠れて出てこない。
 普段見慣れぬ人間がいることに戸惑っているのだろう。

「ふたりとも、覚えてるか? トリアにいたころ会ったことがあるよな?」

 そう言って双子にテッドたちへの警戒を解かせようとするが、ふたりは無言でコクリと頷くだけ。
 怯えているわけではないが、いつものようにとはいかないらしい。

「テッドが睨むからじゃない?」

「テッドの顔が怖いからよね、きっと」

「オレのせいかよ!」

 パーティの仲間から口々に非難され、つい声を荒げるテッド。
 そのおかげでますます双子が警戒を強めることになり、いっそう立場を悪くする強面(こわもて)男だった。

「まあ、それはいいとして。このニワトリ、どこに持っていけばいいの?」

 ノーリスが担いで来たカゴを持ちあげて問いかける。
 その横では「良くねえよ!」とテッドが抗議しているが、それに耳を貸す者はひとりもいなかった。

「そこのトリ小屋に放してくれれば良い」

「トリ小屋……? あれが?」

 ネーレが指し示す先の物体を見て、ノーリスが目を(しばたた)かせた。

 無理もない。その視線が向く先にあるのは、一般的にトリ小屋と呼ばれる建造物とは似ても似つかないシロモノだ。
 硬質の岩石を加工した防壁で全面が二重三重に囲まれ、小屋自体も魔力で補強されたブロックを組み合わせて作られている。

 その見た目も周囲に振りまくオーラも、家禽(かきん)の住み()としてはあまりに無骨(ぶこつ)で物々しい。
 防御力だけならそこいらの砦よりも上だろう。

「どう見ても軍事要塞のミニチュアにしか見えないんだけど……? 本当にあれがトリ小屋なの?」

 オルフェリアが(いぶか)しげに訊ねる。

(しか)り。森の魔物が襲ったとて、そう簡単に屈せぬ強度と構造にしてある。そこいらの獣相手ならば決して破ることはかなうまい」

 答えるネーレは満足げだ。
 ある程度予想していたとはいえ、自重を知らないネーレの生産物にアルディスは自分の頬が引きつるのを感じた。

「まあ、いいけどよ。さっさとメシにしようぜ。せっかく酒も買ってきたんだし、今日は酒盛りといこうや!」

 微妙な空気を振り払うように、テッドが荷物を家の中へと運びこむ。

「ははは。アルディスの家だからしょうがないか」

「そうよね。アルディスの家だものね」

「おい、どういう意味だそれは?」

 アルディスだから、で全て済まされてしまう周囲の扱いが納得できない家の主は、()に落ちない表情を浮かべる。
 だがローブの裾をふたつの小さな手がつかんだのに気付くなり、自然と笑みがこぼれおちた。

「……ご飯にしようか。フィリア、リアナ」

「うん!」



 その日の夕食はずいぶん騒がしいものとなった。
 人数が七人に増えたこともあるが、それ以上に酒精が入ったことでやけに賑やかな食卓となっている。

 もともとアルディスは深酒をする方ではないので、酒を飲んだからといって自分を見失うことはない。
 ネーレに至ってはどれだけ飲んでもいつもと変わらぬ振る舞いを見せ、正にザルという表現がふさわしいほど酒に強かった。

 問題は今日のゲストたちだ。

「なにこの料理ぃー! おーいーひーいー! おいひくてつまんなーい!」

「美味いならいいじゃねえか! 美味い料理で酒も美味く呑める! やるなネーレ! いい腕してるぜ!」

「ホントにおいしいね。アルディスの家だからどんな料理が出てくるかと思ったけど、いい意味で予想を裏切られたよ。街でたくさんおつまみを買い込んだけど、要らなかったなあ」

 そろいもそろって勝手な事ばかりを口走る三人組であった。

 ノーリスはアルディス同様、酒量をわきまえているからまだ問題はない。

 テッドは人並み以上に飲む量も多いが、いたって普通の酔い方をする。
 声が大きくなり、陽気になり、タガが外れて少々周りに迷惑をかけることはあるが、街の酒場であればともかくここではテッドにケンカを売る相手もいない。せいぜい大声で騒いだり歌ったりする程度だろう。
 街中ならそれだけでも十分迷惑だが、幸いこの周辺にはアルディスたち以外の住人もいないのだから、特別問題にもならない。

 だがこの場で最もやっかいかつ面倒なのは、酒癖の悪い赤毛の女魔術師である。

「きゃー、可愛いー! 髪サラサラー! おめめぱっちりー! ほっぺたプニプニー!」

 すっかり酒の回ったオルフェリアに、哀れ双子はそろって捕まっている。
 赤毛の女はもがく双子を両手にがっしりと抱きしめ、プラチナブロンドの髪にキスをし、みずみずしい頬に顔をすり寄せる。

「ふぃりあちゃん……可愛いわあ! りあなちゃんも……可愛いー! なんて可愛らひいのかしら! ふにゃー! お姉さん鼻血出そーだわー!」

 可愛いを連呼して双子を撫でくりまわす酒乱がそこにいた。
 やや暗い紅色の瞳はとろんとしていて、焦点も一向に定まっていない。

「あーるーでぃーふー! ずーるーい! わたひもここに住むー!」

「丁重にお断りする」

「どっちかちょーだい!」

「寝言は寝て言え」

「ひどーい! のーりふ! あるでぃふがひどいのー! つめたいのー!」

「うん、オルフェリア。あんまり無茶言ってアルディスを困らせないようにね」

「のーりふまで、ふぉんなこと言うし!? シクシク……、いいもん。わたひにはこの子たひがいるもん! ねー? ふぃりあちゃん。ねー? りあなちゃん」

 再び頬ずり攻撃を受ける双子の視線が、アルディスに必死の救いを求めていた。
 これまで迫害され続けてきたふたりにとって、かくも肉体的接触を伴う好意は混乱するのに十分な状況なのだろう。
 まして酔っ払いに捕まって撫でくり回されるなど、普通の子供でも嫌がるに違いない。
 やや青みがかった浅緑色の瞳が、ジワジワと(うる)みつつあった。

「オルフェリア。そろそろふたりを解放してくれ」

「やだもーん! 今日はずっといっしょなんだもーん! いっしょにねるんだもーん!」

「だめだこりゃ」

 まるで駄々っ子のようなオルフェリアに、肩をすくめて呆れるノーリス。

「そうか、仕方ないな。じゃあ一足先に眠っておけ」

 アルディスにとって、双子の救いを求める視線は決して無視できるものではない。
 例え相手が親しい仲間だからといって、手加減するつもりもなかった。

 アルディスがオルフェリアの額に人さし指をあてる。その瞬間、オルフェリアが脱力したかのようにクタリと全身をイスに投げ出した。

 すかさずその腕から逃げ出した双子がアルディスの側へ駆け寄る。

「ネーレ。オルフェリアをベッドに寝かせてやってくれるか?」

「承知した、我が主よ」

 スヤスヤと寝息を立てるオルフェリアが、ネーレに抱えられてベッドのある部屋へと連れられていく。
 その様子を見ていたノーリスが、冷静に分析した。

「詠唱なしで接触した相手の意識を奪う魔法? いや、眠りの魔法かな?」

 アルディスは目線だけでノーリスの問いに応える。

「いくら泥酔しているとはいえ、一流魔術師と言っていいオルフェリアをこうも容易(たやす)く無力化するとか……。やっぱりアルディスっておもしろいね。あれって戦闘中でも使えるの?」

 ノーリスの問いかけに、アルディスが不敵な笑みを浮かべる。

「試しに食らってみるか?」

「……いや、遠慮しておくよ。あんまり無力感とか味わいたくないし」

 一瞬の沈黙を挟んで、ノーリスが軽い調子で受け流す。

「ほれ、アルディス! オルフェリアがいなくなってもまだまだ酒はたんまりあるぞ! 今日はとことん飲もうぜ!」

 微妙な空気を吹き飛ばすように横からテッドが酒瓶を突き出してくる。

「そうだね。どうせアルディスはしばらくトリアに寄りつくつもりないんでしょ? 次に会うのはいつか分からないんだから、今日はしっかりとつきあってもらうよ」

「わかったよ。今日はふたりとも飲みつぶしてやる」

 手に持ったグラスをグイッとあおり、アルディスは挑発するようにテッドへ空の酒杯を差し出した。
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