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ショートショート的な何か

星の子供

作者:山田太朗
 あるところに、ひとりの男の子がいました。
 その男の子は少し身体が小さい以外は、他の子供達と同じでした。
 ただひとつの違いを探そうとするならば、男の子に近寄ってみるといいでしょう。きっと彼からは心臓の鼓動ではなく、歯車の回る音が聞こえてくるはずだから。
 そう、男の子はロボットなのです。
 でも、だからと言って他の子供達は差別なんてしません。一緒に遊んで、一緒に学びます。時には喧嘩もしたりするけれど、すぐに仲直りをします。
 男の子の家は皆が暮らす町の外れにありました。そこで彼は「おじいちゃん」と呼ぶ人と一緒に暮らしています。もちろん、本当のおじいちゃんではありません。彼を作った博士なのです。
 他の人達も、どういう理由で博士が男の子を連れてこの町にやってきたのかは知りません。いつの間にか、彼らは寄り添うように町の片隅に住んでいたのです。

 男の子に感情はありません。
 嬉しかったり、悲しかったり、怒ったり、楽しかったり、といった人間らしさが分からないのです。
 例えば、皆が笑っているときは合わせるように笑い、ここは怒るべきところだろうな、と感じた時は怒った演技をします。
 ある日、男の子は彼を作った博士に尋ねます。
「ねえ、おじいちゃん。ぼくはどうして泣いたり、笑ったり、怒ったりしないのかな?」
 博士は男の子の頭を撫でて、優しく微笑みました。
「今は分からなくてもいいんだ。そのうちお前にも分かる日がやってくる。そうして大人になっていくんだよ」
 男の子は博士の言った事が分からなかったけれど、大きく頷きました。大人になれば身体が大きくなるだけでなく、泣いたり笑ったり、それらを共有した人と結婚したり、愛し合って子供が生まれたりするのだろう、そう思うと歯車がいつもより激しく動いた気がします。

 ある日、博士が望遠鏡を覗いて大声を出しました。男の子は驚いて博士に駆け寄ります。
「どうしたの?」
「大変だ! 今すぐ連絡しないと!」
 博士は男の子のことには気づかないほど慌てて、どこかに電話を始めました。内容はとても難しくて男の子には理解できませんでしたが、「隕石が」とか「今すぐ作戦を」といった断片だけ分かりました。
 博士は電話を切ると、先程までの激しい声音はどこへいったのか、優しい声で男の子に向かい合いました。
「おじいちゃんは出かけてくるから、留守番を頼んだよ」
 博士は、用意もそこそこに慌てて出かけて行きました。男の子には寂しい、ということが分からないので、何も思いません。ただ、いつもよりも家が広くなったように見えただけでした。

 博士がいなくなって三日後、世界中の人がテレビの前で悲鳴をあげました。
 隕石がこの星に向かってやってきているのです。隕石がぶつかってしまうと、この星は跡形もなくなってしまうということでした。男の子の住む町も、大騒ぎです。
 毎日のように報道される番組には、隕石のことをよく知っている博士の姿が必ずありました。家にいる時にはいつも笑っている優しい博士が、男の子を怒る時よりも眉間に皺を寄せています。
 博士はこの研究のためにこの町に住んでいたのです。
 男の子の家にも、町の皆がやってきていろいろと聞いてきます。彼が何も知らないと言うと、皆はこの世の終わりだというような表情を浮かべ、落胆して帰って行きました。
 そんな皆の後ろ姿を見ていると、身体の調子が悪いような気がしました。新しいオイルを注しても変わりません。

 やがて、博士が何人かの人を連れて帰ってきました。それは隕石対策の為に集まった科学者達でした。
 この家にある望遠鏡を使わないと、隕石の軌道が確認できない、そう言っていましたが男の子には分かりません。曖昧に頷くと、博士がいつもの優しい、けれども悲しそうな瞳で男の子の頭を撫でます。 

 科学者達が博士の家に来て何日かが過ぎました。しかし、何も成果は得られませんでした。
 何人かは諦め、最期の時を家族と過ごす為に自宅に帰り、他の何人かはやけになって酒を飲んで過ごしています。
 そんな中、博士と若い科学者だけは諦めていませんでした。毎日望遠鏡を覗きこみ、難しい書類に目を通してどこかに電話をしています。

「おじいちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。お前を、皆を守る。これ以上にやりがいのある仕事なんてそうない。お前が淹れてくれたココアを飲めば疲れも吹っ飛ぶさ」
 そう言いますが、目の下には真っ黒なくまが出来ていました。疲れているのは誰の目にも明らかです。
 男の子はぎゅっと拳を握り、唇を噛んで言いました。
「ぼくが隕石を止める」
 博士は驚いて男の子を見ます。いつか見たあの悲しそうな瞳で男の子を見つめました。
「お前はまだ子供なんだ。そんなことはしなくていい。子供を守るのは、大人の仕事なんだ」
 博士は膝をつき、男の子を抱きしめます。その肩は震えていました。泣いているのです。
 男の子は、家族のもとに帰る科学者が言っていた言葉を思い出します。

「お前がこの星を救ってくれると思っていたが、駄目だったみたいだ」
「どういうこと?」
「博士は、いつかこんな事が起きると予想していた。だからそれに備えてお前のようなロボットを作っていたんだ。隕石が来ても、それを跳ね返せるような強いロボットを」
 それを聞いて特にショックでもありませんでした。自分は博士に作られたもの。だからこの身体をどう使おうが博士の自由だ、そう思っていたのです。

 だからこそ、男の子は繰り返します。
「ぼくが隕石を跳ね返す」
 博士は何も言わず、その華奢な身体を抱きしめ続けました。
「もう、それしかないでしょう」博士の後ろにいた、若い科学者が言いました。「ぼくらは一生懸命やりました。しかし、これ以上何もできない。だったら、出来る事をしましょう。その上で滅ぶのであれば、それは仕方ない。ただ、可能性を残したまま後悔だけはしたくない」

 博士は立ち上がりました。もう泣いてはいません。そればかりか、男の子が知っている博士の表情ではありませんでした。
「すぐに連絡を」
 そう毅然と言う博士はとても凛々しく、それでこそぼくのおじいちゃんだ、そう思い男の子は自然と笑顔が浮かんでいました。

 それからは慌ただしく時間が過ぎ去りました。
 ついに、隕石が近くまで来たその日、男の子と博士は町を離れロケットの打ち上げ場にいます。男の子をロケットに積み、そのまま星の外まで打ち上げて直接隕石を破壊するというのが作戦でした。
「こんな雑な作戦が成功する訳がない」
 そう言う人がほとんどでしたが、博士は全く気にしません。もちろん、男の子も気にしません。二人は、深い信頼で繋がっていました。本当の家族になったのです。

「それじゃあ、今から打ち上げる」
 博士はとても不安そうに男の子を見つめます。
「大丈夫だよ、おじいちゃん」
 男の子は笑顔で博士を見つめます。
 博士はそれ以上何も言わず、男の子の手を握りました。
 博士には分かっていました。この作戦は間違いなく失敗するだろうと。男の子には、隕石を破壊できるほどの力がないのです。
 それを承知でたった一人の家族に、この星に住む全ての命を男の子に預けるのが情けなくもあり、悲しくもありました。
「大丈夫だよ」
 もう一度、男の子は繰り返します。博士は溢れる涙を隠しもせず、ただひたすらに頷きました。
「時間です」
 係員が言うと、ロケットのドアが閉まります。博士は何かを言っていましたが、男の子には聞こえませんでした。

 ロケットが打ち上げられました。その様子を世界中の人が祈るような気持ちで見送ります。
 博士もいつまでも空を見上げていました。

 ロケットは成層圏を抜けて、博士が計算した隕石の来る地点に着きました。
 男の子はロケットから出て、それに備えました。
 辺りは夜よりも真っ暗で、そして身体はなんだかふわふわと落ち着きません。試しに声を出してみましたが、聞こえませんでした。
 やがて隕石が迫ってきたようです。
 男の子の身体にはセンサーが埋め込まれていて、見えなくても分かるようにしてありました。
 何気なく、後ろを振り向きます。そこには、今まで男の子がいた青く輝くような星が、闇の中に浮かんでいました。とても綺麗で、まるで宝石のよう。
 その時、男の子の頬を何かが伝いました。それはただのオイルだったのですが、彼は涙のように感じました。その涙が意味するものは分かりませんでしたが、良かった、と思いました。
 目前に迫る隕石の熱すらも感じそうな中、男の子は笑っていました。

 遠い、どこかの星でその様子を天体望遠鏡で眺めていた少女が胸の前で手を組みました。
「どうしたんだい?」
 少女の父親はそんな彼女を怪訝そうに見つめます。
「あの星なくなっちゃったんだよね? だからあの星に住んでいた人に祈っているの」
 父親は博士が男の子にしたように、少女の頭を優しく撫でます。そうして、自分も見知らぬ誰かのために祈りを捧げました。
 その時、小さな流れ星が見えました。
 それが隕石のかけらなのか、星屑なのか、はたまた男の子の残骸だったのかは分かりません。
 それでも少女と父親はいつまでも祈り続けました。
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