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千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第六章 王都の三大強魔

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第44話

 買い物を終えて、その日のうちに森へと帰ったアルディスは、夕食の場で話を切り出した。

「二日間王都で情報を集めた限り、ネーレの捕縛騒動はトリア侯爵の独断だったらしい。王都には情報も伝わっていないみたいで、知っている者もほとんどいなかった。侯爵が失態を隠そうとしているようだ」

「ふむ、それならば我もこそこそと隠れる必要はなさそうだな」

 満足そうに頷くネーレ。

「ということで、だ。王都では堂々と表を歩けるわけだが……。王都の中に宿を取ったり家を買うのは、あまり気が進まない」

「その理由は?」

「いくら隠そうとしたところで、トリアでそうだったようにフィリアとリアナの存在はいずれバレてしまうだろう。だったらいっそのこと、この場所を本格的に住居としてしまった方が危険は少ない」

 もちろん街の中で暮らす事に比べれば、野生の獣が闊歩しているという意味で別の危険は増大するのだが、それについてはアルディスやネーレがいる限り大した問題にならない。
 むしろ対処が困難な住民からの悪意よりも、よほど解決が容易だった。

「それに、この子たちも家の中でずっと閉じこもっているより、多少なりとも野外に出られる環境の方が良いだろう」

 アルディスとネーレの視線が双子に注がれる。
 久しぶりに食べる大ぶりのパンを両手で抱えてハムハムとついばむその姿は、アルディスの心を知らず知らずのうちにほぐしてくれた。

「我が主がそうと決めたのであれば、我は従うだけだ」

 当然のようにネーレが言い切る。

「よし。だったら明日は本格的に家を作ろうか」

「おふちふくうのー? ふぃふぃあたひもふくるー!」

「ひあなたひもいっひょにおふちふくるー!」

 頬にパンを含ませたまま双子たちが相次いで口を開くが、発せられるのは意味が読み取れない言葉ばかりだった。




 翌日の朝。朝食を終えたアルディスたちは、さっそく本格的な家の建築に取りかかる。

「まずは敷地を広げないとな。ネーレ、あの一帯を更地にしてくれるか? 木材はこのあたりに積んでおいてくれれば良いから」

「承知した、我が主よ」

 指示を受けたネーレが、小屋の周囲を魔法で切り払い、残った切り株を高温の炎で焼いていった。
 アルディスは次々と積み上げられていく木の枝を切り落とすと、魔力で乾燥処理を施しておく。半日もすれば乾くはずだった。

 次にネーレが切り開いた土地の一部を土魔法で掘り起こし、土に魔力を流し込みながら適度な大きさのブロックに焼き固めていく。

「我が主、こんなもので良いか?」

「十分だ」

 一時間ほど経つと、家を建てるのに十分な敷地が確保できていた。アルディスたちがトリアで住んでいた家の敷地を、倍にしたくらいの広さである。

「よし、じゃあ次は焼いた土のブロックをメインの建材にして、あとで内側は乾燥させた木材を張るとしよう。リビングとダイニング、キッチンにトイレに……せっかくだから風呂場も作りたいな。土を掘り起こしたところは地下室にして倉庫に……、ついでに何かあったときの緊急避難用に隠し部屋も作っておいた方が……、だったらダミーの倉庫を屋外に……」

 考えにふけるアルディスの服をちょこんとつまんで引っぱりながら、双子が主張してきた。

「アルディスのお部屋はー?」

「作らないのー?」

「ん? ああ、作るぞ。俺の部屋とネーレの部屋と、……フィリアとリアナは別々の部屋が良いか?」

「アルディスと一緒が良い!」

「リアナたちと一緒のお部屋!」

「広さは十分あるんだから、自分の部屋にしたらどうだ?」

 そこへ横から従者も口を挟む。

「我も同じ部屋で構わないが」

「いや、それはさすがに……」

 すかさずアルディスが眉をしかめる。

 今は仮の小屋だからザコ寝でもしかたないが、本来はネーレも年頃の女である。
 男のような口調ではあるが、見た目十七、八歳の乙女が若い男と同じ部屋というのはまずい気がした。

 結局、使う使わないは別として、ネーレと双子にもそれぞれ部屋を作ることに決める。

「目立たないよう二階は作らず、その分地下を広くとって……」

「我が主。あわせてパンを焼く(かま)も作ってはどうだろうか?」

 確かに王都へ買い出しに出かけるとしても、毎回パンをまとめ買いしていたのでは荷物が嵩張(かさば)ってしまう。
 材料だけ買いだめしておいて、家で都度焼いた方が面倒は少ないだろう。釜の煙が人目につかないよう工夫するのは大して難しくない。

「ネーレはパン作りもできるのか?」

「その程度であれば造作もない」

 何気に多才な女であった。

「そうか、じゃあキッチンのとなりに作っておくとしよう」

 大まかな間取りを決めると、アルディスはさっそく基礎の構築にかかる。
 掘り起こした穴の表面を整形し、魔力を流し込みながら焼き固め、いくつかの部屋に分けていく。
 地下室の上に床の土台となるブロックを敷き詰めると、その上に土をかぶせ、さらにブロックで覆っていった。

 地上部分もメインの建材は魔法で焼き固めたブロックだ。
 レンガを積み重ねるようにブロックを並べ、壁と屋根を作っていく。

 途中でブロックが不足したため、ネーレに材料の土確保を指示したところ、彼女は少し離れた場所から大量の土を運び込んだ後、勝手にブロックを作りはじめた。
 魔力を流し込みながら土を焼き固めるのはアルディス独自のやり方なのだが、教わりもせずネーレは同じ事を簡単にやってのける。
 単純な力比べならアルディスは負ける気がしない。だが謎めいているという点ではアルディス以上に底が知れないネーレだった。

 一日目の作業はそこまでで終了した。

 二日目、乾燥を終えた木材を加工して、室内の床や天井、壁を覆っていく。
 余った木材はテーブルやイスなどの家具、玄関や各部屋のドアに使用する。

 敷地内の空いた場所は、鍛錬を行うための運動スペース、薪や材木を置くスペースを取り、最後に家のすぐそばへ小さな園芸場を作った。
 屋外に出られるようになったとはいえ、森の中や他の街へ自由に動けない双子が、多少なりとも園芸で退屈を紛らわせられればと考えたからだ。

「これでずいぶん形になったな。今日からは小屋じゃなくてこっちが俺たちの家だ」

「じゃあお引っ越し?」

「今からするの?」

「ああ、小屋から荷物を運び込もう。ふたりとも、手伝ってくれるか?」

「うん、フィリアたちはお洋服運ぶー!」

「じゃあ、リアナたちはパン運ぶー!」

 元気よく答えながら、双子は小屋へと走って行った。

 その様子を見送った後、アルディスは完成したばかりの新しい家をひと眺めする。
 細かいところはまだ手を入れる必要があるし、足りないものもたくさんある。
 だが、とりあえずは腰を落ち着ける場所ができたことに、アルディスは小さな満足感を得ていた。

「あとは……、ベッドに暖炉、薪割り道具に、料理器具もまだまだ足りないな。雑貨類も買い足さなきゃならんし、当面仕事に出る暇はないか……。金は……まだ十分あるけど」

「我が主。不足しているなら、我の預かっている金貨が六十枚ほどあるぞ」

「いや、そりゃネーレの取り分だって言ってるじゃないか」

 どうもネーレは個人で報酬を使うつもりがないらしい。
 狩りをした時の取り分も『預かる』といって受け取るだけで、自分の持ち物だという認識がないようだ。
 もちろん最低限の出費はするようだが、それとて銀貨を何枚か使う程度の話だった。

「俺の手持ちだけでもまだ十分な額がある。ネーレの金を使うまでもないさ」

 アルディスの手持ちは金貨にしておおよそ八十枚以上。
 家賃不要の生活なら、数年は暮らしていける。

「また明日、王都に出て雑貨類や寝具を買ってくる」

「我はどうすれば良い?」

 ここに双子を置いて行く以上、獣からふたりを守るためにアルディスかネーレのいずれかが残らなくてはならない。

 どちらかということになれば、ネーレを残してアルディスが外で活動するべきだろう。
 表だって手配されていないとはいえ、トリア侯が密かにネーレを探している可能性もあるのだから。

「悪いが留守番だ」

「承知した、我が主」

 ネーレは不満も見せず、(うやうや)しく頭を下げる。

 街の外に家を構えて、双子の存在を人目から隠す。こんな選択ができるのも、留守の間に双子を任せられるネーレという存在が居ればこそだ。
 アルディスひとりであれば、危険を承知の上で双子を連れ回すか、以前のように街中で家を借りるしかない。

 ネーレのおかげでアルディスは行動の自由を得ることができているのだ。
 口にこそ出さないが、アルディスはそれを感謝していた。

「留守は任せたぞ」

 感謝の言葉に代わって、彼の口から出たのは信頼を表す言葉。
 それを聞いたネーレが満足そうに笑みを返した。
千剣の魔術師と呼ばれた剣士 書籍化決定!
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