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千剣の魔術師と呼ばれた剣士 作者:高光晶

第二章 草原の絶望と新米傭兵

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第10話

「まあ、乗りかかった船だ。余計な事をしなけりゃ大丈夫さ」

 ニヤリと笑って見せ、アルディスが腰から二本のショートソードを抜く。
 空へ向かって放り投げたショートソードが、何も支えのない宙に浮きあがった。

「な!? そ、それは……!」

 ジオが何かを思い出したように目を張った。
 その間にもディスペアたちは急激にアルディスたちとの距離を詰めている。

「全員、戦闘の準備を!」

 あわててグレシェが仲間に指示を出すが、それをアルディスが(とが)めた。

「大人しくしていろ」

「し、しかし……!」

「すぐ終わるから、うろちょろしないでくれ」

 すでにディスペアたちは弓矢の届く距離にまで近づいている。

「行け!」

 アルディスの声を引き金に、二本のショートソードがディスペアに向かって一直線に飛ぶ。

 ディスペア二体に向け、吸い込まれるように飛んでいったショートソードがそれぞれの標的と重なった。
 次の瞬間、ディスペアたちが突進の勢いそのままに体を地面に打ちつけ、数メートル転がって止まる。

「はあ!? 何が起こった!?」

 倒れたままピクリとも動かなくなったディスペアたちを見て、ラルフが目を丸くする。

「あと一体」

 飛んでいったショートソードによって二体のディスペアたちを仕留め、残るはアルディスの正面から突っ込んで来る一体のみ。

 ディスペアは十メートルほど前で足を止めると、こちらとの距離を窺うように体を沈ませた。
 他のディスペアが倒されたため、強襲ではなくじっくりとこちらの弱いところを狙うことにしたのだろう。

「へえ、意外に慎重だな」

「シャアアア!」

 感心したようなアルディスの言葉に、威嚇(いかく)を返すディスペア。

「もっとも、襲う相手を間違った時点で意味がないんだけどな」

 涼しげな顔でアルディスは手のひらを上に向けて差し出すと、その指をそろえて折り曲げる。
 指の動きと合わせるように、地面から何本もの鋭く尖った岩がディスペアに向けて突き出された。

「ゲエェェェ!」

 思いもよらぬ足もとからの攻撃に、ディスペアがあわてて身をかわそうとする。だが、ディスペアを襲う岩はひとつやふたつではない。
 多少かわしたところで、次々と襲いかかる岩の前には無駄な抵抗だった。

 岩をかわして体勢を崩したところへ次の岩が襲いかかり、その身に突き刺さっていく。
 またたく間にディスペアは串刺しとなってその命を散らした。

「す、すげえ……。あのディスペアを一瞬で……」

 アルディスの戦いをはじめて見るラルフが思わず驚嘆の声をもらす。
 その一方的な戦闘結果にジオはもちろんのこと、グレシェやコニアも言葉が出ないようだった。
 仕方ないことだろう。

 グレシェは目の前でディスペアの首が落とされるところを見ているが、自分自身が命の危険にあって冷静でいられなかったことと、あまりに近すぎてショートソードの動きもよくわかっていなかったのだ。
 コニアもグレシェの方にばかり注意がいっていたため、気が付けばディスペアが死んでいたような状態だった。
 改めて遠目でディスペアの動きとアルディスの戦いを目にし、その圧倒的な強さを実感出来た。

「さて、と。これでもう安全だろう」

 振り向いて言ったアルディスに、ラルフが正面へと立つ。
 トラブルを予測したグレシェが分け入ろうとするより早く、ラルフはアルディスに向かって深く頭を下げて言った。

「すまなかった」

 先ほどまでとはうって変わって真摯(しんし)な態度で謝罪を口にする。

「さっきはアンタを軽く見ていた。侮辱するようなことを口にしたが、あれは撤回する。今の戦いを見てアンタの実力はよくわかった。自分の見る目がないのを棚に上げてアンタに失礼な態度を取った。すまない」

 しおらしい態度で頭を下げられれば、アルディスとしても許さないわけにはいかない。
 第一、もともとアルディスは大して気にしていなかったのだから。

「気にすんな。慣れてるから」

「それと俺を含めて仲間の命を救ってくれたこと、礼を言わせて欲しい」

 最初の印象は良くなかったが、単に生真面目で不器用な人間なのかもしれない。
 きちんと自分の非を認める勇気があるのだから、根は悪い人間でもないのだろう。
 少しテッドに似ているかもしれない、とアルディスは思った。

「わかった。謝罪と感謝を受け取ろう。だからもう頭を上げてくれ」

「ありがたい」

 そう言ってラルフが頭を上げた。

 アルディスは改めてラルフへと目をやる。
 身長はアルディスより頭一つ高い。
 黒髪の短髪で瞳の色は褐色。ガッチリとした筋肉質の体格で、見るからにパワーとタフさを売りにしていそうな雰囲気だ。

「すまないが、ちょっと良いだろうか?」

 横から長髪の男が割り込んでくる。
 ラルフとは対照的に細身でやや小柄な剣士だった。

「えーと、確か……」

「ジオだ」

 栗色の髪をひとつ縛りで背中に流したジオは、アルディスの言葉を待たずに自分で名乗った。

「先ほどの戦いで見せた剣を操る術。もしかしてあなたは噂の『剣魔術の使い手』か?」

「ジオ。剣魔術の使い手って?」

 耳にしたことがなかったのだろう。コニアが疑問をそのままジオにぶつけた。

「聞いたことがないか? 四属性の魔法を操るにとどまらず、いまだかつて誰も使ったことのない剣魔術という独自の(わざ)を実戦に使う魔術師の噂」

「知らないなあ」

 コニアが茜色の髪を揺らしながら首を横にふる。

「誰ひとり模倣できない唯一無二の剣魔術。その魔術によって操られる剣はまるで命を得たかのように空を泳ぎ、舞うようにして魔物の首を断つ。謎に包まれた魔術師で――――めっぽう強い、という話だ」

 答えは? と催促するかのようにジオの視線がアルディスを射抜く。

 アルディスは目をそらすと頬を指で掻きながら答えた。

「そういう名で呼ばれることはあるけど……、自分で名乗ったつもりはないなあ」

 ジオはそれを肯定の返事ととった。

「やはり……。まさか噂の剣魔術師に命を救われるとは……、これは良い酒の肴になりそうだ」

「へえ、あんたそんな有名人だったんだ。あとでサインちょうだいね!」

 ニコリと笑って言ったのは紅一点の少女だ。
 茜色のセミロングで小さな顔に小さな鼻と小さな口。どんぐりのような橙色の瞳だけがやたらと大きく感じる。
 小柄な体格も手伝って、アルディスよりも年下に見えるが、聞けばラルフと歳がひとつしか違わないらしい。

「で、グレシェたちはこれからトリアへ戻るんだよな?」

 アルディスの問いかけにグレシェが代表して頷いた。

「ああ、今日はもうさすがに狩りを続ける気にならないから」

「まったくだ。ディスペアと四体も出くわすなんて、人生最大の厄日(やくび)だぜ」

 ラルフが愚痴をこぼす。

「しかし幸運にも『剣魔術の使い手』に助けられて死人は出なかったんだ。悪いばかりじゃないだろう」

「あたしは生きた心地がしなかったけどね」

 ジオは死にかけたわりにまんざらでもなさそうだったが、なまじ一部始終を目の当たりにしたコニアはもうこりごりとばかりに肩をすくめる。

 グレシェが言うには午前中にそれなりの獲物が捕れたので、一日分のあがりくらいにはなるらしい。
 さすがに二度も命が危険にさらされたことで精神的な疲労は大きいため、今日は大人しく引き上げるとのことだった。

 それなら、とアルディスはある提案を口にした。
2016/12/19 誤字修正 ディスピア → ディスペア
※感想欄での誤字指摘ありがとうございます。

2017/11/01 誤字修正 伺う → 窺う
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