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千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第六章 王都の三大強魔

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第41話

 王都到着後、アルディスは手頃な宿を取って、開いている酒場をはしごしていた。
 当然酒を飲むためではなく、情報を集めるためだ。

 酒場のマスターや幾人かの情報屋に情報料を渡し、トリアでの騒動がどう伝わっているか探っていく。
 もちろんストレートに訪ねるわけにもいかない。だからネーレが街道で道行く傭兵と手合わせをしていた頃の情報をもとに、『噂の女傭兵に挑もうとする若い傭兵』を装った。

 それで分かったことがいくつかある。
 まず、ネーレがグラウンダー討伐メンバーに居たことはこちらにも伝わっている。
 次に、ネーレの捕縛命令が王都では出ていないらしいということ。
 最後に、アルディスや双子の情報は王都に届いていないということも分かった。

 この分であれば心配はいらないか、と考えはじめていた矢先に、チェザーレという優男(やさおとこ)風の情報屋から聞き捨てならない情報を買ったのだ。

 その情報屋はアルディスが部屋を取った宿の一階にある酒場で、果実水をチビチビと飲んでいた。
 アルディスが宿に入ったとき、酒場のマスターに情報屋の紹介を頼んだところ「この時間はいねえが、昼前にはくるだろうよ」と話に上がった情報屋がチェザーレだった。
 近くの酒場を一通り回り、マスターの言う通り昼前に戻ったところで、ようやく酒場に顔を出していた彼を紹介されたのだ。

 チェザーレという男は、情報屋なんて仕事をしているわりに言葉遣いが丁寧で物腰も柔らかい。
 容姿も端麗で、見方によっては気品すら感じる。濡れたように艶のある髪は薄茶色。瞳はやや濃い褐色だった。
 小綺麗な格好をすれば街行く年頃の娘が放っておかないだろうし、めかし込めば貴族の子弟と言っても通りそうな雰囲気を持っている。

 そのチェザーレから得た情報は、それまでの情報屋から得たものよりずっと正確でしかも新しかった。

 トリアでネーレが捕縛されかけたことまで知っていたのは、チェザーレだけだ。
 加えてすでにトリアから行方をくらました事も耳にしているようだった。
 さらにまだ手持ちの情報があるらしく、確認の時間が欲しいということなので明日の昼前にもう一度会う約束をした。

 もちろんチェザーレだけの情報を鵜呑(うの)みにするわけにはいかない。
 チェザーレと別れた後もアルディスは複数の情報屋に会い、引き続きネーレの件がどこまで王都に届いているのか確認して回る。



 そうして日がすっかり落ち、満天の『淡空(あわぞら)』が広がる中、アルディスは裏通りにほど近い路地をひとり歩いていた。

 裏通りには裏通りの世界があり、表の世界とは違った情報が行き交うことがある。

 念のためと裏の情報屋にも会うためやって来たアルディスを、不意に囲む人間の集団が現れた。
 ちょうどひと気のない路地を狙って出てきたようだ。

「何のようだ?」

 あからさまな敵意を向けてくる相手に、アルディスは不機嫌そうな口調で問いただす。
 路地の前後を十人以上に囲まれ、左右は狭い抜け道すらない。最初から包囲するつもりでこのタイミングを見計らっていたのだろう。

 前方のリーダーらしき男が口を開いた。

「心配しなくても殺しゃしねえよ。ただ暴れると、しなくて良い怪我をする事になるぜ」

「財布が目的か?」

「あん……? そうだな、ついでにもらっとくか」

 どうも強盗目的ではないらしい。
 トリア領軍からの追っ手という考えも頭を一瞬よぎったが、すぐさまそれを打ち消す。
 いくら何でも領軍がこのようなゴロツキだけに、アルディスやネーレの捕縛を任せるとは思えない。
 傭兵ですら(さげす)みの対象だったのだ。街のゴロツキなど関わるのも避けるであろう。

「どっちにしても、叩きつぶすだけだがな」

「その余裕がいつまでもつかな? ――野郎ども、やっちまえ!」

 リーダーの号令でゴロツキたちが一斉に襲いかかってくる。

「馬鹿なヤツら」

 狭い路地では一斉に襲いかかったところで、互いが互いに邪魔となって思うように動けない。
 わざわざ狭いところで数の優位を自ら捨てるなど、愚かとしか言いようがなかった。

 もちろん、たとえここが障害物の一切ない広場であっても、アルディスがこんなゴロツキに負ける可能性などほとんどゼロに近い。
 アルディスは剣を抜きもせず、最初に殴りかかってきた男に蹴りを見舞うと、左側の壁を背にして背後からの攻撃を断つ。

 スペースの問題から同時に襲いかかってくるのはせいぜい三人。しかも体さばきは完全に素人だ。
 素手のまま迎え撃ち、立て続けに二人をノックアウトする。アルディスにとっては剣を抜かずとも、簡単に対応できる相手だった。

「ちっ! 仕方ねえ! 手足の一本二本くれえは覚悟しな!」

 リーダーが腰から短刀を抜いて構えると、それを合図にして他のゴロツキたちもナイフや短剣を抜きはじめる。

 アルディスが無詠唱で風の魔法を使う。
 何の前触れもなく生まれた風圧の刃が、ゴロツキたちの持っていた刃物を次々と折っていく。

「え?」

「あれ?」

「何で?」

 あっという間に失った武器を見て、何が起こっているのか理解できていないゴロツキたちを、アルディスが次々と拳で沈めていく。
 ある者はのどに突きを、ある者はみぞおちに掌底を、ある者はアゴに拳を、ある者は股間に蹴りを食らってもだえながら倒れる。

 半数以上がやられたゴロツキたちは、戦意を失いリーダーを含めて散り散りに逃げていった。

「さて、誰に頼まれた?」

 アルディスは倒れているゴロツキのひとりを無理やり引き起こすと、涼しい顔で詰問する。

「し、知らねえ! ホントだよ! 俺たちゃ兄貴に言われたままあんたを襲っただけなんだ!」

「俺を捕らえるつもりだったのか?」

「あ、ああ! 殺したりするつもりはホントになかったんだ! 兄貴からもできるだけ怪我させずに捕まえろって言われてた!」

 これ以上はムダと判断したアルディスは、怯えるゴロツキを放り出す。殺すまでもない相手だった。

 その場を立ち去りながらアルディスは考える。
 今、この王都で自分を生け捕りにしたい人間はいるだろうか。そうすることで誰にメリットがあるだろうか、と。

 やはり最も可能性が高いのはトリアの領軍だろう。
 ネーレの居場所を吐かせるためにアルディスを捕らえる。領軍にはアルディスを生け捕りにする理由があった。

 だが領軍が裏で糸を引いているなら、あんなゴロツキではなくもっとまともな使い手をよこすだろう。
 教会や貴族が手を回してきた可能性もゼロではないが、いずれにしてもアルディスが王都へ来ていることに気が付いているとは思えない。

 アルディスが王都にいることを知っているのは、アルディスとネーレ、それにフィリアとリアナの双子だけだ。
 今のところ王都で顔見知りには会っていないし、アルディスは一般に顔が知れ渡っているほどの有名人でもない。

 モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、結論が出ないままアルディスは宿へと戻る。
 それが解消したのは翌日になってからのことだった。




 翌日、アルディスは前日同様に午前中を情報収集に専念する。

 だが、別段新しい情報は入ってこない。
 やはりチェザーレ以外から入手できる情報と言えば、ネーレがグラインダー討伐に参加したという程度の話で、捕縛騒動やその後の行方知れずについては伝わっていないようだ。

 あとはチェザーレの報告次第、とアルディスは昼前に宿へ戻った。
 前日と同じくカウンターで果実水をチョロチョロと飲んでいるチェザーレへ、アルディスが後ろから声をかける。

「待たせたか?」

 やや長い間をあけて、チェザーレが振り返る。
 彼はまじまじとアルディスの顔を見ると、「まあ座ってください」と席をすすめた。

「で? どうだった?」

「昨日お話しした『もめ事』ですが、どうやら領主から女傭兵への捕縛命令が出ていたようです。理由は両軍の兵士に対する傷害罪、そして幼児誘拐の疑いです。女傭兵の家を衛兵隊が囲んだものの、突入した家は無人だったようで、捕縛は失敗。女傭兵の行方はそのまま分からなくなったようです」

 やはり他の情報屋に比べ、チェザーレの持っている情報は質が高い。

「ただ、この捕縛命令は侯爵の完全な独断だったらしく、法守院(ほうじゅいん)の承認を得ていないものだったようです。そのためトリアでは捕縛命令の事実そのものを隠蔽(いんぺい)しようと、今現在も躍起(やっき)になっているみたいですね」

 この情報はアルディスにとって朗報と言うべきだった。
 法守院の印がない時点で怪しいとは思ったが、やはり正規の手順を踏んだわけではなかったということだ。
 トリア側がもみ消そうとしているのなら、少なくとも表立ってアルディスやネーレが手配されることはないだろう。

「その情報、確かなのか?」

「昨日一日で確認した情報ですから、裏取りまでは間に合いませんでした。信頼性は七割といったところでしょう。ですが、おそらくまだどこの情報屋もつかんでいないネタのはずです。たぶん国の情報機関くらいですよ、知っているのは」

「そうか」

 確かに情報が正しいとは限らないが、捕縛騒動があってからすでに六日も経っているのだ。
 トリア側が情報を隠蔽していないのなら、とっくに他の情報屋も同じ内容を入手しているだろう。
 チェザーレ以外の情報屋がまだ知らないということは、おそらくトリア側がもみ消しを図っているというのも事実だと考えられる。

 だが、アルディスは何か引っかかるものを感じていた。

 そこまで分かっているチェザーレが、どうしてアルディスの情報に言及しないのだろうか。

 グラインダー討伐以前から、アルディスはネーレと常にペアを組んで狩りをしている。
 常にネーレがついてくるため、街の中でもふたりが一緒にいるところは目撃されていたはずだ。

 しかも捕縛劇があったのはアルディスの家であり、捕縛に来た衛兵たちの前に出て行ったのもアルディス、さらにネーレが姿を消すと同時にアルディス自身もトリアから消えている。
 ここまで関与しているにもかかわらず、チェザーレの口からアルディスの話が全く出てこないのは妙だった。

 考えがそこに至ったとき、アルディスはハッとする。
 昨日ゴロツキに襲撃された後で感じていたモヤモヤを思い出したのだ。

 アルディスが王都にいることを、ネーレと双子以外に知っている人間――。
 ふとした思いつきが確信に変わった。

 目の前にいる優男は、俺がアルディスという男だと気づいているのではないか、と。

 ならば、とアルディスは罠を張ってみることにした――。

「仕方ないか。一日でそれだけ調べてもらったんなら十分だ。待たせている仲間がいるから、今日の午後には王都を出なきゃならんしな」

 ――獲物が罠に掛かることを願って。
2016/12/30 誤字修正 障害罪 → 傷害罪
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