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切ないくらい。
作:CHE.R.RY



01:工藤新一復活






いつからだろうーー。


こんなにも深いところまで来てしまったのは。


いつからだろうーー。


こんなにも愛おしいと思うようになったのは。


自然すぎて、気付かなかったのかもしれない。


ただ初めは、一人ぼっちなコイツを…危険なコイツを守ってやる、と思ってただけだった。


いつからか、守りたいと思うようになった。


そして、視線の先にはいつもアイツがいた。


そんな流れが自然すぎて俺は気付かなかったんだ。


元に、工藤新一に戻るまでは………。






□■□■□■





「あ。そうだわ工藤君」

「あ?なんだよ」

「貴方に渡すものがあったの」

「へ?俺に渡すもの?」



学校の帰り道。あの三人と別れて
「また明日、学校で!」と手を振って、しばらく歩いたとき灰原が涼しげに言った。



「なんだ?…誕生日…ってわけでもねーし。俺にくれるのか?」

「貴方以外に渡す人なんかいないわ」



少しばかりドキドキした。何を期待してるのか、わからないけど。


何故か嬉しくなった。



「ふーん。何くれるんだ?」

「はいコレ」



灰原が手を出して俺は両手の平を広げた。


そこにポトリとカプセルが落とされた。


「ん?なんだこれ?」



手の平に落とされたカプセルの薬をジッと見てみる。

新しい試作品か?



「解毒剤よ」

「……………。」

「今日の明け方、よくやく完成したわ」

「……………。」

「待たせてしまってごめんなさい。」

「……………。」

「……なによ、その顔は…嬉しくないのかしら?」

「……………ちが、…」



そうじゃないんだ。急すぎて言葉が出てこねぇんだよ……。


なんでこんな大丈夫なもんを
「あ、そういえば」みたいなノリで出すんだよ…


普通に硬直しちまう。



「それを飲む日は貴方に任せるわ。…ただし、念の為に博士の家で飲んでちょうだい」



元りたくて、元りたくて元りたかった。だがこれを飲めばその願いは叶う。


嬉しすぎて手が奮えてきた。



「工藤君?聞いているの?」

「……あ、あぁ…きいてる……」

「ならいいけど。じゃあね」

「あ!灰原!」

「なによ」

「…これ、預かっといてくれ。俺が飲む日まで」

「……ええ、わかったわ」



そう言って灰原は家の方に向かって行った。


俺は姿が見えなくなるまで、その背中を見ていた。



ーー…灰原、ありがとう…ーー





そして数日後。


江戸川コナンはアメリカの両親の元に行く、と転校させた。…と、言っても江戸川コナンの存在を消すのだけども。


歩美は泣いていた。また会えるよねって。また会えるよ、となるべく笑顔で言った。


蘭も目を潤ませながら
「元気でね」と言った。


園子は相変わらず
「あんたみたいなガキんちょいなくなって清々するわ」と言った。
「…元気でね」と淋しい顔で。


おっちゃんも佐藤警部や高木警部も。


いろんな人の言葉を聞いて俺は手を振って走って行った。


世話になったな、江戸川コナン…。



「…じゃあそろそろいいかしら?」

「…ああ」

「苦しいけど我慢してちょうだい」

「ああ、覚悟してる」

「……部屋に入って、無事元に戻ったら出て来て。苦痛かもしれないけど検査はさせてもらうわ」

「ああ。…灰原、ありがとな」

「無事に戻ってから言った方がいいんじゃないかしら?」

「そうするよ」



俺はそれだけ言って部屋に入り、薬を飲み込んだ。


しばらくして、あの痛みが俺の全てを襲った。






■□■□■□



「………血圧も心拍数も問題ないわね」



数時間後。俺は工藤新一の姿で灰原と博士の前に現れた。


そして灰原の検査を受けた。



「別に今のところ異常はないみたいね」



灰原は数値やカルテを見ながらそう言った。



「辛いところはない?」

「……ない」

「そう。もういいわ。お疲れ様」

「灰原…ホントにありがとな…オメーのおかげだ」

「元は私のせいよ。謝らなければいけないのは私。ごめんなさいね工藤君。一年も時を止めてしまって…」

「オメーは悪くねーよ。それに止まった時は今からでも取り戻せるさ」

「フッ…。最後まで優しいのね。…もう、帰っていいわよ。どこかおかしいようなら、見せに来なさい」

「ああ…」



その日、俺は久々に自宅に帰ってきた。

部屋に入り、ベッドに倒れ込んだら帰ってきたんだ…と実感した。

明日からまた、あの学校に通えるんだ………。


そう考えながらいつの間にか眠りについていた。






翌日。


俺は久々すぎる学校に登校した。



「工藤ー!?」

「お前戻ってきたのか!?」

「どこ行ってたんだよー」

「いきなり消えちまったと思ったらいきなり現れて…神出鬼没だな!お前」



クラスに入ればダチからの質問攻め。


苦笑いで事件の事は流して、他愛のない話をした。



「新一ー!?」

「ん?…蘭」

「い…いつ帰って来たのよ!!何も連絡しないで…!!」

「わ、わりーわりー!そう怒んなって…」



凄い血相で迫ってくる蘭に冷や汗を流しながら苦笑いをする。



「なによ!もう…」

「いや、悪かったって。実は昨日帰ってきて、そのまま寝ちまって…ま、学校で会えるからいいかな〜と」

「………相変わらず自分勝手なんだから…っ」



泣きそうな顔の蘭に、罪悪感が押し寄せた。


ちゃんと謝らなければいけねーな…。



「…蘭、ついて来い」

「なによ…どこ、行くの?」

「いいから」



俺は屋上に上がった。


重たい扉の向こうには空が一面に広がっている。


…さすがに教室では話せねーっつーの。



「………新一…」

「…今までろくに連絡も出来ねーで悪かったな」

「ホントよ!!…心配…したんだから…」

「……蘭」



知ってるよ。

オメーがどんな想いしてたのか、痛いくらい知ってる



「…もう何処にも行かない…?」

「ああ。無事、事件も解決したしな!…オメーを見ると帰ってきたんだーって実感するぜ」

「………バカ…。」

「……蘭。待っててくれてありがとな」

「新一……いいの。帰ってきてくれたから…」

「ホントありがとう…待っててくれて」

「………新一…」

「……………じゃ教室戻るか」

「……………え……う、うんそうだね…」


その日の久々の授業は小学校とは違う、俺が求めていた授業。


でもなんか違う気がした。それが何かは分からないけども。


そして蘭と前のように一緒に帰り、俺ん家の前で別れた。


なにもかも戻った。…戻った?ホントに戻ったのか…?


蘭の姿が見えなくなるまで見送った後、隣の阿笠宅が目に入っ。


……アイツ戻ったのかな?


そう思い、呼び鈴を鳴らした。



――ガチャ



「はい」

「よう!!」

「…工藤君」

「なんだよ灰原。お前まだ灰原のまんまかよ」

「…何か用?博士なら今いないわよ。伝言なら伝えるわ、それか出直してちょうだい」

「いや、そんなんじゃねーよっ。ま、遠慮なくお邪魔させてもらうぜ」

「ちょっと工藤君……………少しは遠慮しなさいよ」



俺はドカリとソファーに腰を沈めた。



「…はい」



そこに灰原がカップを持って来た。珈琲の匂いが鼻をかすめる。



「サンキュー。気がきくじゃねーか」

「あなたと違ってね」

「ケッ。相変わらずだなーオメーは」

「あなたもね。…で?なにしに来たの?」

「…理由がなきゃ来ちゃいけねーのかよ」

「………別に。そんな事言ってないわ」

「別によー。お隣さんなんだからいいだろ」

「はいはい」

「……でさ、なんでオメー戻ってねーんだ?」

「私は『戻る』なんて言った覚えはないわ」

「!!」

「そうでしょう?」



…確かに。灰原は戻るなんて一言も言っちゃいねー。

俺が勝手に戻ると思っていただけだったんだ。



「…オメー最初から…戻る気なんてなかったのか?」

「ええ。ないわ」

「…なんでだよ」

「戻っても私の居場所なんかないからよ。このままなら…私は…………なんて弱いわね。でも…今はまだ……一人になりたくないの」

「灰原……」



お前が戻ってもここに居ればいい。博士もそれを望んでる。


なあ?


いつまでお前は闇の中にいるんだ?


いつになったらお前は幸せになれる?



「どうしてそんな顔してるのよ?…私は幸せよ」

「!」



俺を見透かしたようにそう言って笑った。哀しく見えるのは気のせいなんかじゃない。


強がってばかり。コイツを見てると胸が痛い。


キュッと締め付けられるんだよ…。


頑張りすぎなんだよ。もっと甘えていいのに…。



「…オメーが戻る気がねーなら何言ってもダメだろーけど…明美さんの為にも前向きに考えてみろよな」

「フッ。そうね…ところで、学校はどうだったの?」

「ああ、楽しかったよ」

「そう。彼女とは上手くいった?」

「………別に、なにも…」

「…情けないわね」

「………うっせーよ」

「まあ私が口出しする事じゃないわね」



そう言って灰原は自室の地下に降りて行った。



「…アイツの想い、分からないわけじゃねーんだけどな…」



きっと、不安なんだろう。俺と蘭の事が。

上手く行かなかったら、責任を感じるに違いない。

だから知りたいんだろう。俺と蘭がどうなったかを。

…それが分かっているのに俺は今日、何故言わなかったんだろう…。

灰原を楽にさせてやりたいのに、どうして言えないんだろう…。

なにを戸惑ってるんだろう。なにを迷ってる?

俺がこのままじゃ、灰原は今よりも辛い想いをするんだろうな……。


どうにかしなきゃ。


…でも行けない…。なんでだよ…蘭に伝えるだけなのに。
「好きだ」ただ三文字の言葉じゃねーか…。それを言うだけで灰原も蘭も、幸せになれるってのに…。


自分がわからない。



俺は重たい腰をあげて、地下室に行った。



――コンコン



「灰原ァ?入るぞー」



――ガチャ



「なにか用なのかしら?」



灰原はカップに口をつけながら俺を見た。



「…だから、用がなかったら来ちゃだめなのか?」



用なんてねえよ。…なんで来たのか、そんなの俺だってわからない。

ただそうしたいと思っただけだから。



「訳のわからない人ね」



そう言って灰原はパソコンに向かい、マウスを動かしてからキーボードを指で叩いた。



「いるのは勝手だけど、邪魔だけはしないでちょうだい」



俺は、ああ、と短い返事をして近くに腰かけた。

何を話すでもなく、ただ作業する灰原を見ていた。

そして夕飯を阿笠宅で食べて夜遅く、自宅に帰った。灰原は
「本当に図々しいわね」と毒を吐いていたが、腹立たしいどころか、学校にいる時より“当たり前”を感じていた気がする。












この変な感じが何なのか俺には分かる術がない。


初めまして。CHE.R.RYです☆初投稿になります。実はサイトをやっていたのですが、書けなくなり閉鎖、と明記して今は放置しています(汗)ふと急に書きたくなりこちらに投稿させていただきました!サイト名はLONG TIME NO SEEで、サイトで書いていた内容と似通っていますが、お付き合いいただけたら幸いです。では、連載は初めてですが限界まで頑張ります!











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