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千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第七章 森と遺跡と剣と少年

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第50話

 アルディスたちがトリアを出て、王都近くの森に住みはじめてから四ヶ月が経過した。

 以前は目立たないよう全身に被っていた自重を脱ぎ捨て、王都周辺で凶暴な魔物を次々と狩っていくアルディス。
 すでに剣魔術を隠すつもりもないため、『三大強魔(さんだいごうま)討伐者』の名声と同時に『剣魔術の使い手』という異名も広く知られるようになっている。

「もはや貴方にちょっかいを出そうなんて愚か者、王都の傭兵にはいませんよ」

 とは情報屋チェザーレの言葉である。



 すっかり評判の傭兵となったアルディスだが、誰かとパーティを組んで仕事を受けようとはしなかった。
 通常は四、五人で組むことが多い傭兵の中で、常に単独行動のアルディスは非常に目立っている。
 おまけに他の傭兵たちがパーティでようやく討伐するような強い魔物を、あっさりひとりで討伐してしまうのだから、なおさら注目を集めるのは当然だろう。

 アルディスにしてみれば、単独行動したところで何の支障もなかった。
 むしろ魔物クラスを相手にすることを考えれば、ほとんどの傭兵は足手まといにしかならないのだ。テッドたち『白夜(びゃくや)の明星』クラスの傭兵などそうそういるものではない。

 確かに効率を考えれば、トリアでグレシェたちのように荷物持ちや素材回収をする人手は欲しい。
 だが、いざ人手を(つの)ってみると、三大強魔討伐者のおこぼれに(あずか)ろうなどという(やから)ばかり。それならばひとりで狩りをしていた方がいくぶんマシだろう。

 そんなわけで今日もアルディスはひとり、王都グランの大通りを職人街へ向けて歩いていた。
 以前注文していた三本の剣が完成したと、アルディスの泊まる宿へ連絡があったのだ。

「親方、居るかい?」

 入口の扉を軽くノックして、返事を待たずに中へ入っていく。
 鍛錬途中の剣へ魔力を込めるため、四ヶ月の間幾度となく通った鍛冶場だ。もはやアルディスに遠慮はない。

「いらっしゃい、アルディス」

 声を返したのは弟子の青年ホルストだ。

 真っ向からぶつかった最初の出会いに比べると、はるかに態度が軟化している。
 親方の言葉で、アルディスが未熟な新米傭兵ではない事を理解したからだ。

 それがなくても金貨六百枚をポンと出せる人間が相手では、さすがに敵意むき出しというわけにいかないのだろう。
 職人といえども、生活のためには金払いの良い客を捕まえることは大事だと、彼なりに理解しているらしい。
 アルディスのような傭兵は、職人としてもつなぎ止めておきたい上客なのだ。

「完成したって連絡が来てたが……、親方は?」

「今呼んでくるよ。ちょっと待っててくれ」

 ホルストが奥に親方を呼びに行った。
 数分後、親方とホルストが三本の剣を抱えてやってくる。

「待たせたのう、アルディス」

「それが完成した剣か?」

 アルディスの目は三本の剣に注がれていた。

「そう、シュメルツ一世一代の傑作じゃ」

 三本の剣がテーブルの上に置かれる。

(めい)は?」

「これが『刻春霞(ときはるがすみ)』。風の魔力を宿らせた剣じゃ」

 親方が一本のショートソードを鞘から抜く。
 剣身は薄い黄緑の光沢を放っていた。

 これが七色粉(レシアパウダー)を金属に混ぜ込んだときに現れる特徴だ。
 魔力を付与した人間の属性や、魔力の込め方によって様々な彩りを得る。
 レシアの粉末が()()粉と呼ばれるのはこのためであった。

「こっちは『月代吹雪(つきしろふぶき)』。氷の魔力を宿らせてある」

 次いで親方がもう一本のショートソードを抜く。
 剣身は雪のような白い色に包まれている。

「そして最後が『蒼天彩華(そうてんさいか)』。無属性の魔力で剣身の強度と切れ味を増しておいた」

 他の二本に比べて長さのあるブロードソードだった。
 アルディスが手にとって鞘から抜くと、剣身がほのかに青く輝く。よく晴れた秋空を思わせる落ち着いた色だ。

「どうじゃ? 三本とも良いできじゃろう?」

「ああ、良い仕事をしてくれて感謝している。これが代金の残りだ、受け取ってくれ」

 前払いしていた金貨二百枚を差し引いて、残り四百枚をアルディスが支払う。
 四百枚もの金貨が詰まった皮袋を、震える手で弟子が受け取った。

「さっそく今から森へ行ってみる」

 持ち手や鞘の調整が必要ならいつでも来い、と見送ってくれた親方に軽く手を振って、アルディスは王都の東に広がるコーサスの森へと狩りに出かけた。




 魔物が出没するコーサスの森に足を踏み入れる者は少ない。
 獣や魔物狩りを目的とした傭兵。
 近道のために護衛を連れて通り抜けようとする行商人や隊商。
 その他には珍しい採取品や古代の遺跡発掘で一攫千金を狙う、トレジャーハンターくらいだろう。

 コーサスの森があった場所は、かつて太古の時代に街が点在していたと考えられている。
 草木に埋もれてボロボロの状態となっている場所が多いが、これまでにも何カ所か遺跡らしき建造物が発見されているのだ。

 もちろん狩りや行商と異なり、遺跡発掘というものは必ずしも成果が得られるものではない。
 少なくない費用と多大な労力をかけたあげく、遺跡を見つけることすら出来ないという事の方が多い。
 自ら傭兵なみの戦技を持っているトレジャーハンターも時折いるが、大抵は新米傭兵に毛が生えた程度というのが実情だ。

 だから通常彼らは危険な場所へ調査発掘に向かう際、何人かの傭兵を護衛として雇う。
 コーサスの森も入口付近であればそうそう危険な魔物に出くわすことはないため、少人数の護衛で問題ないだろう。

 トレジャーハンター自身が強ければ、単独で足を踏み入れることだってあるかもしれない。
 しかし、現在アルディスが居る場所は森の中でもかなり奥に位置している。
 完全にウィップスの生息範囲内であり、こんな場所をひとりで歩ける人間など滅多にいないだろう。

 だからこそアルディスは森の中を全力で駆け抜けた。

 助けを求める悲鳴が聞こえ、魔力探査の結果、人間サイズの魔力ひとつを巨大な魔力三つが囲んでいたからだ。

 アルディスは瞬時に身体を前へ傾け地面を蹴る。
 またたく間にトップスピードへ達すると、木々の間を減速もせずに目的の場所へ向けて駆け抜けていった。

「た、助けてっ……!」

 十秒もかからずアルディスの視界に声の主が映る。
 青い長衣をまとい、背負い袋ひとつという軽装の小柄な人間がひとり。
 それを囲むようにして首をもたげているラクター(だいじゃ)が三体だ。

「行け!」

 アルディスが鞘に収まっていた『刻春霞(ときはるがすみ)』と『月代吹雪(つきしろふぶき)』を解放する。
 自らは『蒼天彩華(そうてんさいか)』を抜き放ち、速度を落とさずに最も近い個体へと飛びかかった。

 異変に気が付いたラクターが、目の前にいた獲物から目をそらしてアルディスの方を向くより早く、『蒼天彩華』の刃が首に触れる。
 大蛇の首へとあてがわれた青い剣身が吸い込まれるように肉を裂き、何の抵抗もなく骨ごと断ち切った。

 『刻春霞』と『月代吹雪』も同様にして一刀のもとにラクターの首を切り落とす。
 走る勢いのあまり、ラクターの身体から少し距離をあけて止まったアルディスは、新しい剣の切れ味に満足しながら宙に浮いた二振りを呼び戻す。

「良い剣だ」

 さすが七色粉を使って鍛えただけはあった。
 これならば、『赤食い』レベルの敵と対峙しても折れるようなことはないだろう。
 血糊(ちのり)を拭き取り三本とも鞘に収めると、アルディスはようやく悲鳴をあげた人物に目をやった。

「子供……?」

 悲鳴の声も高く、体格も小柄だったため、てっきり女だとばかり思っていたアルディスだが、どうもそれは勝手な勘違いだったらしい。
 幼さの残る面立ちながら、顔の作りには男らしさがわずかに感じられる。
 声が高いのは、変声期をまだ迎えていないからだろう。

「大丈夫か?」

 怖がらせないよう、表情を柔らかくしてアルディスが声をかける。

「は、はい……。なんとか……」

 腰が抜けたらしい少年の手を引き上げながら、アルディスの脳裏には疑問が浮かんでいた。

 目の前にいる少年は、明らかに場違い感があふれ出ている。
 ここは魔物も生息するコーサスの森奥深く。
 熟練の傭兵でなければ、立ち入ろうとすらしない場所だ。

 少年からは平均より大きめの魔力を感じるが、それも年のわりにはという程度である。
 引き上げるときに握った手のひらには剣ダコもなく、とても戦いの訓練を積んでいるとは思えない。
 こんな場所をたったひとりでうろつくには、あまりに力不足だろう。
 パールホワイトの髪も傭兵にしてはキレイすぎて違和感があった。

「他の仲間は?」

 だとすれば、この少年は他の人間と共に森へ入りはぐれてしまった。あるいは仲間が倒されてひとり生き残ってしまったと考えるのが自然なことだ。

 だからアルディスは少年に同行者の存在を問うた。
 はぐれたのならば、仲間のところまでつれて行くまでは面倒を見てやろう。そう思ったからだ。
 しかし、仲間について尋ねられた少年はなかなか口を開こうとしない。

「やられたのか?」

 その沈黙を、悪い方へ捕らえたアルディスが代わりに言う。
 少年はかぶりを振って否定すると、しどろもどろになりながらも口を開いた。

「護衛の人たちは……、先に帰りました……」

「は……?」

「あの料金だと……、ここまでの護衛が相場だと。これから先は別料金だ、って……。払えないなら護衛は終わり……って……」

 どうやら少年が雇った護衛は、こんな森のど真ん中で彼を残して帰って行ったらしい。
 とんでもない話を耳にして、顔には出さなかったがアルディスは内心で憤慨(ふんがい)した。
 そんな輩がいるから、いつまで経っても傭兵はゴロツキや犯罪予備軍扱いされてしまうのだ。

「そうか……。事情はわかった。さしあたりここを離れよう。大きいのがこちらに近づいてきてる」

「大きい……の?」

 何のことかわからない少年が濃紺の瞳でアルディスを見る。

「おそらく魔物だ」

「ひぇっ! ま、魔物……!」

 少年の位置を確認するときに使った魔力探査が、周囲の魔物にいらぬ好奇心を抱かせてしまったらしい。
 ひときわ大きい反応がアルディスたちに向けてまっすぐ進んできていた。
 このままでは五分も経たないうちに戦闘へ突入してしまうだろう。

「さっさと行くぞ」

 言葉少なく告げると、アルディスはあたふたとしている少年を無理やり肩に担ぎ、そのままラクターたちの(むくろ)が横たわる場を離れる。

 五分ほどかけて距離を取ると、見通しの良い場所で少年を地面に下ろした。

「ここまで離れれば大丈夫だろう。で、さっきの話だが」

 目を回していた少年が落ち着いたのを見計らって、アルディスが話を切り出す。

「このあたりは戦い慣れていない人間がひとりでうろつけるほど安全な場所じゃあない。もし今から王都に戻りたいというのなら、連れて行ってやってもいいぞ」

 もともと新しい剣の具合を見るため、ウィップスでも狩ろうとやって来たアルディスだ。
 懐は十分暖かいのだから、今日一日無駄にしたところで特に問題はなかった。

「護衛を選び間違えたのは、まあ良い勉強だったと思え。今度はちゃんとした護衛を雇えば良いだろう」

 だがそんな優しい言葉をかけたにも関わらず、少年の反応は妙に鈍い。
 短くない沈黙をはさんだ後、少年はアルディスの向ける(いぶか)しげな視線から逃れるようにうつむくと、力なく口を開いた。

「お金が無いんです……」
2016/12/19 誤字修正 最も近い固体へと飛びかかった。 → 最も近い個体へと飛びかかった。
※感想欄での誤字指摘ありがとうございます。
千剣の魔術師と呼ばれた剣士 書籍化決定!
スニーカー文庫より2017年12月1日発売予定!
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