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千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第二章 草原の絶望と新米傭兵

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第14話

 それから四日が経過。
 アルディスとグレシェたちは荷車を引き、毎日草原で狩りを続けていた。

 獲物を求めて移動しながらの狩りとなる上、荷車のせいで移動速度も遅い。そのためどうしても効率は悪くなり、必然的にあがりも減ってしまう。
 もちろんそれは初日に比べての話であり、なんだかんだと言って一日あたり金貨七、八枚の収入にはなっていた。

 だが、いつまでもそうした順調な日々が続くわけではない。
 毎日荷車いっぱいの毛皮や採取品を載せて通りを歩いていれば、必然的に人目をひく。

 そして傭兵という人種は、グレシェたちのように性根のまっすぐな人間ばかりではない。
 成功者を(ねた)み、あわよくばその成果を横取りしようと考える者たちが必ずいるのだ。

「アルディス。あいつらまた居るぞ」

 ラルフが忌々(いまいま)しそうに後ろを振り返る。

「気にするな。向こうから何かしてこない間は無視しておくさ」

 眠気に(あらが)いながら、アルディスは言い捨てた。

「だがよ、どう見ても良からぬことを考えてるぞ、あれは」

 ラルフの懸念(けねん)はもっともである。
 西側の草原はアルディスが獲物を狩りまくったせいで近頃閑散(かんさん)としていたため、昨日から一行は草原を北に向けて進みながら狩りをしている。

 トリアから街道にそって北へ向かえば隣国へとつながることから、街道を進む行商人や傭兵は珍しくもない。
 だが街道から外れたこんな草原のど真ん中にやってくるのは、狩り目的の傭兵くらいだ。

 にもかかわらず、アルディスたちの後方に時折現れる傭兵の一行は、狩りをするでもなく、何かを調査している様子もなかった。
 四六時中ついて来ているわけではないが、この広い草原の中にあって、頻繁に遭遇するというのは明らかにおかしい。
 彼らの目的がアルディスたちの尾行にあると推測するのは自然なことである。

 場所が見通しの良い草原である以上、四六時中姿を隠して尾行することはできない。
 そのため、偶然を(よそお)いつつ付かず離れずこちらを監視しているのだろうが、問題はその目的である。

 見たところ、その人数は二十人を超えていた。単純計算でこちらの四倍以上だ。
 まさかあの人数で押しかけて、自分たちも雇ってくれと言いたいわけではないだろう。

 もしかしたら、アルディスたちが連日大量の獲物を狩っていることに目をつけて、その秘密を知ろうとしているだけかもしれない。

 秘密も何も、アルディスの規格外な強さで片っ端から狩っているだけなのだが、端から見ればそんなことはわからない。
 十代のガキばかりで構成するパーティが、ディスペアや獣王を大量に狩っているようにしか見えないのだ。
 何かそこに秘密があるのではないかと勘ぐられるのも無理はないだろう。

 警戒だけは忘れずに、アルディスたちはいつも通り狩りを続けた。

 いつものように獣王を中心とした狩りを行い、仕留めた獲物をその場で解体して毛皮やその他素材を確保する。
 周辺に獲物がいなくなれば荷車ごと移動して――の繰り返しである。

 やがて荷車もいっぱいとなり、トリアへ戻るため進路を南に向けた時、例の傭兵たちがアルディスの前に姿を現した。
 彼らは三つの集団に別れ、その中で最も人数の多い集団がアルディスたちの進路を塞いでいる。
 左右に展開するふたつの集団と合わせ、半包囲されるような形となった。

「アルディス、どうするんだ?」

 グレシェが緊張に汗を流しながら訊いた。
 相手の人数はこちらの四倍以上。
 しかもざっと確認したところ、中堅どころの傭兵も何人か姿が見える。
 グレシェたちだけなら絶対にかなわない相手だ。

 アルディスは無言のまま、視線だけで相手の様子を観察する。
 しばらく続いた沈黙は、正面の集団にいるガタイの良い男が口を開くことで終わる。

「坊主ども。最近ずいぶん羽振(はぶ)りが良いようだが、自分たちだけで良い思いをするのは感心しねえな」

 友好的とは言いがたい口調であった。

「おめえらがむやみやたらと狩りまくってるせいで、獲物が減ってこちとらおまんま食い上げなんだよ。まあワシらも鬼じゃねえ。おめえらが獣王やディスペアを簡単に狩ってる方法なり、道具なりを渡してくれるってんなら仲良くできねえこともねえがな」

 交渉のような体裁(ていさい)は取っているが、実質的には恐喝と同じである。

「こりゃまた、あからさまだな」

 アルディスがあきれたように言った。

「で? 嫌だと言ったら?」

 瞬間、傭兵たちの気配が剣呑(けんのん)なものに変わる。

「そりゃ、おめえ……。しゃべりたくてもしゃべれない体になるだけだな」

 傭兵たちが武器を手にし、魔術師らしき傭兵もすぐに詠唱ができるよう杖を構える。

「答えは?」

 最後通牒(つうちょう)とばかりの問いかけに、アルディスは不敵な笑みを放ちながら答えた。

「当然――、断る」

 ガタイの良い傭兵の片眉が上がる。

 おそらく彼の考えでは、圧倒的劣勢の新米傭兵がこうも強硬な態度に出るとは思っていなかったのだろう。
 一瞬困惑したかに見えた男だったが、すぐに気を取り直して声を張り上げた。

「やっちまえ! ひとりは生け捕りにしろよ!」

 その声を引き金にして、傭兵たちが一斉に襲いかかる。
 左右の集団からは火球や岩石といった攻撃魔法が、正面の集団からは弓士の放つ矢がアルディス立ちに向けて放たれた。

 とっさにアルディスは冷静に腰のショートソードを抜くと宙に放り、端的な言葉を口にした。

「払え」

 次いで障壁を展開することで、こちらへと向かってくる魔法に対抗する。

 攻撃魔法がアルディスたちのいる場所に着弾した。
 使われた魔法はいずれも低級威力のものだが、それでも新米傭兵を仕留めるには十分な威力を持っている。しかもそれが複数。

 着弾の余波で砂煙が上がり、そこへ正面から矢が追い打ちをかけてくる。
 アルディスたちがただの新米傭兵ならば、この時点でほぼ壊滅状態となるだろう。
 たとえ生き残っていたとしても、満足に戦える状態ではないはずだ。

 無論、アルディスは新米傭兵ではない。
 詠唱も伴わずに発動した魔力の障壁が敵の魔法をすべてはじき飛ばす。

「切り裂け」

 再び詠唱もなく発動した魔法が、今度は敵の傭兵たちに向けて放たれた。
 左右の集団に向けて同時に放たれたその強烈な風は、またたくまに傭兵たちを包み込み、その腕を、その足を、その首を容赦なく切り裂く。

 ついでとばかりに周囲を覆っていた砂塵が吹き飛ばされたあとに残ったのは、傷ひとつ負っていないアルディスたちと、血だらけになって草原へ倒れ伏した傭兵たちだった。

「な、何が……!?」

 アルディスからの攻撃を受けなかった正面の集団から、驚愕の声がこぼれる。
 彼らの放った矢は新米傭兵を射抜くどころか、届く手前で切り払われ地に落ちていた。
 折れた矢の上空には、宙に浮いたまま微動だにしない一本のショートソード。
 それまで見たことのない異様な光景に、傭兵たちがざわめく。

「まさか……、剣魔術?」

「じゃあ、あれが噂の?」

「相当な手練(てだ)れだって言う話だぞ?」

「あんな子供だったのか」

「新米相手って聞いてたのに、話が違う」

 次々と仲間が口を開き、ためらう様子にしびれを切らしてガタイの良い傭兵が仲間に向けて言う。

「何が剣魔術だ! ただのガキじゃねえか! まだこっちの方が人数は多いし、喰いついちまえば魔術師なんぞ怖かねえ! やっちまえ!」

 その言葉に迷いが消えたのか、かけ声にあわせて傭兵たちが突撃してきた。
 アルディスに向かって十人以上が一斉に襲いかかるが、その中に魔術師らしき姿はない。
 おそらく魔術師は左右に分かれた集団へ配置していたのがすべてなのだろう。

「ごたく並べる前に襲いかかってくれば良いものを」

 苦笑しながらアルディスは腰からもう一本のショートソードを抜き、敵集団の最後尾にいる弓士へ向けて投擲する。

 アルディスの手から離れたショートソードは弓士の首を半分掻き切ると、慣性に逆らって向きを変え、残りの弓士へ死をもたらすべく宙を駆けた。
 その間、弓士から放たれた三本の矢は、最初から宙に浮いていたショートソードがいとも容易く切り払う。

 その光景を視野に入れながら、五メートルほどの距離にまで近づいた傭兵たちに向け、アルディスは掌を向けた。

「打ち抜け」

 瞬間、その手からまばゆい光のつぶてが放たれる。
 光のつぶては矢よりも早い速度で傭兵たちの額へと吸い込まれ、一瞬にしてその命を刈り取った。
 ドサリ、という音を立てて傭兵たちの体が次々と地に倒れこんだ。

 二十人をこえる敵、しかも相手は一般人や新米ではなく戦いを生業(なりわい)にする一人前の傭兵である。
 それを正面から粉砕し、歯牙(しが)にもかけない圧倒的な強さに息をのんでいたグレシェたちがようやく緊張の糸から解放される。

「もう、なんつうか……。すげえな」

「笑っちゃうしかないくらいの強さだねえ」

 ラルフとコニアが顔を見合わせて言っていた。

「なあ、アルディス」

「なんだ?」

「君くらいの強さがあれば、もしかしたら殺さなくても制圧できたんじゃないのか?」

 傭兵二十人以上に対してアルディスひとり。
 通常なら比べる必要もないくらいの戦力差だが、アルディスの馬鹿げた実力を考えれば勝ててしまうのもグレシェには理解できるのだろう。

 だが同時に、それほどの実力差があるのなら、命まで取らなくてもあの状況を切り抜けられたのではないか。グレシェは遠回しにアルディスを責めた。

「やろうと思えばできる」

 それはアルディスにとって造作もないことだった。

「だったらどうして!? 出来るんだったら捕らえて衛兵に突き出せば良いじゃないか!?」

「その必要がないからだ。野盗にかける情けなどいらない」

「彼らは野盗じゃない! 俺たちと同じ傭兵だ!」

「じゃあ聞くが、野盗とはなんだ? グレシェの考える野盗とはどういうヤツらのことを言う?」

「……法を犯して他人の財産や命を脅かす者、だろうか」

「だったらヤツらのやったことはなんだ? 法の庇護(ひご)がおよばない草原のど真ん中で、暴力によって俺たちの財産と命を奪おうとしてきた。グレシェの言う野盗と何が違う?」

「それは……」

「言っておくが、ヤツらの場合は野盗よりも(たち)が悪いぞ。賞金首や無名の野盗ならともかく、ヤツらは傭兵としてある程度顔が知れている。傭兵仲間や街の人間の中には擁護(ようご)する者もいるだろう。ヤツらを捕らえて衛兵に突き出しても、衛兵や領主たちがこちらの言い分を認めてくれるとは限らない。下手すればこちらに罪を着せられかねん。なんせここには当事者以外の証人がいないのだからな」

「まさか、そんなことは……」

「無いと言い切れるか? もしヤツらが無罪放免にでもなったらどうする? 無罪でなくとも罰金や短期間の強制労働程度で罪を許されでもしてみろ。間違いなく俺たちに報復してくるぞ。今度はもっと念入りに計画を()ってな」

 アルディスにしてみればグレシェの考えは甘すぎた。
 悪は裁かれ、善は(むく)われる。そんな子供向けの絵本に書いてある物語と同じ延長線上に現実があると思っているのだ。
 信じるのは勝手だ。だが現実はそんなにきれいなものじゃない。アルディスは大切なものをたくさん失うことでようやくそれを理解できた。

 口にこそ出さなかったが、そんなアルディスの胸中が雰囲気から伝わったのだろう。
 グレシェはそれ以上の反論をしてこなかった。

 常ならば傭兵たちの身につけている装備や懐の所持品も回収するのだが、グレシェたちの心境を考慮して、アルディスはそれらをあきらめた。

 死体を焼いて魔法で地面に埋めると、そのまま荷車を引いて帰途へと着く。
 普段であれば会話に華が咲くトリアへの道中を、その日、一行は終始無言で歩くことになった。
2016/12/19 誤字修正 ディスピア → ディスペア
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