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千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第六章 王都の三大強魔

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第39話

「さて、これからのことだが」

 外套(がいとう)にくるまって眠る双子の横で、アルディスが切り出す。

 明け方の草原。
 トリアの街から出て最初の夜を越え、アルディスたちは朝食の準備をしながら今後の話をしていた。

「とりあえず王都を目指そうと思う」

 トリアから南西に街道を徒歩で五日ほど進むと、ナグラス王国の都グランにたどり着く。

「そこからは三択だな。王都に留まるか、都市国家連合に行くか、帝国に行くか」

 ナグラス王国の西には、中小様々な都市国家がそれぞれ独立した国として存在している。
 それらが緩やかな同盟関係を結び、連合国家のような形を成していた。

 王国の南東にはエルメニア帝国という皇帝を(いただ)く国がある。
 ロブレス大陸南東部に位置するこの国は、古くからナグラス王国と不和(ふわ)が続き、これまでの歴史でもたびたび戦火を交えていた。
 現在も両国共に相手を仮想敵国としており、言うなれば不倶戴天(ふぐたいてん)の敵である。

「北は選択肢に入らぬのか?」

「あの国はなあ……」

 トリアから平原を北に抜けると、ブロンシェル共和国という国が存在する。
 富裕層限定とはいえ選挙によって大統領を選ぶ共和制国家であり、国自体も豊かではあるが、男尊女卑の風潮が非常に濃い地域であることが選択肢から外れた理由だ。

「共和国に行くとネーレがこまるだろう。あの国じゃあ女傭兵なんて認めてもらえないからな」

 ブロンシェルで女性が職業に就くことはまずない。
 公職は男性しか就けないことが法律で定められているし、民間でも女性を雇用する者はほとんどいないのだ。
 当然選挙権も男性にしか与えられていない。

 アルディスもそんな国へ双子をつれて行きたいとは思わない。
 そのため最初から選択肢に入れなかったのだ。

「帝国はあんまり住みやすそうじゃないしな。やっぱり国外に出るなら都市国家連合か」

 エルメニア帝国は貴族たちの選民意識が強く、あまり暮らしやすい国とは言えない。
 一方の都市国家連合は、それぞれの都市で独立色が強く、その分多彩な価値観に対しても寛容だ。
 国家全体としての結束が弱いのは欠点だが、暮らしやすさという点では王国と遜色(そんしょく)ないだろう。

「まずは王都で様子を見る。国から捕縛命令が出ているようなら、その時は西へ向かって都市国家連合に行く」

 さしあたっての方針を決めたアルディスたちは、日中ゆっくりと体を休め、夜が拡がってから移動を開始した。

 空を飛んで移動するなら人目につかない夜の方が良いし、トリアからの追っ手を警戒しているというのもあった。
 心配していた追っ手の気配もなく、アルディスたちは空を飛び一晩で王都の近くまでたどり着くと、王都まで歩いて二時間ほどの距離にある森へと身を潜めた。

「まずは当面の寝床(ねどこ)だな」

 アルディスがそう切り出す。

 トリアでの捕縛劇が王都にどう伝わっているのかわからないのだ。
 もちろん、空を飛んできたアルディスたちよりも早く情報が伝わっているとは思えない。だが万が一、事前に手配がまわっていた場合はノコノコと王都へ赴くわけにいかないだろう。
 数日間は王都で情報を集めて身を潜めていた方が良い。

 しかもいざというときはすぐに脱出できるよう、アルディスかネーレが単身で王都に入るべきだ。
 この場に仮設の拠点をもうけ、ひとりが王都で情報収集、ひとりがここで双子のお守りという役割分担をネーレに伝えれば、彼女は「我が主がそう言うなら」とすんなり同意する。

「ネーレは周辺の危険な獣を追い払っておいてくれ。ついでに食事用の獲物も頼む」

「承知した、我が主よ」

 コーサスの森ほどではないとはいえ、人の手が入っていない場所である。肉食の獣は当然いるはずだ。
 無理に殲滅(せんめつ)してまわる必要はないが、近寄らせたくもない。
 ネーレならばアルディスの意を()んで、上手いこと獣を追い払ってくれるだろう。

「じゃあ、こっちは拠点作りだな」

「アルディス、家作るのー?」

「アルディス、おっきい家ー?」

 昼に睡眠をたっぷり取った双子は、夜だというのにもかかわらず元気だ。
 アルディスにまとわりついて、興味津々に聞いてくる。

「家と言うより小屋だな、作るのは。とりあえずは雨風をしのげればそれで良いし」

 まだ夜明けまで時間があるため、アルディスは明るくなりすぎないよう調節した淡い魔法の光を周囲に浮かべると、邪魔な木を魔法で掘り起こしはじめた。

 余分な枝葉や根を風で切り落とし、土を固く圧縮して作った土台の上に丸太を重ねていく。
 乾燥させることなく生木(なまき)をそのまま使うが、どうせ仮の住まいだ。今は時間の方が惜しい。

 天井部分も丸太を並べて閉じた上に、土を焼き固めた板を並べて雨避けにした。
 切り落とした葉は魔法で乾燥させ、ベッド代わりに内部へ敷き詰める。

 音と光に誘われたのか、ときおり近づいてくる双剣獣は、アルディスが飛ばしたショートソードで淡々と狩っていく。
 作業中も双子がまとわりついてくるが、下手に側を離れて双剣獣に襲われるよりはマシと、気にしないで作業を続けていった。

 二時間もしないうちに仮の拠点作成をすませたアルディスは、はしゃぎ疲れた双子を抱えてその中に入ると、明かりを浮かべて腰を下ろした。

(せめて床くらいは平らに加工するべきだったかな)

 乾燥させた葉を敷き詰めているとはいえ、予想以上に座り心地が悪いことに眉をしかめる。
 追加で数本の木を切り倒すと、今度はそれを板状に切り分けて、室内に敷き詰めていく。

「戻ったぞ、我が主よ」

 そうこうしているうちにネーレが戻ってきた。
 両手にはそれぞれ食事用に仕留めた獲物がぶら下げられている。

「ご苦労さん。どんな感じだった?」

「大して手強いのはおらんな。さほど気にする必要もあるまい。あとは、近くに沼があった。そこの水は汚くて使えぬが、川が見あたらぬから地下水があるのやもしれぬ。井戸を掘ってみる価値はありそうだ」

「井戸か……、さっそく明日掘ってみよう。今日のところは休んでくれ」

「こやつらの解体だけ先に済ませておく。我が主こそ先に休むが良い」

 手に持った獲物を胸の高さまで引き上げてみせると、ネーレは外へと出て行った。

 もうすぐ夜が消えるだろう。日が昇るまで一時間ほどだ。

(日が昇ったら、朝食を作って。井戸を掘って。小屋を柵で囲んで。周辺の探索をして。危険な獣を排除して。あとは……、もうちょっとここの内装も整えるか)

 小屋の外にネーレの気配を感じながら、アルディスは外套にくるまって眠りはじめた。




 翌日からアルディスとネーレは仮の拠点である小屋と、その周辺の生活環境を整えはじめる。

 日が完全に登り切ってから、ネーレが解体しておいた肉で遅い朝食を取ったあと、さっそく作業に取りかかった。

「まずは井戸だな」

 アルディスが小屋の周辺を魔法で試掘してみたところ、三つ目で水が出はじめる。
 さらにいくつか掘り進め、一番水質が良く水量も多いところを井戸として整えていく。

 その後は周囲の木を追加で切り倒し、適度な長さで割って斜め格子(こうし)状に組み合わせた柵を小屋の周囲に張り巡らせていく。

 潤沢な魔力にものを言わせて魔法でやっているため、井戸と柵を整え終わってもせいぜい三時間ほどしか経っていないが、これを通常どおり人力でやるとおそらく十日以上はかかるだろう。
 目の前で繰り広げられる光景が非常識きわまりないことだと知らない双子たちは、次々と追加されていく新しい設備に目を輝かせながら喜んでいた。

「アルディス、次は何作るのー?」

「アルディス、おっきいの作ろー!」

「作るのはとりあえずまた後だな」

「ええー!」

 不満そうに双子が頬をふくらませる。

 はじめて会った頃に比べ、ずいぶん表情が豊かになってきた。
 トリアにいた頃は人目を恐れていたが、ここなら人間はそうそうやってこないだろう。

 そう考えると街中よりもむしろこういった場所を住処にする方が良いのかもしれない。
 もちろん双子の安全を確保した上での話だが。

(あとで庭と遊び場くらい作ってやるか……)

 心の中で明日の予定をひとつ追加して、アルディスはネーレに声をかける。

「少しまわりを見てくる。フィリアとリアナの面倒を見ててくれ」

「我が主よ。探索や獣払いならば我が行くぞ」

「いや、俺自身も周囲の状況を頭に入れておきたいからな。『淡空(あわぞら)』までには戻る」

 アルディスはそう言い残して森へと入っていく。
 ときおり遭遇する肉食の獣をあしらいながら、アルディスは小屋から徒歩三十分程度の距離をぐるりとまわった。

 ネーレの言った通り近場には沼があり、森の中にしては珍しく『甲羅牛』や『這いずる者』などの水棲生物が生息していた。
 だが変わったところと言えばそれくらいだ。
 出くわす獣も――アルディスたちにとっては――取るに足らない相手であったし、魔物の(たぐ)いも見当たらない。

 一方でこんな場所にわざわざやってくる人間と言えば傭兵くらいのものだ。
 街道からも離れているため、行商人や旅人が迷い込んでくることはないだろう。

 仮の拠点とするにはちょうど良い。
 アルディスは手土産に小型の獣を二体仕留めると、空の明るいうちに小屋へと戻っていった。

 翌日アルディスは柵の内側に双子の遊び場を作ると、再び留守をネーレに任せ、森へと入っていく。
 双子にとって危険となりそうな獣は圧倒的な力を見せつけて追い払い、それでも向かってくる愚か者はすぐさま処分する。

 加えて食糧となる獲物も積極的に狩っていく。
 トリアから持ち出した食糧はまだ残っているが、これから王都へと様子窺いに行く間、双子を抱えたままで狩りへ出るのは難しい。
 アルディスとネーレがふたりともいる今のうちに、ある程度の備蓄が必要なのだ。

 幸い魔法に関しては反則級の力をもつふたりである。
 食糧の保存用に氷で倉庫を作り、それを保持し続けることなど、アルディスたちの力をもってすれば容易(たやす)いことだった。

 そうしてトリアを出てから五日が経過。
 徒歩の行商人でもトリアから王都までたどり着く日数だ。
 当然伝令の馬はとうの昔に到着しているはずである。
 王都に入り、トリアの一件がどのように伝わっているか探るには良い頃合いだろう。

「ネーレ。留守と双子の面倒を頼むな」

「承知した、我が主よ。任せておくが良い」

 双子をここに置いて行く以上、アルディスかネーレのどちらかが残る必要がある。
 実力から言えばどちらでも問題ないが、心情的にはアルディス自身が残りたい。

 しかしもしトリアの一件でアルディスたちが王都でも手配されているとしたら、目立つのはまずいだろう。
 そう考えたとき、やはりネーレの容姿は目を引いてしまう。

 一考した結果、王都へはアルディスが行くことにした。
 幸い双子は大分ネーレに慣れてきており、しばらく留守を任せるのに不安はない。
 ネーレ個人への信頼感も、以前よりずっと増している。

「帰りは明日の夕方か夜になる予定だ」

「アルディス、いってらっしゃーい」

「アルディス、お土産忘れないでねー」

 双子の見送りを背にアルディスは『浮歩(ふほ)』で森を抜ける。
 まだ王都の門は開いていない時間なのだろう。幸いなことに街道沿いを歩く人間と遭遇することはなかった。
 そのまま人目に触れることもなく、アルディスは街道沿いを四十分ほど歩き続けて王都の北門へと到着した。




 ナグラス王国の都グラン。
 人口約三十万を数える、ナグラス王国最大の、そしてロブレス大陸でも指折りの大都市である。

 カノービス山脈の南に位置するグランは、トリア同様、海に面した風光明媚(ふうこうめいび)な都市と非常に名高い。
 ロブレス大陸を横断する大街道と、大陸南東部へと続く街道の交わる位置にあり、街道を北東に進めばトリアを経てブロンシェル共和国へ、西は都市国家連合へ、南東はエルメニア帝国へと至る交通の要所だ。

 古くから交易の盛んな都市として栄えてきたグランには、大陸中の人や商品、そして莫大な富が集まってきた。
 その財力は、かつて一都市国家でしかなかったグランを、広大な版図(はんと)を誇る王国にまで押し上げたほどである。

 王都は都市国家時代からの家々が並び立つ旧市街と、王国成立後に新しく拡張された新市街で構成されている。
 旧市街と新市街は、旧市街をぐるりと囲む壁によって仕切られていた。その壁は都市国家時代にあった城壁の名残だ。

 当初はかなりの余裕を持って広く作られた新市街の敷地だったが、今日に至ってもグランの人口は増加の一途をたどり、すでに開発の余地は少なくなっているという話だった。
 外壁の一部を拡張すべきという意見もあるらしいが、莫大な費用がかかってしまうことと、帝国との間に不穏な空気が流れる現在の状況が、それを簡単には許さないようだった。

 アルディスは以前ノーリスから聞いた話を思い出しながら、外壁へ向かって通常の速度で歩いていた。

 門の前では兵士がちょうど開門の準備をしているところだった。

(さて、いきなり門で御用とならなきゃいいが……)

 緊張を押し隠し、アルディスは門番の兵士へ声をかけた。

「もうすぐ通れるかい?」

「ああ、ちょっと待ってな。もうすぐ準備できるから」

 門番はアルディスの顔を見ても、態度を変えることなく返事をする。
 少なくとも門番のところまで手配がまわっているわけではないらしい。

 そのままアルディスは手持ち無沙汰に周囲の様子をながめながら、開門の準備が整うまで待った。

「ずいぶん朝早くにきたもんだな」

 おそらく準備が整ったのだろう。門番が話しかけてくる。

「本当は昨日の夜までに王都に入りたかったんだけどな。ちょっと途中でグラスウルフに襲われたんで、閉門の時間に間に合わなかったんだ」

「おいおい、そりゃ災難だったな。よく無事で……、って君は傭兵か?」

「行商人に見えるかい?」

「さすがに……、行商人には見えないな」

 人の良さそうな笑みを見せて門番が言う。

「そうか、若いのに優秀な傭兵なんだな、君は。でもひとりで野営するのは危険だろう? 閉門の時間を遅らせるわけにはいかないが、門の前で野営するくらいは俺たちも目をつぶっている。夜間の見張りもいるし、かがり火もついているから、何もないところで野営するよりは安全だろう。今度からは多少無理してもここまで来ることをおすすめするよ」

 思ったより友好的な門番の態度に、アルディスの警戒心も多少緩んだ。
 市街地へ入る際に徴収される『通門税』という名の税金を支払い、アルディスは正規の手続きをすませる。

 その間にもアルディスの横を、王都から出発する隊商や傭兵たちが次々と通りすぎていく。朝早くから出発する人の多さは、さすが王都と言うべきだった。

「よし、良いぞ。王都に入るのは初めてか? だったら注意事項をいくつか伝えなきゃならんが」

「いや、以前来たことがあるから知っているよ」

「そうか。だったら俺から言うことはない」

 門番に礼を言い、早朝の空気に包まれた王都へと足を踏み入れる。

(まずは退路の確認と今夜の宿を確保、だな)

 アルディスは周囲に目を配りながら、裏通りへとその姿を消した。
2017/11/02 誤字修正 様子伺い → 様子窺い
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