挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第一章 双子の少女

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

8/103

第7話

 翌日、アルディスはいつもより遅めに目を覚ます。

 寝ぼけまなこでとなりのベッドを見るが、そこに人影はない。
 あくびをこぼしながら部屋を見渡せば、昨日と同じ部屋のすみへ双子の姿があった。

 相変わらず身を寄せ合っているが、その目は閉じられている。
 まだ眠りから覚めていないらしく、呼吸に合わせてかすかに体が揺れていた。
 昨日手をつけていなかった食事は、いつの間にかきれいに平らげられている。

「食べたか……」

 アルディスが眠ったあとで食べたのだろう。

 シチューの器も舐め取られたかのようにきれいだった。腹が空いていたのは間違いない。
 それでもアルディスの前で食事に手を出さなかったのは、まだ警戒を解いていないということだろう。これまで双子が受けてきた扱いの酷さがそうさせているのかもしれない。

 アルディスは顔を洗うついでに一階へ下りて宿の主人へ挨拶すると、朝食をカシハから受け取って部屋へ戻る。

 その間に双子も目を覚ましていた。
 ただ、昨日と同じく部屋のすみにうずくまって近づいてこようとしない。

「ほら、朝飯だ。食うだろ?」

 声をかけるがやはり返事はなく、アルディスが食事をはじめても双子は手をつけようとしなかった。
 アルディスが食事を終える頃になってもやはり様子は変わらない。

 結局アルディスが部屋から出るまで食べようとしなかった。
 アルディスが部屋にいると双子は食事もできないらしい。
 無理やり双子との距離を縮めるのはやめた方が良さそうだと判断し、アルディスは多少の不安を押さえつけながらテッドたちとの打ち合わせに使う酒場へと足を運んだ。

「おおー、アルディス! こっちだ!」

 酒場に入るなり、待ち構えていたようにテッドが手招きする。
 テーブルにはオルフェリアとノーリスの姿が見える。

「あの子たちはどうした?」

 席に着くなりアルディスの後ろにいない双子のことを聞いてきた。

「宿に残してある」

「大丈夫か? 宿から何か言われねえか?」

「もう言われたよ。というか前の宿はさっそく追い出された」

 やっぱり、という表情で三人の表情が曇る。

 ただでさえ傭兵というのは肩身が狭い。
 傭兵と言えば聞こえは良いが、結局のところ定職に就けないあぶれ者と見る者は多く、社会的な地位は低い。ならず者より多少はマシというところであった。
 街の人々に暴力をふるう、力にものを言わせて一方的な要求をする、嫌がる町娘をむりやり手込めにする、飲食代を踏み倒す。犯罪者となんら変わりない無法者もあちらこちらで見ることが出来る。

 もちろんアルディスたちはそういった者たちとは違って法は守るし、力を悪用したりはしない。
 人助けや世のために力を使おうとする英雄的な傭兵もいるし、まじめに依頼をこなして他者へ迷惑をかけないよう生きている傭兵も大勢いる。

 だが世間一般の見方では、単純に『傭兵』としてひとくくりにされているのが現状だ。
 なにせ傭兵と呼ばれる存在を管理監督する者がいないのである。
 確かに法を犯せば衛兵によって捕らえられ領主の裁きを受ける。だが衛兵が見ていないところまではその威も届かない。
 結局この世界ではどこまでいっても、傭兵は粗野で乱暴な食いつめ者のごとき扱いだった。いや、この世界でもと言った方が正しいかもしれない。

 そんな鼻つまみどもをわざわざ招き入れてくれるような宿は少ない。
 トリアは大きな都市だからまだ良いが、地方の小さな町に行くと泊まる宿がないということも珍しくないのだ。

「それでも何とか泊めてくれる宿は見つかったよ」

 ぼったくり価格だったけどな、とアルディスは不満顔だ。

「泊めてくれるところがあるだけ良かったじゃない。心配してたのよ」

「ま、それは良いんだけど、どうにも警戒されてしまって」

 苦笑いしながらアルディスが状況を説明していく。

「ずっと部屋のすみでうずくまって近寄ろうとしない。こちらの問いかけには答えない。夕食にも俺がいる前では手を出さず、俺が寝た後に食べてたみたいだ。まるで拾ってきたノラ猫だな」

「宿に置いてきて大丈夫なの?」

「一応宿の人に様子を見るよう頼んである。それに俺が寝ている間にはちゃんと自分たちでトイレとか行ってるみたいだったし。昨日も逃げ出す機会はたくさんあったのに部屋から離れないってことは、単にまだ俺が警戒されてるだけの話なんだろう」

「それなら心配するほどじゃねえな。あの子らの境遇を考えりゃ、いきなり懐くわけもないだろうしよ。しばらく同じねぐらで寝食を共にすりゃあ、だんだん警戒心も薄れるだろうさ」

 この話はここまで、とばかりにテッドがまとめる。

「じゃあ、仕事の話をするか。ノーリス、さっきの話をもう一度アルディスに説明してやってくれるか?」

「だから後でまとめて話した方が良いって言ったのに……。二度手間じゃないのさ」

 悪い悪い、とテッドが笑ってごまかす。
 そんな彼にノーリスは苦情を言って、朝一番に受けてきた依頼の話をはじめる。

「今回受けたのはね、また調査なんだ」

「なんだ? 今度は重鉄(じゅうてつ)でも探しに行くのか?」

 アルディスが軽く笑う。

 傭兵とはいっても、平和な世の中ではこんなものだ。
 前回のように調査途中で自衛のため戦いになることはあるが、基本的に何でも屋扱いというのが実情である。

 恒常的に人を雇うほどではない突発の仕事、短期的な仕事が傭兵への依頼としてよくまわってくる。
 依頼主は商人だったり町や村の首長であることが多い。

 時折、国や軍からの依頼が来ることもある。
 騎士の不得意な仕事、あるいは兵士たちを長期間拘束するまでもない仕事は結構あるものだ。

 一方でしょせん傭兵ということから、ひどい扱いを受けることも少なくはない。
 騎士にさせられない不名誉な仕事や、死んだところで問題のないならず者だからという理由で、傭兵を使い捨てるような依頼もたまにある。
 それらに比べれば、調査というのはわりとマシな方の仕事だった。

「いや、今回は土地の調査だね。道の広さとか、水源、指定された土地の水はけや地質、その他もろもろ」

 調査する場所は複数だったが、いずれもコーサスの森を抜けてさらに南へ進んだ丘陵地、隣国との国境まで歩いて一日から二日程度の距離にあった。

「へえ……、ちなみに依頼主は?」

「表向きはとある商会だけど……」

「だけど?」

「たぶん後ろにいるのは国だろうね」

「どう思う、アルディス?」

 横からテッドが問いかける。

「駐留根拠地、物資集積地の事前調査ってところだろうな」

「やっぱりそう思うか?」

 アルディスの推論にテッドも同意する。

「じゃあ、帝国との戦争が近いっていうあの噂、本当なのかしら?」

 不安そうにオルフェリアが言った。

「どうだろ? 重鉄の相場も落ち着いてるし、それはないんじゃないのか? 念のために調べておこうってことだろう」

「ただわからねえのは、どうしてわざわざトリアの商会から依頼を出すんだ? 王都の方が近いだろうに」

 テッドはアルディスの考えにうなずきながらも、トリアに依頼が来ていることを不審がる。

「できるだけ目立たないよう、秘密裏に進めたいのかもな。領主や軍からの依頼じゃなく、商会からの依頼にしてあるのもカモフラージュのためだろう。依頼内容もどうせ入植地の事前調査とかになってるんじゃないか?」

「アルディスの言う通りだよ。開拓事業の前準備とか言ってたね」

「そういうことか。もしかしたら王都でも、同じような依頼が出てるのかもしれねえな」

 納得顔でテッドが頷く。

「報酬額が良いのも、裏に国がいるからなんだろうね。最低保証額が金貨二十枚。調査報告の歩合が金貨三十枚だってさ。どうするアルディス?」

 そうだな……、と短い時間思案したアルディスが言う。

「悪いが今回は辞退させてもらう。国境近くまで行ってたんじゃあ、かなりの日数宿を空けることになるからな。しばらくは毎日宿に戻りたい」

 理由を問う声はなかった。それが双子の面倒を見るためだと誰もが理解していたからだ。
 野営だと眠りが足りないから、という心の声はアルディス以外に届かない。

「それじゃしょうがねえな。日帰りの仕事んときは声かけるからよ」

「悪いな、テッド」

 テッドたちと別れたアルディスは、酒場を離れてひとりで街の外へと繰り出した。

「日帰りだと……コーサスの森は厳しいな。仕方ない、そこらで獣王でも狩るか」

 目の前に広がる草原をひと眺めして、アルディスはつぶやきながら足を踏み出した。
千剣の魔術師と呼ばれた剣士 書籍化決定!
スニーカー文庫より2017年12月1日発売予定!
img_200x284.jpg
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ