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千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第三章 自信過剰な迷子たち

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第17話

 アルディスが戻るのを待って、テッドたち『白夜(びゃくや)の明星』はトリアを出発する。

「馬車まで用意されてるとは……」

 感心しているのか、それともあきれているのか、どっちともとれる口調でアルディスがつぶやいた。

 確かに救出というものは常に一刻を争う。捜索先がコーサスの森であればなおさらだ。
 午前中にトリアを出れば、アルディスたちの足なら夕暮れ前には森の入口にたどり着く。

 だがそうなると安全のために森の外で一晩過ごし、捜索は翌日からの開始となるだろう。
 それではただでさえ低い生存の可能性がさらに低くなってしまうということで、森の入口までは学園が手配した馬車に乗って行くことになった。

 馬車というのは決して安いものではない。借りるだけにしても、一般人や傭兵が気軽に手を出せる金額ではないのだ。
 その金を惜しむことなく出すということが、依頼主の本気を感じさせる。
 ノーリスの言った通り、学生の中に貴族の子弟がいるのかもしれない。

「なんにせよ、森へ今日中に入れるのは助かる。それに、道中眠れるのは良いな」

 ただでさえ徒歩に比べて速い馬車だ。
 しかもアルディスたちが乗った馬車は、速歩(はやあし)で街道を駆けていた。
 短時間ならいざ知らず、長い時間の速歩は馬にかなりの負担をかける。
 下手をすると馬の足をつぶしてしまいかねないのだが、それを承知の上で急いでいるのだ。

「ちょっと。まだ寝ないでよ、アルディス。事前に打ち合わせておくことだってあるんだから」

 今にも横になりそうなアルディスへオルフェリアが釘を刺す。

「ここまでしてもらってんだから、何とかして学生連中を助けてやりてえところだがなあ……」

 テッドが言葉の最後を濁らせた。

 馬車が急いでいるおかげで、昼過ぎには森へと到着する事が出来そうだ。
 少なくとも徒歩でたどり着くより半日早く捜索に取りかかれるのだ。この差は大きい。

 だが一方で、捜索対象となる森は広い。学生たちが森へ侵入したポイントはある程度推測できるのだが、広い森をなんのあてもなく捜索したとして、二日や三日程度で見つかるとも思えなかった。

「さーて、どうやって探すかね」

 ガタゴトとやたらに揺れる馬車の中で、テッドが切り出した。

「確か、学生たちだけでパーティ組んでるのよね?」

「うん、最上級生ばかり五人らしいよ」

「まったく、半人前が調子にのりやがって……。自分の実力もろくに知らねえで森に入んじゃねえよ」

「そうは言ってもね、テッド。五人とも在学生の中では頭ひとつもふたつも抜け出た優秀な生徒らしいよ。若いんだし、鼻が伸びちゃうのも仕方なかったんじゃないかな」

「ふんっ。どんだけ優秀だろうが、ヒヨコにゃ違いねえだろが。ダメなヒヨコと普通のヒヨコ、そん中にちょっと出来るヒヨコがいたところで、しょせんヒヨコにゃ変わりねえ」

「ま、その通りだけどね」

 本心から生徒たちを擁護(ようご)するつもりなどないのだろう。ノーリスはカラカラと笑って同意した。
 テッドがなんだかんだと悪態をつきながらも、学生たちの身を案じているのとは真逆である。

「オルフェリア、お前の魔法で探せねえのか?」

「簡単に言ってくれるわね。そんな便利な魔法があったら、誰も苦労しないわ。ねえ、アルディス」

「……学生たちがまだ生きてるんなら、探せるかも知れないが」

 アルディスの返答に頬をひきつらせながら、オルフェリアが声をしぼりだす。

「………………もう驚かないわ。ちなみにどうやって探すのか教えてもらえるかしら?」

「この森にいる生き物は、小型のヤツを除くと群れを作らない。せいぜいつがい程度だろう。周囲の魔力探査をして人間の大きさが五つ固まっているなら、それは傭兵のパーティかまたは学生たちの可能性が高い。もちろん学生たちが全員生きてるっていう前提だけどな」

 ただ、問題はもうひとつある。
 魔力探査をするには探査範囲へ薄い魔力の膜を広げる必要があるのだ。

 通常の人間であれば気づかない程度の変化だが、魔力に敏感な獣や魔物は異変を嗅ぎとる可能性があった。
 場合によっては周囲の獣や魔物を引き寄せてしまう事も考えられる。

(もっとも、その時は返り討ちにすれば良いか。どうせこの森に大して強いのはいないし)

 アルディスは一応その可能性を説明するが、意外なことにテッドたちはさほど気にしなかった。

「手がかりもなく闇雲に探し回るよりは、多少リスクがあっても広範囲を一度に探索できる方がいいわ。魔物を引き寄せてしまったら、その時はその時よ」

「だな、返り討ちにすれば良いだけだ」

 オルフェリアが意見を述べると、それにテッドがのっかる。

「ちなみにアルディス。一度に探査出来る範囲ってどれくらいの広さになるの?」

 ノーリスが確認とばかりに問いかける。

「測ったことはないが、たぶん半径五百メートルくらいならいけると思う」

「ああ、なるほど。お前に不意打ちが効かねえ理由、ようやっと分かった気がするよ」

 乾いた笑いを浮かべてテッドが言った。

「んー、じゃあ森に到着次第、アルディスに魔力探査をしてもらうとして……。問題はどこから調べていくかだよね」

 いくらアルディスが半径五百メートルを探査できるとしても、森の広さから考えればわずかな範囲だ。ある程度の目星をつけなければ、見つかる見込みも少ない。

「森に侵入したポイントは分かってるんだろう?」

「確定情報じゃないけどね」

 アルディスの問いにノーリスがトリアで仕入れた情報を提供する。

「学生たちもトリアで森の情報は集めていたみたいだ。何人かの傭兵が地図を売って欲しいと頼まれたらしいよ」

 どうやら事前に情報を収集して、地図を入手する程度の準備はしていたらしい。

「そん時、誰も止めなかったのかよ。まったく」

「みんな止めたらしいけど、リーダー格の男の子が聞く耳持たなかったらしいね。ま、忠告はしても結局のところ自己責任だしね」

 ノーリスの言う通り、傭兵が選ぶ道はすべて自己責任という土台の上に敷かれている。
 相手が学生ということで一応の忠告はしたのだろうが、本人たちが行くと言っているものを止める権利など誰にもないのだ。

「で、そのとき学生たちに売ったっていう地図がこれだよ」

 懐から一枚の紙を取り出して、ノーリスが馬車の荷台に広げた。

「学生たちの目的は表向き『鍛錬』ってことになっているけど、実際のところはたぶん『箔付け』ってところだろうね」

 それにはアルディスも異論はない。

 そもそも単なる鍛錬なら、コーサスの森になど行く必要などないのだ。
 王都周辺でも野生の獣や魔物が生息する場所はいくらでもあるし、わざわざトリアまで遠征する必要もない。
 ベテランの傭兵ですら命の保証がない『危険な場所で鍛錬をして生還した』という実績が欲しいだけなのだろう。

(馬鹿馬鹿しいにもほどがある)

 安全の保証された学園の内部で危険に触れる事なく、ぬくぬくと育った箱入り少年少女が考えつきそうなことだった。

「そうなると、森の外周で戦うだけじゃあ満足できないだろうから、最初からまっすぐ森の奥へ向かうんじゃないかな?」

 ノーリスの指が地図の上をなぞる。
 トリアから最も近い場所を視点とし、そのまま森の中央部へと指を滑らせた。

「オルフェリアはどう思う?」

「そうね……。まず彼らが全滅していないという前提で考えると、少なくとも外周部には居ないでしょうね。外周部で『双剣獣(そうけんじゅう)』あたりと戦っていれば、勝つにしろ負けるにしろ外周部にとどまる必要性を感じないでしょうから」

 双剣獣というのはコーサスを含め大陸各地の森に広く分布している体長八十センチほどの獣だ。
 六本の足を持ち、敵を攻撃する際には体長の三分の一を占めるほど発達した二本の牙を使う。
 この牙が二本のシミターソードに見えることから双剣獣という名がついたと言われている。

 二本の牙ではさみこむ力は非常に強く、人間の足程度なら軽く切り落としてしまうほどだ。
 また、全身を黒く固い外皮で覆っているため、打撃に対する耐性は高い。

 ただ肉食獣にしては比較的穏やかで、むやみに近寄らなければ攻撃を受けることもない上、一人前の傭兵であればさほど苦労することのない相手だ。

 もちろん、新米傭兵にとって強敵であることに変わりはない。
 言い換えれば新米の力量を測るにはちょうど良い指標とも言える。
 森で活動するためには、少なくとも双剣獣を軽くさばけるだけの実力が求められるのだ。

 紅の瞳を閉じ、しばらく思案した後でオルフェリアが話し始めた。

「考えられるケースとしては、外周部の獣に勝てたことで自信を持ってしまい森の奥へと進んだが、そこで強敵に遭遇して戻るに戻れなくなった。あるいは外周部の獣に出会うことなく森の奥まで進んでしまったか。といったところかしら?」

 アルディスもそれに同意する。

「そうだな。この地図に書いてあるルート、これは獣のテリトリーを避けて通る道じゃないのか? 面倒なザコを避けて森の奥へ行く分には都合が良いが、このルート通りに進んだとしたら、ろくに獣と出くわすこともなく『ラクター』のテリトリーに入るな」

「双剣獣や群雲(むらくも)をすっ飛ばしていきなりラクターってか? ヒヨコどもにゃあ酷な話だな」

「ま、運良く生きのびてると想定して捜索するしかないよね。じゃあ、捜索ルートはこれで行こうか。合間合間でアルディスが魔力探査をして、ラクターのテリトリーまで入ったらその後の方針を相談ってことでどう?」

 ノーリスの提案に全員が同意する。

「じゃあ、ヒヨコどもを発見した時の話だが――」

 さらに細部の打ち合わせをしようと口を開くテッドの体が、不自然に揺れる。

「なんだあ?」

 予想外の事態に首をひねる間もなく、馬のいななきが響き、全員の体が馬車の前方に向けて傾いた。
 馬車が急停止したのだ。
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