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千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第八章 レイティンの商人たち

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第73話

 遺跡から入手した剣が、ネーレの髪に包まれて(まゆ)のような状態になってから三日が経過。アルディスはいまだレイティンの地に身を置いていた。

 その間、剣はぼんやりと赤く光るばかりでなんの変化も見せていない。
 マリーダの話とこれまでの経緯を踏まえるに、なんらかの変化が現れるであろうことは予想できる。
 しかし一体いつになったら変化が訪れるのか、それはわからなかった。

 マリーダの夢では、そのあたりが詳しく分からないらしい。
 見たい場面を狙って夢に見るわけではない以上、夢に出てこない場面は断片的な情報から推測するしかないのだという。

 他の夢から分かっている事は『ネーレの髪を使って剣を鎮められる』、『剣を鎮めることには成功する』という二点のこと。

 もちろんアルディスに結果を見届ける義務はない。だが一度関わった以上、気にならないと言えば嘘になる。
 まさかとは思うが、良からぬ物が出てくる可能性もゼロではないのだ。

 結局、急ぎの用事もないアルディスは、しばらくレイティンに留まることを決めた。
 毎日リッテ商会に(おもむ)いては剣の様子を確認し、ロヴェル商会に招かれてはキリルやマリー、そして商会の会長でもあるマリーの父親から歓待(かんたい)を受ける。
 その上で空いた時間に獣の討伐依頼を受けているといった状態だ。

 この日もアルディスはレイティンから徒歩数時間の草原で獣を狩っていた。
 だが、普段単身で行動するアルディスにしては珍しく、三人の同行者を伴っている。

「アルディス。そろそろ陽が傾いてきたし、街に戻らねえか?」

 バスタードソードに付いた血糊(ちのり)を拭き取りながらテッドがアルディスへ声をかける。

「そうだな。こいつらの皮を剥ぎ取ったら戻ろうか」

 アルディスはたった今切り伏せたラクターの(むくろ)を、ブロードソードで指し示す。

 テッドたち『白夜(びゃくや)の明星』も、アルディスと同じくレイティンにまだ滞在していた。
 結局ジンバリル商会からの依頼は断ることにしたらしいが、アルディスがしばらくレイティンに滞在することを知ると、「だったら自分たちも」とばかりに留まることを決めたようだ。

 二十分ほどで手早くラクターの皮を剥ぎ取り終えると、アルディスたちはレイティンへの帰途についた。
 平原を貫く街道を歩きながら、話題にあがるのはテッドたちがジンバリル商会の依頼を断ったことだ。

「なあ、テッド。わざわざ都市国家連合まで遠征して来たのに、どうして依頼を断ったんだ? 条件も良かったんだろう?」

「依頼主がちと胡散(うさん)臭い。ぶっちゃけて言えば気にくわねえ」

 不満そうな表情を浮かべてテッドが理由を語る。

「そんな理由で断ったのか?」

 いくら路銀(ろぎん)の返還が不要とはいえ、トリアから十日もかけてやって来たあげく、割の良い仕事を断ったわけだ。
 控えめに言っても無駄足である。

 依頼主が気に入らないからなどという理由ですませてしまうには、損害が大きいのではないか。
 アルディスは言外(げんがい)にそう伝えるが、返ってきたのは非難と(あき)れをないまぜにした視線だった。

「お前がそれを言うか?」

「あはは。アルディス、『ブーメラン』って道具の名前聞いたことある?」

「アルディスだけには言われたくないわね」

 過去、雇い主が気に入らないからと依頼を断ったことが何度もあるアルディスだ。
 テッドたちが一斉に反論するのも当然だろう。

「まあ、こうしてお前と久しぶりに狩りをするのも、悪かねえだろ。幸いレイティンにゃ討伐依頼がわんさかあるしよ」

「討伐依頼が処理しきれないほどあるってことは、それだけ獣や魔物の被害にあってる人が多いってことよ? 幸いって言うのはちょっと不謹慎じゃないかしら?」

「でもオルフェリア。それを言ったら、討伐で生活の(かて)を得てる僕たちは、存在自体が不謹慎ってことにならない?」

「もう、誰もそんな事は言ってないでしょ! 第一その理屈、おかしいわよ。論理が飛躍してるわ」

「あはは、バレた?」

 レイティンへ続く道を歩きながら、和気あいあいといった感じで軽口が飛び交う。

「あれ? なんだろ?」

 突然ノーリスが立ち止まった。

「どうかした? もしかして魔物でも見つけたの?」

「いや、レイティンの方向だけど、……砂煙が立ってないかな?」

「ああん?」

 テッドがノーリスにならって日光を手で(さえぎ)り目を細める。

「……わかんねえよ。アルディス、お前見えるか?」

「無茶言うな。さすがにこの距離じゃわからない」

 アルディスの魔力探査は約五百メートルが有効範囲である。
 建物や森のように見通しが悪い場所では有効だが、遙か遠くを探知するのにはどう考えても不向きだった。

「もう少し先に行けば、みんなにも見えると思うよ」

 ノーリスの言葉に、一行はやや足を早めてレイティンへの道を進んでいった。
 それからしばらく歩き続けると、次第にレイティンの様子がアルディスたちにも見えてくる。

「確かに……、砂煙が立ってるな。季節外れのつむじ風でも吹いてんのか?」

 テッドたちの目にも、その異変が捕らえられた。
 一行で最も目の良いノーリスが、更なる情報をアルディスたちに伝える。

「レイティンの周囲にたくさんの影が群がってるね……。人なのかなあ?」

 距離を詰めるにしたがって、その様子がアルディスたちにもわかりはじめる。
 城壁の門を囲む無数の影、それらが動き回るせいで砂が舞い上がり、レイティンの街が霞がかったような姿を見せていた。

「おいおい、戦争でもおっ始めたわけじゃねえだろうな?」

「そんなまさか……」

 顔をしかめるテッドと言葉をつまらせるオルフェリア。

「いや、あれは人間じゃなさそうだよ? 獣の群れだね。魔物も少し混じってるみたいだけど」

「獣の群れ? あれが?」

 オルフェリアが驚くのも無理はない。
 通常、獣が群れをなすといっても、それはせいぜい数十頭のこと。百を超える群れなど、まず見ることはないのだ。

 一方でレイティンを囲んでいる影は、ざっと見ただけでも千を超えている。
 しかも魔物までもが混じっているのだ。異常な光景であることは疑いようがない。

「おい! 見ろよあれ!」

 テッドの声にアルディスが街道脇の茂みへ目を向ける。
 そこには草をかき分けて疾走する数頭の『グラスウルフ』がいた。

 アルディスたちとの距離はおよそ五十メートル。本来なら獲物である人間へ襲いかかって来てもおかしくない至近だ。
 しかし、グラスウルフはアルディスたちの方を見向きもせず、まっしぐらにレイティンへと駆け抜けていく。

「どういうこった?」

 テッドが理解不能とばかりにつぶやいた。
 グラスウルフが人間を無視している。襲いかかるでもなく逃げるでもなく、まるで眼中にないとばかりに。

「レイティンに何が起こったの……?」

「わからねえが……。とにかく急ぐぞ」

 テッドの号令で一行はさらに足を早める。
 近づくにつれ、状況が少しずつ明らかになっていく。

「東門は無理だな! 西門へ回り込むか!」

 レイティンの街を囲む城壁には東門と西門のふたつが設けられている。
 遠目に見たところ、獣の集団は東門に殺到しているようだった。
 西門には獣の影は見えず、代わりに城壁内へ避難する人間の列と、それを左右から挟むように兵士の姿が見えた。

「よっしゃ! まだ西門は開いてっぞ!」

 獣たちの群がる東門を大きく迂回して、アルディスたちは西門へと急いだ。
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