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千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第四章 アリスブルーの女

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第26話

 女が連続して生み出す魔法による攻撃を、アルディスは障壁で防ぎ、あるいはそらし、合間に繰り出されるダガーの刺突から身をかわす。
 アルディスからも女に向けて火球、岩石、風切、氷塊と立て続けに打ち込むが、いずれの攻撃も有効打となってはいない。

 ただ、これは互いに様子伺いのようなものだ。
 人目があるため、アルディスは剣魔術を持ち出してはいないし、繰り出す魔法も威力の低いものに絞っている。
 それは女の方も同様らしく、こちらの力量を測るかのように小出しの攻撃を放ってくる。一度、輝く光の槍を見せた以外はいずれも基本的な攻撃にとどまっていた。

「お主、なぜ本気をださぬ? ……ああ、そういうことか」

 手を止めて問いかける女は、天色(あまいろ)の瞳だけを横にそらして見物している傭兵を見ると、勝手に納得した。

 アルディスとしてはあまり剣魔術うんぬんで悪目立ちをしたくない。
 強者として注目を集めるのは構わないが、特殊能力の持ち主として耳目(じもく)を集めるのはトラブルのもとにしかならないと考えているからだ。

 可能であれば魔法を使う前には詠唱をするようにしているし、グレシェやミシェルたちのように剣魔術を見せた相手へは口止めをしてある。
 もちろんあくまでも『お願い』でしかない以上、いずれ知れ渡ってしまうことは覚悟の上だった。

 女の納得は、そういったアルディスの内心を察したからであろう。片手を頭上に掲げて小声で言った。

「では、ちと追い払うとしようか」

 女が掲げる掌の先に光球が生まれはじめる。
 その光球はみるみるうちに大きさを増し、やがて五十センチほどに達した後、アルディスへ向けて放たれた。

 アルディスはとっさに着弾点から身をかわすと、同時に魔法障壁を展開する。
 地面へと衝突した光球が、爆発と共にはじけ飛ぶ。

 これまでの小手調べとは桁違いの威力により、アルディスの展開した障壁にも相応の負荷がかかる。
 女の攻撃とアルディスの魔法障壁が互いにせめぎ合い、その魔力は青白い光となって漏れ出した。

「ほう。意にも介さぬか」

 爆風がおさまった時、そこには無傷で立ち続けるアルディスの姿があった。
 アルディスにして見ればこの程度の攻撃は脅威とならない。だが周囲で見物していた傭兵たちにとっては違うだろう。
 爆発によって周辺一帯は熱と爆風で覆い尽くされ、その余波が周囲で野次馬を決め込んでいた傭兵たちにもおよんでいた。

 もちろんそれは直接的な被害をもたらす攻撃ではないものの、もとの威力が威力である。
 余波だけでも小柄な人間を数メートル吹き飛ばし、それ以外の全員をよろめかせるだけの力を持っていた。

「な、こんなところまで衝撃がくるなんて……!」

「ちょ……、シャレになんねえぞ」

 そこへ再び女の手が頭上に掲げられる。今度は両手だ。

「さて、これならどうかね?」

 不敵な笑みを浮かべつつ、女がまたも掌の先で光球を生み出しはじめた。

「おい、あれやばいんじゃないのか?」

「どこまででかくなるんだよ」

「さっきの大きさであの威力ってことは……」

 光球の大きさは先ほどのものを超えてさらに膨張する。
 多くの傭兵たちが凝視する中、それは優に三メートルを超えて、尚も大きさを増していた。

「逃げた方がよくねえか……?」

 ある傭兵の言葉が引き金となり、全員があわててアルディスたちへ背を向け一目散に駆け出した。

 アルディスが来るまでのんびりと商売をしていた行商人たちも我先にと逃げはじめる。中にはあわてるあまり、商品を置き去りにしてしまう者もいたほどだ。
 やがて周囲から人間の姿が消えたことを見計らったかのように、女の両腕がアルディスへ向けて振り下ろされる。
 まばゆい輝きを放ちながら襲いかかってくる光球の正面に、アルディスが展開する三重の魔法障壁が立ちふさがった。

三重魔法障壁(フェル・トォラ・マニーナ)

 一枚目の魔法障壁は鋭く研ぎ澄まされた刃のような形状で光球を細切れに分割し、二枚目は網目を積み重ねたような綿状の障壁で威力を減衰させ、三枚目の強固な障壁が浸透を防ぐ。

「邪魔な視線はなくなったぞ。これでお主も本気を出す気になったかな?」

 熟練の傭兵が逃げ出すほどの魔法を防がれながらも、女の顔には焦りひとつ浮かんでいない。

 アルディスにしても当然といった顔である。
 これ見よがしな先ほどの光球が、周囲から見物人を一掃する目的であることはアルディスにも分かっていた。

「本気を出すかどうかは、あんた次第だけど……。その前に、今さらかもしれないが大人しく話を聞く気はないのか?」

「たわけ。この期におよんでまだそのようなことを申すか。我に物申したくば、まずはその気にさせてみよ!」

 女の腕が動くに合わせ、すさまじい烈風が巻き起こる。
 大海原の嵐を思わせるそれは、意思を持った生き物のようにうねりながらアルディスへ襲いかかった。
 大地がえぐれ、舞い上がった岩が砕かれつぶてとなってアルディスの周囲を埋め尽くす。

 アルディスは衝撃波を全周囲に展開してそれを吹き飛ばすと、腰から二本のショートソードを解き放ち、右手でブロードソードを抜いた。
 宙に浮くショートソードを見て、女が天色の瞳を輝かせる。

「なるほど。それがお主の戦闘スタイルというわけだな?」

「本気が見たいんだろう? 見せてやるから少しはもたせろよ」

 不敵に笑ってアルディスがブロードソードを構える。

 アルディスは行商人が置き忘れた荷物の中から、短剣や小剣の類いを操り、ショートソードの周囲に展開させた。
 その数は全部で十八。
 ブロードソードを構えたアルディスの周囲に、切っ先を女に向けたまま浮かんでいる。

「行くぞ」

 アルディスの言葉と共に、十八の刃が女に襲いかかる。
 同時に女へ向けて横から無色の衝撃波が三つ降りかかった。

 女はとっさに凝縮された光の線を七つ生みだし、宙を浮く刃へと放つ。
 光が刃を貫くと、高温に焼かれた金属の溶ける匂いが周囲へ広がった。

 三つの衝撃波を瞬時に展開した障壁で減衰(げんすい)させながら、女は後方へ身をかわす。
 後手にまわった女へ、宙を舞う十一の刃がたたみかけた。

 女はどこから取り出したのか、両手に一本ずつのダガーを持って十一の刃を迎え撃つ。
 一度に襲いかかる十一の刃を両手のダガーで、そして物理障壁で防ぐ。
 身をかわしつつ、氷塊をぶつけて三本を落としたところで、女が攻撃に転じた。

「では、これはどうかね?」

 ふたりから少し離れた場所で轟音と共に爆発が生じる。爆発によって上空に立ち上った砂煙の中から、無数の岩石がふたりに向けて降り注いだ。

 大小様々な岩石が、矢のごときスピードでアルディスと十一の刃へ襲いかかる。
 アルディスは直撃する岩にのみピンポイントで障壁を展開した。

 加速された岩により周囲の地面に大小の穴が穿(うが)たれても、アルディスは攻撃の手を緩めない。
 女に斬りかかっていた十一の刃は、そのすべてが岩に打ち落とされ、あるものは折れ曲がり、あるものは鋭さを失っている。
 当然使い手の女自身は全くの無傷で、すでに次の魔法を展開させつつあった。

 今度は女の周囲を囲むように七つの光球が現れ、ほんの短い時間収縮を見せたかと思うと、次の瞬間に七条の凝集光がアルディスに向けて解き放たれる。
 それは、宙を浮く刃を焼いた光よりもさらに強い。

 アルディスも一瞬遅れて七つの光球を生み出す。
 その光球は女が生みだしたものと瓜二つ、だがわずかにアルディスの方が大きさで勝っていた。

 アルディスの光球からも七条の凝集光が出現し、女の放った凝集光に真っ向からぶつかる。
 雷が間近で落ちたかのような轟音、視界を埋め尽くす真っ白な閃光、双方がぶつかり合った後にはこれまでと比べものにならないほどの爆発が起こった。
 周囲一体の地面がめくれあがり、膨大な量の土が舞い上がる。

 視界が完全にさえぎられた中、アルディスはブロードソードを片手に女へ向けて突進する。
 振り下ろした剣が女のダガーに防がれて、甲高い金属音を奏でた。

 女が風をおこして砂煙を振り払う。
 視界がさえぎられていようと、アルディスにはなんの支障もないのだが、女にとってはそういうわけにはいかないらしい。

 追撃を二撃、三撃と繰り出しながら、アルディスは女に反撃の機会を与えず、確実に追い詰めていく。
 その剣撃は鋭い。

「お主、剣士であったか!?」

「正解!」

 女が両手のダガーを駆使してもかろうじて防げるかという剣速、そして重さ。
 さすがにここまで接近した状態で攻撃魔法は使えない。どれだけ精密な制御をしても、誤って自分を巻き込む可能性があるからだ。
 いったん距離をとれば良いのだが、アルディスがそれを許すわけもない。

 息つく間もなく繰り出される猛攻に、とうとう女の守りが崩れた。

 女が左手に持ったダガーをはじき飛ばし、アルディスの左手が女の右手をつかみ取る。
 その瞬間、勝負はついた。アルディスのブロードソードが、その刃先を女ののど元に突きつけていたのだ。

「これで納得したか?」

 (にら)みつけるアルディスの問いかけに、女は天色の目を細めながら満足げに答えた。

(おん)の字だ。我が主よ」
2017/01/04 誤字修正 周囲一体は熱と爆風が覆い尽くされ → 周辺一帯は熱と爆風で覆い尽くされ
2017/06/20 ルビ修正 フェル・トォラ・マニーラ → フェル・トォラ・マニーナ
+注意+
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