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千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第四章 アリスブルーの女

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第29話

 予想よりも仕事が早く片付いたアルディスは、帰り道に馴染みの武器屋へ立ち寄る。
 女との戦いで失ったショートソードの補充をするためだ。

 店頭に並ぶ数打物(かずうちもの)をとりあえず二本買い、同時に『重鉄(じゅうてつ)』で作るショートソードを二本注文しておく。
 その後もいくつかのお店へ顔を出し、日用品や雑貨を購入して家へ帰った。

「アルディス、おかえり」

「アルディス、遅い」

 家に入るなり、プラチナブロンドの髪を揺らしながらトテトテと双子が駆け寄ってくる。
 たまにしか笑顔は見せてくれないが、少なくともアルディスに怯えたような表情を見せることはない。

「ただいま。フィリア、リアナ」

 いまだに見分けがつかない双子へ帰宅の挨拶をして、その頭を軽く撫でる。

「今日はね、フィリアたちお昼ご飯作ったよー」

「リアナたちサンドイッチ作ったのー」

「そうか、うまく作れたか?」

「全然ー。おいしくなかったー」

「失敗ー。残念無念ー」

 ふたりは歳のわりに言葉数が少ない。
 おそらくそれはずっと抑圧された環境に身を置いていたせいだろうが、ここ最近ふたりの雰囲気は少しずつ明るくなって来ていた。

 アルディスにしてみても、最初は義務感からとはいえ面倒な荷物を抱え込んでしまったという意識が少なからずあったが、今では当たり前のように双子との生活を受け入れている。
 双子と暮らすことがごく自然な日常となり、その存在をそばに感じることが自分の居場所を確固たるものにしている気がするのだ。
 ただ、それをなんと呼べば良いのか、今のアルディスにはわからない。

「アルディス、晩ご飯作るー?」

「アルディス、お腹すいたー」

「まだ早い気もするが……、まあいいか。じゃあふたりとも手伝ってくれ」

 何気ない会話が交わされる平穏。

 偶然手に入れたそんな安寧の時間へ、頼みもしないのに割り込んでくる影があった。
 それはアリスブルーの長い髪をたたえる人間の姿をしている。

「なぜあんたがここに居る?」

 双子といっしょに食事の準備を終えた頃、家の玄関をたたく音に顔を出したアルディスは、不機嫌さを隠そうともせずに言った。

 玄関先に立っていたのは白いフード付きの長衣をまとった女。
 数時間前に領主の館へと連れて行った相手だった。

(めい)を果たしたゆえその報告に来た」

「命……?」

「はて? 領主へ面会して来いと言ったのは我が主ではないか?」

 首を傾げて問うアルディスへ、同じように首を傾け女が返答する。

 確かにそんなやりとりがあったような気もするが、あれはあくまでも領主と面会させるための方便(ほうべん)だ。
 命令を果たしたと報告を受けたところで、アルディスは何と対応すれば良いのかさっぱり分からない。

「あー、そう……。ご苦労さん。それじゃあ俺はこれで」

 領主の館へ連れて行ったことで、アルディスは依頼をすでに達成している。
 これ以上、この女に関わる必要などどこにもない。
 むしろやっかいごとの気配を感じ取り、玄関を閉めようとする彼に女が言う。

「次なる下知(げち)はあるかね?」

「………………ない」

「ならば我が主の身辺警護と介添(かいぞ)えに専念させてもらおう」

 閉めようとした扉に手をかけて止めて女が言う。

「はあ?」

 もしかして自分は一晩の宿を強請(ねだ)られているのだろうか、とアルディスは思った。

 確かに突然トリアまで連れてきたのはアルディスである。
 女にしてみれば勝手な都合で振り回されたのだから、一晩の宿くらい世話をしろと言いたくなるのも分からないでもない。

 だが、アルディスはあくまでも領主からの依頼を請け負っただけだ。
 領主の館へ連れて行った後は、領主が責任を持って女に応対するべきだろう。
 単なる使いっ走りのアルディスが女の面倒を見るいわれはない。

 まして家の中には双子がいるのだ。
 いくら街の住人ではないとは言え、今の段階で赤の他人に少女たちの存在を知られたくはない。

「金がないなら一晩の宿代くらいは出してやる。だからそこで待っていろ」

「金には困っておらん。だが、離れた場所に居てはいざというとき間に合わぬ。主の側に付き従うが我の務めであろう」

「……どっちにしてもあんたを家に入れるつもりはない」

「承知した。では表にて警護にあたろう」

 思いのほかあっさりと引き下がった女は、そのままきびすを返してアルディスの前から立ち去っていった。
 わけがわからないままその姿を見送ったアルディスは、念のため朝まで効果の続く防壁を家全体に展開し、双子が待つリビングへと戻っていった。



 翌朝、目を覚ましたアルディスが最初に感じたのは、家の側に存在する人の気配。

「ねえねえアルディス、門のところに女の人が居るよ」

「ねえねえアルディス、白い髪の人ずっとあそこに居るよ」

 朝食の支度をする間、ずっと表を観察していた双子が、パンをちぎりながら報告してくる。
 どうやら女は一晩中、門番よろしく家の入口横に立っていたらしい。

 存在そのものはアルディスも昨晩から気づいていたが、特に家に侵入してくるでもなく、危害を加えてくるでもなく、時折周囲を巡回する以外はずっと立ち続けているようだった。
 本人は警護だなどと言っていたが、まさか本気で家の警護をするつもりなのだろうか。アルディスは昨日女が口にしていた事を思い返していた。

「我が主……、ねえ」

 得体の知れない人間が家の周囲をうろついている以上――実際には入口に張りついているわけだが――、双子を残して外出するのには不安が残る。

 だが、それは杞憂(きゆう)だとすぐに判明した。

「我が主、外出するのか? ならば我が供をしよう」

 アルディスが出歩く際に、女が付き添うようになったからだ。

 これにはアルディスも少なからず胸をなでおろした。
 家に残る双子の心配をする必要がないなら、後はアルディス自身の問題である。

 確かに女の力は侮れないが、たとえ敵対的な行動をみせても油断さえしなければ不覚を取ることもないだろう。
 ただ、出先でうかつに昼寝ができなくなったのは残念な話であった。

 翌日からアルディスは仕事を再開する。
 街の外へ出かけると、当然のように女が後からついて来た。

 アルディスがひとりで請け負える仕事はそれほど多くない。
 どうしても人手の数がものを言う調査や護衛の仕事は向いていないし、十日以上家を空けるような伝言や手紙の郵送といった仕事も避けている。

 必然的に討伐の依頼を受けたり、依頼抜きで狩りへ出かけることが多い。
 もちろんアルディスほどの腕前であれば、草原のディスペアや獣王を狩るだけでも十分暮らしていくことは出来る。
 余計な足手まといがいなければ、コーサスの森でウィップスやラクターを狩っていても良いくらいだ。

「我が主、こやつらの素材は回収するのか?」

「好きにしろ」

 そんなわけでアルディスは今、コーサスの森奥深くに踏み込み双剣獣やラクターを相手に狩りをしていた。

 ある程度予想していたとはいえ、女の力量は森で余裕を持って狩りをするのに十分であり、たった今もラクター二体をまたたく間に魔法で切り裂いたところだ。

 問題は女がアルディスよりも先に獲物を狩ってしまうことだった。
 アルディスとしては女とパーティを組んでいるつもりも協力しているつもりもない。
 よって、女が仕留めた獲物の素材をアルディスが勝手にどうこうするわけにはいかないのだ。

「あんたの狩った獲物はあんたの物だ。俺にどうこう言う権利はない」

「異な事を。従者が狩った獲物は主の物。我が主がいると言えばいるし、いらぬと言えばいらぬ。それだけのことぞ」

 ところが、どうも女はアルディスにその判断を求めてくる。
 加えて、女のおかげでアルディスはほとんど戦闘に参加することなくここまで来ていた。

 それは探索や調査といった目的の場合、喜ばしいことである。
 だが、アルディスの目的は狩りと素材の回収だ。女の行動はむしろ邪魔といっても良かった。

 どうも女はアルディスへ危険が迫る前に、それを排除することが自分の役目と考えているようだ。
 アルディスにしてみれば頼んだ覚えもないし、狩りを目的としている今、それは正直なところ迷惑としか言いようがない。

「ともかく、そうやって手当たり次第狩られたんじゃあ、俺が獲物を捕れなくなる。俺もある程度の稼ぎは持って帰りたいんでな。もう少しこっちにも獲物を回すか、俺から離れて狩りをしてくれ」

「このようなザコ、我が主の手を患わせるまでもない。獲物を持って帰るなら、我が仕留めたあれらを持ち帰れと下知すればよかろう」

 さも当たり前のように、自らが狩った獲物をアルディスに差し出すつもりだ。
 女の言い分では、アルディスの身を守るのは自分の役目、狩った獲物はアルディスの物、必要なら素材回収を命じろ、という事だった。

 結局どうにも引く様子を見せない女に、アルディスは諦め半分である提案をする。

「わかった。とりあえず主うんぬんは置いといて、だったら一時的に手を組もう。今日一日協力して狩りをする。素材はすべて回収して、街に戻ったら等分するってことでどうだ?」

 アルディスが口にしたのは臨時のパーティを組むという申し出だった。
 放っておくと、いつまでもつきまとって獲物を全部狩ってしまう相手より、二人で狩りをして成果を山分けする方が良いと判断したのだ。

「承知した、我が主よ」

 女はふたつ返事で承諾した。

 それからの狩りは順調だった。
 ひとりでも規格外の強さを持つアルディスと女。そのふたりにかかれば、コーサスの森最強と呼ばれるウィップスですら出会った瞬間に物言わぬ(むくろ)と化す。

 森の獲物を刈り尽くさんばかりの勢いで、ふたりは駆け巡る。
 結局一日で金貨二十八枚という馬鹿げた額を稼いだアルディスは、女へ半分の金貨十四枚を渡すと家路についた。

 女は最初、頑として金貨の受け取りを拒否していたのだが、アルディスのお金を預かってもらうという名目で無理やり受け取らせることにした。
 ノーリスあたりに言わせれば「いらないって言うんなら、もらっとけば良いのに」となるのだろうが、アルディスには目先の金貨よりも、女のような力を持った人間にある種の『借り』を作る方が危険と思えたのだ。

 素材売却をした商会ですぐさま金貨を山分けし、家へと戻ったアルディス。その後ろにはごく自然な振る舞いで付き従う女の姿があった。

「それでは我が主。我はここで警護の任につくが、よろしいか?」

 よろしいかもなにも、言ったところで宿に泊まるつもりがないのは、昨日までの行動を見れば明らかである。

「勝手にしろ」

 投げやりにそう言い捨てて、アルディスは家の玄関へと入っていった。
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