07:空白の時間と謎
工藤が出て行ってから一時間…と少し経ったか。
ねーちゃんと話してたらあっという間にそんな時間は経っていた。
「……………。」
「はい私の勝ちね」
「うわァァァア!!また負けてしもたー!!」
俺とねーちゃんは今ので10回目になる真剣衰弱を終えたところやった。
0勝10敗…。見事に俺は負け続けた。
「なんで勝てへんのや…ねーちゃん強すぎやわ…」
「貴方が弱いだけじゃないかしら」
「んなアホな!今まで誰にも負けへんかったのに」
「じゃあ、周りの人もよっぽど弱いのね」
「な!もう一回しよや!」
「勘弁してもらえない?」
「頼むー!!このままじゃ俺のプライドが許さへんねん!!」
「何回やっても無駄じゃないかしら?いい加減諦めなさい」
「そんなん言わんと頼んます〜!!」
「嫌よ。疲れたもの」
あっさり断られた。仕方なく俺は手元で握りしめていたトランプをテーブルの上にバサバサと投げた。
「…ほんま悔しいわ」
俺はボソリと呟いて、ソファーの背もたれに体重をかけて天井を見た。
「クスクス…まるで子供ね」
向かいのソファーに座るねーちゃんは、そんな俺を見てしなやかに笑った。
ドキンと胸が鳴って、顔に熱が集まった。
小学生やのに、すごく綺麗に笑う人に見とれた。
…あかん。やっぱあかんわ…。一晩…とはいかんでも、男と女が二人っきりでおったら、何かが芽生えてまうんやな。
もう、ねーちゃんのせいやわ。
俺、どないしたらええねん…もしかしたら俺もアンタに惚れてしもたかもしれへんで?
そんな風に笑われたら、抱きしめたくなってまうやんか………。
腕の中に閉じ込めたくなってまうわ…。
俺は必死でそんな感情を押し込んだ。
「…にしても、遅いわね」
「工藤か?」
「ええ、見つからないのかしら」
そんとき、俺の携帯が鳴った。
「もしもし?工藤か?和葉見つかったんか?」
『ああ、見つけたぜ』
「事件かなんかやったんか!?和葉は無事なんか!?」
『ああ、何ともねーぜ。迷子になって携帯の電池もなくなっちまってたらしい』
「さよか…よかったわ」
『代わるか?』
「ああ、頼むわ」
『…平次?』
「おう、無事やったらしいな。お前、ええ歳して迷子ってなんやねん。鈍臭いやっちゃなー」
『そんな言わんくてもええやんか!ウチはほんまに怖かっ……ひっく…』
「何も泣かんでもええやろ」
『アホ!ウチはほんまにもう帰れんて思うたんやから…!!もう平次に会えんかと思うたわ…ひっく』
「んな大袈裟な…なあ?工藤に代わってぇや」
電話越しで啜り泣く声が聞こえる。
心細かったんやろな。でも見つかって、ほんまよかったわ。
俺は安堵して肩の力を抜いた。
『おい服部。オメー来てやれよ』
「留守番してろ、言うたのは工藤やろ」
『今、そっち向かうからそこからはオメーが送ってやれよ、心細かったんだと思うぜ?留守番は俺がすっからよ』
「…いや、ええわ」
『え?』
「お前が探偵事務所まで送ったってくれ」
『でも服部…』
「ほな頼んだで〜和葉にアホはあんま一人でウロチョロすんなって言うといて」
『おい服部…!!』
「ほなな〜」
――プツッ…ツーッツーッ
俺は通話を切り、携帯をポケットに入れた。
「彼女迎えに行かなくていいの?」
「ああ、工藤に頼んだわ」
「行ってあげなくていいの?と聞いてるのよ」
「ええねん。俺は留守番っちゅー義務があんねん」
「バカね。一人でも大丈夫だって言ってるじゃない」
「…ちゃうねん」
「え?」
「ねーちゃんは大丈夫かもしれへんけど、俺があかんねん」
「言ってる意味がわからないわね」
「…分からんでええわ…」
「?」
「……こっちの事やから」
ほんまあかんかもしれへん。…和葉がどーでもええとか、そんなんは絶対あらへん。和葉は大切や。大切な人やけど…傍におりたいんは、このねーちゃんかもしれへんな…。
「まあいいわ。勝手にしてなさい。私は地下室にいるから用があったら呼んでね」
「え!?ちょお待ってぇや!俺を一人にするんかいっ」
「だから、彼女のところに行ってあげなさいよ。私はやる事があるのよ」
「そーやなくて!!なんかしよーや」
「してあげたじゃない」
「トランプやのーて!次ちゃう事しようや」
「結構よ」
「ねーちゃんは結構でも俺がしたいねん。わざわざ大阪から来てんで!?相手してぇや」
「工藤君を恨むのね」
「…連れん事言わんとー!!ええやんか!」
「きゃっ…!!ちょっと…服部君!?離し………!!」
□■□■□■.
俺は蘭と遠山さんを探偵事務所まで送った。
「新一、ありがとね」
「ああ」
「ごめんな、工藤君」
「いや、いいさ。それより服部が来れなくて悪かったな」
「…ええねん」
「ホント…アイツに留守任せちまって」
「ええって!かまへんよ!…それより明日ねんけど、蘭ちゃんとも話しててんけど四人で遊びに行かへん?なあ?蘭ちゃん」
「四人で?」
「そう!いいでしょ?新一!」
「え……あ、あぁ」
「それじゃあ服部君にも伝えておいてね!」
灰原…と思ったけど、博士は明日には帰って来るっつってたし…大丈夫だろうと思い了解した。
「じゃーな」
俺は探偵事務所を後にして阿笠宅へ戻った。
「ただいまー」
玄関を開けて中に入ると服部と灰原の声がした。
「服部君、いい加減に…」
「またそんな事言うんか!止めへんで!!」
「……っっっ!ちょっと……っ」
リビングに入ると、服部は灰原を膝の上に乗せて脇腹をこそばしていた。
「……………。」
「どやー!!参ったか!」
「………っっ、やめてって、言って、るでしよ」
「参った言うまで止めへんで」
おもしろくない光景だった。服部…なんか楽しそうじゃねーか?なんだよ?オメー嫌いなんじゃなかったか?灰原の事。
「……オメーら何してんだよ」
俺がそう言うと二人は振り向いた。
「おう!おかえり〜」
服部はニカッとした顔で言った。
「オメー何してんだよ」
「何って…遊んでんねん。なぁ?ねーちゃん」
「私はそんなつもりはないわ。貴方が勝手に始めたんでしょう?それより離してもらえる?」
「ほんまつれへんな〜」
「工藤君も帰って来た事だし、彼に遊んでもらえばいいじゃない」
灰原はそう言うと強引に服部の腕を剥ぎ、俺の横を通りすぎて階段を降りて地下室に行った。
俺はソファーに腰を降ろした。その正面に服部も座り直した。
「…なんや工藤?なんか機嫌悪いみたいやな」
「別に悪くねーよ」
「そか?えらい険しい顔しとるやん」
…別に俺が機嫌悪くなる理由なんてないってのに、なんか…………。
「随分、灰原と楽しそうだったじゃねーか」
「ああ、楽しかったで」
「……嫌がってなかったっけ?」
「そんな昔の事は忘れたわ〜」
「おい」
「…俺、誤解しとった。ねーちゃんと話してみて分かったんや」
「………へぇ。なんの話しをしたんだ?」
「内容まで言わなあかんのか?」
「…別に」
なんか、なんか、なんか…
腹ん中が沸々してくる。
話しの内容なんか気にする必要ないのに、気になる…
「…明日、蘭達が四人で遊ぼうだとよ」
「ほんまに?ドコ行くんや?」
「さぁ?知らねーよ」
「さよか〜。なんや工藤、気乗りしてんやん」
「いや、…疲れるんだろーな…って」
「ま、そらそうやろな」
「博士が明日には帰ってくるっつったから大丈夫かと思ったし、断る理由もねーしな」
「せやな。ま、楽しもうや!!俺もせっかく東京来たんやし」
それから12時を過ぎるまで事件の話や世間話をしていた。
「そろそろ寝るか」
「せやな〜」
「2階空いてっから部屋使っていいぜ」
「そらどーも。ところで、ねーちゃんは寝たんか?」
「灰原が12時に寝るはずねーだろ。アイツ夜更かしばっかしてっからな」
「そうなんか?寝られへんのかな?」
「さあな…。まあ、なんかの研究をしてるのは確かだけどよ」
「ふーん。ならちょっと声かけて行こか。下の部屋やんな?」
「ああ」
二人で階段を降りて部屋のドアをノックした。
「ねーちゃん入るで〜」
ガチャッと服部がドアを開けると灰原がパソコンに向かう姿が見えた。
相変わらずけたたましく指を動かしてキーボードを叩いている。
「なにか用かしら?」
パソコンの画面を見ながら指も止めずに灰原は言った
「俺らもう寝るで?」
「そう。おやすみなさい」
「ねーちゃんはまだ寝ぇへんの?」
「もう少ししたら」
「…寝られへんのか?」
「貴方には関係ないでしょう」
灰原は一回も、いや一瞬も服部や俺の方も見ようともしない。
指だけを動かして画面を真剣に見ている。
重要な事でも打っているんだろうか…。
「関係ないことあらへん。寝られんのやったら俺が添い寝したるで〜」
なっ…………!?
なに言ってんだよ服部!!
「結構よ」
「即答かい。残念やわ」
「そう」
「ほなねーちゃん、おやすみ」
「おやすみなさい」
「あんま遅くまで起きてんじゃねーぞ。おやすみ」
「気をつけるわ。おやすみなさい」
部屋のドアを閉めて、ゆっくり2階へ上がった。
「添い寝ってなんだよ」
「アホか。添い寝は添い寝やろ」
「バーロ。そういう意味じゃねーよ」
「思った事を言うただけや」.
「冗談だろ?」
「俺は常に真面目に生きとるで〜ほな、おやすみ」
「ちょ、服部…」
――パタン
俺の声も虚しく服部は壁の向こう側に姿を消した。
ため息を吐きつつ、隣の空き部屋に入った。
…どーいう意味だよ、それ…。さっき服部に言い損ねた台詞が頭の中をグルグル回った。
俺がいない間に何かあったのか?
俺の知らない時間が服部どうを変えた?
あんなに嫌がってた灰原に『じゃれあい』や『添い寝』なんて…。
…ダメだ、考えれば考える程モヤモヤする…。
考えたりする事は好きだし得意でいつも答えを見つけ出せるのに…。
今は同じ事がただ繰り返されるだけで、これ以上先に進めない。
「はあ…」
俺はもう一度ため息をついてベッドに横になったが余計な事を考えて眠れそうになんてなく、持って来た小説を開いた。
小説を読んでいる時は何も考えずにすんだ。
それからどれくらい経ったか、ふと本から目を離して時計を見ると午前4時過ぎを指していた。
…やべ。もうこんな時間…今日は蘭達と遊びに行くってのに。…また睡眠不足だな…。
「のど渇いた」
静まり返った部屋でそう呟き、水分をとるべく下のキッチンへ行った。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しコップに注ぎ、一気にノドに通した。
「まだ起きていたの?」
人気のない空間からふとそう聞こえ目をやると、暗闇にたっている灰原がいた。
「…オメーこそ、こんな時間まで何やってんだよ」
「あら、何かに没頭していたら時間を忘れる事だってあるでしょう?」
それを言われたら、何も言い返せやしない。
俺も小説に没頭して、こんな時間になるまで気付かなかったから。
「ああ言えばこう言う」
「貴方には言われたくないわね」
「可愛くねぇ」
「それはどうも」
「褒めてねーよ!!」
こいつに嫌味なんて言っても嫌味で返される。
そんな事わかってるけど。
ついつい言っちまう。
「…で、オメー何してんだよ」
「ノドが渇いたから水を飲みに来たのよ」
「そーかよ。…ほら」
俺は新しいコップに水を注ぎ灰原に差し出した。
「ありがとう」
灰原は受け取り、ゆっくりノドに通してった。
「まだ寝ないのかよ?」
「もう寝るところよ」
「…もしかして、服部が言ったように寝ないんじゃなくて寝れない、のか?」
「なぜそんな事を聞くのかしら?」
「…また、組織の夢にうなされてんのか?」
「だったら何?そんな夢、毎日見てるわ。今更よ」
「なんで言わねーんだよ!!」
「言ってどうなるの?どうにもならない事は言わない主義なの」
「言ってどうなるって…ちょっとは相談したり…俺をもっと頼っていいんだぞ」
「私自身の問題よ。貴方には関係ないわ」
「関係ねぇってなんだよ……」
関係ないかもしれない。だけど関係ないとか言われると寂しくなんじゃねーか…
「同じ場所で戦ったじゃねーかよ」
それだけじゃ頼る理由にはならないのか?
お前を1番知ってるのは、明美さんがいなくなって…俺だけじゃねーのかよ…。
俺が1番、オメーを理解出来てんじゃねーのかよ。
「工藤君。余計な事は考えないで」
「余計な事ってなんだよ」
「貴方は彼女の事だけ考えていればいいのよ」
彼女の事だけって……そういう訳にもいかねーだろ。
「あのな、これだけ関わっといて『はいそうですか』なんて言える訳ねーだろ」
「貴方の悪いクセね。余計な事に深入りするから、後悔する事になるのよ。いい加減、学習しなさい」
「そーかもしんねーけど、だからって後悔はした事ねーぜ?体が縮んだ事だって今考えりゃ、貴重な体験だしな」
「ポジティブもいいけど、それだけじゃ何も成長しないわよ」
「オメーはネガティブすぎんだよ!!もっと明るく生きていこーぜ!」
「結構よ」
勝手に明るく生きていきなさい、と灰原はクルリと背を向けた。
ホント寂しい事言いやがるぜ…。こっちは心配してるってのに。
「寝坊すんなよ」
俺は背を向けて歩き出した灰原にそう言った。
「貴方と一緒にしないでもらえるかしら?」
だああああ!!可愛くねぇぇぇ!!あの性格なんとかなんねーのかっ!!
俺も2階へ上がりベッドに潜り込んだ。
さっきまで眠れなかったのが嘘のように、スッと眠りに落ちた。
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